未来組

宝塚の舞台、DVD、SKYSTAGEを観た感想と、最近はカメラに凝ってます。

月組再演「エリザベート」

2009年07月21日 | 舞台感想(2007~2009年)
月組東京宝塚公演7月16日。

初演以来7回目、月組で2回目となるエリザベート。史実と虚構をダイナミックに組み合わせたミステリアスな作品で、役者の組み合わせ、それぞれの解釈によって全体のイメージが大きく変わる。特にトートは毎回演出が異なり、それが観客を飽きさせない秘訣かもしれません。
今回のトートの演出は瀬奈じゅんの貴公子然とした美貌を強調すことを目的にしているのか、壁にもたれて佇む姿は彫刻のよう。髪の色もプラチナブロンド(赤いメッシュあり)、衣裳も黒ずくめではなく、ボルドー、カーキ、パープルなどヨーロッパ調でおしゃれ。
黄泉の帝王という設定であれ、舞台上に王子様を見たいファンは多いので、その意味では正しいのかもしれません。
瀬奈のトートには人の生死を操っているという冷酷さ、負の存在感、陰のイメージはあまりなく、ナチュラルな演技というよりも、普通の宝塚の作品でした。本作に特有の不気味さ、まがまがしさもなく、豪華でダークなトーンのベルバラ?

瀬奈じゅんは東京公演初日の囲み取材で、トートはエリザベートが産み出したもので、自分はエリザベートに寄り添っていたいと話していました。
なるほど、そういう解釈も成り立つ。ルキーニ、エリザベートを演じた瀬奈じゅんが言うから説得力があります。だからこうした演出なのかと納得はしました。

しかしそのためにはシシィが観客の共感を呼ばなくてはならない。数奇な運命、孤独の中でたくましく生き抜いた意志の強い女性になっていたか?凪七瑠海は残念なことにそこまで強く魅力的な女性を演じ切れていませんでした。
ソプラノは弱いながらもこなしましたが、地声が低いので台詞が裏声で弱い。晩年のシシィは地声でできていましたが。
絶世の美女である必要はありませんが、絶世の美女を感じさせなければいけない。大女優らしさと言うのか。スチールはよくても舞台で360度どこから見られても常に研ぎ澄まされた美しい女性であるのは難しい。
また改めて思ったのは「男役十年」と言われ、自分の中にない男性の感情を掴んで表現できるようになるには年数が必要ですが、女性の感情もそう。シシィの少女時代から晩年まで、姑との確執、夫婦のすれ違い、息子の死の苦しみなどは、そうそう簡単に演じられるものではありません。場数が足りず、大劇場で中央に立った経験がない若手では、仮に完璧に歌えたとしても無理な話です。
また男役なので表情がどうしてもきつい。凪七瑠海としては大抜擢に応えてよく頑張ったと思いますが、シシィとしては及第点に及ばないのではないでしょうか。

霧矢大夢演じるフランツ。シシィへの包み込むような愛情は感じられたし、意外に二人のデュエットが、声が解け合って聴いていて心地よかった。気のせいか凪七も歌いやすそうでした。
しかしシシィへの愛情と相反する皇帝の義務、母親ゾフィーの方針との間で板挟みになり苦悩するからこそ、フランツの切なさが伝わるのですが、後者の表現が弱かった気がします。

城咲あい演じるゾフィー。皇太后としての態度だけでなく、歌唱力も腹に響くくらい堂々としていないとぼやけてしまう。凄腕のキャリアウーマンには見えましたが、国を憂える大地のような母性は感じられませんでした。

ルドルフは役替わり公演のため、私が行った日は遼河はるひでした。ルドルフは必ずしも少年らしさを残した繊細な役作りでなくてもいいと思います。遼河はるひのルドルフは連邦樹立という強い信念をもっていていいと思いますが、「闇が広がる」や「死の舞」は身長差がある前提の振り付けなので、瀬奈じゅんより明らかに大柄な遼河はるひが膝を曲げて背をまるめているのが気になって仕方ありませんでした。

龍真咲のルキーニは渋谷か新宿あたりにうろついていそう。通り魔レベル。ハイテンションにはなっているけれど、トートの命令でシシィを殺害したと主張する狂信性、霊廟から死人を呼び出して証言させる粘着質の信念は感じられませんでした。
冒頭の煉獄の裁判所での台詞は自分の間合いで言ってるのでしょうが、迫力がなかった。歌は下手ではなかったです。
髪型が、龍真咲にしてはむさ苦しくしているのでしょうが、ルキーニにしてはさっぱりしすぎ。イタリアーノにも見えない。
実在のルキーニの真実はどうであれ、この作品ではオーストリア皇后殺害を計画的にやってのけた「イタリア人テロリスト」なので、それに相応しい重々しさがほしかったです。

要は、全体としてハプスブルク家の滅亡が描けてない。大河ドラマ感がない。筋を説明してはいるけれど掘り下げが足りない、光と影が描けていない気がしました。
栄枯盛衰、諸行無常。これが日本人のメンタリティに響くんですけどね。

最後に、シュバルツェンベルク公爵を演じた星条海斗、リヒテンシュタインを演じた憧花ゆりの、マダム・ヴォルフを演じた沢希理寿がとてもよかったです。
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花組「ミー・アンド・マイガール」

2009年07月20日 | 舞台感想(2007~2009年)
梅田芸術劇場7月11日、7月12日

由緒正しいヘアフォード家のお世継であることがわかり、何も知らされぬまま屋敷に招かれたビル(真飛聖)。下町育ちでチンピラまがい、柄は悪いが愛すべき青年は、威勢よく飛び出してきて、終始舞台を縦横無尽に飛び回ります。
かしこまった貴族の中で一人だけ子供のように無邪気に振る舞う。自然な演技という範囲を越えて、歴代のビル以上にコミカルな仕草や変な声が目立ちます。「雨に唄えば」のリナを思い出しますが、コミカルな演技はお手のもの。「アデュー・マルセイユ」でも、闇の帝王だったにもかかわらず、恋人に頭の上がらないずっこけキャラぶりを織り交ぜていました。変な声は志村けん?
「ミー・アンド・マイガール」は月組で5回演じられ、初めて月組以外の組での再演となりました。歴代のビルが小物使いに到るまで実に達者で、前回の瀬奈じゅんはビルのイメージを壊さないように、模倣というと言葉が悪いですが、多少窮屈なところがありました。もっと自分のカラーを出せばいいのにと思いました。
今回の真飛聖は、自分なりに役柄を消化し、自分の色で表現していました。
CS放送の座談会で、真飛聖は、ビルとサリーは家が狭くても貧乏でも一緒にいられるだけでうれしくて常にハイテンションでふざけあっていたんだろうし、楽しいから帽子を回したり踊ったりしてるんだから、帽子を落とさないとかタップダンスの音を出すことよりも、むしろ楽しい気分を表現することの方が大事と言っていました。確かに、ビルほどのゆるキャラの所作を寸分違えずその通りに演じるって、矛盾を感じます。ゆるキャラだから適当でいいと言う意味ではなく、小技に神経質になりすぎる必要はなく、失敗してもそれはそれとして成立するキャラのはずです。
伝統的なビル像を求める人には多少不満かもしれませんが、型にはまらないビル像を創る勇気は評価に値するし、伝統を離れてみた時、サービス精神旺盛な今回のビル像は愛敬があっていいと思います。
ジェラルドがジャッキーをお仕置きしている間も、ジャッキーの色っぽい声がするたびにスケベな顔で覗いたり、最後に現われたサリーを目の前に「こんのヤロー!」と叫んでスーツケースをぶん投げるところも力強くて、ツボをよく押さえています。
真飛聖が開拓した笑いのツボもあり、今後のビル役がこれを拾わないと、物足りなく感じるかも。
もちろんコミカルな部分だけでなく、歌は男前だし、サリーへの愛情の深さもよく出ていました。じゃれあっている姿も可愛いですが、サリーを追放したのはマリア公爵夫人だと思い込んで一つも言うことをきかなくなる頑なさもよく出ていて、サリーへの愛情を感じました。真飛聖と桜乃彩音の普段の仲のよさも感じられて微笑ましい。

サリーを演じる桜乃彩音は歌唱力は格段の進歩を遂げていて、フルコーラスを難なく歌いこなしていました。
彩乃かなみは歌も演技も上手でしたが、娘役として完成されていたので、上品すぎました。
本来のサリーはビルと二人で辛いことを笑いとばして大らかに生きてきた子。「もう魚市場で働かなくていいんだね?」「昔からブティックを持ちたいと思ってたんだ」と言うサリーが可愛くて可愛くて、初めて涙が溢れました。桜乃彩音の母性を感じさせるたくましい雰囲気がサリーにあってました。
「顎で受けなさい」も、兄弟がたくさんいてこんな風に親から教えられてきたんだろうなというリアリティがあった。
ちなみに7月11日は桜乃彩音の誕生日だったらしく、舞台上でビルがサリーちゃんの誕生日を祝うアドリブがありました。

壮一帆はジョン卿(Aパターン)とジャッキー(Bパターン)という正反対の役。ジョン卿を演じるにはビシッとしすぎて隙がなく、退役軍人みたい。ビルと酒を酌み交わしたり、マリアを30年以上愛しているのに言いだせない可愛げのあるおじさまにはあまり見えなかった。
ジャッキーは個人的に好きな役で、わがままで傍迷惑なところも含めてかわいい女だと思う。男役が演じるのが正解で、今回も壮さんのジャッキーを見たくて行ったようなもの。
壮さんはきりっとして女社長みたい。過剰な色気の振りまき方が痛快。ソファでビルに迫るシーンは文字通りビルを押し倒してました。真飛聖との間の気兼ねのなさもあり、上級生ならではの迫力はさすが。ジェラルドのお仕置きに思わずもらすため息も想像以上に色っぽかったです。台詞のない場面でも常にジェラルド(朝夏まなと)と仲睦まじくて微笑ましい。
しかし壮さんのウェディングドレス姿が見られるとは思いませんでした。

愛音羽麗は、女役が続いたので違いを出したかったのでしょう、ジェラルド(Aパターン)とジョン卿(Bパターン)でした。初めての髭とのことですが、ソフトな低音と物腰で堂に入ったもの。茶系でまとめたメイクも上手で、包容力と愛敬のあるおじさまになっていました。
背がすらっと高い訳ではない彼女の場合、逆に少年、女性、中性的な役、妖精のような役とレパートリーが広い。きっとジャッキーも見事にこなしたことでしょう。

朝夏まなとはジャッキー(Aパターン)とジェラルド(Bパターン)。特にジャッキーは女性として見てまったく違和感なく、甘やかされて育ったはねっ返りのお嬢様を自然に演じていました。間違いなく成長株です。

未沙のえる演じるパーチェスター。お屋敷の弁護士の歌を歌いはじめる時は待ってました!と声をかけたいほど。バラを持って歌いだそうとしてマリア公爵夫人に「もうよろしい」と一蹴されて腰から下がっていくところは何度見てもおもしろい。

京三沙演じるマリア公爵夫人、小柄なのになかなか迫力がありました。「なんですか?クタ・バッター?」から始まり、パーティでのご挨拶をビルに教えるところも本当におかしい。

今後もこのハートウォーミングなミュージカルの再演が決まればビルとサリーに会いたくて劇場に足を運ぶでしょう。
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