goo blog サービス終了のお知らせ 

未来組

宝塚の舞台、DVD、SKYSTAGEを観た感想と、最近はカメラに凝ってます。

雪組「ノン ノン シュガー!!」

2009年01月11日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
2007年雪組バウホール公演
脚本・演出:藤井大介/主演:音月桂、大月さゆ他

1960年代のメンフィス。ライブハウス「ノン ノン シュガー」に集う人々を描いた青春物語。ロックシンガー志願のジョニー(音月桂)は明るく振る舞っていますが、幼い頃父親に捨てられ、母親も自殺していて一人ぼっち。シェイラ(大月さゆ)はお嬢様ですが、親の決めたレールに乗るのがいやで家出してきました。ライブハウスの看板スター、キング・ビート(萬あきら)のライブに集まるグルーピー、若者たちなど、誰もが青春真っ盛りという顔をしていますが、実はそれぞれの事情を抱えていて……。

物語は、作家となったジョニー、Jが30年ぶりにこの町を訪れ、偶然出会った生意気だけれどどこかシェイラに似ているマライアと一緒に懐かしい場所を訪れるという形で語られます。
シンプルな青春グラフィティで、時々くすぐったくなる。でもオールディーズ満載なのも楽しく、自ずとテンションが上がります。ストーリー性を楽しむというより、音月桂のアイドル性に酔う舞台と言っていいでしょう。
癖のないきれいな歌声から、こぶしの効いたシャウト、ヨーデルのような裏声まで器用に使い分けます。こんなに達者なロックシンガーだったとは。歌手<KEI>としてソロデビューさせたいくらいです。そしてストーリーを進める上では見事な歌いっぷりだけど、ジョニーは音痴という設定なのか、キングの前座としてわざと下手に歌ったのか?ライブハウスでの音程の外し方はたいしたものでした。難しかったかもしれませんが、結構楽しそうでした。
本人がどう思っているかはわかりませんが、男役を目指してはいてもリアルに男くさく作ってはいないところ、笑顔がかわいいので男っぽくみえないところ、明るくて清潔で少年っぽいところは音月桂ならではの魅力。男役と言ってもどこかにお嬢様っぽさが残るのは雪組のお家芸かもしれません。宝塚の男役としての完成度は柚希礼音の方が高い気がしますが、一般向けに広くアピールするのは音月桂の方なのでしょう。ナンバー3で三井住友VISAカードのイメージキャラクターに抜擢されたのもわかる気がします。

話を戻して、30年後のJの役を沙央くらま。少しやせて彫りの深さが目立ち、思いの外口髭が似合って色っぽい。♪腰が痛い、栄養ドリンクが欠かせない、と歌ってはいますが、50歳過ぎには全然見えないところはご愛敬。ジョニーとJを、一人二役ではなく二人に演じさせることでコーラスの厚みが出ました。60年代のお話の中ではブロッコリーのような“リーゼント命”のごろつきブルートの役でも登場。“俺が本物のロックを聴かせてやる!”と息まいてステージに立つところがおかしい。バンドに向かって「おい、ドンバ!<クレージー・ラブ>やれ!」ですからね。そしてここでも音月桂同様、器用に音程外しまくって歌います。
シェイラとマライアを演じた大月さゆ。シェイラはポニーテールにわっかのスカートって、松本伊代や河合奈保子か?な衣裳ですが、表情から何から文句なしにかわいい。90年代、ジョニーを「おじさん!」と呼ぶ生意気なマライアも可愛かった。シェイラとマライアを一人で演じているので、早変わりが大変そうでした。
セクシーな歌で女性を失神させるキング・ビートを萬あきら。お歌はともかく、雰囲気が出ていたし、デーハな衣裳も着こなしていました。
キングに首ったけの頭の軽いハリウッド女優ザザを舞咲りん。例にもれずブロンド。キングを逃がすためにザザの気をそらそうと、ザザをステージに立たせて歌わせるシーンがありますが、タカラジェンヌを忘れたコミカルな演技は吉本か?はたまた修練を積んだ宴会芸ですか?「ザザちゃん、今日も絶好調!」って、彼女の底力を垣間見ました。
ジョニーの母親でシンガーでもあったマリアを美穂圭子。息子を思いながらも男に捨てられたショックを乗り越えられなかった母親としての演技は涙を誘い、シンガーとして脚を見せてハウンドドッグを歌うド迫力に痺れます。

ストーリーはシンプルで、若手の役作りはまだまだ浅い。男に捨てられた女は自殺すると決まっているのか?と文句をつけたい気持ちはありますが、難しいことを考えないライブパフォーマンスも、たまにはいいのではないでしょうか?

霧のミラノ

2008年06月01日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
2005年雪組大劇場公演
作・柴田侑宏/演出・中村暁/主演・朝海ひかる、舞風りら、貴城けい、水夏希他

 19世紀半ば、オーストリアの占領下に置かれているミラノが舞台。ステージはスポルタ城の大広間の舞踏会で幕を開けます。この華麗で壮観なシーンは宝塚ならでは。ウィーナーワルツに乗せてドレス、タキシード、軍服が乱舞。ストーリーテラーである新聞記者エルコレ・バローネ(壮一帆)による導入の後、主役である青年貴族ロレンツォ(朝海ひかる)が(早変りの後)スポットライトを浴びて花道から登場します。霧に濡れたミラノの町、遠くに霞む街灯に例えて、ミラノの内政状態と市民の心理状態を堂々と歌い上げます。この登場の仕方はなかなか格好いい。(主役を引き立てるという意味では歌舞伎の「助六」級だと思う)
 朝海ひかるが演じるロレンツォはオーストリア軍によって家をとりつぶされ、表面上はおとなしく市職員として働いていますが、水面下でレジスタンス活動を指揮しています。疑いをかけられないように凡人を装っていますが、時として頭脳の明晰さや芝居臭さが露見してしまい、敵であるオーストリア軍の少佐に興味を持たれてしまいます。市役所の仕事を通じて知り合った絹織物業者マルティーニ家の令嬢フランチェスカ(舞風りら)に惹かれ、愛するようになる過程は好感が持てます。朝海ひかるは華奢でお顔も可愛らしいのに、堂々とした身のこなしと、まるで別人のように生まれ変わるメイク・テクニックで、独特の男役像を築きました。仮面の下にレジスタンスの顔を隠したロレンツォは、フェアリータイプでいながら実はなかなか男くさい芝居をしたがる朝海ひかると共通点があるかもしれません。朝海ひかるが表現しうる”二面性”の可能性がファンや脚本家を引きつけたような気がします。
 貴城けいはオーストリア貴族カーツハインツ・ベルガー少佐。白い軍服とマント、水色のパンツに黒いブーツという衣装は宇宙戦艦ヤマトのよう?! 貴族なので冷静沈着。軍人としての自分の生き方に疑問をもっていて、ロレンツォには敵ながら尊敬と友情を感じています。フランチェスカに好意を寄せ、ロレンツォを羨ましいと思いますが、嫉妬するほどではありません。わかりやすい悪役タイプではないので、一見すると対立の軸が弱い。しかし、ある意味それ故に最後のシーンが衝撃的でした。最後のシーンはいくつかのパターンを用意し、最後まで迷ったと演出家がプログラムに書いていました。最終的にはいかにも柴田侑宏と中村暁らしいエンディングだと思います。
 水夏希は貴族でロレンツォの友人ジャンバティスタ。気取りがなくて実直で豪放で遊び人というおいしい役。線が太くて男らしくて華やかで、それまで雪組にはいなかったタイプ。組替後の初作品ですが「スサノオ」「Romance de Paris」で雪組に出演しているので馴染んでいます。とくに朝海ひかるが水夏希と絡むシーンを楽しそうに演じているのがおかしい。ジャンバティスタの昔の恋人で今はカジノのオーナーであるエンマ(天勢いづる)とのねっとりとしたキスシーンは随分練習したそうで、その効果が出ているのではないでしょうか。

 「恋」と「革命」と「復讐」というテーマをバラエティに富んだプレゼンテーションで楽しませてくれる柴田侑宏。「霧のミラノ」の題材は、ガリバルディの赤シャツ隊そのものでもなく、日本人にはあまり馴染みのない歴史エピソードながら(スカラ座、フランツ・ヨーゼフという名前が出てきましたが)飛躍した点や幼稚な点、大嘘も大サービスもなく、淡々と丁寧に描きます。場面の転換には舞踏会やカーニバルなどの華やかなダンスシーンが挟まれます。とくにANJU(安寿ミラ)振り付けのダンスシーンは格好いい。様式美というより、感情を表すボディランゲージが踊りになったという感じで、男くさくて躍動感にあふれていて、またいくつかのグループを動かして立体的な絵を描く群舞が機能的で奥行きを出しています。
 バール・アマポーラ。市民が抑圧された状態に対して“チキショウ!”と気炎を上げるダンスシーン。そんな店内に足を踏み入れてしまったジャンバティスタが、場の雰囲気に戸惑いながらも気がついたたら一番前で長い手足を活かして踊っています。バールの女主人ジーナ(美穂圭子)の歌声とともにとても印象に残ります。
 ロレンツォがフランチェスカと”アマポーラ(ひなげし)の詩”を歌うシーン。歌詞もメロディもやさしくて覚えやすくて、つい口ずさんでしまいます。朝海ひかるのCDに入っていなかったのが不思議なくらい。ロレンツォが花屋で買ったひなげしを差し出すと、幸せだった昔を思い出して涙ぐむフランチェスカ。優しく手を差し伸べるロレンツォ。フランチェスカがふっと“アマポーラ”のさびの部分をハモる声の美しさに(まーちゃんですから!)驚いたような顔で振り向くロレンツォ。メルヘンのように心癒されるシーンです。野に咲く清楚な”ひなげし”と舞風りらもイメージがぴったりです。実はここも振付ANJUとあるので、ステップも踏んでいないしターンもしていませんが、あの何気ないしぐさにも振付がついているのだと感心しました。
 カジノ・パラッツォのダンスシーンは最高です。何十回もここだけリピートしました。ディーラーやメイド姿の女性従業員、ジャンバティスタ達がモノトーンの衣装でビシッと決めます。カードの勝負に一喜一憂する様が踊りで表現されています。サービスカットとして軍司令部の軍人たちもモノトーンの軍服姿で登場して気障なポーズを決めます。イケメン勢ぞろい!!

 さて、ロレンツォのルポルタージュを書こうとする新聞記者エルコレ・バローネを壮一帆。彼の取材を基に物語は進行します。表情豊かで、ちょっとした短いやり取りもうまい。アシスタント、ジル(山科愛)とのやりとりも楽しい。フランチェスカの兄で、家業を顧みず酒とギャンブルと女におぼれるピエトロを未来優希。なぜだかレジスタンスの疑いをかけられたことが、フランチェスカとベルガー少佐とロレンツォの出会いの発端になります。ピエトロが入れあげているディーラー、ミランダを愛耀子。現代っ子ぶりが愛嬌たっぷり。軍の中尉クリスチャンを音月桂。唯一コミカルなシーンを担当しています。今見ても美少年ですよね。5月人形のような凛々しさと、女の子らしい甘さが共存しています。

 わたしが05年の全国ツアー「銀の狼」で宝塚デビューをした後、最初に買ったDVD。わたしを「銀の狼」に連れて行ってくれた人が、初めてみた大劇場公演でもあり、2階1列という席だったこともありますが、オープニングの舞踏会シーンで完全に悩殺されたそうです。その華やかさたるや異次元です。このDVDは何度も見ているのですが、そのたびに感想が違います。スターだけを見ていた頃、宝塚全体がわかるようになった頃、脚本家を意識するようになった頃、柴田侑宏の他の作品と比較するようになった頃、朝海ひかる、貴城けいや舞風りらが退団して時間が経ち、客観的に見れるようになった頃……。よくできた秀作だと思ったり、地味で実験的すぎると思ったり、味わい深いと思ったり。張ったりがない分、派手さに欠けるかもしれませんが、丁寧に作り上げた、いかにも雪組らしい佳作だと思います。そして第2部のショー「ワンダーランド」は文句なしに楽しい。舞台科学(私の造語です)は昭和の香りが漂い、ノスタルジックですらありますが、覚えやすく、乗りやすく、すっと入ってくる。「銀の狼」の時も2部のショーは「ワンダーランド」だったのですが、こんなに楽しいのに誰もコンサートのように立ったり乗ったりしないの?と不思議なくらいでした。いろいろ好きなシーンはありますが、やはり一番印象に残ったのは未来優希の力強い♪ハレルゥ~ゥ~ゥ~ヤァ~♪でしたね。一発でノックアウトでした、はい。

やらずの雨

2007年12月04日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
06年雪組バウ公演
脚本・演出:谷正純/主演:音月桂(おとづきけい)、純矢ちとせ(じゅんやちとせ)他。

褒めすぎでしょうか、脚本、役者、チームワーク共に、申し分のない舞台だったと思います。伸び代を加味した上での話ですが。

古典落語「お初徳兵衛」をベースにいくつかの落語を組み合わせているそうです。音月桂は新人公演の主役を何度も経験しているので、バウ単独初主演というのが意外な気がしました。専科から汝鳥怜(なとりれい)、副組長の灯奈美(あかりなみ)、主演の音月桂、月組から来たばかりの彩那音(あやなおと)以外は下級生。それでも芝居の雪組、日本物の雪組という名前に恥じぬ出来。雪組の「イズム」はしっかり受け継がれていたように思います。DVDは残念ながら発売されていません。去年テレビ番組を録画したものをもう一度観ました。(「Total Collection」にダイジェストは収録されているようですが)

落語らしい意外な展開もありますが、「くらわんか」程キテレツな登場人物はいません。題名にもあるように主題は人情話。しっとりした江戸情緒を感じさせます。日本物らしい歌がいい。音月桂、純矢ちとせが三味線を弾きながら小唄を歌うところは見せ場の一つ。
起きて半畳~という江戸庶民の享楽的な生き方を歌った乗りのいい歌は、フィナーレではうちわを持って盆踊りみたいな振り付けで踊られますが、楽しくていいです。

音月桂が演じるのは材木問屋・伊勢屋の跡取り息子、徳兵衛。本の虫で世間知らずの堅物。その変人ぶりに手を焼いた父親が弟(徳兵衛の叔父に当たる)で船宿笹屋の主人の甚兵衛(汝鳥怜)に、遊びを教えてやってほしいと頼みます。
甚兵衛に頼まれた遊び人の与太郎たちが、徳兵衛を騙して吉原に連れて行きます。最初は抵抗していたのに、花魁に迫られてあっさり陥落。意外にも芸者遊びにはまってしまった徳兵衛はその日から放蕩三昧。ついに父親に勘当されて文無し、宿なし。面倒を見てくれる女は一人もおらず、飲まず食わずで薄汚れ、大川(隅田川)に身を投げようとしていたところを芸者お初(純矢ちとせ)に助けられます。
徳兵衛に惚れているお初ですが、事情を知っているので心を鬼にして、徳兵衛に厳しく勤労を教え込もうとします。唐茄子売りをして初めて人情のありがたみが身にしみ、まじめに働こうとした矢先、これまでの努力が水泡に帰すようなとんでもないことが……。
そんな危機もお初の機転で乗り越え、いろいろあって3年の月日が流れ、徳兵衛は今では船宿笹屋で船頭として働いています。客の人気は上々。「徳さんの舟でなきゃ、いや……」というお客もたくさん。ある日、久々に徳兵衛とお初は再会します。

やらずの雨」とは花柳界の言葉で、落語によく出てくるそうです。好きな人を帰したくないと思っていると、気持が通じたかのように降ってくる土砂降りの雨。引き留める格好の口実という意味。徳兵衛がお初を乗せて大川を渡ろうとすると、やらずの雨とおせっかいな雷。帰りたくない、帰したくない、と二人が歌うシーン、船宿に戻って着替えた二人が三味線で歌うシーンなどはなかなか色っぽいです。

音月桂は、こちこちの堅物→手の付けられない遊び人→行き倒れ寸前の浮浪者→天秤の重さによろめく、ぼろをまとった唐茄子売り→遊びを知り尽くした粋な船頭。七変化で楽しませてくれます。

まず、史書五行の難しい言葉を歌にし、なんと深遠な書物だ、真理の中に魂が溶けて行く、感動だ~と一人で3分以上歌う登場シーンは圧巻です。与太郎たちに「お稲荷さんにお参りに行こう」と騙されて吉原に連れて行かれる所がかわいいやら、おかしいやら。育ちがよくて、人がよくて、几帳面で、子供っぽいコミカルな仕草の一つ一つ、間の取り方まで達者です。素顔のかわいらしさがのぞいても、母性本能をくすぐる世間知らずの若旦那に見えるから役得です。

遊び人時代の堂々とした物腰。羽織を肩にひっかけて揺らしながら歩く姿も格好いいし、羽織を空中に投げ上げて落ちてくるところで袖を通すシーンでは拍手が起きていました。
苦労して初めて、働くことの大切さ、困った人を助けてくれる人情の有り難みが身にしみた徳兵衛。得心する瞬間が手に取るようにわかります。
2幕に入って船を漕ぎながら芸者顔負けの喉を披露する流し目の船頭もいい。などの舞台装置のないバウホールでは、徳兵衛の漕ぐ船はスタッフが紐でひっぱっています。ドライアイスで船底や紐が見えないようにしていますが、霧のたった川面を船が滑るように見えます。単純な左右の移動ではなく、しっかり方向転換もします。その計算は力学の世界ですね。

純矢ちとせは三味線や日本舞踊が達者。4年目でお初役に抜擢されたのもうなずけます。きれいな声。娘役に転向して正解ではないでしょうか。演技もたいしたものでした。きっぷのいい姉御を好演。身投げしようという人を助けてみたら徳兵衛だったとわかって、「若旦那とわかってたら助けやしませんでしたよ」「今からでも遅かないよ、とっとと飛び込んでおしまい!」(笑)
天秤担いで唐茄子売りなんて恥ずかしくてできないとごねる徳兵衛にブチ切れて「全部売れるまで帰ってくるんじゃないよ~!!」と下駄を投げる。追いかけて行ってさらに投げつける。甘えん坊にはこれくらいしないとね。

幇間(たいこもち)の一八を彩那音。明るいだけが取り柄で、徳兵衛を慕って船頭になったのはいいけれど、船は漕げないし、さっぱり使えない。でも口だけは達者で悪だくみではみんなをリードします。彩那音、組替後の最初の役が一八。これまでの自分のキャラにあろうとなかろうと、体当たりでやるしかないって感じ。とてもがんばったと思います。

汝鳥怜、灯奈美がいなかったらこの作品は成立しなかったことでしょう。徳兵衛だけでなくお初の抱えた問題も親身になって助けようとする人情派の甚兵衛。船宿の主人として、一八はじめ若い衆を抱えて面倒見がいい。そしていくつになってもラブラブの女将さんを灯奈美。この作品の江戸情緒の8割は2人のおかげではないでしょうか。(灯奈美の退団は淋しい。専科に行ってほしかったです)

白帆凛(しらほりん)は徳兵衛を吉原に連れていく与太郎。与太者にしては弁も立つし、しっかりしてました。(退団してしまって残念)
香綾しずる(かりょうしずる)は徳兵衛の唐茄子売りを助けてくれる鳶職人。
花帆杏奈(かほあんな)は徳兵衛を落とした花魁と、腰が直角以上に曲がってよぼよぼなのに重い唐茄子を買ってくれたおばあちゃん役。
愛原実花(あいはらみか)は芸者と、主人からの送金が途絶えて貧しいなか2人の子供を育てているお母さんの役。最初の頃、娘さんのなりで歌いながら出てくる時、草鞋(わらじ)なのにトウシューズのように爪先でステップを踏んでました。余裕でマデレーネができる訳ですわ。

落語と言えばハッピーエンド。盆踊り風のフィナーレが明るくてほのぼのしてて大好きです。

音月桂はこの直後に「アルバトロス、南へ」の稽古に合流し、遅れてきたとは思えないほどなんでも器用に、立派にこなしてました。

「ベルサイユのばら」春野寿美礼アンドレ

2007年11月11日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
06年雪組「ベルサイユのばら」役替わり公演、春野寿美礼アンドレバージョンをスカイ・ステージで観ました。DVDだとお芝居全部が収録されていないので、全部流してくれるこの番組企画はいいですね。

役替わり公演はおもしろい。「ベルサイユのばら」は形式美の世界。ほとんど所作が決まっていますが、役者によって全然違った作品になるのは歌舞伎みたいです。

宝塚大劇場では5人がアンドレを、東京公演では3人がアンドレを演じました。アンドレが一人替わるだけで(現実にはアラン、ジェローデル、衛兵隊の一部も変わりますが)、印象はかなり違ってきます。
わたしは東京公演の貴城けい、水夏希を観ました。安蘭けいはDVDで。貴城けいは貴族的すぎて、貴族のお嬢様を愛してしまった辛さ、切なさに耐える庶民のイメージには距離があった気がします(ジェローデルがあっていましたね)。水夏希のアンドレは粗野なところがイメージにぴったりと思ったし(じゃあ、アランは誰がやるのか?うぅ~ん、悩む)、安蘭けいのアンドレは苦労人の感じが役柄にも、漫画のイメージにもぴったりと思いました。プロローグで銀橋をわたっていくときの悩殺流し目も格好いいし、フィナーレで朝海ひかると踊る姿も美しい。わたしのアンドレは安蘭けいで決まり!と思っていたのに、春野寿美礼のアンドレを観たら、また考えが変わってしまいました。

陶酔させる歌声もさることながら、温かくて大きく、包容力があって「俺の行くところが、他にあると思うのか?!」って、わたしがこんな風に言われたらどうしましょう?原作のイメージに近いとか遠いとかじゃなくて、圧倒的な存在感と説得力。懐の深さにひかれます。
「ベルサイユのばら」は、ストーリー的にはシンプルだし、「今宵一夜」の場面は様式美の最たるものなので、これまで私にはこのシーンは気恥ずかしくて、ジンと来たことはなかったのですが、春野寿美礼には泣かされました
演技力というより春野寿美礼その人の魅力なのでしょうね。やや古い例えですが、マイナスイオンが出ているような気がします。春野寿美礼で森林浴も夢じゃない?!

フィナーレナンバーでは同期ならではの空気感に、観ている方は癒されるというか、照れるというか。朝海ひかるは春野寿美礼とは本当に仲がよかったみたいですしね。花總まりや安蘭けいのことは雲の上の存在と言っていましたから。「この三日間、コムオスカルを愛し抜きました」というご挨拶も春野さんらしい。

まだ湖月わたる、瀬奈じゅん のアンドレを観ていないので、観たらまた変わってしまうかも? えぇ?!

ブルー・ジャスミン

2007年11月09日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
麻実れい(と、もう一人、大地真央)は、”この人を生(なま)で見ていたら、きっと私の人生変わっていただろうな~”と思わせる男役。
昨年、スカイステージでハッピーエンド物語(「ブルー・ジャスミン」と同時上演のショー)を見た時に、あまりの格好よさに頭をがつんと殴られた気がしました。外人男性にしか見えません! 端正でエキゾチック、時にセクシー、時にさわやかと変幻自在。芝居ではどんな感じなのか見てみたいと思っていたところ、スカイ・ステージの80年代特集で見ることができました。

ブルー・ジャスミン」はハーレクイン・ロマンスの作家ヴァイオレット・ウィンズピアの原作をもとに脚本したもの。

舞台は1920年代の中東の小国。亡き父の面影を求めて、父親の愛した砂漠の国にやってきたイギリス人女性ローナ(遥くらら)。原作を読んでいませんが、仲間数人としばらく滞在するのですからブルジョアでしょうね~。周囲の反対を押し切って(ヒロインって大抵そうです)、女性一人で廃墟を訪れたところを人さらいの一団につかまります。さっそうとした若い男性に助けられ、ホッとしたのも束の間、今度はその男性の砂漠のキャンプ地に連れてこられます。
実はカシム(麻実れい)はsheikh(この作品では“シェイク”と呼ばれていますが、普通は“シーク”)、イスラム教徒の家長・首長。客としてもてなされますが、実際にはホテルに帰ることも、友人に連絡することもできず、囚われの身同然。ハーレムの奴隷の一人になるなんて真っ平ごめんと、隙あらば逃げ出そうとするローナ。折しも周辺諸国は祖国建国の機運が高まり、カシムの周囲にも不穏な空気が漂い始めます……。

やっぱり麻実れいは格好いい。大柄で彫りが深くて目が大きくて、ミステリアス。ローナが占い師に「長身で黒髪の男性に出会う」と予言されますが、当たり前の黒髪さえミステリアスに見えます。堂々とした物腰と着こなし。立派なシークに見えます。何着も着替える衣裳も、セットも当時にしては豪華。

遥くららって娘役にしては背が高い。(麻実れいは遥くららが相手でも余裕で男性に見えます。)シルクのブラウスと乗馬パンツ、ブーツという出で立ちがお似合いです。何不自由なく育ち、教養と強い自我をもったギリス人のお嬢様に見えます。

ローナの友人、イギリス人のロドニーを平みち、カシムの政敵アンジュラーンを尚すみれ。それくらいしか顔がわからないのですが、そうそう、水兵の一人として現在の雪組の組長、飛鳥裕が出ていました。

テレビ番組用に編集されているので、政治的背景つまり首長カシムの担う重責と、辛い生い立ちを説明する部分がカットされているのが残念です。

祖国建国」と「大恋愛」という二つのテーマをブレンドしてめりはりをつけるとしたら、宝塚では祖国建国に、ロマンス小説では当然、恋愛に重きが置かれるでしょう。
しかし、(カットされているので余計そう感じるのかもしれませんが)この作品ではシンプルに二人の運命の大恋愛が描かれていたように思います。

ロマンス小説では、男と女は、仮に身分違いでも人間としては平等。女性はリスペクトされ、自由意志を尊重されるのを第一に要求します。一方、男性は愛する女性を自分だけのものにしたいと願う。自由を束縛してでも身近に置きたい。勝手です。でも、いざと言うときは命懸けで女性を守りぬきます。その強い個性のぶつかり合いが融和するときに、ハッピーエンドを迎えるんですよね。

この芝居でも、プライドをかけ、どちらが主導権を握るかで戦う二人の丁丁発止がいかにもロマンス小説らしい。

一人で逃げ出したローナを追いかけてきたカシム。目印のない砂漠、しかも砂嵐の中、ローナを見つけ出せたのはやはり愛の力でしょうか? 洞窟で抱き合って一夜を過ごした翌朝、目覚めたローナ。寝顔にキスするカシムに投げつけた第一声は「なんて傲慢な暴君なの(怒)!」
“傲慢”は男らしさにつながるので、誉め言葉の同意語。
喧嘩を売られたカシムも「いきなり宣戦布告か(笑)?」と、会話のキャッチボールを楽しんでいます。

しかし、こんなに素敵な男性に全身全霊で愛されたら、誰だって、ねえ。

DAYTIME HUSTLER

2007年11月01日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
05年雪組バウ公演 小池修一郎作・演出。
貴城けいの魅力は、申し分のない美貌、一度聞いたら忘れられない鈴の鳴るような声、「かしげ節」とでも言いたくなる独特の歌唱法は当然のこと、極端な「冷たさ」と「温かさ」を出せるところだ(った)と思います。 思いつめたように目を細めてじっと凝視した時の冷たさ、目の据わった感じは、苦悩を抱えてきた孤独も感じさせるし、確信犯で腹黒くも見えます。反対に笑いこぼれた時は甘えん坊でいたずらっ子、天真爛漫、純真さを感じさせます。 前者は「飛鳥夕映え」「アンナ・カレーニナ」、後者は「青い鳥を捜して」「アメリカン・パイ」等がそうじゃないでしょうか。

DAYTIME HUSTLER 愛を売る男」を久しぶりに見直したのですが、不思議とその両方の魅力が共存しています。

札付きのワルだったという危うさ、シスターに初めて心を開いた孤独な少年、初恋の女性を死なせてしまったという生涯消えない心の傷を負った男、教え子たちに慕われ、学校移転問題では子供たちのために学校側とも対立する熱血教師、自費出版の詩集を売っている詩人……「クール」「ワイルド」「ヒューマン」といった要素が見事にブレンドされています。加えてポスターはボーイズラブ風。反則に近い妖しさでした。

ローリーは元不良の高校教師で詩人。学校側と対立して解雇され、生活費と自費出版の借金返済のためにエスコートサービスを始めます。殺人現場の第一発見者となった時、前科から容疑者として捕らえられてしまいますが、果たして……最初、あらすじを読んだ時は、スケールの小さな話なのではないかと思ったのですが、観てビックリ。ゴールドビーチというスモールタウンを舞台にしていながら、人間模様、友情、初恋、挫折、思いやり……人が人として生きていくうえで出会う事柄、決して忘れてはいけないことが描かれていたように思います。

貴城けいが演じるローリー。 シルク混の(DVDなので定かではありませんが)光沢のあるシルバーグレーの上着に白いワイシャツ、細いネクタイをルーズに絞め、色褪せたジーンズにデザイン性の高い銀のバックル付きのベルト。時には皮のジャケットにデニムのシャツ。あのぉ~、いるんですか?こんなイケメン高校教師? いたら絶対学校を休みませんね。

手っ取り早く稼ぐならこれしかない、と教え子ジョニー(柊巴)に勧められて始めたハスラー(エスコート・サービス)。半信半疑のはずなのに、写真を撮るってだけでタキシードをビシッときめて、いっちゃってる眼でポーズ。 未亡人パトリシアのリクエストで、パーティにパトリシアの初恋の人だった陸軍士官と同じ白い軍服で赤いバラの花を持って現れますが、その軍服姿にはめまいがします。パトリシアが心臓発作で倒れた時、病院で朝まで付き添ったという優しさが評判を呼んでご婦人からの予約殺到。必ずしもパーティにエスコートして社交ダンスを踊るだけでなく、肩をもんだり、癒し系の存在。

ホテルの社長の娘で都市開発研究家シルヴィア(天勢いづる)との出会い、恋愛も自然でいいのですが、やはりドラマの軸は幼なじみで市議会議員ヘイワード(壮一帆)との対立と友情でしょう。

友情と言ってしまうと語弊がありますが、昔から優等生だったヘイワードにとってローリーは、唯一歯が立たなかった相手。学園一の美人でガールフレンドだったメアリー・アン(大月さゆ)が、自分ではなくローリーを選んだから。エリートとして常に周囲の期待に応えようとし、市長選出馬を目指す今、有力者の娘シルビィアと婚約して権力を手に入れようとています。でも表の顔とは裏腹に、次々と悪事に手を染め、追い詰められていく。ラスベガスのダンサーで愛人だったキャロル(涼花リサ)が邪魔になった時の捨て方は知能犯でひど~い。終盤、焦りや不満、不安、世間への敵意などため込んだ感情をはじめて爆発させてからはノンストップで渾身の演技。じんときました。
演技派壮一帆ここにあり。雪組で培った演技力で花組でますます活躍してほしいです。

実際に会社勤めをしたことのないジェンヌさんたちの演じるキャリアウーマンって嘘っぽいのですが、男役から転じた天勢いづるはきりっとしててリアリティがありました。

美穂圭子のパトリシアは品があってきれい。白髪の鬘がよく似合ってました。レディースクラブの会長でステイタスがあり、老婦人なのに空気が読めます。

悠なお輝はダーティなマフィア役ですが、名もない違う役ででているところがおかしい。ローリーがはじめてハスラー登録をしにいくと、いろんなコスチュームの人が元気よくマラカス振って踊るのですが、そこでは全身黒のレザースーツ。東京千秋楽では当時(!)人気のあったレーザーラモンHDの扮装でした。(「青い鳥を捜して」では通行人“赤い服の女”のために七つ鬘を用意したという凝り性ですからね。)

高校生ジョニー役の柊巴も人懐っこくてかわいい。

クラブのオーナー、ロレンツォを演じる緒月遠麻がいい味だしてます。体格がよくてラテン系の濃い~作りで、堂々と長い歌を歌ってたので、研6には見えませんでした。本人は笑わせるつもりはないのかもしれませんが、何か台詞を言うだけで可笑しくてたまりません。いや、そこにいるだけで可笑しいかも?

シルヴィアからローリーへの愛の告白、そしてローリーからシルヴィアへのお返事は名台詞。よかったね。

外国の恋愛小説を読んでいると、エスコートサービスって、時々出てきます。親が結婚、結婚がとうるさいから”付き合っている人がいる”と言ってしまった手前、証拠を見せなくてはいけなくなった、というのがよくあるパターン。大概の場合、恋に発展。「ハスラー」という呼び方をしているのは聞いたことがないですけれどね。

雪組再演「エリザべート」DVD

2007年08月14日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
今回の公演は水夏希演じるトートのビジュアルの勝利。ボクサーのような体躯の良さと男らしさ。「死神」路線を追求したビジュアル。顔色はかなりの白塗り。二枚目としては見たことない程、ストレートで激しい感情表現。


劇場では1階1列センターブロックという恵まれた席で観劇できました。発売されたDVDも買いました。DVDは好きなシーンを何度も見れるのがいいですね。

今回の公演は水夏希演じるトートのビジュアルの勝利。ボクサーのような体躯の良さと男らしさ。スタイルのよさをいかして大股で闊歩してロングコートを翻す姿が様になる。コートの使い方はかなり意識している。「闇が広がる」の銀橋でも裾が翻っていました。

死神」路線を追求したビジュアル。顔はかなりの白塗り。登場シーンのスポットライトでハレーションを起こす程。アイメイクもかなり濃い、というか特殊。黒々とした目が顔の横幅いっぱいに広がっている。口紅の色も血の気の引いた紫色。一路真輝の高貴なパープルとは異なります。

歴代トートのメイクも、人間とは違うメイクをしていると思っていたけれど、水トートに比べると肌もオークル系。チークも入っている。(彩輝直はかなり白塗りでしたが、人間離れしたメイクではなかった)それに比べると、水トートは潔く真っ白です。

そんな青白~い顔が、普通の人間の背後に寄り添ってライトを浴びる時、見える人にしか見えない(時には)、この世の者ならざる存在として浮かび上がる。常に主役に丁寧にスポットを当てる宝塚ならではの演出です。

また、これまでは大なり小なり髪にウェーブがかかっていましたが、水トートはそれもなし。甘い貴公子的要素はまったくない。かき氷の「メロン」のように頭頂部と根元が緑色の白髪も、舞台の照明の下では陰影が出てグッドでした。

」という抽象的な存在のトート。人間ではないけれど、人間的感情を表現する必要がある。歴代トートも、そのさじ加減が難しかったと思います。

水トートは、二枚目としては見たことない程激しい感情を表現しています。喜び、怒り、自惚れ、計算、嫉妬、悪知恵、落胆……憤りでをつり上げたり、をむきだしたり、乱暴にコートやマフラーを投げ捨てたり、机をたたいて悔しがる。

「チキショウ!!」「・・この野郎!」というセリフが聞こえてきそう。「出ていって」と言われてエリザベートの寝室から出ていくときの可愛さ余って憎さ百倍、恨みがましい表情は妖怪みたい。(アオセトナよりかなり激しくなってます)

抑制されていない原始的で野卑な感情をストレートに見せることで、人間でない「死神」らしさが薄まるどころか強調されている。不思議なコラボレーション。
水トートは台詞のないシーンでも感情を実に丁寧に拾っているところが好感が持てます。

また、水夏希は今までのトートの中で一番ダンスが上手なのは確か。キレのあるダンスにつられて、長髪が揺れたりピタッと元に戻るところは、なかなかゴージャス。

DVDは宝塚劇場にて6月8日収録。私が観に行った東京公演では、それぞれの演技も深まり、声量ももっと出ていました。回を追うごとにどんどん良くなっていったようなので、東京公演のステージの模様がテレビで放送されるといいのですが。


SAY IT AGAIN

2007年07月24日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
SAY IT AGAIN-「ヴェローナの二紳士」より
1999年雪組バウホール/脚本・演出:正塚晴彦/主演:成瀬こうき、朝海ひかる、貴咲美里、紺野まひる

正塚晴彦は人気の高い演出家。彼のバウホール作品で主役を務められるジェンヌさんは幸せだと思います。キザで哀愁を帯びた「男」の面を引き出してもらえるのですから。

正塚晴彦の作品を何本か見ましたが、「SAY IT AGAIN」が今までで一番好きな作品。どうなるんだろう?というハラハラ感あり、笑わせてくれて、含蓄のあるせりふに共感できます。

正塚晴彦の作品の特徴は、宝塚にはじめてハードボイルドの世界を持ち込んだこと、何気ない日常の中にドラマを見いだすこと、と言われています。前者は、私にはそこまでの歴史はわかりませんが、後者は確かにそうだと思います。作中で殺人のような事件はあまり起こりません。(「ブエノスアイレスの風」では起こりました)

ただし、“何気ない日常”とはいえ、主人公はペテン師、詐欺師(同じか?)、ジゴロ、元ボクサー、元金庫破り、元テロリスト、現役の殺し屋など、一筋縄ではいかない人たちが多い。ご多分にもれず、当作品の主人公も結婚詐欺師を生業とするコンビです。

マルディグラに湧く街に降り立ったピエール(成瀬こうき)ヴィンス(朝海ひかる)。ホテルで開催されたパーティ会場で踊る華やかなジュリー(紺野まひる)をカモにしようと、映画のプロデユーサーを偽って早速罠をかけるヴィンス(朝海ひかる)。シャンパンを客の一人、ピエール(成瀬こうき)にかけてしまったことでアルバイトをくびになったシェリル(貴咲美里)。
ピエールは自分のせいでシェリルがくびになったことを気にして、つい世話をやいてしまう。ところがジュリー、シェリルの真の姿は‥。

お話は二転三転。

騙したつもりが騙されたり、騙し切れずに本気になったり、家族も友情も絶体絶命のピンチ。はたして?

正塚晴彦の作品の良さは端的に歌詞に象徴されていると思います。挫折や失敗を知っているからこその繊細で優しく温かい男心をセンチメンタルに描く。切なく、ほろ苦く、懐かしくて、なぜか癒される。寺尾聰、中村雅俊などの歌のようと言ったら誤解を招くでしょうか。悟りの境地にも似たしなやかさ、さりげなさが聴く者の心の琴線に触れます。

そんな男の美学をこの作品では成瀬こうきが体現しています。貴咲とカフェで影法師を踏みながら歌う場面は名シーン。

この作品に限ったことではありませんが、歌詞の前提となる「会話」が自然で芝居とは思えない。

「(恋愛って)経験豊富じゃないとだめなんですか!?」
「おい、思ったことは何でも言うんだな!?」
‥こんなありふれた会話があまずっぱい。

それと、正塚作品には欠かせない役者(未沙のえる、美郷真也)も大活躍。むしろ影の主役だったりして?ジェームズ(美郷真也)は政治家でお金持ち、一人娘のことが心配で心配で仕方ない。いつものことながらおっちょこちょいぶりが笑えます。

未沙のえる は美郷真也に雇われた探偵。タージマハール・エメットというたいそうな名前がついています。変装してお嬢様の動向を探るのですが、怪しげで誰よりも目立つので笑えます。

同期、朝海ひかる、成瀬こうきのダブル主演ですが、役どころ、男役としての完成度の両面から、主役はどう見ても成瀬こうき。朝海ひかるが退団前にもう一度演じてみたい作品としてこれをあげていました。

ヴェローナの二紳士」はシェイクスピアの処女作とされています。恋のために恋人や友人まで裏切る男、しかし途切れぬ男同士の友情などがテーマの喜劇らしい。この年は宝塚のシェイクスピア・イヤーだったので、登場人物や展開を題材にしたのでしょうが、「ペテン師」にしたのは脚本家ならでは。

バウホールなので大道具はないに等しく、衣装は時代を感じる。場面転換と街の雰囲気を伝えるために若者のダンスシーンが必ず挟まれるのも正塚作品の特徴です。
慣れないと恥ずかしいかも。でもそんなダンスシーンの中に未沙のえる、美郷真也を見つけるのも楽しいです。

どっぷりひたれる作品「嵐が丘」

2007年06月15日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
19世紀イギリス。憎悪、復讐心、亡霊に支配され、周囲を、そして最後は自分自身さえ滅ぼしてしまった男の物語。荒廃した、不気味で危険な「嵐ヶ丘」は主人公の心の中そのもの。

「嵐が丘」
97年雪組 バウホール/原作:エミリー・ブロンテ/脚本・演出:太田哲則/主演:和央ようか、美咲美里、安蘭けい、彩吹真他)

主人公(和央ようか)は身寄りのない孤児でしたが、親切な紳士に引き取られ、ヒースクリフ(劇中ではヒースの「丘」でした)という名前を与えられ、家族の一員として育てられます。

差別や虐待のせいで粗野な性格は助長され、紳士が亡くなってからますますつらいことばかり。礼儀知らずで、ぼさぼさの長髪で薄汚い少年。ぎらぎらした目で世の中を恨み、復讐だけを心の支えにしています。 仲良く育ったお嬢様のキャサリンがエドガーと婚約したと知り、家を飛び出します。

数年後成功して帰ってきますが、多少長髪をなでつけ、きれいな服を着るようになっても本質はかわりません。
それどころか、自分以外の男と結婚したキャシーをはじめ、かつて自分を蔑んだ人達への復讐を果たしていきます。家屋財産を奪い、妻、自分の実の息子まで利用して憎むべき相手を追い詰めていきますが、自分もキャシーの面影に取りつかれるようになり・・・。

理想の恋人を演じることが多い宝塚男役ですが、今回は正反対。人間以下の扱いをうけていた男の物語。
はいつくばったり、蹴飛ばされたり、後ろ手に締め上げられてつばをはいたり、猫背で捨て台詞をはいたり、自分の妻や息子にまで手をあげる、獣のような男。

和央ようかはあくまでも荒々しく、不気味に、武骨に、繊細さや心の弱さを感じさせない役作り。
本人にはそんな気はないのかもしれませんが、宝塚らしくない汚れ役、さえない役、醜い役を、やりがいを感じて嬉々としてやっているように思えます。これも彼女なりの変身願望、思い切りのよさ、サービス精神なのでしょうか。今作品も本人の持味がよく出ていたと思います。
多少は細工してあるのでしょうが、本当になたで薪を割ます。 淡々と、威勢よく・・・

演出意図なのか、役者の与える印象なのか、ヒースクリフがキャサリンの亡霊、失った愛を追い求める孤独な姿はあまり印象に残りませんでした。

雪組娘役さんにはこうしたキャシーのようなエキセントリックな役がまわってくることがよくありますね。美咲美里、好演してましたが、和央ようかのインパクトには勝てなかった。
喪に服しているかのような黒装束の彩吹真央のストーリーテラーぶりも迫力ありました。
美々杏里のネリー、よかったです。「風とともに去りぬ」のマミーみたいでした。
みんなよかったのであげていたらきりがありません。

文芸作品の舞台化に長けた脚本家らしく、おどろおどろしさや荒々しさをそのままに、格調と深遠さをそこなわずに見事に再現していたと思います。

狭い舞台ながら、衣裳、舞台セットもよく、空気感が伝わってきました。
バウホールに生演奏が入っているのは初めてみました。それなのにあのフィナーレの演出には驚きました。ヒースクリフだから、あれもあり?

泣ける作品 「アンナ・カレーニナ」

2007年06月12日 | DVD、スカイ・ステージ(雪組)
これも泣けます。貴城けいが演じるアレクセイー・カレーニンが泣けます。

「アンナ・カレーニナ」
(雪組バウホール/トルストイ原作/脚本:柴田侑宏/主演:朝海ひかる、紺野まひる、黄城けい他)

立派な夫とかわいい息子がいながら、道ならね恋に走るアンナ。魂が燃え上がる程の恋と言われても不倫なので、個人的には同情できませんねぇ、いくらコムちゃんがヴィロンスキー伯爵を演じても。
泣かせてくれたのはカレーニン氏を演じた貴城けいです。
政治家で厳格で道徳を重んじ、自分の妻は非のうちどころのない貞淑な妻だと信じていたのに、妻の突然の不道徳な行いに、驚き、怒りを押さえる。
最初は妻を叱責していたのに、「あなたは人を好きになったことがない、淋しい人ですわ」とか(勝手なことを)言われたとき、はっと何かに気づかされます。
根がいい人。妻を心から愛し、自分の人生を明るくしてくれた妻に感謝しているカレーニン氏は、自分ははたして妻を理解していただろうかと反省します。そして妻を愛するがゆえに、嫉妬や怒りを捨て、妻の幸せのために尽くそうとします。
♪誰より近くにいたおまえ、それが今ではわたしの知らない、もう一人の女♪と競馬場で歌うシーンは、歌も歌唱力もストップモーションの演出も、衣裳も照明も、すべてが美しい。名場面だと思います。
瀕死のアンナを訪ねてひざまづいて許しを請うシーンは何度見ても涙がぽろぽろ流れます。
ところで、主演は朝海ひかるですが、声はきれいに通るけど、歌もメイクも表情もこの頃はまだ子供っぼかった。(まあ、そこが魅力ですけどね)完成度は貴城けいの方が高かったと思います。(「睡れる月」もそうでした。)

ヴィロンスキー伯爵は難しい役どころだったとは思います。あまりリアルに演じても共感を得ないし、かわいいコムちゃんが演じてちょうどよかったのかも?
わたしがこの舞台の主役だと思うのはアンナを演じた紺野まひる。自分の気持ちに正直に、恋を貫こうとして、周囲を不幸にし、精神的に追い詰められているばかな女。矛盾した感情と欲求の間でゆれる女(女性と言うより「女」)を気高く演じていました。
(「凱旋門」のジョアンを演じた月影瞳さんもうまかったです!)

その他の役者さん。
入団4年目で朝海ひかるの士官学校同期を演じ、朝海ひかるを(いくら役回りとはいえ)堂々と「おまえ」呼ばわりする音月桂。いったい、何者?という感じです。
立樹遥も純朴で繊細な青年を好演していました。
舞咲りん、悠なお輝、美郷真也、灯奈美、順不同ですがみんな大好きです。
隠れた名作だと思います。