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未来組

宝塚の舞台、DVD、SKYSTAGEを観た感想と、最近はカメラに凝ってます。

月組「HOLLYWOOD LOVER(ハリウッド・ラバー)」

2008年01月26日 | 舞台感想(2007~2009年)
月組東京特別公演 日本青年館 2008年1月24日 18:00~
作・演出:植田景子/主演:大空祐飛、城咲あい他

 植田景子、大空祐飛、城咲あい。3人とも、何でもマルチにこなせるタイプではないけれど、はまった時の勝負強さはすごい。ロイヤル・ストレート・フラッシュ--この手、負けなし。 
 舞台は1940年代のハリウッド。イタリア系の新進映画監督ステファーノ・グランディ(大空祐飛)と、暗い過去を神秘のベールの下に隠したハリウッド女優ローズ・ラムーア(城咲あい)。ローズが次の映画監督にステファーノを指名したことで、かつての恋人同士が8年ぶりに再会します。ローズを見出してスターダムに押し上げた大手映画会社のプロデューサーであり、夫でもあるリチャード(遼河はるひ)が、スタジオ以外での二人の接近を許すはずはなく……。
 虚飾に満ちた華やかな世界に渦巻く愛憎と陰謀。サクセスストーリーの陰で傷ついた心を抱えた男と女。一度狂った運命の歯車が元に戻るはずもなく、魂の触れ合いも人間としての成長も関係なく、物語は来るべき結末に向けて、美しく切なく、着実に進んでいきます。
 か~なり満足度の高い作品です。純度が高いというか、こういう作品、待ってたのよね~、観たかったのよね~という感じです。
 オープニングで舞台上のスクリーンにステファーノやローズのモノクロ映像を映す演出は、まるでこれから始まるのがおしゃれな映画のような錯覚を起こさせます。芝居の中でも、スタジオでの撮影シーンでは、カメラが収めているであろう映像をバックに映し出していました。
 全体を通して場面の転換も無駄がない。例えば制作発表の記者会見会場。記者たちがステファーノたちに向って質問する言葉と、振り向いて吐き出す俗っぽくて皮肉に満ちた心の声がまったく違う演出などもテンポよく、あっという間に物語の世界に観客を引き込んでいきます。
 ステファーノとローズが会話しているシーンで、過去のステファーノ(紫門ゆりや)とローズ(蘭乃はな)を舞台上に同時に登場させたり、映画の撮影シーンとスクリーン上の映像をシンクロさせたり、現実、過去、虚構の世界を無理なく共存させています。

 「THE LAST PARTY」は大空祐飛&紫城るいの組み合わせしか観ていないのですが、大空祐飛&植田景子という組み合わせは無敵です。前回のスコット・フィッツジェラルドもそうでしたが、大空祐飛はインテリの役が似合う。線は細いがタフ。無表情というと大げさかもしれませんが、演技しすぎないことで、生身に近い男性の不器用で切ない心理が伝わってきます。愛しすぎてしまうがゆえに破滅に向かっていく恋人たち。最後の方では、客席のあちこちですすり泣きが聞こえていました。(わたしは、最後のシーンで、去っていくステファーノに向ってサム(麻月れんか)が叫んだ言葉に思わず涙しました。)着こなしがうまいのも強い。メイクも変わった気がします。(普段はともかく)笑ってもさびしさや悲劇を感じさせる三白眼に強さが加わった気がします。
 城咲あいは、いい意味で宝塚の娘役ならではのかわいらしさ、可憐さとは異なる次元の存在。コメディももちろんこなしますが、円熟した大人の女、古風な硬さ、現実世界の出来事を何一つその瞳に写していないほど空虚に見えるところがすごい。(「マジシャンの憂鬱」での記憶喪失の王女様という設定も頷けます)かといって演技までねちっこい大人の女ではないので、そのギャップが純真さ、不器用さを際立たせます。加えてダイナマイトバディだということもあり、イブニングドレスやラメとミンクのローブ姿など、着こなしも堂々としていました。
 ローズのすべてを支配しようとする夫リチャード(遼河はるひ)。「NEVER SAY GOODBY」で伊達にアギラールを演じた訳ではありません。リチャードは悪役ではありませんが、悪役の迫力が存分に発揮されていました。声がいい。歌になるとまだ低音が出せないところは課題です。
 コラムニスト、シーラ役の五峰亜季。いつもネアカでお人好しの役が回ってくるのか、彼女が演じるとどの役もそう見えてしまうのか? 役どころが定まっているので、彼女が登場するだけで安心します。
 ステファーノの旧友でカメラマン、ビリー役の桐生園加。マイホームパパっぽい温かさがよかった。
 大手映画会社の創設者でリチャードの父親ウォルター役の磯野千尋。妻を亡くした痛手から立ち直れず、若い女性と遊び歩き、息子の気持ちに気付かない情けないお父さんぶりがよかったです。
 ハリウッドを舞台にした”おしゃれ”な作品は植田景子の独壇場でしょう。いつも衣装やセット、小物の趣味がいいのですが、今回もセンスの良さが発揮されていて、観ていて気持ちがいい。主要登場人物だけでなく、リチャードに影のように寄り添うレイ(越乃リュウ)のスーツのよれ具合や、ローズの使用人でインディアンの血を引くカマラ(美夢ひまり)の不気味な地味さ加減も。ソファや花瓶に活けたバラの色、各シーンごとのトーン&マナーまで配慮が行き届いています。
 植田景子の作品は、人間ドラマの骨格がしっかりできている場合はいいのですが、その部分が甘いと、掘り下げ不足で薄っぺらなナルシズムに陥ってしまいがち。この作品では、植田景子が一皮むけたというか、肩の力が抜けて、独特の美学に磨きをかけた気がしました。

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