東京宝塚劇場2月7日11時~
ハンフリー・ボガード、イングリット・バーグマン主演の名作「カサブランカ」のミュージカル化。前評判に違わず見応えのある舞台で、切ない原作の世界を見事に再構築しています。宝塚以外の劇団で、男女が演じてもいいほど。
登場人物の多くが中年男性。鬢に白髪を混ぜたり、髭をつけたり、肉襦袢を着たり、いろいろ工夫しています。それでも宙組は若い子から上級生までいい男ばかりで目移りするほどです。
映画は子供の頃テレビで放送されたのを観た記憶はあるけれど、あまりよく覚えていません。大人の男女のラブストーリーだというのはわかったけれど、社会背景が難しかったし、当時はボギーの渋さもわからなかった。
小池修一郎の脚本はおそらく台本の設定に忠実なのでしょう。舞台化に際して背景や人間関係を緻密な構成でロジカルに説明し尽くし、キャラクター設定にも無理がなく、筋運びや場面転換に隙がない。まるで名画を観ているよう。相変わらずの舞台転換のスペクタクル感は彼ならでは。下級生を登場させる群衆芝居やダンスシーンの挿入も無理がない。一方、畳み掛ける展開で気が抜けないところも相変わらずです。
特筆すべきは宙組の群衆芝居の確かさだと思う。カサブランカの街の複雑な人種構成そのままに、多様な人々が集うカフェのシーンは、紫煙に霞むモノクロのスクリーンを見ているよう。登場人物が舞台上に息づいている。ヴィザを求めて長い行列を作る人々、汽車に乗り込もうと群がる人々など、役者たちの一途な演技に胸を打たれます。宙組の団結力、一体感はいつみてもすごい。迫力あります。こうした土台があってこそ、主要登場人物のドラマに厚みが出るというものです。
大空祐飛のリックは、誰もが口を揃えて言う通り、はまり役。ルックス的にも、トレンチコートにソフト帽、ダブルのスーツ、時にワイシャツでたたずんでいても様になる。煙草やバーボンも似合う。(苦みばしった表情で銀橋で煙草をくゆらせて、ポイっと足元に投げ捨てるのが様になるって、何者?)女性ならではの甘さは控えめで、大人の男性のいぶし銀の魅力がある。
作り上げられた甘ったるい男役像と、現実の男性との間には隔たりがありますが、中間よりどちらかというとリアルに近い男性像でしょうか。
でも現実にはいる訳がない。若い頃からクールビューティーといわれたのもうなずけますし、それがこんな形で成熟したのかと思うと感慨深い。
地声が低いのも有利。台詞回しは達者で声量もある。アップテンポの曲は別かもしれませんが、芝居の延長としての歌は表現力に富んでいて聴かせます。
海千山千、酸いも甘いも噛み分けてきた男の懐の深さと悲哀がよく体現されていました。ハスキーな声で「君の瞳に乾杯」と言われてみたいものです。
蘭寿とむのラズロ。一幕では登場シーンは多くありませんが存在感が際立っている。どんと大きく構えた立ち居振る舞いに、意外にソフトな物言いで、大人の男の包容力につながっていました。台詞のちょっとしたニュアンスで笑いを呼ぶところは余裕です。フィナーレで下級生を引きつれて踊るシーンは、やはり宝塚はこうでなくてはと思わせる説得力。しかも、トップ並みにスポットライトを浴びていました。
ルノー大尉を演じる北翔海莉は髭をつけ、肉襦袢をつけ、かなり年上の役に挑戦。女と金に目が無く、二枚舌、三枚舌を使い分ける、いかにもフランス人らしい世渡り上手、でも憎めないおじさまを演じていました。リックとのかけあいも多く、月組出身同士、息のあったところを見せていました。手鏡片手にポーズをとるところは数少ないコミカルなシーンでした。アドリブなのかな?
野々すみ花のイルザは誰が演じても難しい役でしょう。反体制運動のリーダーであり、夫であるラズロへの尊敬、忠誠、リックへの思いとの狭間で最後まで揺れる女心。理屈で理解して演技しようとしてもなかなか。むしろ何も考えていないくらいの方が観客の想像に委ねることができたかも。お顔も、小柄な体型もあどけなさが残り、「悲劇の女王」「美女」感は乏しかったかもしれません。
悠未ひろのドイツ将校、シュトラッサー少佐はドンピシャ。背の高さ、手足の長さをいかして、軍人らしい固苦しさをよく出してました。格好よかったです。
毎日バーに通うのにリックに相手にしてもらえないイヴォンヌを純矢ちとせ。しかし彼女はお酒の入った嫌な姐御がどうしてあんなに上手いんでしょう?
春風弥里のバーテンは殊勲賞ものでは?薄暗い照明しかあたらないバーカウンターの向こうで根気よく、楽しそうに沢山のお客の相手をしていました。イヴォンヌの愚痴にもよくつきあってました。噂では時々お酒をくすねていたとか?
エトワールの七瀬りりこ、無理のない高音が伸びやかで見事でした。
リックの旧友でバーの看板ピアニスト、陽気なサムを萬あきら。お人柄が忍ばれる、本当に温かいキャラクターでした。今回の公演でご卒業なので、もう見られないのかと思うと淋しいです。タカラジェンヌにも定年があるので、止むを得ないのでしょうが、舞台を引き締めてくださる専科の方々が次々に退団なさるのは淋しい限りです。
物語も演出も「大人」度が高く、宝塚ファンだけでなく芝居好きの一般客にも満足してもらえる舞台だったと思います。舞台上に本物のクラシックカーを登場させるのも贅沢で楽しい演出でした。
フィナーレナンバーもあり、芝居で下級生以外はダンスシーンがなかったのを補うようにエネルギッシュに踊りまくっていました。宙組は若手が長身ぞろいなので見応えがあります。とくに北翔海莉は肉襦袢を脱いで本来のスマートな姿に戻れてよかった。
ハンフリー・ボガード、イングリット・バーグマン主演の名作「カサブランカ」のミュージカル化。前評判に違わず見応えのある舞台で、切ない原作の世界を見事に再構築しています。宝塚以外の劇団で、男女が演じてもいいほど。
登場人物の多くが中年男性。鬢に白髪を混ぜたり、髭をつけたり、肉襦袢を着たり、いろいろ工夫しています。それでも宙組は若い子から上級生までいい男ばかりで目移りするほどです。
映画は子供の頃テレビで放送されたのを観た記憶はあるけれど、あまりよく覚えていません。大人の男女のラブストーリーだというのはわかったけれど、社会背景が難しかったし、当時はボギーの渋さもわからなかった。
小池修一郎の脚本はおそらく台本の設定に忠実なのでしょう。舞台化に際して背景や人間関係を緻密な構成でロジカルに説明し尽くし、キャラクター設定にも無理がなく、筋運びや場面転換に隙がない。まるで名画を観ているよう。相変わらずの舞台転換のスペクタクル感は彼ならでは。下級生を登場させる群衆芝居やダンスシーンの挿入も無理がない。一方、畳み掛ける展開で気が抜けないところも相変わらずです。
特筆すべきは宙組の群衆芝居の確かさだと思う。カサブランカの街の複雑な人種構成そのままに、多様な人々が集うカフェのシーンは、紫煙に霞むモノクロのスクリーンを見ているよう。登場人物が舞台上に息づいている。ヴィザを求めて長い行列を作る人々、汽車に乗り込もうと群がる人々など、役者たちの一途な演技に胸を打たれます。宙組の団結力、一体感はいつみてもすごい。迫力あります。こうした土台があってこそ、主要登場人物のドラマに厚みが出るというものです。
大空祐飛のリックは、誰もが口を揃えて言う通り、はまり役。ルックス的にも、トレンチコートにソフト帽、ダブルのスーツ、時にワイシャツでたたずんでいても様になる。煙草やバーボンも似合う。(苦みばしった表情で銀橋で煙草をくゆらせて、ポイっと足元に投げ捨てるのが様になるって、何者?)女性ならではの甘さは控えめで、大人の男性のいぶし銀の魅力がある。
作り上げられた甘ったるい男役像と、現実の男性との間には隔たりがありますが、中間よりどちらかというとリアルに近い男性像でしょうか。
でも現実にはいる訳がない。若い頃からクールビューティーといわれたのもうなずけますし、それがこんな形で成熟したのかと思うと感慨深い。
地声が低いのも有利。台詞回しは達者で声量もある。アップテンポの曲は別かもしれませんが、芝居の延長としての歌は表現力に富んでいて聴かせます。
海千山千、酸いも甘いも噛み分けてきた男の懐の深さと悲哀がよく体現されていました。ハスキーな声で「君の瞳に乾杯」と言われてみたいものです。
蘭寿とむのラズロ。一幕では登場シーンは多くありませんが存在感が際立っている。どんと大きく構えた立ち居振る舞いに、意外にソフトな物言いで、大人の男の包容力につながっていました。台詞のちょっとしたニュアンスで笑いを呼ぶところは余裕です。フィナーレで下級生を引きつれて踊るシーンは、やはり宝塚はこうでなくてはと思わせる説得力。しかも、トップ並みにスポットライトを浴びていました。
ルノー大尉を演じる北翔海莉は髭をつけ、肉襦袢をつけ、かなり年上の役に挑戦。女と金に目が無く、二枚舌、三枚舌を使い分ける、いかにもフランス人らしい世渡り上手、でも憎めないおじさまを演じていました。リックとのかけあいも多く、月組出身同士、息のあったところを見せていました。手鏡片手にポーズをとるところは数少ないコミカルなシーンでした。アドリブなのかな?
野々すみ花のイルザは誰が演じても難しい役でしょう。反体制運動のリーダーであり、夫であるラズロへの尊敬、忠誠、リックへの思いとの狭間で最後まで揺れる女心。理屈で理解して演技しようとしてもなかなか。むしろ何も考えていないくらいの方が観客の想像に委ねることができたかも。お顔も、小柄な体型もあどけなさが残り、「悲劇の女王」「美女」感は乏しかったかもしれません。
悠未ひろのドイツ将校、シュトラッサー少佐はドンピシャ。背の高さ、手足の長さをいかして、軍人らしい固苦しさをよく出してました。格好よかったです。
毎日バーに通うのにリックに相手にしてもらえないイヴォンヌを純矢ちとせ。しかし彼女はお酒の入った嫌な姐御がどうしてあんなに上手いんでしょう?
春風弥里のバーテンは殊勲賞ものでは?薄暗い照明しかあたらないバーカウンターの向こうで根気よく、楽しそうに沢山のお客の相手をしていました。イヴォンヌの愚痴にもよくつきあってました。噂では時々お酒をくすねていたとか?
エトワールの七瀬りりこ、無理のない高音が伸びやかで見事でした。
リックの旧友でバーの看板ピアニスト、陽気なサムを萬あきら。お人柄が忍ばれる、本当に温かいキャラクターでした。今回の公演でご卒業なので、もう見られないのかと思うと淋しいです。タカラジェンヌにも定年があるので、止むを得ないのでしょうが、舞台を引き締めてくださる専科の方々が次々に退団なさるのは淋しい限りです。
物語も演出も「大人」度が高く、宝塚ファンだけでなく芝居好きの一般客にも満足してもらえる舞台だったと思います。舞台上に本物のクラシックカーを登場させるのも贅沢で楽しい演出でした。
フィナーレナンバーもあり、芝居で下級生以外はダンスシーンがなかったのを補うようにエネルギッシュに踊りまくっていました。宙組は若手が長身ぞろいなので見応えがあります。とくに北翔海莉は肉襦袢を脱いで本来のスマートな姿に戻れてよかった。