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未来組

宝塚の舞台、DVD、SKYSTAGEを観た感想と、最近はカメラに凝ってます。

宙組「カサブランカ」

2010年02月12日 | 舞台感想(2010年)
東京宝塚劇場2月7日11時~

ハンフリー・ボガード、イングリット・バーグマン主演の名作「カサブランカ」のミュージカル化。前評判に違わず見応えのある舞台で、切ない原作の世界を見事に再構築しています。宝塚以外の劇団で、男女が演じてもいいほど。
登場人物の多くが中年男性。鬢に白髪を混ぜたり、髭をつけたり、肉襦袢を着たり、いろいろ工夫しています。それでも宙組は若い子から上級生までいい男ばかりで目移りするほどです。

映画は子供の頃テレビで放送されたのを観た記憶はあるけれど、あまりよく覚えていません。大人の男女のラブストーリーだというのはわかったけれど、社会背景が難しかったし、当時はボギーの渋さもわからなかった。
小池修一郎の脚本はおそらく台本の設定に忠実なのでしょう。舞台化に際して背景や人間関係を緻密な構成でロジカルに説明し尽くし、キャラクター設定にも無理がなく、筋運びや場面転換に隙がない。まるで名画を観ているよう。相変わらずの舞台転換のスペクタクル感は彼ならでは。下級生を登場させる群衆芝居やダンスシーンの挿入も無理がない。一方、畳み掛ける展開で気が抜けないところも相変わらずです。

特筆すべきは宙組の群衆芝居の確かさだと思う。カサブランカの街の複雑な人種構成そのままに、多様な人々が集うカフェのシーンは、紫煙に霞むモノクロのスクリーンを見ているよう。登場人物が舞台上に息づいている。ヴィザを求めて長い行列を作る人々、汽車に乗り込もうと群がる人々など、役者たちの一途な演技に胸を打たれます。宙組の団結力、一体感はいつみてもすごい。迫力あります。こうした土台があってこそ、主要登場人物のドラマに厚みが出るというものです。

大空祐飛のリックは、誰もが口を揃えて言う通り、はまり役。ルックス的にも、トレンチコートにソフト帽、ダブルのスーツ、時にワイシャツでたたずんでいても様になる。煙草やバーボンも似合う。(苦みばしった表情で銀橋で煙草をくゆらせて、ポイっと足元に投げ捨てるのが様になるって、何者?)女性ならではの甘さは控えめで、大人の男性のいぶし銀の魅力がある。
作り上げられた甘ったるい男役像と、現実の男性との間には隔たりがありますが、中間よりどちらかというとリアルに近い男性像でしょうか。
でも現実にはいる訳がない。若い頃からクールビューティーといわれたのもうなずけますし、それがこんな形で成熟したのかと思うと感慨深い。
地声が低いのも有利。台詞回しは達者で声量もある。アップテンポの曲は別かもしれませんが、芝居の延長としての歌は表現力に富んでいて聴かせます。
海千山千、酸いも甘いも噛み分けてきた男の懐の深さと悲哀がよく体現されていました。ハスキーな声で「君の瞳に乾杯」と言われてみたいものです。

蘭寿とむのラズロ。一幕では登場シーンは多くありませんが存在感が際立っている。どんと大きく構えた立ち居振る舞いに、意外にソフトな物言いで、大人の男の包容力につながっていました。台詞のちょっとしたニュアンスで笑いを呼ぶところは余裕です。フィナーレで下級生を引きつれて踊るシーンは、やはり宝塚はこうでなくてはと思わせる説得力。しかも、トップ並みにスポットライトを浴びていました。

ルノー大尉を演じる北翔海莉は髭をつけ、肉襦袢をつけ、かなり年上の役に挑戦。女と金に目が無く、二枚舌、三枚舌を使い分ける、いかにもフランス人らしい世渡り上手、でも憎めないおじさまを演じていました。リックとのかけあいも多く、月組出身同士、息のあったところを見せていました。手鏡片手にポーズをとるところは数少ないコミカルなシーンでした。アドリブなのかな?

野々すみ花のイルザは誰が演じても難しい役でしょう。反体制運動のリーダーであり、夫であるラズロへの尊敬、忠誠、リックへの思いとの狭間で最後まで揺れる女心。理屈で理解して演技しようとしてもなかなか。むしろ何も考えていないくらいの方が観客の想像に委ねることができたかも。お顔も、小柄な体型もあどけなさが残り、「悲劇の女王」「美女」感は乏しかったかもしれません。

悠未ひろのドイツ将校、シュトラッサー少佐はドンピシャ。背の高さ、手足の長さをいかして、軍人らしい固苦しさをよく出してました。格好よかったです。

毎日バーに通うのにリックに相手にしてもらえないイヴォンヌを純矢ちとせ。しかし彼女はお酒の入った嫌な姐御がどうしてあんなに上手いんでしょう?

春風弥里のバーテンは殊勲賞ものでは?薄暗い照明しかあたらないバーカウンターの向こうで根気よく、楽しそうに沢山のお客の相手をしていました。イヴォンヌの愚痴にもよくつきあってました。噂では時々お酒をくすねていたとか?

エトワールの七瀬りりこ、無理のない高音が伸びやかで見事でした。

リックの旧友でバーの看板ピアニスト、陽気なサムを萬あきら。お人柄が忍ばれる、本当に温かいキャラクターでした。今回の公演でご卒業なので、もう見られないのかと思うと淋しいです。タカラジェンヌにも定年があるので、止むを得ないのでしょうが、舞台を引き締めてくださる専科の方々が次々に退団なさるのは淋しい限りです。

物語も演出も「大人」度が高く、宝塚ファンだけでなく芝居好きの一般客にも満足してもらえる舞台だったと思います。舞台上に本物のクラシックカーを登場させるのも贅沢で楽しい演出でした。

フィナーレナンバーもあり、芝居で下級生以外はダンスシーンがなかったのを補うようにエネルギッシュに踊りまくっていました。宙組は若手が長身ぞろいなので見応えがあります。とくに北翔海莉は肉襦袢を脱いで本来のスマートな姿に戻れてよかった。

花組「相棒」

2010年01月19日 | 舞台感想(2010年)
日本青年館1月16日15時~

開演前アナウンスが「真飛聖」ではなく「杉下右京」なのからして意表を衝いていて面白い。全く予感させずに客席から登場するのも楽しい(劇場関係者かと思った)。
登場人物のキャラが立っているので、宝塚の舞台に違いはないけれど、その枠に留まらないお芝居の魅力があります。警察という男臭い世界、歳末大売り出し中の街角、女性部下と楽しい時間が過ごせるかもしれないと妄想するおじさん等、これほど身近な題材を扱っていながら宝塚の舞台になっているのが不思議です。
原作のユーモラスな会話はそのままに、台詞の中に山口百恵だの美空ひばりといった歌手の名前が出てくるのはいかにも石田昌也らしい。楽しくて安心して観ていられる作品に仕上がっていました。(事件に関しては多少大風呂敷広げてしまいましたが)

タカラジェンヌの素顔は二十代、三十代のお嬢さんなのに(もっと上の方もいますが!)、潔く中年オヤジを熱演できるのは、芝居巧者の揃った花組ならではかもしれません。
真飛聖は頼れるトップぶり、達者なコメディエンヌぶりを発揮しています。茫洋とした存在感は「若いころの右京さんはこんな感じ?」と思わせるものがあり(違うって!)、最後のご挨拶まで徹底した右京さんぶり。コミカルななかに元妻たまきさん(桜一花)との大人の関係、パリス(桜乃彩音)との触れ合いなどがさりげなく織り込まれています。

壮一帆の神戸尊。いつも生真面目に役を作りこむ壮さんですが、今回は全体のバランスからいっても、肩の力が抜けた感じで、両手をパンツのポケットに突っ込んだスーツの着こなしも超セクシー。やっぱ美形です。
夏美ようの警察庁小野田官房室長は、キャリア中のキャリアで、スーツを隙なく着こなしていながら、第一声が「…だよね~?」。「ねぇ、ボクの言ったこと、ちゃんとやってくれてる~?」という、オネエのようでもあり、高飛車でもあり、脱力系の言い方がツボです。岸田一徳は、なかなかできるものではありません。
オヤジ道まっしぐらの角田課長(未涼亜希)、おかっぱの鑑識課、米沢君(華形ひかる)、英語ができなくて浮いている伊丹巡査部長(真野すがた)など、みんないい味出してます。(テレビファンの方は、美しすぎるデフォルメに感涙するのでは? だって美形なんだから仕方ない!)
いや、いい味出してるのは男役ばかりではなく、華耀きらり初め、婦人警官達もノリノリでした。
桜乃彩音はコメディセンスに長けていて、はすっぱな女性はうまいです。

わたしはテレビの「相棒」をみていなくて、年末の特集を見ました。一緒に劇場に行った子はテレビのファンらしく、最初は「宝塚で相棒?」と思ったそうなのですが、ちゃんと「相棒」になってるし、「宝塚」になっていたと驚いてました。客席は当然テレビのファンが多く、わたしのよくわからないところで笑いが起きていました。キャラがうまく再現されてツボにはまったのでしょう。

プロローグで登場人物として踊るシーンでは、あれ?右京さんや米沢君が踊ってる?と錯覚させておかしい。フィナーレでは男役としてビシッと踊っていて、さすが花組!と思います。
真飛聖、壮一帆が変形タキシードで桜乃彩音と絡むダンスシーン。宝塚の究極美のはずが、微妙に役を引きずっているので、壮さんが彩音の手をはねのけてまで真飛聖のパートナーになろうとするところが笑いを誘います。振り付けはパパイヤ鈴木でしょうね、間違いなく。
客席にいた男の子がここで大声で笑ったので釣られて場内爆笑。舞台上の3人も、気障に決めているのに頬がゆるんでいるように見えておかしかった。神戸君が右京さんの相棒になれるかどうか、続編がみてみたくなりました。

因みに、婦人警官が「結婚相手は警官が最高!合コンしたい!」と歌っていますが、一般人には無理なようですよ?
私の知り合いで、普通のお勤めをしている子が、警察官と結婚したくて調べたけれど、一般人は無理、警察官が合コンする相手は同業者か看護婦と決まっていると嘆いてました。へぇ、知らなかった!