1983年 花組 バウホール公演
作・演出:正塚晴彦 /主演:大浦みずき
主人公の私立探偵レナード(大浦みずき)は正義感が強く、歯に衣着せぬ物言いで警察、特にモロウ刑事(瀬川佳英)とは対立してばかり。ある日ナタリーという女性(秋篠美帆)が事務所を訪ねてきたことをきっかけに、彼女とその夫だという金持ちの男性ブライアン(なかいおり)に関わる事件に巻き込まれていきます。
この人相の悪い男の正体は? 女性は何を怯えているの? 女性がお金を渡そうとしている相手は若いツバメ? 生き別れた弟? 罪のないこの人たちは一体どうなるの? 最後は幸せになれるの? という興味が観客を最後まで引っ張ります。
正塚晴彦の初期の作品なので、興味を持って観ました。トレンチコート、小さなスーツケース、駅のプラットホームでの別れ(?)のシーン――この辺の切ない演出は昔から変わらないんですね。
なんといっても25年前の作品。大浦みずきと、ちょい役の安寿ミラ以外はまったく知らない役者ばかり。レナードの子分、ジェフ役の翼悠貴は何をやっても大爆笑を誘っていたので、当時はさぞかし人気があったのでしょう。真面目な展開の中で確かに一服の清涼剤になっていました。(「マリポーサの花」に欠けていたのはこのボケ役ですね。沙央くらまの“ご主人さまぁ~?!”だけではパンチ不足でした)
正塚晴彦は宝塚にハードボイルドの世界を持ち込んだ革命児と言われています。今でも個性の光る作品は、当時はかなり斬新だったことでしょう。似たモチーフが繰り返し使用されていますが、変わらないなぁと思うことはあっても、マンネリと批判する気になれない、憎めないのが正塚作品の魅力。ご贔屓の男役の個性を引き出し、開花させてくれるからでしょう。
大浦みずきの、フレッド・アステアを彷彿とさせる日本人離れした容姿は、宝塚の男役になるために生まれたと言っていいでしょう。この作品では庶民派です。タートルネックが似合って尾藤イサオのよう。刑事やブライアンに対して、いつも血圧が上がりそうなほど怒鳴ってばかりで、それだけセリフ回しは達者です。歌唱力も確かで、この作品でも渋い歌声を響かせていました。そして娘役を見つめる視線はこの上なく温かい。
ブライアンの屋敷を飛び出したレナードとナタリー。夜明けの海辺でレナードが水を切る石の投げ方を教えたり、ナタリーがパンプスを脱いでドレスの裾を持ち上げて波と戯れたりするところは名シーン。誰でも一度はやったことがある他愛ない戯れをここまで叙情的に描けるって、役者も演出家もステキです。
フィナーレでは男役がレザーのスーツにレーシーなシャツ、細いネクタイという、現実にいてはいけない男のファッションで登場し、装いのハードなイメージとは反対の柔らかなダンスを披露します。いかにも謝珠栄の振り付けらしく、コロスのような感情表現をベースに、民族舞踊のような独特の体のくねらせ方。加えて、肩をいからせてすれ違ったり、胸ぐらをつかんだり、探偵、警察、ナチの生き残りという緊張した人間関係を振り付けで表現していました。絡んだり、突き放したり、男役が男役を肩に担ぐリフトにも痺れます。しかも音楽、照明ともにフェイドアウト寸前の暗い舞台上で二人のシルエットを際立たせるという独特の美学。私がこれまで見た中で五本の指に入る印象的なダンスシーンです。(今のところナンバーワンは「カステル・ミラージュ」の、金森穣振付による「レオナードの幻想」シーン。和央ようかと湖月わたるバージョンがツボです)
余談ですが、ANJU(安寿ミラ)の振り付けはいつも格好よくて、どこからこんな発想になるのだろうと思っていたのですが、若い頃こんな風に踊っていた経験があったからかなと、勝手に想像しました。
題名の「アンダーライン」とはハードボイルドなニュアンスがありますが、ナタリーが肌身離さず持っている詩集の一説に下線を引いて気持ちを伝えるという切ない意味合いが込められていました。
この放送は関西テレビの番組用に一部カットされているので、話が繋がりにくい部分があります。カメラワークも悪く、会話は聞こえるのにセットしか映っていない時もあるし、無茶なズームアウトもあります。でも幸い会話はすべて聞き取れるし、貴重な映像です。
作・演出:正塚晴彦 /主演:大浦みずき
主人公の私立探偵レナード(大浦みずき)は正義感が強く、歯に衣着せぬ物言いで警察、特にモロウ刑事(瀬川佳英)とは対立してばかり。ある日ナタリーという女性(秋篠美帆)が事務所を訪ねてきたことをきっかけに、彼女とその夫だという金持ちの男性ブライアン(なかいおり)に関わる事件に巻き込まれていきます。
この人相の悪い男の正体は? 女性は何を怯えているの? 女性がお金を渡そうとしている相手は若いツバメ? 生き別れた弟? 罪のないこの人たちは一体どうなるの? 最後は幸せになれるの? という興味が観客を最後まで引っ張ります。
正塚晴彦の初期の作品なので、興味を持って観ました。トレンチコート、小さなスーツケース、駅のプラットホームでの別れ(?)のシーン――この辺の切ない演出は昔から変わらないんですね。
なんといっても25年前の作品。大浦みずきと、ちょい役の安寿ミラ以外はまったく知らない役者ばかり。レナードの子分、ジェフ役の翼悠貴は何をやっても大爆笑を誘っていたので、当時はさぞかし人気があったのでしょう。真面目な展開の中で確かに一服の清涼剤になっていました。(「マリポーサの花」に欠けていたのはこのボケ役ですね。沙央くらまの“ご主人さまぁ~?!”だけではパンチ不足でした)
正塚晴彦は宝塚にハードボイルドの世界を持ち込んだ革命児と言われています。今でも個性の光る作品は、当時はかなり斬新だったことでしょう。似たモチーフが繰り返し使用されていますが、変わらないなぁと思うことはあっても、マンネリと批判する気になれない、憎めないのが正塚作品の魅力。ご贔屓の男役の個性を引き出し、開花させてくれるからでしょう。
大浦みずきの、フレッド・アステアを彷彿とさせる日本人離れした容姿は、宝塚の男役になるために生まれたと言っていいでしょう。この作品では庶民派です。タートルネックが似合って尾藤イサオのよう。刑事やブライアンに対して、いつも血圧が上がりそうなほど怒鳴ってばかりで、それだけセリフ回しは達者です。歌唱力も確かで、この作品でも渋い歌声を響かせていました。そして娘役を見つめる視線はこの上なく温かい。
ブライアンの屋敷を飛び出したレナードとナタリー。夜明けの海辺でレナードが水を切る石の投げ方を教えたり、ナタリーがパンプスを脱いでドレスの裾を持ち上げて波と戯れたりするところは名シーン。誰でも一度はやったことがある他愛ない戯れをここまで叙情的に描けるって、役者も演出家もステキです。
フィナーレでは男役がレザーのスーツにレーシーなシャツ、細いネクタイという、現実にいてはいけない男のファッションで登場し、装いのハードなイメージとは反対の柔らかなダンスを披露します。いかにも謝珠栄の振り付けらしく、コロスのような感情表現をベースに、民族舞踊のような独特の体のくねらせ方。加えて、肩をいからせてすれ違ったり、胸ぐらをつかんだり、探偵、警察、ナチの生き残りという緊張した人間関係を振り付けで表現していました。絡んだり、突き放したり、男役が男役を肩に担ぐリフトにも痺れます。しかも音楽、照明ともにフェイドアウト寸前の暗い舞台上で二人のシルエットを際立たせるという独特の美学。私がこれまで見た中で五本の指に入る印象的なダンスシーンです。(今のところナンバーワンは「カステル・ミラージュ」の、金森穣振付による「レオナードの幻想」シーン。和央ようかと湖月わたるバージョンがツボです)
余談ですが、ANJU(安寿ミラ)の振り付けはいつも格好よくて、どこからこんな発想になるのだろうと思っていたのですが、若い頃こんな風に踊っていた経験があったからかなと、勝手に想像しました。
題名の「アンダーライン」とはハードボイルドなニュアンスがありますが、ナタリーが肌身離さず持っている詩集の一説に下線を引いて気持ちを伝えるという切ない意味合いが込められていました。
この放送は関西テレビの番組用に一部カットされているので、話が繋がりにくい部分があります。カメラワークも悪く、会話は聞こえるのにセットしか映っていない時もあるし、無茶なズームアウトもあります。でも幸い会話はすべて聞き取れるし、貴重な映像です。