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未来組

宝塚の舞台、DVD、SKYSTAGEを観た感想と、最近はカメラに凝ってます。

月組博多座公演「ME AND MY GIRL」

2009年08月09日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
2008年博多座公演をスカイステージで放送していたので見ました。

ビル=霧矢大夢、サリー=羽桜しずく、ジョン卿=桐生園加、ジャッキー=龍真咲、ジェラルド=明日海りお、パーチェスター=星条海斗、マリア公爵夫人=京三紗

若いメンバー中心であることと、大劇場ほどの重圧がないからかもしれませんが、のびのびとやっているところが微笑ましい。
霧矢大夢はビルを自然体で演じています。押さえた渋い役が続いていますがもともとコメディセンスは抜群で、乗りのよさ、元気のよさ、歌唱力と演技力でビルを自分の物にしていました。
二枚目が無理して三枚目を演じているというわざとらしさがなく、全体としてあのままの人間。ポケットに手を突っ込んで若干猫背気味、にんまりほほ笑みながら、肩を揺らして歩く姿や(まるでチャツプリン?)、声量のあるだみ声、上品すぎず、ふざけすぎてもいない様子がビル像にぴったり。帽子などの小物使いも危なげない。 ただ、可愛いのはいいことなのですが、ぬいぐるみ顔というか、可愛すぎるのは困ったものです。

経験不足から舞台上で肝の座った演技ができない羽桜しずくがあれだけのびのびと演じられたのは相手が霧矢大夢だったからだと思います。きりやんには相手役を安心させて持味を引き出す力があるように思いました。

羽桜しずくは、ソロの場面で時々不安定になっていましたが、自分に近い役であればなんとかこなせるようです。可憐でかわいいことは間違いない。ベテラン霧矢大夢とフレッシュな羽桜しずくのコンビはよかったです。

ジャッキーとジェラルドは龍真咲と明日海りおの役替わり。龍真咲はおきゃんでイケイケなジャッキーをよく演じていたし、明日海りおのジェラルドも甘やかされたおぼっちゃまぶりがよかったです。

桐生園加のジョン卿、ダンディなおじさまぶりも意外に様になってました。

星条海斗のパーチェスターも好きでした。ビルの長たらしい本名を達者な発音で紹介するところとか、ビルに英語の発音を指導するところなどはマギーの持ち味(特技?)が生きてました。

京三紗のマリア公爵夫人はビルやジョン卿とのやりとりの中で感情的なゆれ動きをしっかりと演じていて、花組公演とはまた違った感じでした。

間違いのない演目で、役者が違うと色が変わっておもしろい。今まで観た中でも案外上位にランクインする理由は、演技派霧矢大夢の自然な演技と確かな歌唱力、全体の一体感でしょうか。

ハードボイルド・エッグ

2008年03月08日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
95年月組大劇場公演(震災のため東京劇場のみ上演)
作・演出:正塚晴彦/主演:天海祐希、麻乃佳世、久世星佳、真琴つばさ他

 闇の仕事人、サイモン・エメットを主人公にしたハードボイルドを仕上げたいと長年苦戦している小説家志望のアレックス(天海祐希)。実際には執筆は少しも進まず、職もなく、かくとした将来設計もない。学生時代からのガールフレンドで出版社勤務のローズマリー(麻乃佳世)だけは彼の才能を信じて励まし続けてくれていたのに、最近はどうも様子がおかしい……。
 ヒーローに憧れつつもヒーローには程遠い日々を送る平凡な主人公。大恋愛でもなく、歴史ものでもコスチュームプレイでもなく、日常生活の中で起こりうる小さな事件と小さな幸せの再発見を描いた2時間のヒューマンドラマ。バウホールならいざ知らず、大劇場にかけるには冒険だったのではないでしょうか。動員力のある天海祐希が主演だったからこそ実現したのかもしれません。
 天海祐希は抜群のルックスと存在感で、研7で主演男役就任。この最短記録は未だに破られていません。本人も自然体で演技することにこだわっていたらしく、メイク、ヘアスタイル、演技、歌のどれをとっても研鑽を積んだ“男役”らしさはあまりない。そうしなくても男役として舞台中央に立てるのは天性のスター性ゆえでしょう。当時抜群の人気と動員力を誇ったということなので、新たな男役像を築き上げ、一つの可能性を示したと言えます。個人的には様式美の求められる「ベルサイユのばら」のアンドレや、「銀の狼」のミステリアスなレイを見て、男役としては物足りなさを感じるけれど、“男役”ではなく“男”を演じることが求められる正塚晴彦の作品にはうってつけの素材。もっとも“男”に見えたかどうかは別問題ですが(私には“天海祐希”にしか見えなかった)、芝居の核として確かに存在していました。
 自分で自分を叱咤激励したり、突然女性が突っかかってきたり、泣き出したりした時のリアクション、いけ好かない奴の言動にカチンときた時の表情とか、間の取り方や強弱の付け方などメリハリが効いていてさすが。もっともこれは天海祐希だけでなく月組出演者全員に言えることですね。
 7年も付き合っている男性からは将来の約束をしてもらえず、定収入があって実直な男性から大げさなプロポーズを受け、強烈に年齢を意識しはじめたキャリアウーマンのローズマリー(麻乃佳世)。めちゃめちゃ現実的な設定、揺れる女心をリアリティをもって演じられた麻乃佳世がいてこそ成立した作品。マシュー(汐風幸)に指輪を贈られたローズマリーが「これは、いただけないわ!」と言いつつも、指輪そのものは欲しそうにしてる顔とか(女性ですから!)、マシューの裏工作を全然見抜けず、アレックスに「彼は素晴らしい人よ」と弁護するところとか、よくできているし、よく演じています。
 トレンディドラマかホームドラマか、同じような問題に直面した恋人達はごまんといるだろうし、二人のやりとりや(劇場に響く)アレックスの心の声は、男性には耳が痛いだろうし、女心のわからなさ加減にいらついた経験は、女性ならきっとあるでしょう。
 アレックスがたまり場であるカフェバーの店主シドニー(真琴つばさ)にお酒を付き合わせるシーン。男同士の友情を確かめあったり、女の強さに閉口しつつも、生まれ変わっても絶対男がいいとわめく可愛らしさ。日本の酒場のいたるところで夜ごと繰り広げられているであろう男たちの酔態は、愛おしいものがあります。それを確かな演技力で演じているのは女性なのですから、たいしたものだと感心します。
 さて、アレックスにしか見えないという設定で架空の人物サイモン・エメット(成瀬こうき)が赤いロングコートを翻し、ソフト帽を目深にかぶって登場し、上から目線でアレックスに話しかけます。成瀬こうきは長身と低音を生かした、4年生とは思えない渋い存在感を示していました。
 街のゴロツキだけを始末する通り魔「クライム・バスター」。こちらもダークなロングコートとマフラーとソフト帽。顔を隠し、最後のシーンまで一言もしゃべらず、謎めいているけれど、序列と顔立ちと体型で誰が演じているのかわかってしまうけれど。
 その「クライム・バスター」の手がかりさえつかめず、上司に罵られてばかりの刑事、ローレンス(若央りさ)とフロイド(姿月あさと)。威勢はいいけれどどこか抜けている愛すべきでこぼこコンビぶりがおかしい。長身のフロイドの股下で銃を構えるローレンス。コーヒースタンドの主人が聞き捨てならないことを言った時、ローレンスが「ちょっとこっち来い」と大げさに顎でぐいと自分の近くを示すところとか、事件を見て見ぬふりをする時は二人ともくるっと背を向けて壁に手をつくところとか、わかりやすくていい。いつまで経っても通り魔を捕まえられず、二人はきっと上官の大目玉を食うんでしょうね。
 ホテルのドアマン、ジョージ(久世星佳)はシリアス部門担当。6年前の射撃事件で妻を亡くし、植物状態の娘を抱えています。暗い影と哀愁と包容力がとてもいい。身寄りのないウエイトレスのシンディ(風花舞)と、お互いに気付かないくらい少しずつ寄り添いあっている愛の姿が胸を打ちます。
 ローズマリーの同僚、パメラ(夏河ゆら)は、ローズマリーのためと言いながらアレックスに余計なことを言う。いるんです、こういう出しゃばり。ディスコ会場でのパーティでの“踊る妖怪”ぶりは笑います。(ここで言うのは辻褄が合っていないかもしれませんが、その素直な演技に、素の明るさとお人柄を感じます)
 ローズマリーにプロポーズする百科辞典のセールスマン、マシュー(汐風幸)。お金で人を雇うのは日本人離れした企みだけれど、それを除けばこういうおっちょこちょい、身近にいそうです。なかなかいい味を出していました。
 因みに汐風幸って、芸域が広かった。月、雪、専科時代をごちゃまぜにして言いますが、「ME AND MY GIRL」の弁護士パーチェスター、「ノバ・ボサ・ノバ」ルーア神父などコミカルな役もいいし、「凱旋門」のボリス、「花の業平」の藤原基経など渋い役もいい。加えて「長い春の果てに」のナタリーはいい女でした。
 本題に戻り、付きあいでお悔やみに行った少年が場違いな失言をして気まずい思いをしたり、大人同士の会話が退屈で小石を蹴ってる姿とか、正塚晴彦は本当によく見ています。いかにも宝塚らしい夢とロマンに満ちた作品とは言えないかもしれませんが、後味もよく、なかなか味わい深い作品です。

飛鳥夕映え

2008年01月16日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
「飛鳥夕映え-蘇我入鹿-」
脚本:柴田侑宏、演出:大野拓史。
主演:彩輝直、映美くらら、瀬奈じゅん(花組)、貴城けい(雪組)、大空祐飛他

録画しておいた番組の中から、冬休みに観た作品の一つ。お正月らしく日本もの。歴史に残るライバル、蘇我入鹿と中臣鎌足を軸にしたお話。名作なのでなんとなく知ってはいましたが、ちゃんと観たのは初めてです。

7世紀、宮廷では朝廷と豪族が覇権争いを繰り広げていました。当時、宮廷一の秀才と称えられたのが蘇我鞍作(そがのくらつくり)(入鹿(いるか))(彩輝直)と中臣鎌足(瀬奈じゅん)。蘇我氏と中臣鎌足(藤原家の始祖)のライバル関係については諸説あるようです。豪族であると同時に朝廷と親戚関係にあり、朝廷を操る蘇我氏は悪であり、それを豪族代表として中臣鎌足が倒したというのが教科書に書いてある定説。そうではなかったという説もあり、柴田侑宏の脚本はその新説を採用しており、蘇我鞍作を悲劇のヒーロー、中臣鎌足をダーティヒーローとして描いています。
山岸涼子の「日出処の天子」を読んで育った私には蘇我蝦夷はいい奴。その息子の鞍作が悪役というよりも、この脚本の方が好みですが、史実は”いい人””悪い人”で単純に片付けられるものではないでしょう。(調べたところによると、朝廷側に首謀者がいて、鎌足は利用されたという説もあるようです)

「飛鳥夕映え」の鞍作は、申し分のないエリートで、新しい国の基礎を作ろうという高い理想の持ち主。一方、家柄の後押しがない鎌足は心密かに彼を妬ましく思っていました。
本人はまったく意識していないのに、蘇我鞍作の存在自体が中臣鎌足を苦しめます。鎌足が一目ぼれした瑪瑙(映美くらら)という女性が実は鞍作の幼なじみで、2人は祭りの日に再会後たちまち恋に落ちます。
美しい恋人、瑪瑙に将来設計を語りながら、皇極帝(夏河ゆら)との関係も続けている鞍作。鎌足はこの隙に付け込み、女帝に瑪瑙のことを告げ口して嫉妬心をあおります。鞍作の身辺に密偵を潜ませると同時に、大王になれなかった山背大兄皇子の無念な思いを利用し、鞍作を陥れ、蘇我一族を破滅に追いやります。

主演の彩輝直はこれが主演男役就任後、大劇場お披露目公演だったんですね。人気が高かったのは知っていましたが、フェアリータイプというより、わたしにはずっと普通の女の子にしか見えませんでした。もちろんそこが人気の秘密だったのでしょうが、宝塚の主演男役としては物足りなさを感じていましたが、今回は少なくとも男性に見えました。
脚本の意図がどうだったのか、本人がどんな役作りをしたかったのかはわかりませんが、生まれがよくて人がよく、優秀で凡庸。自分の周囲に忍び寄る影を感じないではなかったけれど、見抜けなかった、防げなかった。そんなお人好しに映りました。
政治と色恋は別?いや、妻と愛人は別という大人の男ならではの色気は、彩輝直の演じた鞍作からは残念ながら感じられなかったです。ひたすらさわやかに謀殺されていきました。

一方、中臣鎌足(瀬奈じゅん)は二番手の役としてかなりおいしい。燃えさかる野心と慇懃な態度。考えていることと言っていることがまるで違う。一体本心はどこにあるのか、役者の軸がしっかりしていないとぶれてしまう。史実はともかく、嫉妬の炎が生んだ腹黒い野心に突き動かされる役は、役者冥利につきるでしょう。
はたしてどちらが主役なのか? 人物像および持っているポテンシャルの違いから、鎌足の方が魅力的に映りました。
というか、はっきり言って瀬奈じゅんにやられました。コミカルな役、エロい役、不気味な悪役、なんでもできるんですね。あ、女性役もありました! 脱帽です。

貴城けい、大空祐飛も中臣鎌足を役替わりで演じています。スカイ・ステージの「悪役」特集を見ても、甲乙つけがたい熱演ぶり。

大空祐飛は、小足媛(美々杏里)と逢瀬を重ねる石川麻呂の役がよかったです。年上の女性に尽くすキャラが、ファンの母性本能を刺激するんでしょうね。

映美くららは退団公演だったんですね。子供っぽいイメージがあったのですが(それは嫌いではありません)、大人の女を演じていました。

演出の問題ですが、月組の日本ものは衣装、踊りなど “なんちゃって”が多い。あんなに堂々とロングブーツを履かせて歩かせなくても……。唐から帰った僧侶の塾で学問を学んでいた子供時代に黄色い歓声をあげて弾みながら銀橋を渡ったり、大人になって出かけた祭りの場で女性が男性を誘惑したりする場面など、日本ものとは思えないほど“軽い”。しかしその軽さが嘘のように、エンディングに向かって緊張感は高まって行きます。中臣鎌足が罠を仕掛けた儀式の日に向かって、息を飲んでも、針を落としても聞こえてしまいそうな程の緊張感が漂います。なかなか見応えがありました。

脚本は柴田侑宏、演出は大野拓史。
柴田宥宏で感心させられるのは、骨太の人間関係がしっかり描けていること。余計な説明をしなくても、少ない会話でどんどん物語を進行させます。余白を埋め、独自色を出すのが演出家の腕の見せ所。演出家次第でテイストががらりと変わります。役者のポテンシャルももちろん大きい。
柴田作品はただでさえ登場人物が多いのに、この作品の演出家が緻密に設定したがる大野拓史だったので、輪をかけて登場人物が多い。スタンスが柴田侑宏に近いというか、くせや遊びのないオーソドックスな手法の持ち主なので、手堅いが意外性には欠けたかもしれません。

オクラホマ!

2007年12月26日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
06年日生劇場月組公演
潤色・脚色:中村一徳/主演:轟悠、霧矢大夢、城咲あい他

去年、霧矢大夢を見たくて初日を観に行きました。先日、スカイ・ステージでの放送を観て、改めていろいろ思い出しました。

舞台はアメリカ中西部。登場人物の大半がカウボーイか農場関係者。のどかな時代の牧歌的な恋の話、自然の美しさを讃える歌や、明るい恋の歌が続き少々眠くなる……かと思いきや、レトリックを駆使した会話が織り込まれ、登場人物の形勢が一気に逆転してしまうことしばしば。あれ、なんでそうなるの?漫然と聞いていると狐につままれたよう。テレビで観て、あ、ここからつながっていたのね?とわかった箇所も。わたしが鈍かっただけかもしれませんが。

轟悠が演じるのは若いカウボーイ、カーリー。土臭いカウボーイとは、ぴったりです。もっとも宝塚ですから、かなりおしゃれに仕上げてましたけど。声が重低音で存在感がありすぎ、舞台を観た時は若造りに無理があるなぁと思ったのですが、テレビで見たらそれほどでもなかった。「KEAN」を観た後だからかもしれません。大御所、重鎮っぽい役が多いけれど、「再会」や「青い鳥をさがして」のようにコミカルタッチの軽妙な役もこなすので、シリアスな役より、カーリーみたいな役の方がいいかもしれません。

お相手、幼なじみでお互いに好きなのに会えば喧嘩ばかりしているローリーの役を城咲あい。彼女のように大人っぽくて、意志の強そうな方が、健気でかわいい~感じの娘役よりも轟悠の相手にはいいと思います。

ローリーの家の手伝いをする流れ者のカウボーイ、ジャッドを霧矢大夢。髪はぼさぼさで服も薄汚れた感じ。経歴ははっきり言って謎。粗野で孤独で、誰にも心を開かず陰気で不気味。それを、ぬいぐるみみたいにかわいい霧矢大夢が演じるから面白い。「ルキーニ」でさえあんなにかわいくなってしまった霧矢大夢でしたが、ジャッドの陰湿さがよく出ていました。(フィナーレのナンバーではその分発散していましたね)

エラーおばさんを越乃リュウ。意地を張り合うカーリーとローリーに呆れながらも温かく見守っている。
とにかくでかい。髪を結い上げているのでなおのこと。普段の男役の時より、メイクを多少変えているはずですが(変えてないのかな?)、やはり男らしい。慈善パーティで小競り合いが始まった時は、天井に向けてピストルをぶっ放して“けんかをするんじゃない!!”と一喝。普段の男役の時よりも男らしかったのではないでしょうか?その後、轟悠とダンスを踊りましたが、やはり大きい。

物語はランチボックスの慈善会開催の前後に急展開。
ローリーは、本当はカーリーに誘ってほしいと思っている。ジャッドがローリーお嬢さんをに連れていくと決め込んでいて、ローリーは怖くて断れない。
それを聞いたカーリーはライバルであるジャッドのむさ苦しい小屋を訪れる。ジャッドの勇敢さを讃えながら、弔いの歌を歌いあげる。究極の誉め殺し。感傷的になって一緒に歌ってしまうジャッド。あぁ、歌ったらあかん!

これまで各地を転々として、虐げられた仕返しに罪を犯し、つかまったら極刑かもしれないジャッドですが、ここまでいたぶられると同情します。

件の慈善会会場。これは女の子の作ったランチボックスを競りにかけ、一番高値をつけた男性が競り落とせて、相手の女の子とデートができるというもの。籠に名前は書いてないけれど、大概見当はつくもの。
ローリーのランチボックスをめぐって、カーリーとジャッドの一騎打ち。全財産、つまり2年間働いてコツコツと貯めたなけなしのお金を全部賭けたジャッド。対するカーリーも、鞍や馬まで売って抗戦。ジャッドに勝ち目はありません。捨て台詞を残して去るジャッドに一抹の不安を覚えるローリー。果たして……

個性的な登場人物が多い。
恋に恋して気が多いアド・アニー(夢咲ねね)。
アニーに首ったけのウィル・パーカー(青樹泉)。
アニーにちょっかいを出したばかりにとんでもない目にあう行商人アリ・ハキム(研ルイス)。
ライフルを振り回すアンドリュー・カーネス(一色瑠加)。普通に会話をしているのに、突然兎を撃ったりするし、娘を嫁にしろと言ってはライフルを構えるし。
鵞鳥より耳障りな笑い声のガーティ・カミンズ(美鳳あや)。

やるな~、月組。若手の奮闘に、月組の底力を見た気がしました。

大坂侍

2007年12月01日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
2007年月組バウホール公演。脚本・演出/石田昌也。主演/霧矢大夢(きりやひろむ)、夢咲ねね(ゆめさきねね)他。

原作は司馬遼太郎の「大坂侍」。原作は読んでいませんが、負け戦であっても義のためなら命を投げ出す、男も惚れるいい男を描いているのでしょうね。

舞台は幕末、大政奉還後の大坂。主人公の鳥居又七(霧矢大夢)は武士とは言っても貧乏な川方同心。今で言うと市役所の土木科の職員、らしい。実直で男らしい人柄で男からも女からも慕われている。材木問屋、大和屋の一人娘お勢ちゃん(夢咲ねね)とは幼なじみ。お勢ちゃんは昔から又七が大好きで、常に猛アタック。周囲も二人を応援している。大和屋の主人は大金をはたいて二人の恋の橋渡しを人に頼むほど。
しかし、病床の父親が亡くなり、又七には江戸に行って徳川幕府のために尽くして家名を上げろという遺言が残された。それこそ武士の生きざまと、又七は周囲の反対にも耳をかさず、負けるとわかっている戦に赴く。

江戸では「士農工商」でも、商人の町大坂では「商工農士」。商人は自分たちが世の中を動かしていると自負している。結婚相手、身分、喧嘩、人の命も金で買う、果ては値切ろうとする損得勘定に、又七は嫌気がさしている。大和屋の将来の婿殿としての商品価値を取りざたされては、腹の虫がおさまらないでしょう。そんな金銭感覚は多少デフォルメされているのでしょうが、関西人には「わかる、わかる」という感じなんでしょうね。
でも、又七への好意や義理から仇討を手助けした人たちに、又七が礼金を渡そうとすると、激怒したり傷ついたりして受け取ろうとしないところは、人間として一本筋が通っているというか、芝居のバックボーンがよくできている。落ちも決まっていて、収まるべきところに収まるのが、ある意味ハリウッド映画のよう。

大坂人パワー炸裂の痛快娯楽時代劇、がうたい文句。コテコテの演出で、関西のお客さんはここが受けるんだろうな~とわかっていても、ついていけない箇所があります。
又七の妹、衣絵(麻華りんか/あさはなりんか)の、素顔がわからない程ことさらブスに作ったおかめのような顔、恋仲の数馬(青樹泉/あおきいずみ)と二人でピンク色のスポットの中でねっとりと歌う「大坂チャチャチャ」。芸者の豆奴(花瀬みずか/はなせみずか)がクラブのママみたいに金のマイクで歌うところとか、お化け屋敷で(借金のかたに)働くお化け同士のラブシーンとか……第一幕は頭が痛くなりました。月組の役者たちが芸達者なので、どんな演技でもこなしちゃうんですよね。
でも、又七とお勢ちゃんのしっとりとした場面はとてもいい。お勢ちゃんへの気持ちを抑える又七、江戸に行くという又七を見送ることに決めたお勢ちゃんの姿に、ジ~ンときて目頭を熱くしている自分にびっくり!!

石田昌也がプログラムの挨拶文に「おもろうて、やがてかなしき……、どぎつうて、ときにはんなり……」と書いているそうですが、実にそのとおり。変な人ばかり出てきて、やりすぎ~、趣味悪~うと思うシーンを挟みながら、最後までぐいぐい引っ張って、ほんのりした気分にさせるところはなかなかでした。やはりある意味ハリウッド映画?

霧矢大夢は演技派で渋い役が多い。今回髭をつけてはいないけれど、一本気で恋に不器用な愛すべき男。周りの人が弾けているから、主人公はそれをうまく受けてさばいています。
好きとは一言も言わないで、表情だけで抑えた恋心を表現しています。お勢ちゃんを好きだからこそ、気持を告げずに別れて行こうとする又七。やはり渋い。キザな二枚目ではなく、人情派っぽい演技って、どうやったらできるのかわかりませんが、とにかくそれがうまい。(ME AND MY GIRLに出るとしたらジョン卿がド決まりです)
歌は当然のように上手い。演歌みたいな歌が多かったのですが、氷川きよしより数段迫力あります。
しかし、キリヤンはかわいいですね。かわいすぎです。

わがままいっぱいに育った、はねっ返りのお嬢さん、お勢ちゃんを演じる夢咲ねね。身投げするから着物の袂に石を入れろと命令し、嫌がる使用人を「あほぉ!!」と怒鳴りつけても、お地蔵さんを背中に背負ってガニ股で階段をのぼっても、何をやってもかわいらしくて好感が持てます。いつでもトップになれますよね。

又七の手下の政を演じる龍真咲は、誰からも可愛がられればそれだけで生活していけるという政の処世術を地でいくかのよう。

大和屋の主人源右衛門を演じる箙かおる(えびらかおる)、剣術の師匠(実はインチキ)渡辺を演じる未沙のえる(みさのえる)。芝居はうまいし、面白くて笑わせてくれるし、いるだけで醸し出される温かい雰囲気に癒されます。一人ずつでも申し分ないのに、二人まとめて出てくれるんだからありがたい。

やくざの親分黒門を演じる嘉月絵理(よしづきえり)は、もちろんいいのですが、専科のお二人の前では影が薄かったかもしれません。

豆奴を演じる花瀬みずか(はなせみずか)は色っぽい。月組にはいつもこういう姉さん役の役者がいますよね。

同心仲間の山崎を演じる良基天音(たかきあまね)は、日本物の場数を踏んでいるような、月組らしからぬ雰囲気を醸し出していました。

用心棒で又七の敵となる天野を演じる星条海人(せいじょうかいと)は、セリフ回しはまだまだですが、見栄えがするし、勢い、独特の魅力があります。日本物に出るとアメリカ人という設定なのかと疑ってしまいます。

コテコテの演出は苦手だと言いながら……料亭で天野が芸者をはべらせて豪遊しているときに、又七と山崎が土間でばあさん芸者にお酌をしてもらいながら安酒をあおっているところは笑える。お酌する手元が定まらないほどのヨボヨボのおばあちゃんの役をやっている子たちがかわいいです。

フィナ―レは、丁まげで着物を着ていながら黒燕尾のようなダンス。スキヤキ・ウエスタンですかね?

ME AND MY GIRL

2007年11月25日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
95年月組大劇場公演
脚色・演出:小原弘稔、三木章雄/主演:天海祐希、麻乃佳世、久世星加他

 「ME AND MY GIRL」はかかるたびにヒット間違いなしのミュージカルで再演希望も多く、来年月組での再演が決まったのでDVDを観てみました。あまりに有名で、お芝居の筋は説明する必要がないくらいでしょうが……。
 男性版「マイ・フェア・レディ」とはよく言ったもので、ロンドンの下町で生まれ育ったビルという青年が、実は名門ヘアフォード家の落し胤であり一人息子だとわかります。当主の遺言によれば、貴族としてふさわしければ爵位と全財産を相続できる、と。しかし弁護士がようやく探し当てたビル本人は無教養で粗野。一族の中には、スパルタで徹底的に教育しようとする者あり(亡き当主の妹、公爵夫人マリア)、絶対無理だからあきらめるべきだと言う者あり(ジョン卿)、財産目当てに今の婚約者を振って彼に乗り換えようとする女性あり(ジャッキー)と足並みは揃いません。
 マリアはビルを階級にふさわしい名家の令嬢と結婚させようとしますが、ビルには魚市場で働くサリーという恋人がいて、サリー以外の女性と結婚するなんて考えられないと言います。しかしビルの教育が進むにつて、サリーをはじめ、周囲の反応は少しずつ変化して……。
 プロローグや1幕最後のヘアフォード邸舞踏会での有名な「ランベス・ウォーク」、2幕最初の庭でのシーンなど、いかにもミュージカルという感じで楽しい。加えて、ほとんど全員が舞台に上がっているのではないかと思うほど人数をかけた壮観さは宝塚ならではです。「ランベス・ウォーク」では、最初呆れていた上流階級の人が次第に踊りの輪に加わって、どんどん厚みが増していきます。ランベスの街からなだれこんできた人たちがナイフやフォークを打楽器のように鳴らして歌って踊るところは最高潮。客席降りもあり、一体感が楽しめます。ビルとマリアがティアラと山高帽を交換して腕を組んで最後に退場し、かしこまった執事が扉を締めて幕を下ろすという演出が洒落ています。
 ビル(天海祐希)はロンドンの下町育ち。がさつで不作法で訛りがひどく、問題ばかり起こしているけれどなぜか憎めない。飛んだり跳ねたり寝転がったり、ミスター・ビーンのような奇行。天海祐希のビルは体当たりの演技で楽しませてくれるし、サリー(麻乃佳世)を思う気持ちにはリアリティがありました。
 これまで天海祐希は縁がなくて「べルサイユのばら」(91年涼風真世主演/ナンバー2としてアンドレを演じていました)以外、主演作品を観たのはこれが初めて。天海祐希は87年に研1で「ME AND MY GIRL」新人公演主演をつとめているのですから素質は誰もが認めるところでしょう。長身で顔の造りもはっきりしている。もって生まれた華やかさが確かにあります。在団中は、“男役”であることと格闘しなくても自然にできてしまったのでしょう。意識していない時は若い子の顔がのぞいてしまうのも、人気の秘密でしょう。
 サリーを演じる麻乃佳世。初めてヘアフォード家にやってきた時、テーブルに肘をついて人を指差しながら大声でしゃべるところは見事にヤンキーみたいでした。ビルの将来を思って身を引こうとする中盤には胸が痛くなります。そして最後のシーンでは、全然違う顔を見せてくれます。娘役とは全く違う、大声を出す歌のパートがたくさんあり、声がかすれていて少し気の毒でした。
 久世星佳の人間味あふれるジョン卿ははまり役。メイクも佇まいもいいし、ビルが登場した時の驚きの表情がいい。行儀を教えるなんて絶対無理だと思っていたのに、次第にビルと親しくなり、サリーを応援しようと思うようになる。ビルとジョン卿が酔っぱらうシーンは自然で、気心がしれた普段の人間関係がそのまま表れているようでした。
 お調子者の弁護士パーチェスターを演じる汐風幸もいいです。コメディセンス炸裂。(「NOV BOSA NOVA」のルーア神父様も余裕でできてしまう訳ですね)。赤いバラを持って阿波踊りみたいにバタバタと下手くそに踊るところがおかしくてたまりません。なぜか何回でも見たくなります。
 ベンのいとこ、ジャッキーを演じるのは真琴つばさ。女性役は初めて観ましたが、アリですね。いささか過剰な女らしさが、上流階級のスノッブな女性にぴったり。(汐風幸、大空祐飛もそうでしたが、男役が演じる女性って魅力があります)
 ベンのいとこでジャッキーのフィアンセ、ジェラルドは姿月あさと。まだあどけなくてかわいい。セリフを言った後の照れ笑いに“素”が見えます。ビルには本当に頬を叩かれていましたが、遠慮のなさは同期ならではといったところでしょうか。ジャッキーとの絡みで下ネタを受け持っているところが笑えます。

 その他にも、若手の中に壇れい、樹里咲穂など知っている顔を見つけるのが楽しい。
 来年の月組再演は楽しみです。安心して観ていられる実力派コンビ、瀬奈じゅん彩乃かなみがどんなビルとサリーを見せてくれるのか。ビルとサリー以外はどんなキャスティングになるか、今から妄想が広がります。

FAKE LOVE

2007年10月24日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
97年月組バウ公演。正塚晴彦作・演出。姿月あさとが宙組初代主演男役に抜擢される前、短い月組ナンバー2時代の主演作。

第一幕の最後、姿月あさと演じるアルバートがチンピラに暴行を受けた後、服は破れを流し、夜のに打たれながら自分に愛想をつかして絶叫しながら歌うシーンが好き。宝塚の男役というものに目が慣れていなかった頃は、刺激が強すぎました。あまりにキザで、現実にはありえない妖しい美しさに、見てはいけないものを見てしまったような気恥ずかしさを覚えて、正視できませんでした。今は穴のあくほど凝視してます。
この場面の力強い♪ロックが好きでときどき見るのですが、このシーンだけのつもりが結局また一本観てしまいました。

透明で深い湖のようなアルト。その歌声は聴くだけで心地よく、癒されます。シャウトだけでなく、階段に腰掛けて俯き、囁くように歌いだしたり、鼻歌を口ずさむように自然に歌いはじめ、ポケットに片手を入れてサイドステップを踏み出したり、魅力が堪能できます。

試合中の怪我が元で視力を落とし、リングを去った元プロボクサー、アルバート(姿月あさと)。目標を見失い、今はジゴロ稼業で優雅に暮らしています。画廊のオーナー、サラ(美原志帆)の用心棒を勤めるのが主な仕事で、二人は干渉しあわない大人の関係。画廊にマネの未発表の作品という触れ込みの作品が持ち込まれて、鑑定、公開を巡って周辺は忙しくなります。
アルバートはシモーネという金持ちの若い女性(壇れい)を袖にしたために怒りを買います。シモーネが金で雇ったチンピラに狙われ、痛め付けられ、ついに波止場で決着を付けるはめに。

画廊に絵を持ち込んだ人物がナチの生き残りとして当局が追っている人物、ギュンター(美郷真也)らしいということがわかる。額縁職人ライアン(未沙のえる)が絵の真贋とその人物を知っているために命を狙われる……一見無関係に見える伏線がある時、ある場所で一気に爆発します。

ロマンスは無きにしもあらず、といったところ。騒動の中で知り合った画学生でライアンの娘ナディーヌ(西條三恵)とは、なぜか初対面から気が合い、こだわりなく本音を言い合うようになる。プレイボーイが遊び好きな女や都合のいい女ではなく純真な少女に引かれるという、憧れちゃう設定。

ジゴロという設定の姿月あさと。イタリア製を彷彿とさせるスーツを何着も着替える。普段着には向かないクリーム色やオフホワイトが多い。薄化粧の印象の姿月あさとですが、この頃は赤い口紅ばっちり。10年前ですからね。多少は時代を感じます。

怒鳴るようなしゃべり方、わがままな女のお尻をたたいたり、兄貴と呼んで付きまとう少年の頭を小突いたり、結構力が入っているのがおかしい。(「砂漠の黒薔薇」でもハレムのダンサーに化けた密偵がしなだれかかってくるのを邪険に振り払うところが妙にかわいらしかったけど)

テキサスの田舎からでてきた少年、マイケル(大和悠河)。アルバートを慕って付きまとって小突かれて転がされたり、波止場まで勝手についてきちゃって、ドラム缶の陰でアルバートに頭を押さえ付けられるところとかがおかしい。無鉄砲で不器用で意地っ張りで、好きな子に心にもないことを言ってしまう。一本調子というか、共感を呼ぶ大人のペーソスはありませんが、サイドストーリーとしてはこんなものかな?

額縁職人ライアン(未沙のえる)は登場シーンのずっこけ方も、くだのまき方も最高。志村けんみたい。ギュンター(美郷真也)は髭面でサングラス、帽子を被ってほとんどお顔がわからない。
ライアンを処分しようと波止場に連れていくと、アルバートとチンピラの決闘と鉢合わせ。チンピラたちはギュンターたちをアルバートの助っ人と勘違いして(勘違いさせようとアルバートが仕向けたのですが)、銃を持ってるなんて卑怯だと興奮して襲いかかろうとする。ギュンターがなだめようとして「君達は惑乱されている」というのですが、若者は「”ワクラン”って何だぁ!?」「訳のわからんこと言うなぁ!」と余計に切れる。このシーンがおかしくて、これで正塚晴彦を好きになったと言っても過言ではありません。

猿の惑星みたいなゴッドファーザーもいい。車椅子で酸素マスクが必要で、何を言っているのかわからないから看護婦や子分が通訳するけど、それがメチャクチャ。笑えます。

振り付けはダンサーで振付家の上島雪夫。宝塚の振り付けもたくさん手がけているんですね。登場人物の設定に年寄りが多いこともあり、ビシッと美しく決めるダンスではなく、コミカルな動きがあっておかしい。姿月あさとと娘役達のダンスでは、登場人物のキャラをあてはめているので、壇れいが滑って転ぶ振り付けもあります。

「FAKE LOVE」の副題は「愛しすぎず 与えすぎず」。正塚晴彦らしいポリシーと思いますが、それはFAKE(偽物)ではありません。モチーフとなる謎の絵にかけたのでしょうが、サスペンスタッチの展開がある訳ではない。あまり意味はない感じ。ノリですね。


泣ける作品「THE LAST PARTY」

2007年06月26日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
アメリカの文豪スコット・フィッツジェラルドの生涯を描いた作品。人間のはかなさ、いとおしさに胸が切なくなる作品。


「THE LAST PARTY ~S.Fittzgerald's last day~フィッツジェラルド最後の一日」
(2004年月組バウホール/植田景子(作・演出)/大空祐飛、紫城るい、五峰亜季、嘉月絵理、月船さらら他)

1920年代、文壇に颯爽とデビューし、時代の寵児ともてはやされたスコット・フィッツジェラルド。しかしアメリカは大恐慌、大失業時代、世界大戦を経験し、華やかなりし時代の象徴であるフィッツジェラルドの作品は時代遅れと酷評される。

プリンスとシンデレラと持て囃されたスコットと妻ゼルダの夢のような生活も変わってしまった。本は売れず、批判とスランプに苦しみ、妻を顧みず酒に溺れるスコット。
夫の愛をえられず孤独のなかで精神のバランスを崩していく妻。
自責の念にさいなまれるスコット。妻の治療費捻出のために雑誌社に短編を売って食いつながざるを得ず、愛ゆえの選択がますます自尊心を傷つける。

舞台は最後の一日、心臓発作で倒れる二時間前、スコットが人生を振り返るところから始まる。
酒と放蕩で寿命を縮め、人生の終幕をむかえつつあるスコットを、はずむようにかわいらしい純真な少年役が地でできる大空祐飛が演じている。

華やかな生活の陰の苦悩、挫折、家族愛、心のやすらぎを求める姿。これは女性が成熟した男性に求める理想像の一つかも。こんなに陰のある男性が近くにいたら、その危うい魅力には抵抗できないでしょう。

紫城るいもよかった。美しく、華やかで無邪気ではかなげ。(総じて月組時代の方が光ってた。いい脚本がまわってきたからなのかな)

さて、舞台は最後の一日、スコットが人生を振り返るところから始まると言った。もっと正確にいうと、スコットを演じる、2004年に生きる役者たち(OZORAなどそれぞれ役名がある)の視点と台詞がはさまれる。
劇中劇とは言えなくもない。どうしてこんな複雑な手法をとったか。

想像ですが、生前正当な評価を得られなかったフィッツジェラルドの作品が没後に評価され、後世に読み継がれていることを作者がはっきりさせたかったのではないか。作者自身の思い入れが感じられる。
また、これもきわめて個人的な印象だが、とくにヘミングウェイが後年、彼の作品を高く評価したことをはっきりさせたかったのではないかと思う。

ヘミングウェイのキャラは月船さららがとてもよく演じていたと思う。ただ、作者の思い入れはさほど強くなさそうで、演出上はもう少し工夫がほしかった。
我々が知識として持っているヘミングウェイ像、そして設定からも、もう少し野性的、粗野でよかったのではないか。それでこそスコットのスマートさが際立つのだが。スーツが普通のビジネススーツ(カラースーツ系)で植田景子にしてはいけてない。

植田景子はセレブな設定が好きなんだと思う。虚構の世界でアーティストは創造の苦しみを味わい、人はなぜ傷つけあわなくては生きていけないのかと純粋な主人公は絶望する。
今回は実在の人物の人生がテーマになっていて、おそらく忠実に描こうとしたのだと思うが、展開に作り事でないリアリティがある。観客も自分の知識をもとに想像力を働かせる余地があるので普遍性がある。(これが「堕天使」だったり、設定までフィクションだと葛藤まで絵空事に終始し、わたしは残念ながらぴんとこないが)
宙組も公演していますが、観ていません。

元気がでる作品「アーネスト・イン・ラブ」

2007年06月13日 | DVD、スカイ・ステージ(月組)
出演者全員が、そして一分一秒が愛しくてたまらない作品。瀬奈じゅんと霧矢大夢の客席下りと、彩乃かなみと城咲あいの、恋する女同志の対決場面が特に好き。

「アーネスト・イン・ラブ」
(2005年月組梅田芸術劇場/オスカー・ワイルド原作/演出:木村信司/主演:瀬奈じゅん、彩乃かなみ、霧矢大夢、城咲あい、出雲綾他)

相思相愛なのに社交界のしきたりにとらわれて結婚を認めてもらえないジャック(偽名アーネスト/瀬奈じゅん)&グェンドレン(彩乃かなみ)。グェンドレンのいとこでアーネストの親友アルジャノン(霧矢大夢)&ジャックの後見するセシリィ(城咲あい)。二組のプロポーズ大作戦を描いたおしゃれなロマンティック・コメディ。

プロポーズの仕方がわからないアーネスト、プロポーズされる(はずな)のにふさわしい帽子がないと悩むグェンドレン。(どの帽子も、ドレスもかわいい。二組のカップルの衣装の色調があっていてるのも衣装部さんのセンスがいい!)
アーネストとアルジャノンの男同士の会話。
グェンドレンが男役顔負けの低音でジャックに求婚を迫るシーン。
ジャックが娘婿にふさわしいかどうか見極めようとするレディ・ブラックネル(出雲綾)とジャックの会話。そしてあの歌!大真面目に歌いあげるレディ・ブラックネル、大真面目にへこむアーネストには笑えます。
第2幕で登場するセシリーの、少女らしいけど、飛びすぎていて妄想入って暴走してるところ。
初対面のグェンドレンとセシリーが最初は仲良くお話していたのに、お互いをライバルと知るや手のひらをかえしたように露骨なバトルを繰り広げるところ。・・・・・・おかしくておかしくてたまりません。女の子同士であそこまで見せ場がある作品、なかなかないのではないでしょうか?

原作がいい。
オスカー・ワイルドらしく、風刺のきいた台詞も楽しい。「アーネスト」という架空の人物を作り上げたがために生まれた混乱を最後の最後までうまくひっぱります。
泣かせるより笑わせる方が難しい、コメディは「間」が命、テンポよく運ぶためにはすべての台詞が頭にはいってないとダメ、らしいです。大変ですね。

瀬奈じゅん、彩乃かなみのトップお披露目公演。最初からあそこまで組に溶け込んでいるのは奇跡。千秋楽での瀬奈じゅんのご挨拶にはじんと目頭が熱くなります。
きりやん曰く、その前の作品が「エリザベート」だったので作品も重く、プレッシャーも重く、だからこのアーネストが楽しくて仕方なかったそうです。それがよく出ています。

ちなみに花組でも上演しています。
樹里咲穂、遠野あすか、桜一花、と達者な役者がそろい、出雲綾は続演です。月組と比較するとノリがいまいちだというのが個人的感想。コメディセンスと組の一体感では月組に軍配があがります。