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未来組

宝塚の舞台、DVD、SKYSTAGEを観た感想と、最近はカメラに凝ってます。

音月桂ディナーショーTHE K-ing.DOM

2009年11月16日 | 舞台感想(2007~2009年)
11月15日第一ホテル東京
構成・演出:齋藤吉正/出演:音月桂、愛加あゆ、雛月乙葉、煌羽レオ、悠斗イリヤ

ディナーショーというものに初めて行ってきました。友達に声をかけたら、高いし交通費もかかるから断るだろうと思ったのに「もちろん行く!」と即レス。
何を着ていこうか、靴を新調しようかなどあれこれ情報交換して、行く前から盛り上がりました。

初めてだったので、席が決まっているかどうかもわからず、先着順かもしれないとかなり早めに行ったのですが、さすがに席は決まっていました。13人掛けの円卓が30以上、会場をびっしり埋め尽くしていました。

テーブルには本日のプログラムが。表はポスターと同じビジュアル。中を開いて左がショーの楽曲、右がディナーのメニューと日付、出演者、スタッフ名など。
われわれのように早めに席に着く人も多く、食事は前倒しで始まりました。
飲み物のオーダーをしてからフランス料理のフルコース。前菜、スープ、お魚のメインディッシュにデザート、コーヒー。どれもおいしかったです。
食事時間は一時間で休憩が15分あります。一時間でフルコースって少し慌ただしいですね。

ショーは音月桂のアイドル性がひきたつ構成になっていました。宝塚の男役路線を追求したワイルドかつイケ面風のコーナーもあり、「グレート・ギャツビー」の「朝日が昇る前に」など孤独な一匹狼風な曲もあり、可能性を感じさせてくれました。こんな役どころを大劇場でみたいものです。

AQUA5のコンサートで着ていた黒い衣裳で登場して、AQUA5の持ち歌も披露していましたし、「5」つながりだそうですがフィンガー5やジャクソン5のメドレーがありました。客層を考慮した上でしょうが耳馴染みのいい曲が多く、コミカルで元気溌剌、ピュアなイメージが音月桂にぴったりでした。マイケル・ジャクソンのスリラーは随分可愛かったです。

初舞台の「シトラスの風」から「明日へのエナジー」、QUEENの「I WAS BORN TO LOVE YOU」など好きな曲が多かったのも嬉しい。
いかにも男役っぽくコブシを効かせたり、テンポよくポップスを歌ったり、演技風にしっとり歌ったり、一本調子にならずにさまざまな面を見せてくれました。個人的には切々と歌い上げる楽曲をもう少し入れてほしかったです。
MCやひょうきんなリアクションも達者で安心してみていられます。

ディナーショーは客席に下りて来て目の前で歌ってくれるのが醍醐味。ライトに照らされて汗が光ってます!わたしの隣が常連さんで、椅子の背に手をかけて乗り出してくれたので、至近距離にキムちゃんの顔が!ドキッとした瞬間でした。

客席に退団した白羽ゆりが来ていました。アドリブで日生劇場「シェルブールの雨傘」の宣伝があり、立ち上がってお辞儀をしていました。近寄って写真を撮る勇気はなかったのですが、人形のようにきれいでスタイルいい!

客層は昔からの宝塚ファンであるご年配の方から若いファン、音月桂と期の近い退団者もしくは音楽学校以前の同級生、出演している下級生の友達、スポンサーやそのお客さまらしきおじさま達までさまざま。アドリブでも「お支払いは~」ってスポンサー名を出してましたしね。

同じテーブルの方の会話に耳を傾けると、次の日も来ると言ってるし、ロビーでも「また明日ね」という声があちこちから。すごい力の入れよう。それだけ夢中にさせる力があるということですよね。わたしの友達も「明日も来たい~」と言ってました、チケットはありませんが!

花組「外伝ベルサイユのばら アンドレ編」「EXCITER」

2009年11月11日 | 舞台感想(2007~2009年)
花組東京宝塚公演 10月29日18時30~
「外伝ベルサイユのバラ アンドレ編」
原作、外伝原案:池田理代子/脚本・演出:植田神爾

ジェローデル、アラン、ベルナールと続いた外伝の最終話。昨年の宙組の中日公演の大劇場版。アンドレ(真飛聖)のプロヴァンス時代の幼なじみマリーズ(桜乃彩音)がアンドレを探しにパリにやって来るという設定。
5列目のセンターで観ることができたおかげで、銀橋がとても近く感じました。きらびやかな軍服を身にまとった真飛聖はフィギュアのように美しくりりしかった。容姿端麗とはまさにこのこと。単にルックスだけでなく演技の幅が広いし、ハートがある。

衛兵隊長アランを壮一帆。二番手が演じるには比重の軽い役どころで残念。登場時間も短かった。

オスカルは、衛兵隊員の信頼を勝ち得ていますが、その過程ややり取りは割愛されていて、とにかく一緒の出番がない。フェルゼンにひかれた舞踏会の話が出たり、今まで観た中では一番オスカルの女性的な面が描かれていました。愛音羽麗のオスカルは想像の範囲内。
未涼亜希はきりっと引き締まっていて目力があり、黒い騎士も市民もよかったです。

外伝ということもあり、筋運びに若干無理があり、特にマリーズ役はあまりいいところがありませんでした。マリーズとアンドレは最後の方までなかなか会えず(すれ違いを描きたいんでしょうが)、アンドレも当然オスカル一筋。本筋を書き換える訳にはいかないので、止むを得ないところでしょう。

バスティーユの場面は、主に市民が最前線で戦います。役者たちは自由と平等を求める市民になりきって真剣そのものだし、宝塚の財産を受け継いで行くという意味でも真剣です。その集中力と一途さには感動を覚えます。他人なのに親戚の子ががんばっているかのような錯覚を覚え、涙ぐんでしまいます。それが宝塚のいいところです。

さてプロヴァンスは片田舎なのでアンドレ、マリーズの子供時代の会話は訛っているのですが、それがなぜか九州弁。組の中で方言のオーディションがあって九州弁が採用されたらしいけれど、二人が訛っているのがわかった瞬間場内は大爆笑。台詞を発する度に爆笑されるので少し照れくさそうでした。

一緒に行った友達は、宝塚観劇2回目だけれど前回は2階席だったので今回がビギナーみたいなもの。眼がハートになってました。休憩時間にも「はぁ、よかったぁ」と酔い痴れ、3階で流されているCSの稽古場風景に「かっこいい」「(舞台メイクと)全然違う」と感動してました。

「EXCITER」作・演出 藤井大介

ショーも情熱的。場面転換も着替えも早く、おもちゃ箱のように次々に違う魅力が展開される。男役、女役ともに情熱的でセクシー。セクシーな女を演じるのは花組が一番だと思います。 

真飛聖は志村けんみたいなコミカルなシーンもあるけれど、舞台センターで爆発的なエネルギーを発散している。ため息ソングを考えた演出家はいい仕事してます。あんな風に誘惑できる肉食系男子は現実にはなかなかいないのでは?女性だとわかっていても錯覚してしまいます。

友達は、あまりのインパクトに、手拍子を取る手が止まり、握り締めているからまるで拝んでいるかのようでした。客席でなかったらキャ~と叫んでいたことでしょう。
背を伸ばしてマネキンみたいな男役のダンスではなく、本当の男性と言うか、ブレイクダンス風と言うのか、足をがばっと左右に開いて腰を落として背をまるめて力の抜けた感じで踊ったり、足を蹴りあげたりするのがたまりません。
しかし女性の体触りすぎです。それが組全体に伝染してる。なんだか男性が女性を触るよりドキっとします。

壮一帆は隙のないクールビューティぶりを発揮。そうかと思えば嘘みたいに明るい少年のような笑顔をふりまき、そのギャップに幻惑さるます。クールも、ワイルドも、キュートも、それぞれがとてもいいので、違うキャラが隠し味で顔をのぞかせるようになるといいなと思います。
歌もうまくなった。大きな場面を任されるようになった。フィナーレでトップの次に大きな羽根を背負って下りてくる姿を見たときには、個人的な知り合いでもないのに感極まってドッと涙があふれました。誰でもそうですが、努力して階段を一歩一歩上がっていく姿は共感を呼びます。マルチになんでもこなすというタイプではないけれど、はまった時に物凄い説得力があるので、今後も応援していかたいと思います。

ショーは若手もどんどん出てくるので楽しいし、見応えたっぷり。濃厚でエロティックでダイナミックで秀逸。中味の詰まった、お金を払う価値のあるショーでした。

ステージが近いと、ジェンヌさんが客席の知り合いなどに視線を投げているのがよくわかり、偶然でいいからわたしも見てくれないかしら?とワクワクします。友達は「何度も目があった」と喜んでました。思い込みってとても大切。

星組「再会」「ソウル・オブ・シバ!!」

2009年10月11日 | 舞台感想(2007~2009年)
星組全国ツアー 神奈川県民ホール 2009年10月10日18時~
「再会」(作・演出/石田昌也)

「ある女性と一夜をともにした後振るまでを本に書け、冷酷でなければビジネスの世界では勝ち残れない、つまりホテルを継ぐ資格はない」という変てこな課題を父親から与えられた御曹司ジェラール(柚希礼音)。しかも誘惑しろと言われた女性はガチガチのお堅い図書館司書サンドリーヌ(夢咲ねね)で…。

プレイボーイのジェラールですが、なぜかサンドリーヌが相手だと勝手が違い、胸が苦しい。どうやら騙している罪悪感だけではなく、恋心が芽生えた?でも課題をクリアできないと次期社長にもなれないし、仕送りもストップ。友人マーク(凰稀かなめ)やスティーブ(彩海早矢)に借金の返済ができない?

悪い人が出てこない、軽快なロマンティックコメディ。初演は轟悠主演。月影瞳、香寿たつき、汐風幸という重量級の役者が軽妙に演じ、人生のペーソスを感じさせた名作。今回の星組作品は役者も若く、ひたすら明るく楽しい。

オープニングはジェラールの悪夢でしょうか?ともあれ結婚式でウェディングドレス姿の花嫁が勢揃い。舞台となっているモナコの高級ホテルなど豪華な設定。ジェラールがくすぶっているニューヨークのバッティングセンターもわかりやすい。歌にダンスに、新生星組の若さが弾けます。

真っ白なタキシードで登場する柚希礼音。アイドル系の魅力炸裂。持味の素直さがにじみ出て、売れない小説家、はたまた女性と浮き名を流すプレイボーイに見えないところは玉に瑕。コメディは間が命。周囲とは息のあったところを見せていました。

夢咲ねねが演じたサンドリーヌは、月影瞳がはまり役でした。軽薄でご都合主義の世の中の女性を「ばっかみたい!」と切り捨てるところはリアリティがありました。実は訳ありという過去も。夢咲ねねは、リアリティという意味ではそれには及ばなかったけれど、コメディセンスは抜群なので、冴えない女性を力強く好演していました。ただ、あまりにも早くかわいく変身しすぎかも。徐々に洗練されていってほしかったです。

英真なおきはお父さん役もお母さん役も何でもこなします。今回はオープニングで大きなお腹を抱えてよろよろ登場してジェラールに認知を迫る花嫁まで演じていました。本当の役はジェラールのお父さん。息子に与えた変な課題には裏の意図があって…。最後には身長差をいかしてジェラールに飛び付いて抱っこされてたのが、柚希礼音を溺愛する組長の姿と重なって微笑ましかったです。

落ちがわかっていても笑ってしまう。幸せな気分なれる作品です。

「ソウル・オブ・シバ!!」(作・演出/藤井大介)

柚希礼音を中心に、踊って踊って踊りまくるショー作品。こちらも星組で何度も演じられた、間違いのない作品の再演。
柚希礼音はバレエ風に体全体を使った表現力に富んだ踊りから、男役独特の体のラインを崩さずにビシッときれいに見せる踊りまで、なんでもこなします。その上タップダンスでも軽快かつ力強い音を響かせていました。

高級クラブでマフィアとの小競り合いをダンスで表現するシーンでは(ANJU大好き!)、タキシードを着てはいても力業。星組らしい躍動感にあふれていました。

凰稀かなめは作品を通じてシバ神。抜群のプロポーションと美貌に加え、ヘアスタイルやメイクにこだわる凝り屋さんなので、ラインストーンが照明にキラキラ光ってため息の出るような美しさ。ただ、男役として群舞にあまり加われなかったのが残念でした。

夢咲ねねの美脚がまぶしい。デュエットダンスでは練習と信頼関係の賜物でしょう、柔らかく体を預ける姿が艶めかしく、見応えがありました。見ている方が目が回りそうな高速リフトも見事で、今後が楽しみです。

英真なおきは全編通じて女役。味のある色気を振りまいていました。

青年が挫折を味わいながらも成長していくという物語仕立てのショー。神話の世界、ラスベガスや高級クラブ、パーカッションをいかしたストリートダンスなどメリハリの効いた展開で楽しめました。

新生星組。安蘭けいと同時にベテラン、中堅が退団してしまったこと、二手に別れて全国ツアー組は若手が多いこともあり、生まれたてというか、私には新鮮な顔触れで、「再会」の言葉を借りれば「リセット」感があります。
今の星組は、宝塚に違いはないし、宝塚らしさは十分あるんだけれど、ある意味まだなにものにも染まっていない真っさらな魅力がある。それはとりもなおさず柚希礼音の魅力。まだそれほど癖がない。はじめて観る人には、若さ、わかりやすい、否定しがたい格好よさは大きな武器になるのでは?

柚希礼音の男役としての可能性ははかり知れない。
ルックス的にはトリオでアイドル路線もいけそうな気もするし、持味はやはり正統派男役か。星組らしいスケール感のあるコスチュームプレイをなんなくこなせることは「太王四神記」で証明済み。
これから時間はたっぷりあるので、さまざまな課題に挑戦してますます磨きをかけてほしいと思います。

雪組「ロシアン・ブルー」「リオ・デ・ブラボー」

2009年09月27日 | 舞台感想(2007~2009年)
東京宝塚劇場9月24日18時30分~

「ロシアン・ブルー」(作:大野拓史)の幕開きは劇中劇。数百年前、不思議な能力故に村を追われた一族を描いていて、物語の伏線にもなっている。
幕が上がった直後、舞台上の人物が動きだした途端に、端の方に何やら目立つ格好いい人がいるなと思ってオペラグラスで顔を確認したら水夏希でした。スポットライトが当たっていなくても「スター」は違いますね。
水夏希は持味が男らしいので、コスチュームも似合うけれど、スーツも似合う。骨太、正義感、マッチョな男らしさと、正反対のコミカルなダメ男ぶりの比重が作品によって異なるのでおもしろい。今回は御曹司で民主党下院議員のアルバート・ウィスラー。キラースマイルを武器に当選を果たしたけれど、志を忘れかけて悩んでいるという、やさ男寄りの設定。
ロシアを慰問し、お芝居上演の許可を得ようと、秘書に助言されたとはいえ、ご自慢のキラースマイルで中央芸術委員会の局員イリーナを悩殺しようとするし、歯が立たないとわかると惚れ薬に頼ります。しかしイリーナがスパイ容疑で捕らえられたと知るや危険を顧みず救出に迎うところは、マッチョな男の面も隠し持っていた訳です。コメディだからと力みすぎず、自然体なところがよかったと思います。

アルバートの家に代々仕える執事ヘンリーを彩吹真央。アルバートの同級生で今は政策秘書。有能で穏やかで出しゃばらず、主人に尽くすイケ面執事。彩吹真央にぴったりの役どころ。普段の友情を想像させるはまり具合でした。
ヘンリーは出しゃばらないはずなのに実は出番も見せ場も多かった。大野拓史の作品は日本人にあまり馴染みのない設定が多く、大芝居向きの派手な要素がないのですが、わたしが好きな点はタップダンスのシーンがあること。ありがたい!タップは楽しい!ヘンリーがロシア人グレゴリーに挑発されて始まったタップ対決。ソビエト対アメリカの代理戦争?最初は本人も嫌そうな顔で、周囲も期待していなかったのに、なんと、華麗なる足さばきでグレゴリーを踊り負かしてしまいます。
他にも大人数でタップを踏むシーンもあり、躍動感、爽快感がたまりません。

愛原実花は「鉄の女」の異名をとるイリーナ。娘役トップにも、水夏希の相手役にも慣れていない固さが、今回の役どころにあっていました。イリーナの実直な仕事ぶり、意図しない方向に物事が進んでいく戸惑い、惚れ薬を飲んでからの崩れぶりがよかった。

実在の人物で、政府お抱えの演出家、監督、俳優というマルチタレント、グレゴリーを音月桂。ロシア人とはいえ溌剌としていただろうけれど、陽気なアメリカ人とは区別しないといけないが、白人同士だから見た目の区別も難しい。タップ対決も、達者で自信たっぷりだけれど、ヘンリーに兜を脱ぐという設定だからあまりガンガン踊りすぎてもいけない。微妙な演じわけが必要だったかもしれません。

ヘンリーの妹でウィスラー家のメイド、政策秘書となった今もメイドであることにプライドをもっているロビンを大月さゆ。仕草も表情もかわいかったです。しかしメイド服のまま出張ですかぁ? かわいいから許す。

ソビエト政府、魔女の末裔、ロシア人芸術家、アメリカの使節団の中にも党の対立などたくさんのグループがあり、登場人物も多く、下級生まで役があります。
専科から汝鳥怜、雪組出身の五峰亜希、美穂圭子が出演。ベテランが出ていると古き良き時代を思い出すと言うと誤解を呼びますが、とにかく見ていて落ち着きます。

敵対する二人がすったもんだの末いつしか結ばれるのをスクリューボールコメディと呼ぶらしい。厳密な定義はともかく、ロマンティックコメディと言ってしまえばいいのにと思う。そのためにはもう少しロマンス色をプラスする必要はあるのでしょうが、馴染みのない枕詞だとそれだけで敬遠されそう。
魔法や惚れ薬というアイデアが悪い訳ではなく、一日以上恋が続いているのは二人の間に魔法ではないロマンスが生まれたのだという落ちがあるのですが、大野拓史には大人の男女のロマンスが書けるようになるように期待したいです。

ラテンショー「リオ・デ・ブラボー」(作:斎藤吉正)はシンプルな発散型のショー。黒塗りで鮮やかなブルーのアイメイク、極彩色の衣裳もまぶしい。場面転換も早く、沢山の組子に出番が用意されていて、スター達とスター予備軍の波状攻撃を堪能できます。
なじみのあるJ‐POPも取り入れられていて、ぱっと雰囲気が変わる。メリハリが効いた舞台がわたしは好きです。(DVDだと曲のいくつかは差し替えになってしまうでしょうし、そこは残念ですが)

水夏希のスター性全開。思わず引き込まれる華やかな笑顔、長い手足をいかした軽妙洒脱なダンス。赤と黒のコントラストの効いたスーツ姿にソフト帽、サングラスの格好いいこと、水さんがキラーコンテンツそのものでしょう。客席下りも一度ならずあるし、一列目センターのお客さま一人一人と握手してました。宝塚劇場では珍しい。羨ましい!
彩吹真央はショーでも見せ場が多い。歌もダンスも渋くて、スタイルがいいので軍服も似合います。
音月桂は全身ショッキングピンクのパイロット姿で登場するところからかわいい。ラテンショーらしい熱い歌も、ダンスも表情もウインクもいいけれど、パピヨンに扮したシーンの清涼感あふれる美声がステキでした。
愛原実花はまだまだこれからだと思います。銀橋で観客を乗せようと頑張っている姿は一途で元気いっぱいで好感がもてました。デュエットダンスでは、猫背になるときがあるので気を付けたらいいと思います。
大月さゆのセクシーな大人の女性姿は新鮮。
彩那音の女警官。鬘は何種類かあるようで私が行った時はブロンドのボブ。かわいかった。
早霧せいなは見栄えがするので目が引き付けられます。ヒップホップは一服の清涼剤。

今回、公式グッズとしてポンポンが売られていました。今までなかったのが不思議なくらい。振る曲は決まっていて、振れば楽しいと思いますが、ポンポンを振りながら拍手はできないので、その曲に手拍子がないのは少し淋しい気もしました。
休憩時間に買ったばかりのポンポンを袋から出す方や、絡まったテープを梳いている方がいて微笑ましい。全国ツアーでも使うから元は取れると話していらっしゃる方もいて、ますます微笑ましかったです。

逆転裁判2 蘇る真実、再び

2009年09月14日 | 舞台感想(2007~2009年)
宙組東京特別公演 赤坂ACTシアター
2009年9月13日 11時~
原作・監修・制作協力:株式会社カプコン、脚本:鈴木圭

ゲームソフトを題材とし、今年2~3月に上演された「逆転裁判」の続編。
主人公の弁護士フェニックス・ライトが故郷に戻ってきたという設定で舞台がNYからカリフォルニアに移っても、何故だかお馴染みの面々は左遷、人事異動、小遣い稼ぎなどの理由でカリフォルニアに集結しているから笑えます。
イントロでテレビドラマのように主要登場人物をスクリーンに映して紹介し、スクリーンがあがると舞台上に勢揃いしていて、一斉に歌いだす。その演出に一気に引き込まれます。しかしあの裁判長が踊ってるなんて!

熱血弁護士フェニックス・ライト(ニック)を蘭寿とむ。トウモロコシのような金髪と真っ青なスーツ姿で現われるだけで万雷の拍手。男役としての洗練度がどんどん濃縮されてきて、強烈なオーラに酔い痴れます。細マッチョぶりがリアルでいい。一つ一つのポーズも決まります。
正義漢という役どころに、亡きレオナへの思いが加わり、包容力が増しています。法廷に臨む前、ミラーボールが光を放射する客席にスポットライトに照らされて現われ、テーマ曲を歌い、観客を味方につけてから舞台にあがる演出は、前作でも見られたけれど心憎いばかりです。
真面目すぎたり、抜けている周囲のボケをニックが巧みに拾うところがおもしろく、もっとアドリブいれてくれないかなぁと期待してしまう。

前回レオナの妹役で出ていた純矢ちとせが全く別の役、ニックに事件を依頼するルーチェ役で登場。素朴で純真な娘役を好演。芝居中歌のパートが少なくて物足りなかったのですが、フィナーレで美声を響かせてくれました。

ニックの幼なじみで天才検事、マイルズ・エッジワースを悠未ひろ。前作ではまり役だった七帆ひかるのイメージと比較すると、持味が男っぽいというか土臭い。「貴様」と言っても絵になるナルシスト、もう少しGACKTっぽさがほしいところ。本人はいたって真面目に気障っているので、続編だということを踏まえたニックの「相変わらずだな」にも「キャラ変わったな」にも爆笑。ニックと言わず皆にもっとエッジワースをいじってほしかった。

おっちょこちょい捜査官ディックを春風弥里。トレンチコートをばさばさと翻して踊る姿は格好いい。
小遣い稼ぎのためなら何でもするカメラマン、ロッタを美風舞良。関西弁がキンキン響く。出身が関西なので達者なのは当然かもしれませんが、思い切ったオバチャンぶりがいい。引っ込むところを間違えても「間違えてしもたわ!」とロッタのキャラで押し切れるから得だ。
人情味あふれる裁判官を風莉じん。緩急つけて法廷シーンを進行します。
ルーチェの恋人ローランドを七海ひろき。2幕にはかなりの長台詞がありますが、なかなかの芝居心を発揮してくれました。
13歳で検事になったフランジスカを藤咲えり。ミニスカートで鞭をもって法廷に立つなど、こういうキャラがでてくるのはコラボならではです。

前作では私利私欲のために罪を犯した悪人がいました。今回も、罪を犯した人はいるのですがある意味情状酌量の余地があることと、法廷バトルも後半は人情話になっていました。
ここは単なる司法の場ではなく、正直にすべて曝け出した時に自分のとるべき道が見えてくるという自己修練の場なのかもしれません。そう思えば、被告と原告の立場を越えて真実を追求することにこだわったニックの行動も頷けます。

前作からの、もっと言えばゲームソフトからのファンがいて、舞台を暖かく見守っている感じがしました。
最後のご挨拶では「異議あり!」を観客に言わせてポーズさせるのがお決まりですが、今回はプラスする仕草や台詞を考えてくる当番がいて、毎回ポーズが違うようです。そんな小さな工夫も楽しい。劇場に入る前に小耳にはさんだ「振り向いてアレはヤバイよ~」「人に当たるし」という会話は、このことだったのかもしれません。

ゲームでは御剣怜侍(エッジワース)を主役にしたソフト「逆転検事」もあるので、評判次第では別の組で舞台化されたりして? 「食らえ!」ですね。

星組「太王四神記バージョン2」

2009年08月20日 | 舞台感想(2007~2009年)
東京宝塚劇場 2009年8月15日15時30分~

今春の花組公演「太王四神記」がバージョン2として早くも星組にて再演。
待ちに待った大型トップスターの誕生。(開演アナウンスを聞いただけで涙が。。)観たばかりの作品なのでパスする人がいるかもしれないのが残念ですが、若いトップスターのお披露目公演、新体制のスタートにこれほどふさわしい作品はないでしょう。
柚希礼音のポテンシャルははかりしれない。伝家の宝刀、掌中の珠?単に若い年令でトップになったというだけでなく、持っている魅力が若々しく溌剌としている。憧れの王子様と言うより、血統の正当性を感じさせ、苦難の道程がよく似合う。
これから勉強しなくてはいけないことはたくさんあるでしょうが、進化の可能性を含めて、理想的なトップ男役と言えるのではないでしょうか。

花組で真飛聖の演じたタムドクが成長した大人の青年なら、柚希礼音のタムドクは少年の面影を残した青年。国民の幸福を祈り、争いに終止符を打つべく、数奇な運命の果てに真の王として覚醒していく。主人公が成長していく姿が本人と重なります。若々しさの一方、キハとのラブシーンは熱烈でした。

さて、花組が「芝居」なら、星組は「ミュージカル」。わたしはテンポよく進むのが好きなので星組バージョンが案外好きです。
若さと団結力。柚希礼音を盛り上げようと一丸となっているのが伝わってきます。コスチュームプレイは星組の十八番。徹底的に稽古したであろうアクションも迷いなく、小気味いい。

タムドクと同じ日に生まれた従兄弟で幼なじみのヨン・ホゲを凰稀かなめ。柚希礼音を支えるナンバー2として抜擢され、雪組から移動。柚希礼音の一学年後輩で、音楽学校時代に仲がよかったそうで、道理で息が合っていました。同じ日に生まれた従兄弟どうしという設定にも説得力があります。少年時代、槍をヌンチャクみたいに首のまわりで回すシーンで柚希礼音は二回も失敗したのですが、「ヘタクソ~」と楽しそうにつっこむところが、気心が知れている様子が伝わってきました。

プロポーション抜群、美目麗しく、フィギュアのようでもあり、歴女を痺れさせるRPGの戦国武将のようでもあります。
大劇場でこれだけ主要なパートをこなしたことがないのに、上辺の演技に止まらず、ホゲになりきっていました。タムドクがホゲを抱き抱える最期のシーンはもらい泣きしました。

初日直前の怪我で、当初は休演かと思われたのに奇跡的な回復を遂げることができたのは、初日の舞台に立ちたいという本人の執念があったからこそ。ナンバー2のポジションはもはや単なるお膳立てではなく、自らの努力と執念で掴み取った座だと思います。緊急事態に組の結束も強まったことでしょう。
さて花組の大空祐飛が演じたホゲは、悪に染まって落ちるところまで落ち、汚れきってしまった男の壮絶な悲哀が胸を打ちました。若い凰稀かなめにはそこまでは無理で、落ち方も一直線でした。

夢咲ねねのキハは、少女らしく、可愛らしい。花組の桜乃彩音はメイクと衣裳が意外に男前で、大陸的な奥行を出していましたが、夢咲ねねには、女、世界を炎で焼き尽くす怒りまで表現するのは難しかったようです。

プルキルという商人を装った、世界征服を目論むパチョン会の大長老。花組の壮一帆は完成度が高く、冷酷な悪に撤し、舞台の端に立っているだけで空気が凍りそうでした。涼紫央はそれに比べると愛敬がある感じ。部族長達も若いし、星組にはあっていました。実際には悪人とわからないほうが恐いものですよね。涼紫央もこれまでより比重の大きい主要人物の役をしっかりこなしていました。

蒼乃夕妃が演じた女近衛隊長カクダンは花組では望月理世が演じていました。娘役が演じるには大変な役ですが、常に剣を携えた立ち振る舞いもりりしく、前転まである立ち回りも切れよく、娘役とは思えないほど。センスと運動神経のよさが際立ちました。加えて健気。ニュースで新人公演ダイジェストを見ましたが、男役の美弥るりかより格好よかったです!

台本は神話の時代のエピソードをカットしたことで整理されていました。それでもエピソード盛り沢山で、息もつかせぬ展開ではありましたが。

フィナーレの玄武の舞は大きな見所。柚希礼音は華やかでダイナミックで、宝塚屈指のダンサーであることは間違いありません。 
星組の群舞は平均年齢が低いからかスポーティ。花組の時はボディに一発パンチをくらったくらいの衝撃がありましたが、星組バージョンはそれに比べるとさっぱりしてました。
スカイステージの「こだわりアラカルト、わたしがはまった瞬間(2)」で花組の玄武の舞のシーンが流れていて、録画して何度もみてしまったのですが、さすが上級生。経験を積まないと出ない迫力、重厚感! それぞれ味のある役者が演じてこそだと思います。「踊る」を越えて「演じ」てます。センターに立つ真飛聖の表情が演技の方向性を決めますが、ねっとりと気障で濃厚。みんな、背中に桜吹雪や竜を背負っていそうな、上品な柄の悪さというか、知的で退廃的で、やさぐれた愚連隊のような色気がたまりません。 
星組がそんな波状攻撃を仕掛けられるようになるにはもう少し時間が必要でしょうね。

月組再演「エリザベート」

2009年07月21日 | 舞台感想(2007~2009年)
月組東京宝塚公演7月16日。

初演以来7回目、月組で2回目となるエリザベート。史実と虚構をダイナミックに組み合わせたミステリアスな作品で、役者の組み合わせ、それぞれの解釈によって全体のイメージが大きく変わる。特にトートは毎回演出が異なり、それが観客を飽きさせない秘訣かもしれません。
今回のトートの演出は瀬奈じゅんの貴公子然とした美貌を強調すことを目的にしているのか、壁にもたれて佇む姿は彫刻のよう。髪の色もプラチナブロンド(赤いメッシュあり)、衣裳も黒ずくめではなく、ボルドー、カーキ、パープルなどヨーロッパ調でおしゃれ。
黄泉の帝王という設定であれ、舞台上に王子様を見たいファンは多いので、その意味では正しいのかもしれません。
瀬奈のトートには人の生死を操っているという冷酷さ、負の存在感、陰のイメージはあまりなく、ナチュラルな演技というよりも、普通の宝塚の作品でした。本作に特有の不気味さ、まがまがしさもなく、豪華でダークなトーンのベルバラ?

瀬奈じゅんは東京公演初日の囲み取材で、トートはエリザベートが産み出したもので、自分はエリザベートに寄り添っていたいと話していました。
なるほど、そういう解釈も成り立つ。ルキーニ、エリザベートを演じた瀬奈じゅんが言うから説得力があります。だからこうした演出なのかと納得はしました。

しかしそのためにはシシィが観客の共感を呼ばなくてはならない。数奇な運命、孤独の中でたくましく生き抜いた意志の強い女性になっていたか?凪七瑠海は残念なことにそこまで強く魅力的な女性を演じ切れていませんでした。
ソプラノは弱いながらもこなしましたが、地声が低いので台詞が裏声で弱い。晩年のシシィは地声でできていましたが。
絶世の美女である必要はありませんが、絶世の美女を感じさせなければいけない。大女優らしさと言うのか。スチールはよくても舞台で360度どこから見られても常に研ぎ澄まされた美しい女性であるのは難しい。
また改めて思ったのは「男役十年」と言われ、自分の中にない男性の感情を掴んで表現できるようになるには年数が必要ですが、女性の感情もそう。シシィの少女時代から晩年まで、姑との確執、夫婦のすれ違い、息子の死の苦しみなどは、そうそう簡単に演じられるものではありません。場数が足りず、大劇場で中央に立った経験がない若手では、仮に完璧に歌えたとしても無理な話です。
また男役なので表情がどうしてもきつい。凪七瑠海としては大抜擢に応えてよく頑張ったと思いますが、シシィとしては及第点に及ばないのではないでしょうか。

霧矢大夢演じるフランツ。シシィへの包み込むような愛情は感じられたし、意外に二人のデュエットが、声が解け合って聴いていて心地よかった。気のせいか凪七も歌いやすそうでした。
しかしシシィへの愛情と相反する皇帝の義務、母親ゾフィーの方針との間で板挟みになり苦悩するからこそ、フランツの切なさが伝わるのですが、後者の表現が弱かった気がします。

城咲あい演じるゾフィー。皇太后としての態度だけでなく、歌唱力も腹に響くくらい堂々としていないとぼやけてしまう。凄腕のキャリアウーマンには見えましたが、国を憂える大地のような母性は感じられませんでした。

ルドルフは役替わり公演のため、私が行った日は遼河はるひでした。ルドルフは必ずしも少年らしさを残した繊細な役作りでなくてもいいと思います。遼河はるひのルドルフは連邦樹立という強い信念をもっていていいと思いますが、「闇が広がる」や「死の舞」は身長差がある前提の振り付けなので、瀬奈じゅんより明らかに大柄な遼河はるひが膝を曲げて背をまるめているのが気になって仕方ありませんでした。

龍真咲のルキーニは渋谷か新宿あたりにうろついていそう。通り魔レベル。ハイテンションにはなっているけれど、トートの命令でシシィを殺害したと主張する狂信性、霊廟から死人を呼び出して証言させる粘着質の信念は感じられませんでした。
冒頭の煉獄の裁判所での台詞は自分の間合いで言ってるのでしょうが、迫力がなかった。歌は下手ではなかったです。
髪型が、龍真咲にしてはむさ苦しくしているのでしょうが、ルキーニにしてはさっぱりしすぎ。イタリアーノにも見えない。
実在のルキーニの真実はどうであれ、この作品ではオーストリア皇后殺害を計画的にやってのけた「イタリア人テロリスト」なので、それに相応しい重々しさがほしかったです。

要は、全体としてハプスブルク家の滅亡が描けてない。大河ドラマ感がない。筋を説明してはいるけれど掘り下げが足りない、光と影が描けていない気がしました。
栄枯盛衰、諸行無常。これが日本人のメンタリティに響くんですけどね。

最後に、シュバルツェンベルク公爵を演じた星条海斗、リヒテンシュタインを演じた憧花ゆりの、マダム・ヴォルフを演じた沢希理寿がとてもよかったです。

花組「ミー・アンド・マイガール」

2009年07月20日 | 舞台感想(2007~2009年)
梅田芸術劇場7月11日、7月12日

由緒正しいヘアフォード家のお世継であることがわかり、何も知らされぬまま屋敷に招かれたビル(真飛聖)。下町育ちでチンピラまがい、柄は悪いが愛すべき青年は、威勢よく飛び出してきて、終始舞台を縦横無尽に飛び回ります。
かしこまった貴族の中で一人だけ子供のように無邪気に振る舞う。自然な演技という範囲を越えて、歴代のビル以上にコミカルな仕草や変な声が目立ちます。「雨に唄えば」のリナを思い出しますが、コミカルな演技はお手のもの。「アデュー・マルセイユ」でも、闇の帝王だったにもかかわらず、恋人に頭の上がらないずっこけキャラぶりを織り交ぜていました。変な声は志村けん?
「ミー・アンド・マイガール」は月組で5回演じられ、初めて月組以外の組での再演となりました。歴代のビルが小物使いに到るまで実に達者で、前回の瀬奈じゅんはビルのイメージを壊さないように、模倣というと言葉が悪いですが、多少窮屈なところがありました。もっと自分のカラーを出せばいいのにと思いました。
今回の真飛聖は、自分なりに役柄を消化し、自分の色で表現していました。
CS放送の座談会で、真飛聖は、ビルとサリーは家が狭くても貧乏でも一緒にいられるだけでうれしくて常にハイテンションでふざけあっていたんだろうし、楽しいから帽子を回したり踊ったりしてるんだから、帽子を落とさないとかタップダンスの音を出すことよりも、むしろ楽しい気分を表現することの方が大事と言っていました。確かに、ビルほどのゆるキャラの所作を寸分違えずその通りに演じるって、矛盾を感じます。ゆるキャラだから適当でいいと言う意味ではなく、小技に神経質になりすぎる必要はなく、失敗してもそれはそれとして成立するキャラのはずです。
伝統的なビル像を求める人には多少不満かもしれませんが、型にはまらないビル像を創る勇気は評価に値するし、伝統を離れてみた時、サービス精神旺盛な今回のビル像は愛敬があっていいと思います。
ジェラルドがジャッキーをお仕置きしている間も、ジャッキーの色っぽい声がするたびにスケベな顔で覗いたり、最後に現われたサリーを目の前に「こんのヤロー!」と叫んでスーツケースをぶん投げるところも力強くて、ツボをよく押さえています。
真飛聖が開拓した笑いのツボもあり、今後のビル役がこれを拾わないと、物足りなく感じるかも。
もちろんコミカルな部分だけでなく、歌は男前だし、サリーへの愛情の深さもよく出ていました。じゃれあっている姿も可愛いですが、サリーを追放したのはマリア公爵夫人だと思い込んで一つも言うことをきかなくなる頑なさもよく出ていて、サリーへの愛情を感じました。真飛聖と桜乃彩音の普段の仲のよさも感じられて微笑ましい。

サリーを演じる桜乃彩音は歌唱力は格段の進歩を遂げていて、フルコーラスを難なく歌いこなしていました。
彩乃かなみは歌も演技も上手でしたが、娘役として完成されていたので、上品すぎました。
本来のサリーはビルと二人で辛いことを笑いとばして大らかに生きてきた子。「もう魚市場で働かなくていいんだね?」「昔からブティックを持ちたいと思ってたんだ」と言うサリーが可愛くて可愛くて、初めて涙が溢れました。桜乃彩音の母性を感じさせるたくましい雰囲気がサリーにあってました。
「顎で受けなさい」も、兄弟がたくさんいてこんな風に親から教えられてきたんだろうなというリアリティがあった。
ちなみに7月11日は桜乃彩音の誕生日だったらしく、舞台上でビルがサリーちゃんの誕生日を祝うアドリブがありました。

壮一帆はジョン卿(Aパターン)とジャッキー(Bパターン)という正反対の役。ジョン卿を演じるにはビシッとしすぎて隙がなく、退役軍人みたい。ビルと酒を酌み交わしたり、マリアを30年以上愛しているのに言いだせない可愛げのあるおじさまにはあまり見えなかった。
ジャッキーは個人的に好きな役で、わがままで傍迷惑なところも含めてかわいい女だと思う。男役が演じるのが正解で、今回も壮さんのジャッキーを見たくて行ったようなもの。
壮さんはきりっとして女社長みたい。過剰な色気の振りまき方が痛快。ソファでビルに迫るシーンは文字通りビルを押し倒してました。真飛聖との間の気兼ねのなさもあり、上級生ならではの迫力はさすが。ジェラルドのお仕置きに思わずもらすため息も想像以上に色っぽかったです。台詞のない場面でも常にジェラルド(朝夏まなと)と仲睦まじくて微笑ましい。
しかし壮さんのウェディングドレス姿が見られるとは思いませんでした。

愛音羽麗は、女役が続いたので違いを出したかったのでしょう、ジェラルド(Aパターン)とジョン卿(Bパターン)でした。初めての髭とのことですが、ソフトな低音と物腰で堂に入ったもの。茶系でまとめたメイクも上手で、包容力と愛敬のあるおじさまになっていました。
背がすらっと高い訳ではない彼女の場合、逆に少年、女性、中性的な役、妖精のような役とレパートリーが広い。きっとジャッキーも見事にこなしたことでしょう。

朝夏まなとはジャッキー(Aパターン)とジェラルド(Bパターン)。特にジャッキーは女性として見てまったく違和感なく、甘やかされて育ったはねっ返りのお嬢様を自然に演じていました。間違いなく成長株です。

未沙のえる演じるパーチェスター。お屋敷の弁護士の歌を歌いはじめる時は待ってました!と声をかけたいほど。バラを持って歌いだそうとしてマリア公爵夫人に「もうよろしい」と一蹴されて腰から下がっていくところは何度見てもおもしろい。

京三沙演じるマリア公爵夫人、小柄なのになかなか迫力がありました。「なんですか?クタ・バッター?」から始まり、パーティでのご挨拶をビルに教えるところも本当におかしい。

今後もこのハートウォーミングなミュージカルの再演が決まればビルとサリーに会いたくて劇場に足を運ぶでしょう。

花組「オグリ!」

2009年05月31日 | 舞台感想(2007~2009年)
花組東京特別公演 2009年5月27日
脚本・演出:木村信司/主演:壮一帆、野々すみ花他

中世の説教節、小栗判官物語を原作にしたミュージカル。
京の都に住む二条の大納言の息子、鞍馬の毘沙門天の申し子といわれる小栗は、美男子で豪傑で怖いものなし。演じる壮一帆は、日本ものがうまいことは言うまでもありませんが、見とれるほど眉目秀麗で、派手な着物も着こなしてしまう。さわやかな中に、剣道をやっていたからでしょう、立ち居振る舞いも凛々しく、舞台の中心に立つ姿は威風堂々として、伝説の人物が見事にはまっていました。

小栗が娶っては追い返した妻の数は72人。嫁に向かって背が高いだの低いだの、色が黒いだの白いだの、言いたい放題。観客は失笑しながら、次第に彼の人間味あふれるキャラクターに魅了されていきます。

馬頭観音の使いという設定の藤京子の語りもいい。抑えた中にも達者な語り口調はお伽話を聞いているよう。荒唐無稽な展開の中に観客をぐいぐいと引き込んでいきます。

小栗のイケメンぶりに惚れた大蛇(花野じゅりあ)が若い女性に化けて、彼をものにします。この蛇女の元に通っているという噂が流れるに及び、父親は激怒し、息子を陸奥の国へ追放します。

それでも彼の行いは改まりません。ある日訪ねてきた、唐の国にもわたるというやり手の商人、後藤左衛門(華形ひかる)から、美女の誉れ高い武蔵の国の照手姫(野々すみ花)の噂を聞き、二人で組んで世間知らずの姫をだまし、会う段取りをつけます。会う前から手紙のやり取りで互いに惹かれあっていた姫と小栗はたちまち恋に落ちます。

野々すみ花はお姫様初挑戦ですが、丸顔でかわいらしくて白羽ゆりのようでした。そして彼女の声は、台詞といい歌といい、どうしてあんなに心地よいのでしょう。鈴の鳴るような美声で、聴いているとアルファー波が出そうです。

さて、姫の親の許可も得ずに婿入りしてしまう小栗。照手姫の父親、横山(萬あきら)とその一族は小栗の勝手な振る舞いに怒り、小栗を人食い馬に食わせようとします。
最初から最後まで舞台の後方にある、天井まで届きそうなほど大きな馬の張りぼてがようやくストーリーの中に登場します。鎖につながれた獰猛な鬼鹿毛は、小栗の話に涙して悟りを開き、素直に背中に小栗を乗せて松の木に登ったり駆け下りたりします。
ここは、小さな人馬の人形が動いたり、絵がバタバタと変わったりするだけで、いくら舞台上で再現するのが難しいとはいえ、なかなかちゃちな演出で笑ってしまうのですが、語り部の魔法にかかった我々には(わたしだけでしょうか?)、小栗がさっそうと鬼鹿毛を乗りこなしている姿が見えた気がして拍手喝采。小栗を乗せた馬が舞台の前方にせりだしてきた時は、観客は大喜びでした。馬の背後は階段になっているので、壮さんが階段を登っただけなんですけどね。

壮一帆の説得力というのでしょうか、この頃になると、ただ着替えて登場してきりっと前方を見据えるだけで拍手喝采です。現実にはあり得ない強いヒーロー像に、観客はすっかり魅了されてしまったのかもしれません。

小栗殺害に失敗した一族は、次の手として宴席に小栗を招き、小栗と家来衆を毒殺します。もだえ苦しみ息絶える小栗を微動だにせず見ていた横山。小栗を土葬し、家来を火葬にします。

さらに実の娘である照手姫を川に沈めるよう家来に命令しますが、不憫に思った家来は姫に錘をつけるのをためらいます。姫は流された先で親切な人に助けられたり、意地悪をされたり、美貌ゆえに40回以上も売り飛ばされたり。美濃の国、よろず屋という宿で下女として16人分働かされるはめに。

この辺りで第一幕は終わり。休憩時間には隣の席で「ねえ、主役は死んじゃったの? 生き返るの?」「……さぁ?……」という会話が。筋を知らなかったら、そりゃ驚きますよね?実は私も、毒殺されかかり、ふた目と見られぬ姿になったと聞いていたので、小栗があの世へ続く階段を上って行った時には、本当に死んでしまう設定になっているとは知らなかったので驚きました。

さて、第2幕。冥土では閻魔大王(萬あきら)が小栗の豪胆さと家来の忠義に心打たれて地上に戻すことにします。家来が、自分たちよりご主人を生き返らせてくれと懇願し、閻魔大王が心動かされる様を気障って聞いている小栗がおかしい。火葬されずに体の残っていた小栗だけが生き返ることになります。

毒殺から3年後、墓を吹き飛ばしてこの世に戻ってきた小栗。しかし目も見えず、耳も聞こえず、自分では歩けない餓鬼の姿に。みすぼらしい着物で、顔を長い髪ですっぽり隠し、歩けずに地面の上で不自然にうごめいている小栗の姿は、怖いような可笑しいような。小栗を見つけて助けてくれたお上人(悠真倫)の足にまとわりつく様には大爆笑。

彼を荷車に乗せて熊野まで引いて行って温泉に入れれば、車を引いた人には大きなご利益があると書かれた札が小栗の首にかけてあり、「閻魔大王」というハンコが押してあるという漫画チックな設定は笑えます。お上人は人々に車を引くように呼びかけ、多くの人がその列に加わるようになります。

その車は運命のように照手姫のいる宿屋の前で人手不足で動かなくなります。照手姫は、車に乗せられているのが小栗だとは夢にも思いませんが、男を不憫に思い、宿屋の主人夫婦(日向燦/花野じゅりあ)に頼み込んで5日の暇をもらい、列に加わります。身分を悟られないように、髪や衣装を乱し、笹の葉をつかんで踊る物狂いを演じるのですが、野々すみ花の可憐さ、健気さには感涙しました。

ようやく熊野にたどり着き、湯の峰温泉で49日間の湯治を終えた小栗がシャキーン!!と蘇生した時には万雷の拍手です。一度死んだ息子が蘇ったとはとても信じられない父親(悠真倫)に、息子であることを証明するために、自分に向かって射られた矢を素手で受け止めるところなど、トリックだということはわかっていますが、歓声が上がっていました。

演出家が、紙芝居風のように子供でも分かるようにしたかったと言っています。確かに昔話風であり、わかりやすい即物的な演出もありますが、横山三郎(紫峰七海)、小栗の家来衆、熊野大権現(華形ひかる)の台詞など、肩の力の抜けた笑いのツボは大人向けで、存分に楽しませてもらいました。

真面目な?芝居ではなかなかありえない、個性の強い登場人物ばかりで、全員が楽しそうに生き生きと演じていました。花組は、役者も観客も本当に芝居が好きなんだなと思います。観客も役者を乗せるというか、芝居を盛り上げるのが上手い。
終演後はあちこちで「面白かったね!」「うん、面白かったね!」という会話が聞こえました。わたしも面白かったので、つい長文になってしまいました!!

雪組「風の錦絵」「ZORRO 仮面のメサイア」

2009年05月18日 | 舞台感想(2007~2009年)
東京宝塚劇場公演 5月16日 15:30~
「風の錦絵」作・演出:石田昌也/「ZORRO 仮面のメサイア」作・演出:谷正純

30分強の短い日本物のショーと、2時間弱のお芝居の2本立て。
日本物のショーには専科から松本悠里と轟悠が出演。
雪組育ちで星組の娘役トップをつとめ、水夏希の相手役として雪組に帰ってきた白羽ゆりの退団公演。女心を盗んだ伊達男をひったてる岡っ引きとして威勢よく銀橋に飛び出してきます。コミカルなシーンなのに、これまで彼女がどれほど頑張ってくれたかを思い出すと、泣けてきました。

白波五人衆の一人、凰稀かなめが星組への異動で抜けた後を早霧せいなが埋めていて新鮮でした。雪組にはぴったりのジェンヌさんです。
「風林火山」で上杉謙信役の轟悠と、武田信玄役の水夏希がダンスで戦うシーンは超カッコいい。二人ともイケ面で眼光鋭い。水夏希の髭もいい。轟悠のざんばら髪からは色気が滴る。銀橋に立って一人で劇場空間を埋める存在感はさすがです。

音月桂の源義経、白羽ゆりの静御前も若々しくて美しい。このキャスティングで作品を観てみたかったです。
ジャズアレンジのソーラン節はエネルギッシュ。小僧さんのラインダンスなど(緒月遠麻はかわいかったです)、奇をてらった演出もありましたが、風林火山と源義経・静御前のシーンは、お金を払う価値があります。

「ZORRO」はプロローグから大階段を使います。黒装束に身を包んだ仮面の剣士たちが居並び、激しいスパニッシュギターにあわせて勇ましく踊ります。リズミカルにマントが翻って裏地の赤の面積が広がっていくところなど、豪華で、期待感をあおります。

舞台は19世紀スペイン領のロス・アンヘルス(今のロサンジェルス)。民衆はスペインからやってきたオリバレス総督(早霧せいな)、腹心のメンドーサ大佐(彩吹真央)による圧政に苦しんでいました。無力なインディアンは搾取されてひたすら堪え忍ぶのみ。

大農園の御曹司ディエゴ(水夏希)は留学から帰国するや、両親が反逆罪の汚名を着せられて処刑されたことを知ります。普段は愚鈍を装いながら、救世主ゾロ、仮面のメサイアとして民衆を救うことを決意します。

幼なじみのロリータ(白羽ゆり)とは好意を抱き合っていますが、この秘密も自分の気持ちも打ち明けることができません。男勝りのロリータが為政者を前に向こう見ずな言動で危険な目にあうので気が気ではありません。

主人公が正義の味方という間違いのない台本。舞台芸術も具体的でわかりやすい(舞台転換のスペクタクルはないけれど)。軍服や輪っかのドレスが洪水のように登場する。(インディアンの女の子たちの衣装はむしろ今風で可愛かった)

水夏希はゾロの時は髭を付けています。いい!仮面をつけていても立ち姿からして男らしい。マントさばきは一級品。アドベンチャーロマンと言うだけあり、アクションシーンがあり、舞台狭しと駆け回り、時には客席も駆け抜けていきます。影武者もいて神出鬼没。生き生きとして、体育会系の魅力全開。
馬に乗っている映像が流れますが、それも格好いい。それとは反対に優男ディエゴの時は、フリルたっぷり、パステル調のごてごてした服を着て宮廷風の鬘をつけ、コミカルで笑わせます。

男勝りのお転婆なお嬢様ロリータは白羽ゆりのはまり役。キィ~と癇癪を起こすときもあります。輪っかのドレスの裾を持ち上げて舞台上を駆け回ったり、レディ・ゾロに扮したところをゾロと鉢合わせして決闘のシーンも。元気いっぱいで何をしてもかわいい。
メンドーサ(彩吹真央)は両親をインディアンに殺され、インディアンを目の敵にしています。政治には興味がなく、戦うことだけに命をかけている。クールな役作りで、スペインの軍服を着ているので、ルックスからすぐにわかる悪役ではないのが難しい。彩吹真央にしては見せ場が少ないと思いました。

音月桂はディエゴの使用人でインディアンのベルナルド。目の前で母親を殺され、死ぬ前に自分を隠してくれた母親に“何があっても声を出してはいけない”と言われ、その言い付けを守って喋るのをやめた青年。傷ついた魂がいとおしい。
しかし、あれだけの名シンガーに劇中で歌わせないとは思い切ったキャスティングです。芝居の最後に演技で泣かせ、フィナーレでは妻、夜の稲妻(愛原実花)とのダンスで泣かせ、パレードではエトワールとしてワカン・タンカ(大いなる魂)をフルコーララスで聴かせました。歌のパートが少なかったのは物足りなかったですが、とても余韻が残りました。

緒月遠麻が演じる、単細胞で、あまり勉強ができないガルシア軍曹が面白い。ぴったりの役どころと言ったら語弊があるかもしれませんが!
オリバレス総督を演じる早霧せいなも健闘。今後が楽しみです。

フィナーレは、これぞ宝塚! 知恵熱が出そうなほどの濃厚なワールド。
水夏希が赤いスーツに白いソフト帽姿で、銀橋でステップを踏んだり、寝そべったり。演出家は水さんの魅力をよくわかっています。男役が白いタキシードでずらっと並んだ時の清潔感も素敵。

白羽ゆりが男役さんたちとかわるがわるデュエットダンスを踊り継いでいくシーンは、いかにも退団を意識した演出ですが新鮮でした。そして最後は激しく情熱的に掻き鳴らされるスパニッシュギターをバックに水夏希とのデュエットダンス。大人の魅力満載でうっとりするほどの美しさ。
しかし、「Z」だからと言うのでもないのでしょうが、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」をスパニッシュギターでデュエットダンスに使うという異色の組み合わせに痺れました。

まるで老舗割烹で創作料理に舌鼓を打った後、フランス料理をフルコースで平らげたような満足感。ワインが進みます。お腹いっぱいなのにデザートは別腹! ごちそうさまでした。

星組「My Dear New Orleans」「ア ビヤント」

2009年04月04日 | 舞台感想(2007~2009年)
2009年4月1日 18:30~ 東京宝塚劇場 
「My Dear New Orleans」作・演出:植田景子
「ア ビヤント」作・演出:藤井大介

「My Dear New Orleans」の舞台はアメリカ南部のニューオーリンズ。人々が人種差別と貧困に苦しむ町。一人のアマチュアミュージシャンが音楽を生きる糧として辛い過去、悲恋の苦い思い出を乗り越えて成長していきます。そして、それぞれの厳しい現実や葛藤と向き合う登場人物の姿が描かれています。
レビュー「ア ビヤント」はパリの閉鎖されたレビュー小屋が舞台。ある夜、妖精たちの声を合図に一夜だけのレビューが開幕。おもちゃ箱をひっくり返したような明るさ、楽しさの中に、大人のほろ苦さが感じられるショー作品です。

宝塚が誇るミュージカルスター・コンビ、安蘭けいと遠野あすかの退団公演。両作品とも、安蘭けいの温かくて表現力に富んだ歌唱力を生かす作りになっています。

「My Dear New Orleans」の主人公ジョイ・ビー(安蘭けい)は悪役でも正義のヒーローでもなく、等身大とも言うべき一人の青年。日本男児のように、艱難辛苦を黙って穏やかに乗り越えていく人物像は、これまで色の濃い役の多かった安蘭けいには珍しい役どころ。それを過不足ない演技力で演じていました。
退団公演というと、ハードなスケジュールと重圧からか激痩せする人が多いなか、コンディションはよさそうで声もしっかり出ていました。星組は伝統的にコスチュームプレイが多い組ですが、今回はそうした大げさな衣裳を身につけていないので、決して大柄ではなく、娘役が違和感なくできる華奢な体形がよくわかります。これまで華やかなトップとして星組を、そして隋一の実力者として歌劇団をよく引っ張ってきてくれたと、変なところで感動して目頭が熱くなりました。

ジョイの生涯の女性となったルル(遠野あすか)は、貧しい生活から抜け出すために、町の実力者アンダーソンの愛人に。素行の悪い弟を救うために彼の庇護を必要としています。ジョイに惹かれていても、アンダーソンの圧力がジョイに及ぶことを考えると、自分の気持ちに正直に行動できません。
こうした薄倖の美女という設定はありがちでマンネリ感がありましたが、ありがちな設定だから演じやすいというものではなく、むしろルルの決断にリアリティを持たせるためにかなり工夫したことと思います。ジョイとの別れのシーン、それを階下で俯いて聞いている母親と弟の姿にほろりとしました。
それにしても遠野あすかの黒塗りは最高。幻のように美しかった「コパカバーナ」のコンチータを思い出しました。

ルルの弟レニー(柚希礼音)はごろつきで、トラブルメーカーで、姉に心配をかけてばかり。これもありがちな設定で、「ブエノスアイレスの風」ではそんなはねっかえりを諭す役を演じていた柚希には役不足でした。

立樹遥は最近老け役が続きましたが、ヒロインをめぐるライバル役とは珍しい。人懐っこい笑顔を封印したクールな役作りで、今までこうした役が少なかったのがもったいなかったと思いました。

グループ芝居が多く、ダンスもコーラスもたっぷり。力強く、体育会系で迷いがない。「スカーレット・ピンパーネル」のギロチンの場面を彷彿とさせます。集中力、団結力、完成度へのこだわりは半端じゃない。そこが星組のいいところで、グループごとに猛特訓しているんだろうなと思うと、その情熱に素直に感動します。 
退団公演は、実績のある大作を当てる場合以外は、センチメンタルな宛て書きが多い。男役として培った哀愁を最大限に活かし、別れを惜しむファンが心理的に同調しやすいようにしてあるのでしょうか。

安蘭けいの設定を歌手にするのが主眼であって、全体のテーマは二の次、社会性を意図した作品ではないとわかってはいますが、人種差別、貧困と言っても言葉で説明されるだけなので、葛藤がピンときません。
白人、黒人、クレオールの区別を肌色や鬘で工夫していましたが、当然ながらやはりわかりにくい。遠目にはなおさらです。仮に人種の“区別”がわかったとしても、社会的な“差別”に関しては日本人にとっては表層的な理解にとどまり、共感しにくいテーマだと思います。

ジョイがルルに捧げた“Sweet Black Bird”が全米で大ヒットし、ジョイをスターダムに押し上げた曲であるとするには曲自体に説得力がなかったことが残念(外部の作曲家を起用してほしかった)。また個人的には、曲調がシャズではなかったので物足りなく思いました。

オープニングで英真なおきがクレオールシンガーとして歌っていますが、驚くほどパンチの利いたジャズシンガーぶりを披露していました。

「ア ビヤント」は、レビュー小屋にかかるレビューをレビューで表現するという直球勝負。これぞ宝塚という明るさと豪華さに満ちていました。
テーマ曲は、安蘭けいが月組で初舞台を踏み、雪組で実力を培い、星組でトップ男役として花開いたというキャリアを踏まえた歌詞になっています。退団記者会見では芸能界進出を視野に入れていると発言したことを受け、再びファンの前に姿を現してくれる日までしばしの別れ、“ア ビヤント=じゃあね!”という言葉がリピートされます。泣けましたね。
自分のしてきたことに悔いはない、ファンの支えがあったからここまで来られたという、まるで安蘭けい本人の言葉をストレートに歌詞にしたような曲も。欲を言えば、もう少しリリカルに表現してほしかった気もしますが。

組子が舞台上に勢ぞろいして惜別の歌を歌う中、トップが銀橋を渡るシーン、大階段を一人で下から登っていくシーン(これをみると退団だなぁと思います)、トップから次期トップへの継承式、同時退団する組子たちをフィーチャーしたシーンなど、退団公演のお約束はしっかり押さえてあります。各場に前菜、スープ、メイン、デザートといったフランス料理のフルコースになぞらえた名前がついていて、次々に展開するのでめりはりがあります。
遠野あすかはお芝居のルルから一変。変幻自在で、カンカンのシーンなどはティンカーベルのようにかわいらしかった。
立樹遥が安蘭けいと遠野あすかを奪い合う大人っぽいシーンが好きでした。(どうもわたしは三角関係フェチのようです)
専科から出演の美穂圭子の歌が心に響きました。
柚希礼音は抜群のスター性で力強いオーラを発揮していて、長身という以上に大きく見えます。新しい旅立ちを温かく見守りたいです。

花組「太王四神記」

2009年03月15日 | 舞台感想(2007~2009年)
韓国ドラマ「太王四神記」より

東京宝塚劇場 2009年3月12日 18:30~
脚本・演出:小池修一郎/主演:真飛聖、桜乃彩音他

紀元前から七世紀まで朝鮮半島に実在した高句麗の国。神話の時代から部族間の争いが絶えなかった。古くからの言い伝えではチュシンの星が輝く時に生まれた子供が救世主になるという。同じ時に生まれたヤン王の子タムドク(真飛聖)と従兄弟のヨン・ホゲ(大空祐飛)。真の王はどちらか? 平和の象徴である四種の神器を探し出して、戦のない世を作ることはできるのか?

四種の神器の存在、神話の時代の黒朱雀のエピソード、朱雀の守り主であるキハ(桜乃彩音)とコムル村のスジニ(愛音羽麗)は二千年前の宿命を背負った生まれ変わりであり、二人は生き別れた姉妹であることが物語のバックボーンになっているので、テレビドラマの“前回までの粗筋”的なスピーディな説明が冒頭にはいります。最初からテンションが高く、展開が早すぎてついていけるかどうか不安になりましたが、子供時代のタムドクとホゲが剣の稽古をして遊ぶシーンになって、ようやく一息つきました。

政敵の目を欺くために軟弱で凡庸なふりをして育った王子タムドクを真飛聖。彫りの深い美形で、色鮮やかな重ね着も、重厚で装飾性の高い甲冑も凛々しく着こなしてしまう。深い囁き声。主役らしい包容力がある正義のヒーローが様になり、役作りに苦労しているように見えないところが演技派なのだと思います。(正統派二枚目というか、似たような役が続いているので違う演出も見てみたいものです)

前世では火を操る虎族の女王であり、今は朱雀の守り主であるキハを桜乃彩音。ファチョン会に拾われ、幻術で操られています。鈴が鳴るようなきれいな声が耳に残る。スチールを見るとわかるように男役顔負けの強烈な眼力。純真さと芯の強さ、大陸的な逞しさ、母性が同居していて、コスチュームプレイがよく似合います。(歌唱力がつき、高音やデュエットは問題ないのですが、時々なんでもないところで不安定になっていました)

タムドクの従兄弟で幼なじみのヨン・ホゲ役の大空祐飛ははまり役。ナンバー2ならではのおいしい役で、むしろ主役より見せ場が多いかも。立ち姿がとにかく麗しくて見栄えがする。切れ長の瞳から放たれる熱視線は半端じゃない。幼いころからエリートで、王となることを周囲から期待され、悪い取り巻きに毒を吹き込まれ、次第に王になることしか見えなくなり、憑かれたように悪事を重ねるようになります。好青年からダーティまで演技の幅が広い。“あなたこそがチュシンの王だ”という宣託を下してくれた巫女のキハに一目ぼれし、幻術で操られていただけで、その時の記憶がないことを知っても面影を慕い、キハがおなかに宿した子供の父親がタムドクだと知っていてもキハを手に入れたいと思う男心が切ない。

ファチョン会の大長老で実は二千年も生きているプルキルを壮一帆が熱演。神器を手にして天下を取ろうという徹底した悪。素の美貌が生きる冷酷な悪役。黒に赤と金というどぎつい衣装。ドラキュラ伯爵のような大げさで怪しげな手の動きとマントさばき。テレビだったらCGでその手から光線が出ているでしょう、間違いなく。CGはなくても、キハを操るサイキックなエネルギーが目に見えるようでした。老人のマスクをつけて出てくるときは、歩き方や声まで違うので、一見誰だかわからないと思います。(どういう時に老人になって、どうやって戻れるのかよくわかりませんでした)

コムル村で男のように育ったスジニを愛音羽麗。ぴったりの役柄ですが、最近は女役だったり、妖精のように男とも女ともつかない役が多かったので、次回は違う役を見てみたいです。
コムル村の村長で語り部役のヒョンゴを未涼亜希。冒頭から観客を一気に神話の時代に誘います。よく通る深い声で表現力に富み、語りも歌も達者でした。
全員くまなく観察できた訳ではありませんが、銀髪のゲゲゲの鬼太郎のようなサリャン(華形ひかる)のアクションの切れが小気味よかった。
太っ腹に鎧を装着すると亀の甲羅のようになる癒し系のフッケ将軍を悠真倫。ユーモラスで花組に欠かせない名脇役。
青龍の守り主チョロを真野すがた。台詞どおり、顔の鱗が取れたら2枚目で、目が離せなくなりました。

登場人物が多いけれど、グループ分けができているのでつかみやすい。ごてごてと飾り立てて胡散臭そうな貴族たちや、長髪で髭面の将軍たちは女性が演じていることを忘れそう。各部族やファチョン会士、村人、町民、近衛兵、騎馬隊、兵士、侍女、巫女、村人など下級生まで出番が多い。決闘シーンは殺陣の場合もダンスの場合もあります。決闘シーンがダンスというのがミュージカルらしくて嬉しいのですが、剣、槍、楯などの小道具を使っているので、演じている方は気が抜けないでしょう。

原作ありきではありますが、20時間のドラマを2時間強に収めるために緻密に構成しなおし、細部に至るまでロジカルに説明し尽くして畳み掛ける展開は圧倒的。構築的な構図と映像を駆使した舞台技術、群舞のフォーメーション、ミュージカル仕立ての台詞、分厚いコーラスなど、小池修一郎にかかれば朝飯前でしょう。明瞭に聞き取れるコーラス、アクションや群舞をきちっと揃えるところは花組らしくレベルが高い。

舞台転換がダイナミックで驚きの連続。転換の回数も多く、スケールも大きく、舞台は常に動いている印象で空中舞台と言いたいほどで特許ものです。舞台転換のために幕前の場つなぎエピソードで待たされるストレスもありません。時間のロスがないので、小さなエピソードまで描き切る余裕が生まれます。最後には主役の二人がクレーンにのって客席の上にせりだすサービスぶり。(にこやかに笑っていましたが、クレーンがかなり揺れていたので気が気でありませんでした)

衣装は、いくらコスチュームものとは言っても時代が高句麗では地味だろうと思っていたのですが、予想をはるかに上回る贅沢な物量作戦。布と色と模様、意匠の洪水。鬘に使われた毛髪や髭の量も大量。プログラムで見ると刺繍や髪飾り、翡翠などの石を使ったアクセサリーも実に美しい。

反面、隙が無さすぎて息苦しい気もします。これだけ濃いキャラがそろっているので、愛嬌のあるゆるい台詞で笑わせられればさらに印象に残る気がしますが、それは役者の慣れとアドリブにかかってくるのでしょうか。

宝塚の作品というよりも普通のミュージカルとして見応え十分。ドラマというお手本があるからではありますが、男役を演じるのではなく男を演じていたと思います。その意味で宝塚らしくないのですが、フィナーレナンバーや、最後に真飛聖が羽背を負って大階段を下りてくる姿で、やはり宝塚だったなと思います。

フィナーレナンバーは黒ずくめの玄武ダンサーズが格好いい。ギンギンに掻き鳴らされるエレキギターに合わせて、チンピラみたいに肩で風を切って眼を飛ばしたり、晒しを巻いた男の祭りか昔の一世風靡みたいな威勢のよいダンスが好きです。

大空祐飛は、月組時代はどうしても瀬奈じゅんや霧矢大夢と比較され、瀬奈じゅんを立てていた部分もあると思いますが、花組に来て自分のカラーを存分に発揮し、大きく成長しました。最初の公演から花組になくてはならない存在感を示し、真飛聖、壮一帆との相性も抜群で、子供のようにじゃれあう姿は微笑ましかったのですが、組替えは花組にとっては寂しい限りですが、宙組という新天地でさらにゴージャスな花を咲かせてほしいと思います。

「太王四神記」は早くも星組で再演決定。役者も違いますし、バージョン違いということで、ストーリーの山場、ダンスや歌のシーンの分量など見どころが新しくなることでしょう。

「逆転裁判 蘇る真実」

2009年03月01日 | 舞台感想(2007~2009年)
宙組東京特別公演 日本青年館 2月28日 11:00~
原作・監修・制作協力:株式会社カプコン
脚本・演出:鈴木 圭/主演:蘭寿とむ、美羽あさひ他

熱血弁護士フェニックス・ライト(蘭寿とむ)。ある日、ミラー州知事の顧問弁護士でかつての恋人レオナ・クライド(美羽あさひ)が上院議員殺害の容疑で逮捕されたことを報道で知り、弁護を買って出ます。でも当の本人が、自分が刺したと自供していて取りつく島もありません。昔のレオナを知っているニックはレオナを無実と信じ、裁判で彼女の無罪を勝ち取り、その心をおおう氷を溶かそうと決意します。しかし原告側の検事となったのは無敗を続ける天才検事マイルズ・エッジワース(七帆ひかる)で、ニック、レオナの幼なじみ。ニックは、レオナを救いたい一心で不利な戦いに挑みます。
一審での形勢は不利。しかし今回の事件の裏には、2年前に被害者の弟が殺害された事件との関係があるよう。決着済みの過去の事件を掘り起こし、真犯人を突き止めることができるのか……?!

本作は累計320万本を売り上げたカプコンの大人気ゲームソフトの舞台化。宝塚ファン、ゲームファン双方の大きな期待を背負った話題のコラボで、チケットは即日完売だったとか。“逆転裁判”の名の通り、主人公が法廷で奇跡的な逆転劇を起こし、胸のすく勝利をおさめることができるのか?
そんな筋書きもさることながら、すでに多数のファンがついているゲームソフトの、普段は小さな画面の中でギクシャクと動き回る漫画チックなキャラクターの実写版、しかも生の舞台であることがゲームファンには嬉しいはず。あの成歩堂龍一(=ニック)、御剣怜侍(=マイルズ)が歌って踊るのですから。ゲームはやったことがないのですが、舞台上には確かに個性的なキャラクターが息づいていて、空回ったり、キザったり、ずっこけたりする様はほほえましい。

蘭寿とむは「Paradise Prince」の時はキザでバイのアーティストでしたが今回は熱血刑事で正義感の塊。「NEVER SLEEP」でもしがない探偵でしたが、スーツもの、巨悪と戦う弱者の味方という役どころが絵になります。目の覚めるようなブルーのスーツで舞台上でスポットライトを浴びる姿は完成されていてフィギュアのよう。演技が始まり、ワイシャツとネクタイとズボンだけで、細身だけれど筋肉質(たぶん)、現実にいそうな白人男性を感じさせるのはさすがです。一度しか観ていないのでアドリブかどうかわかりませんが、台本通りだとしてもちょっとしたニュアンスで笑わせるところに余裕がありました。
天才検事マイルズ・エッジワースを七帆ひかる。普段のおっとりしたお顔からは想像もつかないほど舞台度胸がいい。低音で歌唱力確か。「雨に唄えば」のデクスターも偶然ではなかったと確信させる演技力。マイルズはとてもつかみやすいキャラクター(花形満か、お蝶夫人か?)。フリルたっぷりのボウタイを絞めて、ひとりだけ貴族みたいなファッション。エリートで真面目でポーズもしゃべり方も大げさすぎて、いじられているところがおかしい。
レオナ・クライド(美羽あさひ)はゲームにはない、宝塚オリジナルのキャラクターで、明るい少女時代が嘘のように心を閉ざし、人に言えない秘密を抱えています。ずっこけた登場人物ばかりの中で、まともな恋愛部門とシリアスな芝居部門を担当。蘭寿とむとの相性はばっちりでした。
おっちょこちょいで空回ってばかり、口が軽いNY市警の捜査官ディックを春風弥生
ニックの幼なじみでニックの法律事務所に出入りするお気楽なラリーを鳳翔大
ニックのアシスタントで、霊媒師の娘だとかで巫女風のミニスカートをはいているお騒がせ娘、マヤをすみれ乃麗
たまたま現場に居合わせたスクープカメラマンで、ド派手なファッションでなぜか関西弁、威勢のいいロッタを美風舞良。 
レオナの妹で、医者のモニカを純矢ちとせ。いつ必要になってもいいように、手術道具を赤と白の市松模様のケースに入れて持ち歩いている変わった子。
市民の信頼も厚く、大統領選への出馬も噂されているNY州知事ミラー・アーサーを寿つかさ
この事件を担当する、(現実にはあり得ないほど)人情派の裁判長を風莉じん

元がゲームソフトだという特性をいかして、客席からは小さすぎて見えない証拠写真や証拠品、弁護士や検事が描き出そうとする情景をスクリーンに映し出していました。ゲームなら吹き出しが出るニックのモノローグも多様。ただでさえ膨大な台詞の量なのに、ニックが肝心なところで台詞を間違えると辻褄があわなくなるので、稽古が大変だなと思いました。
第2幕、第二審に赴く前にニックが客席に下りてテーマ曲を歌うシーンは、ニックは観客との絆を確実なものにしたとも言え、心憎い演出です。
本格的なミステリーではないので、事件そのものはまあまあ。しかし、被告人本人が自分の罪を認めている裁判の中で、人情派でゆるいキャラの裁判長、自分の勝利よりも不正の有無にこだわった潔癖なエッジワースのおかげで、真実と正義を追い求めていく法廷バトルになっていました。

背が高い男役をそろえた宙組ならではのフィナーレは見栄えがしました。蘭寿とむがお客様に「異議あり!」をコールさせるご挨拶も楽しかったです。

月組「夢の浮橋」「アパショナード」

2009年02月04日 | 舞台感想(2007~2009年)
1月27日18:30 東京宝塚劇場
月組「夢の浮橋」脚本・演出:大野拓史

たまにはこんな雅びな宮廷絵巻もいいなと思いました。まるで雛人形が動きだしたような現実離れした空間。雛壇を使った奥行のあるセットは壮観です。オープニングで花道にずらっと並んだ組子達は本当に美し~い。東京でお正月公演だったのは偶然ですが、季節感もぴったりでした

稀代の貴公子、匂宮(においのみや)を演じる瀬奈じゅん は、匂いたつ色男ぶりが板についていました。馥郁たる香が客席まで漂ってきそう。日本物のなかに、持味である愛敬のあるせりふ回しが違和感なく溶け込んでいました。もっともっとプレイボーイとして描いてもよかったと思います。

薫を演じる霧矢大夢は歌唱力、演技力、硬質な存在感が際立っていて、舞台に登場すると締まります。誠実なお人柄で、浮舟に寄せる不器用な愛、切ない胸のうちが伝わってきました。

羽桜しずくは薫が憧れていた故人、大君(おおいきみ)と、瓜二つの面影ゆえ寵愛を受ける浮舟の二役を無理なくこなしていました。しかし、浮舟の掘り下げが足りない。役者の表現力不足なのか、演技指導不足なのかもしれませんが、あどけないのか受け身なのか、ちゃっかりしているのか、愛に溺れたのか、匂の宮と薫、どちらに対する感情もピリッとせず、演技の方向性が見えませんでした。入水するほど悩みぬき、幸か不幸か助けられてしまった女の悲劇を表現するには、役者としては幼かった気がします。
大野拓史の昔の作品「睡れる月」では、亡き姫君に藤の花を見せるという約束を果たせなかった主人公が、藤の花の季節に亡き人を忍ぶシーンが登場しました。俗世間を捨てた浮舟のはかなさ、愛おしさを、そうした演出で表現することもできたはずだと思います。

城咲あい演じる小宰相の君は、女一の宮の侍女ですが、実は宇治社の田楽一座の一員で、“舞姫”として登場します。貴族に交じった庶民代表で、「ねぇ~え、匂宮さま~?!」と一人だけ口調が現代調ではすっぱ。田楽一座は傀儡(くぐつ)と呼ばれ、人前で踊りなどの芸能を披露するという意味で“遊女”でもあった訳で、なかなかよかったと思います。宮中と宇治社に集う庶民をつなぐ接着剤ですが、彼女が演じる役としては物足りない気がしました。

傀儡—「かいらい」と書いて「くぐつ」と読ませ、個人的に関西に縁がないからか、教養がないからか、初めて聞く言葉で、よくわかりませんでした。操り人形が具体的な田楽の場面でも、象徴的に政権の意味でも登場します。祭りの場面では操り人形(に見立てた人間)の踊りのがあり、趣向を懲らしていましたが、いささか冗長でした。それよりも遼河はるひ演じる二宮の禁断の恋、姉である女一の宮(花瀬みずか)への匂い宮の思慕、桐生園加龍真咲といった若者たちの弾けるようなシーンなど、役者に焦点をあてた方が楽しかった気がします。

さて、全体として登場人物が多く、人間関係が複雑でわかりにくい。わたしは開演前にプログラムをざっと読み、月組の上級生のポジションがわかっているので、かろうじて関係がわかりましたが……。原作を読むか、しっかり予習するか、ト書きを海外ミュージカルのように字幕でも出さない限り、筋を把握するのは厳しい。(それも疲れるか…)
日本ものなので髪型や色にバリエーションを持たせられず、オペラグラス無しに遠くから見たら区別がつきません。あほらしいけれど台詞の中でお互いの名前を呼び合うか、行動や経緯を台詞をで説明するか、主要登場人物の衣装の色をグループ分けして誇張するなど、工夫が必要だと思いました。

そしてストーリーの運びがわかりにくいだけでなく、結論も弱くてわかりにくく、物足りない。原作に忠実(なのかどうか知りません)だというだけではだめで、宝塚流に潤色が必要だと思いました。(時間をおいてDVDかCS放送を見たら、また違う感想を持つかもしれませんが)

「アパショナード」作・演出:藤井大介

娘役トップのいないレビュー。中心は瀬奈じゅん一人。瀬奈じゅんの男役の色気満載で、ため息ものです。一つ一つのシーンはよくできていたと思います。

霧矢大夢をはじめ下級生が、良くも悪くもほとんどのシーンで瀬奈じゅんをサポートする役に回るため、下級生だけの見せ場がなく、見せ方がワンパターンに陥りがち。専科の3人もショーで好演していて、それ自体はよいことなのですが、結果的に下級生の登場回数がますます少なくなってしまったかもしれません。

ショーでは城咲あいが娘役の中心でした。プロポーションもいいし、踊りも切れがあり、表現力もあり、まったく問題はありません。ただ、多くの人が娘役トップに求めるものが包み込むような温かさ、癒しのオーラであるとしたら、ミスマッチかもしれません……(ごめんなさい)。

男役が女装して一人一人銀橋に飛び出してくる中詰めの始まりは、意表をついた演出で、意外性のある妖しい魅力が発揮されていました。明日海りおの女役にはもう驚きませんが、青樹泉はうわさ通りの美女。ブロンドのかつらをつけた星条海人はチアリーダーのようで、等身大のアメリカ女性でした。越乃リュウは濃いキャラを自覚していて、客席に投げるウインクには迫力ありました。霧矢大夢は女役というより女でした。

娘役トップの不在とはこれほど求心力がないものなのか。組子は涙ぐましいほど奮闘していました。動員力を誇る瀬奈じゅんも、さぞや重圧を感じたことでしょう。きっと瀬奈じゅんでないと乗り越えられなかったと思います。

雪組「忘れ雪」

2009年01月25日 | 舞台感想(2007~2009年)
2009年1月24日 15:00~
原作:新堂冬樹/脚本・演出:児玉明子/主演:音月桂、美羽美海他

春に降る最後の雪、忘れ雪に願いをかけると、その願いは必ず叶う-
少女の頃の深雪が公園で傷ついた捨て犬を拾い、困っているときに通りかかったのが獣医学部に通う学生、一希。自宅である動物病院に連れて行って怪我を治してくれました。その優しさに淡い恋心を抱いた深雪は、7年後、大人になったら同じ日の同じ時間、同じ場所で再会してほしい、その時は自分にプロポーズしてほしいと一希に頼みます。
7年の歳月が流れたころ、一希は引退した父親のあとを継いで動物病院を経営しています。利益度外視で困った動物を助けてばかり。ある日、一匹の犬が自分を目がけて走ってきて車に当たって怪我をします。その犬の飼い主は深雪。でも一希は深雪のことも犬のことも、7年前の約束のことも覚えてはおらず……。

舞台は1995年と2002年の世田谷、それも公園や病院の中。登場人物は動物病院の跡取り息子と美大生、主人公の弟や親友、病院の看護師など。宝塚作品の中では確かに身近な設定だけれど、手も握らないような純愛、公園でのデートシーン、親子の確執、傷つきやすい登場人物などはどこかノスタルジックで、一昔前のテレビドラマを見ているよう。ポスターのビジュアルも、降り出した雪に手を差し出す音月桂のポーズやマフラーの巻き方を見て“ヨン様?”と思ったのですが、韓国か台湾のテレビドラマのようにキャラクター、リアクションやセリフもわかりやすい。要登場人物たちの立場、誰が誰を好きかという人間関係が複雑に入り組んでいて、予想外の展開を見せるところもそうです。
重要な登場人物である犬はぬいぐるみでした。(動物好きにはぬいぐるみですらかわいくてしかたない)ぬいぐるみでできることは限界があるのでスクリーンに映るシルエットで表現したり、さまよう街の雑踏、心電図などがスクリーンに映るところなどはテレビドラマを見ているようでした。最近の手法ですね。
第一幕のほっこりした進め方に比べて、第二幕はいきなり事件が起こって全くトーンが変わり、新堂冬樹の原作ならではといったところでしょうか。(原作を読んでいないのですが、おそらく児玉明子は原作に忠実に再現していると思います)

“ヨン様”ならぬ“キム”様、音月桂にはこんなストレートな好青年、淡い初恋ものが似合います。深雪のことを覚えていなかったり、看護師の静香の猛烈なアタックに対して煮え切らない態度だったり、でも現実の男性はきっとそうでしょうね。どうしてそこで、その怪我で行くの?!ですが、登場人物が無茶な行動をとってくれないと物語になりませんからね。癖のない歌声と確かな歌唱力には毎度のことながら聴き惚れました。公園でのマーチングバンドとのラインダンスも楽しかったです。

深雪役の舞羽美海は研3。若々しさ、体当たりという感じは演技というより素だと思います。他の役の時はわかりませんが、この役にはぴったりだったと思います。美形だし、今後に期待です。

一希の親友で外科医、大物政治家の息子でプレイボーイという鳴海昌明を凰稀かなめ。キザな仕草、くさいセリフを難なく決めていました。どこまでが友情で、どこからが保身なのか、微妙な役どころでした。歌唱力は確実に上達していました。本当にサックスが吹けているとよかったんですけどね。
一希の弟の満を大湖せしる。母親の死を境にぐれてしまった不良少年。どう見てもかわいいので悪っぽく見せるように、力が入りすぎていたかもしれません。「…でもそんな兄貴、嫌いじゃないぜ」は“言うと思った!”
鳴海の父親である政治家の秘書、笹川宗光を緒月遠麻。ストライプのスーツ、横分けで縁なし眼鏡。クールなインテリを気取っていますが、只者ではない怪しい雰囲気が最初からムンムン漂っていました。登場シーンは少なかったですが、洗練されてきたと言ったら失礼でしょうが、とても印象に残る役作りでした。

看護師、静香を愛原実花。一希を好きなのはわかるけど、相手から見たら重たい女性。同性から見ると痛々しい・・・。愛原実花は芝居の上手い女優になったなと思いました。
同じく看護師でお調子者の信一を蓮城まこと。今回もお茶目な役どころでした。

一希、満の父親を未沙のえる。仕事一筋に生きてきたけれど妻を亡くした後、引退して隠遁生活を送っています。今回はコントは封印し、繊細な演技で勝負していました。

愛犬クロスは深雪と一希の出会いと再会のきっかけを作ってくれました。神様の導きとしか思えない偶然って本当にあるなと思うと、じんときました。物語の結末については、言わないでおきましょう。