オリエンタルカレーの作っているハヤシライスの素。オリエンタルといえばまず「即席カレー」が思い出されるが、あえてハヤシドビーから話を始めよう。年配の名古屋人であれば、「
ハヤシもあるでヨ」(直リンク……オリエンタルさんごめんなさい)のCMを憶えているかと思う。脱線トリオの(故)南利明の、まさにお手本のような名古屋弁が美しい。(私はてんぷくトリオはあまりよく憶えていない世代だが……)
嘆かわしいことに地元名古屋地区ですら、スーパーでオリエンタルの製品を見つけることは難しい。せいぜい「即席カレー」ぐらいである。ハヤシドビーはほとんどレアものといっていい。以前は近所の「エスワン」で買っていたが、エスワンがつぶれてしまってから近所で見つけられずにいた。高蔵寺アピタでも、東神明のバローでも、坂下のナフコでも、気噴のユーストアでも見かけない。途方に暮れていた(というほどではないが)ところ、高蔵寺農協で発見。高蔵寺農協は何かとマニアックな食材をおいているが、実にブラボーである。これからは高蔵寺農協だけが頼りである。
さてこのオリエンタルハヤシドビー。まずこの名前である。「ハヤシ」はいい。ハヤシライスだ。では「ドビー」って何だ? フランス語風に「ハヤシ de ビー」か? なら「ビー」は何だ? ……などと前からいぶかしく思っていたのだが、先日あっけなく解決した。これはハッシュド・ビーフ(hashed beef)がハヤシライスに転訛してゆく途中の段階の音写なのだ。まだ語尾の--ed とビーフの bee が残っている。ライスはまだついていない。そういうことか、参った参った。
カレーにしろハヤシにしろ、今はもっぱら固形ルーの時代だ。しかしオリエンタルは粉末状にこだわっている。固形ルーは作らない。その理由は次の通り
40年代後半以降、インスタント・カレーの主流が固形ルゥに変わっていくなかで、粉末カレーの同社は苦戦を強いられていく。
だが、それでも同社は固形ではなく粉末にこだわり続けた。
というのは、固形ルウはその形を保つために比較的融点の高い油脂を使うのだが、その高融点の油脂(硬化油)が健康上問題になった時期があった。
当初から添加物をできる限り少なくし、自然な食品作りを目ざしていたオリエンタルは、それをきっかけに固形ルウを作らない方針にしたのである。(公式HP より)
いい話ではないか。ハヤシドビーもしかり。ぼそぼそとした粉末である。肉・玉ねぎなど炒め、水を加えてて煮立たせ、そこへハヤシドビーを投入。でも注意! 少しトロミがつけてあるので、そのまま袋からドサッといれるとダマになってしまう。少し入れては混ぜて溶かし、また少し入れては溶かし、ゆっくりやらなくてはいけない。少量の水で溶いてから鍋に入れるのもよい。ポチョンと投げ入れればよい固形ルーに比べると、ここだけは手間がかかる。でも、これが家庭料理の愛情である。ハヤシドビーと一緒に愛情も溶かして煮込むのである。
味は和風で、昔懐かしい感じがする。洋食というより、和食の何かという感じ。トロみがあって、甘味があって、ほのかにピーナッツのような香ばしい香りがして、優しい味である。そう、平皿に盛ってスプーンで食べるというより、丼にもってレンゲでいただくのが似合う味。なお、私は茹でたきしめんにかけて食べるのが好きだ。名古屋名物に名古屋名物で、名古屋パワー全開の組み合わせである。細目のスパゲッティ(イタリア風にいえばspaghettiniやfedeliniぐらい)にも合う。お試しあれ。