サイレント・マーチ

2006-04-23 22:03:01 | ベルギーのニュース
今から10日ほど前の4月12日、ブリュッセルの中央駅で殺害された17歳の少年を追悼するためのサイレント・マーチがブリュッセルでありました。



この事件、起こったのがイースター休暇中&夕方の帰宅ラッシュでごった返す中央駅の入り口付近だったこと、そもそものきっかけがたかだか数十ユーロのmp3プレーヤーを盗むためだったこと、から多くのベルギー人がショックを受けて、事件の直後から「もっと安全な街」を求めて同級生が署名活動をしたりしています。

先週の木曜日に行われた彼のお葬式には、500人もの人が集まって教会の外にモニターが設置されたほど。今日のサイレント・マーチは、お葬式に参列できなかったたくさんの人が、亡くなった少年の冥福を祈り、残された家族を支え、同級生たちの署名活動を支援するために行われ、発表では8万人が参加したそうです。

これだけの人が集まって、「安全に移動できる自由」を求めなければいけないほど街の安全が脅かされている、というのはとても悲しいこと。殺害までいかなくても、言葉や暴力で脅かされて何かを盗まれる、あるいはただ単に暴力を振るわれる、ということはもうすっかり日常茶飯事になっていて、警察に届けても仕方ない、とみんな泣き寝入りしてしまうほど。警察が一生懸命仕事をしても、重大性の低い事件では起訴されないことも多く、犯罪と刑罰のバランスが全く取れていない、と感じるベルギー人は多いようです。

今回の事件では、犯人はいまだに逃亡中。監視カメラに捉えられた事件前と事件後の映像が繰り返し報道されていて、かなり鮮明な画像なので、親や知人なら絶対すぐにわかると思うのですが、誰かがどこかにかくまっているのか、これだけ時間が経っても捕まらないということは、ベルギーにはいないのかな、という気もします。亡くなった少年にとっても、そのご家族にとっても、まずは犯人が逮捕されることが、一番の供養になると思うのですが・・・。

サイレント・マーチは、午後3時ごろ、ブリュッセルのボタニク近くのBoulevard Pachecoを出発。私たちはちょうど3時ごろ北駅について、ボタニク前のBoulevard du Jardin Botaniqueを上ってBoulevard Pachecoに行きました。そこからは、中央銀行などがあるBoulevard Berlaimontを通って事件があった中央駅へ、そしてMont des Artsを上ってPlace Royaleに抜け、当初の予定ではここがサイレント・マーチの終点でしたが、結局、というかやはり、今回のマーチにとっても象徴的な裁判所前まで歩き、Place Poelaertでお開きになりました。



サイレント・マーチ、というだけあって、実に静か。家族連れや友達連れ、ボーイスカウトやガールスカウトのグループ同士で、それぞれおしゃべりをしながらゆっくり歩きました。音、といえば、亡くなった少年のご家族に敬意を示し、支援を示すための拍手の波が時々流れてくるくらい。事件のあった中央駅はマーチの間閉鎖されていたのですが、その前に亡くなった少年の写真が飾ってあって、音楽が好きだったという少年の知り合い(?)なのか、数人がギターを弾いていました。写真の周りはフェンスで囲ってあったので、マーチの参加者の多くはここで立ち止まって、フェンスの中の市の職員に色とりどりの花を託していました。

実を言うとこのマーチ、私たちは直前まで行こうかどうか迷っていました。こんな悲惨な事件に発展してしまう前から問題は認識されていたのだから、マーチに参加しても意味ないんじゃないか、と思ったのです。でも折りしも今年は選挙の年。こういう事件が極右にさらに有利に働くのではなく、強固な支持基盤の上にあぐらをかいて汚職だらけの既存政党も、たまには真摯に市民の声を汲み取って欲しい。どうせ何も変わらない、何もできない、と思う人がほとんどでしょうが、でもやっぱり、できることがあるならやっておきたいもの。

結局、お昼のニュースを見てからぎりぎりになって電車に乗りましたが、やっぱり参加して良かったなと思います。ミシェルは、参加者の中に移民系の人が結構いたので嬉しかったよう。テレビで見ていたら、絶対に数人しかいない移民系の人を集中的に撮ったんだろう、なんてあまのじゃくなことを考えていたと思うので。(^_^;)

ちなみに、今回のマーチの参加者の参加者に対しては、ベルギー国内のどの駅からでも往復5ユーロ、という特別料金が設定されていました。こういう融通がすぐに利くのは、ベルギーの(他の国でもそうかしら)いいところだなと思います。

もう二度と、こんな悲惨な事件が起こらないで欲しい。マーチに参加していた人たちのごくごく素朴なこんな願いが、夢のようなはかない願いではなく、実現可能な、具体的な願いとして受け止められる世の中になって欲しいものです。どうか、たった17歳で、こんなにも理不尽に命を奪われてしまった少年の死が、無駄になりませんように・・・。


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