「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.585 ★ 日系だけじゃない「中国で車売れない」広がる悲鳴 ドイツメーカー、現地メーカーも大変な状況

2024年08月22日 | 日記

東洋経済オンライン (浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)

2024年8月21日

北京モーターショー2024で展示された、広汽ホンダのe:NP2(写真:AP/アフロ)

EVシフトが加速する中国市場で、日系自動車メーカーの退潮に歯止めがかからない。昨年三菱自動車が中国での生産から撤退し、今年はホンダ、日産が工場の一部を閉鎖する。

ただ、厳しい状況にあるのは日系メーカーだけではない。ポルシェ、メルセデス・ベンツなど高級ブランドを抱えるドイツメーカー、昨年まで破竹の勢いだった中国EVメーカーも、「中国のダイナミズム」「景気低迷」というような一言では言い表せない、とにかく大変な状況にあるのだ。

ホンダは中国不振で販売目標を下方修正

「とにかく大変」

中国の生産能力削減について、8月7日に開かれた2024年4~6月期の決算発表会でこのように答えたのは、ホンダの藤村英司最高財務責任者(CFO)だ。

ホンダは2025年3月期の4輪車世界販売目標を期初予想から22万台引き下げ、390万台に下方修正したと発表した。減少分はすべて中国だった。

同社の中国での不振は、昨年末から現地でたびたび報じられた。

ホンダと広州汽車集団との合弁会社である広汽ホンダは2023年12月、販売低迷を背景に工場の派遣従業員約900人の人員削減に踏み切った。

今年5月には、広汽ホンダが希望退職を募集。ロイター通信によると、従業員の14%に相当する1700人が応募したという。

ホンダの中国での生産能力は現在約149万台だが、ガソリン車の販売が下げ止まらないことを受け、50万台を削減する。11月までに現地2工場を閉鎖・休止し、追加の閉鎖についても詰めている。

年内にNEV(EV、PHVなどの新エネルギー車)工場が2カ所立ち上がる予定で、EVシフトを急ぐ。

苦しいのはホンダだけではない。日系メーカーはすべて販売減に直面している。以下はトヨタ、ホンダ、日産の今年1~6月の中国での販売台数だ。

トヨタ 78万4600台(前年同期比10.8%減)
ホンダ 41万5906台(同21.5%減)
日産 33万9297台(同5.4%減)

この5年の間で3社の中では日産が最初に後退し始め、ホンダとトヨタも追うように販売減に転じた。

トヨタは2023年夏に中国で有期雇用の従業員1000人を削減した。日産も今年6月下旬に江蘇省常州市にある常州工場を閉鎖し、生産能力の追加削減を検討している。(過去記事:中国で「日本車が総崩れ」不安視される撤退ドミノ

アメリカ系、フランス系、韓国系は数年前に合弁解消、撤退ラッシュが起きており、競争力の弱いメーカーからEVシフトに飲み込まれ、その波がホンダ、トヨタの胸元まで来たというところだ。

日系と首位を争ったドイツ勢も厳しい

ホンダ、トヨタの中国での販売が好調だった2020年、中国市場で日系メーカーのシェアは20%前半に達し、ドイツと首位を争っていた。

それが中国乗用車市場情報連席会(CPCA)の今年6月のデータによると、ドイツ系ブランドのシェアは前年同期比2.6ポイント低下し18.6%、日系は同3.5ポイント低下の14.3%。対して中国ブランドは同9.3ポイント伸長し58.5%だった。つまりドイツ勢も厳しいのだ。

中国の自動車販売台数で長きにわたって首位を守ってきたフォルクスワーゲン(VW)は今年、BYDにその座を明け渡す可能性が濃厚だ。

中国の高級車市場をがっちり握っていたVW、BMW、メルセデス・ベンツの3社はいずれも2024年1~6月の純利益が減少し、それぞれ中国の景気後退や業界の競争激化に言及した。

高級車市場では中国メーカーの蔚来汽車(NIO)、ファーウェイが技術協力するEVブランド「問界(AITO)」が猛烈に売り上げを伸ばし、BBA(ベンツ、BMW、アウディ)のシェアを侵食している。

問界(AITO)(写真:公式サイトより引用)

日系、ドイツ系の苦戦の背景には、EVシフトでガソリン車の市場が急激に縮小していることに加え、値下げ競争に巻き込まれていることがある。

日本ではそれほど詳細に報道されていないが、ホンダの藤村CFOが「他社の値引きの状況が、われわれの想定を少し超えているレベル」と言及しているように、一部メーカーを除いて採算が取れなくなるほどの状況に陥っている。

価格競争は2023年秋ごろから加速した。BYDが年間販売300万台を達成するため値下げに踏み切り、黒字化できていない中堅メーカーも追随した。

2024年に最初に仕掛けたのもBYDだ。「EVはガソリン車より安い」というスローガンを打ち出し、手始めに低価格帯セダン「秦PLUSシリーズ」の価格を引き下げた。

2023年2月に発売されたPHVの「秦PLUS DM-i」は、最廉価版が9万9800元(約200万円)と、中国国内のPHVで初めて10万元を切る価格で瞬く間にヒットした。

その車種を2024年2月にリニューアルし、従来より2万元(約40万円)安い7万9800元(約160万円)で販売、EV版も2万元値下げして10万9800元(約220万円)からとした。

秦PLUS DM-i(写真:公式サイトより引用)

「秦PLUS DM-i」の値下げは、日産と東風汽車の合弁会社である東風日産が製造するシルフィ、上海フォルクスワーゲンのラヴィダ(LAVIDA)、トヨタと第一汽車の中国合弁である一汽トヨタが生産するカローラを狙い撃ちした。

ガソリン車を買うのは、ポケベル買うのと同じ

EVシフトが進む中でも、保守的な地方消費者が主な顧客とされる10万元前後のセダンはなお合弁メーカーのガソリン車が強い。

2018年に中国の乗用車販売台数でトップに立ったシルフィは、2020年、2021年の販売が50万台を超え、2023年は37万6100台まで減少するも、なおセダンのトップを守っていた。

中国で生産されたシルフィ。写真はEV版(写真:AP/アフロ)

セダン2位のラヴィダも2019年の51万7000台をピークに、2023年は34万5800台まで落ちたが、人気は根強い。BYDはこのセグメントに切り込んだ。

BYDのブランド・PR総経理の李雲飛氏は「秦PLUS DM-i」の値下げを発表した日、SNSに「(NEVが安くなれば)今後、ガソリン車を買う人はいなくなるだろう。今ガソリン車を買うのは、スマホを持っている人がポケベルを買うようなもの」と投稿した。

実際その通りになった。CPCAが公表した今年の7月のセダン販売台数で、長くトップ3を守ってきたシルフィは6位に後退した。

日産は2024年4~6月の決算資料で「競争が激化する中、シルフィは上期を通して中国市場の内燃機関の乗用車セグメントでトップの座を維持しました」と説明しているが、「ガソリン車でトップ」という位置づけが、中国ではさらに時代遅れ感を帯びてしまう。

BYDはその後、主力車種の多くをリニューアルのタイミングで旧モデル価格から値下げした。

日本では「ATTO 3」の名称で発売されているコンパクトSUV「元PLUS」は、日本での価格が450万円、中国では最廉価グレードが11万9800元(約240万円)。ガソリン車駆逐に向け、勝負に出ているのがわかるだろう。

ガソリン車の販売代理店が悲鳴

BYDが値下げすれば、ほかのEVメーカーも追随する。販売のノルマがあるので、ガソリン車も店頭で値引きせざるをえない。シルフィからBMWまで、実売価格はかなり下がっている。

BYDは車体のコストの多くを占める電池の値下がりと、生産台数が増える規模の経済で値下げ余力があるのに対し、黒字化できていないEVメーカーや、製造コスト削減の余地が乏しいガソリン車にとっては、値下げはタコが自分の足を食うような行為だ。

そしてメーカー以上に苦しいのが、ガソリン車の販売代理店だといわれる。

中国自動車販売店大手の広匯汽車服務集団は今年7月、株価が低迷し上場基準を維持できなくなったため、上場を廃止すると発表した。

同社はBBA、トヨタ、ホンダなど海外合弁ブランドの自動車販売を手掛けているが、販売減や価格競争で業績が悪化していた。

今年5月下旬にはポルシェと中国のディーラーとのトラブルも表面化した。

ポルシェは世界販売の4分の1を占める中国で2022年、2023年と2年連続で販売が減少した。2024年1~6月の販売台数は前年同期比33%減の2万9551台で、世界販売も7%減の15万5900台にとどまった。(ちなみに日本は過去最高の4676台を記録、5年連続で増加している)

現地メディアによるとポルシェ中国は2024年の販売目標を7万台に設定していたが、ディーラーは値引きを拡大して販売するため、ほとんど利益が取れない。ディーラーは仕入れ拒否も辞さない姿勢で、損失の補填を求める抗議文書をドイツの本社に送った。ポルシェ側は、ディーラーの訴えを無視できず、中国のCEOを9月1日付で交代すると発表した。

今年前半は仁義なき値下げ競争の様相だったが、“ポルシェの乱”などをきっかけに、海外メーカーは現実を受け入れ始めた。

BMWは7月、価格競争から離脱。販売目標を引き下げる方針に転じ、逆に値上げした。

同ブランドは昨年以降販売店での値引きが徐々に拡大し、今年前半は車種によっては100万円以上実売価格が下がっていたが、今年1~6月の中国販売は前年同期比4.2%減の37万5900台にとどまった(ちなみに同じドイツ勢で、値引き販売が拡大しているメルセデス・ベンツも同期間の販売は6.5%減少した)。

値引きをしても販売が増えなければ、高級ブランドとしての価値が損なわれ、中古車価格が低下し、ディーラーの傷も広がるなど泥沼である。だったら、中国の生産能力を削減し、利益を確保したほうがましということだ。ホンダや日産の中国工場閉鎖もその流れに沿っている。

国有企業の経営実態も苦しい

ただ、外資メーカーは撤退したり身を縮めて嵐を回避すればいいが、合弁相手の中国国有企業は雇用や生産で国のKPIを負っており、簡単な話ではない。

トヨタとホンダが合弁を組む広州汽車集団も、日本企業との合弁で成長した歴史を持つだけに、経営はかなり苦しい。

【2024年8月21日10時半追記】初出時、合弁の表記について事実と異なる部分がありましたので、上記のように修正しました。

合弁を組んでいた三菱自動車が撤退した際には、その生産設備を広州汽車傘下のNEV(新エネルギー車)メーカー「広汽埃安新能源汽車(AION)」のEV工場として転用したが、実は今年はAIONの販売も思わしくない。広汽集団の今年前半の販売台数は前年同期比25.79%減、頼みの綱のNEVも同30.61%減少した。

EVも含めて生産能力が明らかに過剰となっている中、工場を閉鎖したとしても、譲渡先や従業員の雇用先が見つからない。2~3年前とは大きく状況が異なり、日系メーカーの生産削減の調整も難航している。

8月中旬にはGMが中国で大規模リストラを行うと報道されたが、同社は肯定も否定もせず、「(合弁先の)上海汽車集団とのパートナー関係は変わらない」と歯切れが悪かった。

日系に限らず、中国の自動車業界自体が「とにかく大変」なのだ。

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