「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.136 ★ 経済成長の鈍化に苦しむ中国、それでも景気刺激策の「大型バズーカ砲」はもう期待できない

2024年03月01日 | 日記

JBpress (Financial Times)

2024年2月29日

(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年2月24・25日付)

雲に覆われ上部が見えなくなった中国の高度成長を象徴する上海の摩天楼

 

 暗い風刺は、中国で発展を遂げているオンラインジャンルだ。

 最近ソーシャルメディアに投稿された、中国共産党の機関紙「人民日報」の1960年の旧正月の記事を例にとろう。

 記事は農産物の収穫が「28.2%」増加したと伝えていた。

 教育を受けた中国人が今では知っている通り、中国が実は最大で4000万人を死なせたかもしれない絶望的な飢饉に陥っていた時に、だ。

 背筋が凍るような巨大な嘘の不条理を別にすると、この投稿に大きなインパクトがあったのは、2024年には1960年と同様、底抜けに楽観的なプロパガンダが描く国の経済生産がまたしても平凡な現実を凌駕しているためだ。

 政府の検閲体制は明らかに風刺を認識し、2月に記事を削除した。

共産党のプロパガンダと現実の大きなズレ

 米国に本拠を構える独立系ウエブサイト「チャイナ・デジタル・タイムズ」は、「多くの中国人が今、国営メディアが売り込む説得力のない楽観論と雇用や住宅、株式市場経由で市民を苦しめているリアルな経済的苦痛とのズレについて考えているなかで、こうした検閲が起きている」と評した。

 こうした痛みから、一部の人は中国の習近平国家主席を「逆方向に運転する皇帝」と呼ぶようになった。

 多くの一般市民にとって、生活は上向くどころか悪化しているように感じられるためだ。

 では、中国政府が今年の旧正月を機に内需を決定的に押し上げようとする可能性はどれくらいあるだろうか。

 そして、もしやったとすれば、景気浮揚策は奏功するだろうか。

 世界は今、昨年の外国直接投資(FDI)が1990年代以降で最低の水準に落ち込んだ世界第2位の経済大国の苦戦を見守っている。

 著名経済学者のエスワー・プラサド氏は国際通貨基金(IMF)に寄せた論考で、過去15年間で中国は世界の名目国内総生産(GDP)成長の35%を生み出し、米国の貢献度は27%だったと書いた。

 もし中国が本当に躓くと、その影響は欧州の一部地域の経済不振を悪化させ、米国にとって逆風を生み、脆弱な発展途上国を打ちのめす恐れがある。

2009年のバズーカ砲が残した禍根

 大半の経済学者は、もしその必要があれば、中国は大型バズーカ砲を放てるとの見方で一致している。

 中央政府のバランスシート上の債務水準はそれなりに低く、経済成長率を年9.4%に押し上げた2009年の財政出動と似たような規模の景気刺激策を打ち出すことができる。

 だが、米外交問題評議会(CFR)のフェロー、劉宗媛氏は、不動産向けの比較的小さな景気刺激策を例外とすると、そのような大々的な財政介入はもはや中国政府が好む作戦帳に入ってもいなければ、安全保障と自給自足を何より優先する習近平氏の考え方にもそぐわないと指摘する。

「中国政府はこのところ『高質量発展(質の高い成長)』を強調しており、これは成長率が低くなった現実を認めるさりげない方法だ」と同氏は言う。

「構造的な不均衡を悪化させ、中国の信用格付けの見通しを損ない、長期的な成長を抑制する、債務に支えられた景気刺激策を実行する見込みは薄い」

 実際、北京の政策立案者の間では、あの2009~10年の景気刺激策はいまだに足元の景気減速の根本原因として批判されている。

 市場に一気に流れ込んだ低利資金は今も続く地方政府の債務危機の一因となり、地下銀行のネットワークを助長し、不動産価格を持続不能なレベルに膨らませ、数々の産業で過剰な生産能力拡大に拍車をかけた。

つましい未来のビジョン、例外は技術

 こうした要因が急激に高齢化する人口と次第に激しくなる米国、欧州連合(EU)双方との貿易摩擦と相まって、あるコンセンサスが大きくなっている。

 中国の問題は一過性というよりは長期的で、その性質は構造的だという見方だ。

 中国のインフラ主導の発展の大半を担ってきた地方政府は今、債務にどっぷり漬かっているため、多くの場合、古い債務を返済するために債券を発行することくらいしかできない。

 調査会社ガベカル・ドラゴノミクスのパートナー、アーサー・クローバー氏は2020年代の終わりまでは中国のGDP成長率がかなり鈍くなり、恐らくは3~4%程度になると見ている。

 比較のために言えば、公式発表の昨年の成長率は5.2%、パンデミック前の10年間の平均は7.7%だった。

 しかし、つましい未来を描くこのビジョンの大きな例外が技術だ。

 公式説明によると、習氏は20代になったばかりの頃に村の共産党書記としてダムやメタンガスタンク、縫製工場、製鉄所を建設して以来、ずっと技術に魅了されてきた。

 そして今、技術のことを、自給自足と安全保障に向かう国家的運動の主な推進力と見なしている。

「中国の成長戦略は今、技術集約型産業に対する補助金に支えられた莫大な投資が広範な生産性向上をもたらすとの理論に基づき、完全に産業政策によって牽引されている」とクローバー氏は言う。

 確かに、成功は目覚ましかった。

 中国は全世界で販売される電気自動車(EV)の約60%を占めている。同国の太陽光、風力発電企業は世界的なトップ企業だ。

 中国の工場はすべての産業用ロボットのほぼ半分を設置しており、中国ハイテク企業はどの国よりも多くの特許申請を提出している。

 2021年の極超音速ミサイルの発射は米国の情報機関を唖然とさせた。

技術中心の成長モデルの限界

 とはいえ、技術力は必ずしも力強い経済成長を生み出さない。

 ますます産業用ロボットと人工知能(AI)によって動くようになっている産業で雇われている従業員の数は比較的少ない。

 このため、習氏のテクノロジー中心の成長モデルは中国の慢性的な若年失業問題と冴えない消費支出を解決することに苦労するかもしれない。

 数十年に及ぶ高度成長が過去のものになるに従い、習氏の中国は奇妙な新段階に落ち着くかもしれない。

 国が技術的な超大国として台頭する一方で、国民は自分たちの生活の質が逆回転し始めたと感じるのだ。

*左横の「ブックマーク」から他のブログへ移動


最新の画像もっと見る

コメントを投稿