「天狗の中国四方山話」

~中国に関する耳寄りな話~

No.242 ★ 中国に旅行したくない外国人が増加中!?ビザ問題より面倒な「高い壁」とは

2024年04月06日 | 日記

DIAMOND online (莫 邦富:作家・ジャーナリスト)

2024年4月5日

Photo:Andrew Holt/gettyimages

中国に来る海外観光客の数が減っている理由

 昨年から、私は、世界一周の旅を続けるクルーズ船の乗客を対象とする講演を引き受けている。今回は、インド洋航海中のクルーズ船に乗るため、船の寄港地であるモーリシャスの首都・ポートルイスに移動した。クルーズ船側が用意してくれたエアチケットは、東京→ドバイ→ポートルイスという路線のものだった。

 ドバイ空港でポートルイスに行く飛行機の搭乗ゲートに到着した私は、少しろうばいした。インド洋に浮かぶモーリシャスの人口は、130万人足らずの島国なので、飛行機はきっとがらがらだろうと予想していたのだが、搭乗ゲートに集まった乗客の人数の多さと人種の多彩さを見て驚いたのだ。と同時に、日中間を飛ぶ直行便に乗る人々の数との差を意識せずにはいられなかった。

 最近、観光事業を管轄する中国の地方政府の責任者と食事をすると、外国人、特に欧米や日本からの訪問客の減少ぶりを嘆く声をよく耳にする。

 政治的な原因を除いて言えば、外国人の訪中の妨げになっている主な要素は二つある。一つは、外国人の訪中ビザ取得の難しさだ。もう一つは、電子決済の発達によって生じた壁だ。

訪中ビザの制限が続々と緩和するようになったが…

 コロナ禍以降、訪中ビザは厳しく制限されるようになった。

 しかし、23年頃からようやくそれも「改善」されるようになった。昨年11月24日、中国外交部は、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、マレーシアの6カ国の一般旅券所持者を対象に、15日以内の滞在ならビザ免除措置を実施すると発表した。日本は措置の対象に含まれなかった。

乗客の姿がまだない早朝5時の西安・咸陽空港では、外貨両替店はすでに営業している(著者撮影)

 また、今年2月9日には中国国家移民管理局は、海南省に入国する外国人への30日間ビザ免除措置の対象を、日本、韓国、シンガポール、マレーシア、英国、フランス、ドイツ、米国、カナダなど計59カ国に拡大した。

 さらに、2月9日、中国とシンガポールが交わした「一般旅券所持者の査証相互免除に関する協定」(ビザなしで入国が可能)が発効した。

 3月1日からは、中国とタイが30日以内のビザ相互免除協定(中国のパスポートと一般旅券の所持者、タイの一般旅券の所持者はビザなしで相手国に入国が可能)が、正式に発効した。

 3月14日から、中国はスイス、アイルランド、ハンガリー、オーストリア、ベルギー、ルクセンブルクの6カ国の一般旅券所持者に対しても、ビザ免除措置を試験的に導入した。

 厳しかった訪中ビザの制限が、相次いで緩和される方向へ動き出したのだ。

 現段階では、残念ながら、日本人に対するビザ免除制限はまだ解かれていないが、日中間の交流規模の大きさと需要の緊迫さを考えると、このビザ問題はいずれ何らかの形で解決されるだろうと思う。

ビザよりもキャッシュレス化による壁が社会問題

 ビザが、外交の取引や政治情勢と絡む問題だとすれば、電子決済による障壁の方が、技術的・社会的問題だと思う。

 ウィーチャットペイやアリペイに代表される電子決済が発達する中国では、キャッシュレス化が猛烈なスピードで進んでいる。しかし、その進化は外国人の中国訪問を阻止する要因にもなってしまっている。

 中国政府らもその問題の深刻さにようやく気付き、解決に動き出した。

今年1月下旬、海外に居住する20人近くの華僑・華人リーダーが、中国人民政治協商会議上海市委員会の招きを受け、上海で開催される座談会に参加した。私もその一員だった。

 上海市政府の仕事に対する提案や意見などを聞くという趣旨で開かれたこの座談会で、私は外国人、特に日本人の中国訪問ビザの取得の難しさと外国人の中国での決済手段の乏しさなどの問題を取り上げ、その改善措置を速やかに考えるべきだと強く訴えた。

 多くの座談会参加者が私の意見を支持してくれた。特にメキシコの華僑リーダーは、日本の交通カードであるSuica(スイカ)を例に挙げ、上海市も交通カードという在来の決済ツールを生かすべきだと提案した。

 私たちの発言を聞いた上海市政府の幹部は、その場で「責任を持って決済などを主管する副市長に報告します。みなさんの意見と提案は非常に地に足が着いたもので、実際の改善措置として採用しやすいものです」と胸をたたいた。

 3月に入ってから、中国人民銀行(中央銀行)上海本部は、上海居住の外国人向けに生活シーンをカバーする多様な決済方法を提供するとともに、外国人が決済サービスを利用するための決済サービスガイドの作成も始めた。

 3月14日、中国人民銀行本部は、中国を訪れる外国人の支払い問題を解決するための一連の対策の実施に踏み切り、海外からの外国人向け支払いガイドラインを発表した。

 さらに3月18日には、外国人向けデジタル人民元の支払いガイドラインも発表。210余りの国や地域の携帯電話番号によるアカウント登録とウォレット開設をサポートするようにした。

 デジタル人民元ウォレットの開設は、運営機関の銀行に口座がなくても可能とし、匿名のウォレットは、銀行窓口での手続きやパスポートなどの身分情報の提供、中国国内の銀行に口座を開設する必要もなく開通できるとしている。なお、匿名のウォレットでの支払いは1回当たりの支払額の上限が2000元(約4万円)、1日当たりの上限は5000元(約10万円)に制限されている。

 中国側の報道を読むと、いろいろな措置が実施され、外国人訪問客の決済問題はかなり解決できるように見えた。

「不便さは依然として解決されていない」

 しかし、最近中国を訪問した日本のビジネスパーソンや駐在員の家族として中国に滞在している日本人女性は、「決済の不便さは依然として解消されていない」と不満を訴えている。

 大手通信社に勤める男性社員は、次のように指摘した。

「交通カードのSuica化に賛成です。日本の普通の観光客に、アリペイやウィーチャットペイの登録、ひも付けを求めるのは無理があります。次点はアリペイが進めている、海外モバイル決済との提携対象にPayPayを加えることでしょう。このスキームで、すでにアリペイ利用者は日本でPayPay決済ができます」

 ただ、電子決済の障壁になるのは「身分確認」という問題だ。身分証がないと中国での生活で大きな壁にぶつかる。

 広州に住む日本人女性は、自らの生活体験を通して次のように語る。

「広東省のシェアサイクル大手は、美団、青桔、Helloの3社。このうち、美団、青桔はユーザー登録に身分証番号が必要なため、外国人は利用できない。外国人が利用可能なのはHelloのみ。

 見えにくい部分にも、この身分確認の影がかかる。美団などの割引クーポンを銀行カードなどとひも付けておかないと、もらえないとなっているが、銀行カードひも付け時には、身分証が必要となってくる」

 これらの問題のいずれもが、外国人の中国滞在生活の品質を落としてしまう。自然に中国に対する好感度にも影響してしまう。

 なお、海外で使えるSNSのほとんどは、中国では使えない。外国人が中国に着いてから、使い慣れたSNSを通して家族に安否を知らせようとしてもなかなかできずに困っている。外国人の訪中を激減させる三つ目の原因はまさしくこのあたりだろう。

 こうした問題を解決しないと、外国人の訪中人数は増えてこないだろう。問題解決に時間がかかりすぎると、中国に対する関心も倍以上のスピードでなくなってしまう恐れがある。

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