自分の中でもう原発の話はいったん終結したつもりだったんですが、HOLYさんから問題提起がありましたので。
> ところでさ、原発全部止めても停電しないらしい話もあるんだけど、
> おれたち、やっぱ政府と東電に騙されてるんちゃう?
http://www.news-postseven.com/archives/20110418_17850.html
> どう思う?
毎度の確認ですが、自分は原発が嫌いです。でも、原発で働く人は応援してます。それから、原発が嫌いだという以上に核兵器が嫌いです。そういう前提での発言だとご理解ください。決して自分は原発推進派ではありません。
揚水発電ネタですが、自分は揚水発電を計算に入れていないのは必ずしも不当だとは思いません。むしろ、水力発電がどういう扱いを受けているのか心配しているくらいです。首都圏に限っても、平成6年と平成8年に大渇水が発生していますが、この記事ではその検討が全く為されていません。水力発電を議論するために極めて重要なはずのこの検討が、ポストセブン記事では「原発が必要と主張するための言い訳」として「取り上げたふり」をした上で、さっさとゴミ箱に捨てられています。読者に正確な判断を促すなら、「大渇水でも大丈夫」という計算を示さなければならないし、提示出来ないならその旨を明記するのが責任ある姿勢です。
「原発をなくしたい」というのは多くの人の願いですが(自分も含みます)、普段の仕事では冷静な人も、話題がこと原発になると、なぜか都合の悪い話には目を閉じ、耳を塞いでしまう。ほんとに不思議なくらいに。なので、「恐怖に思考を奪われてはならない」という記事を再三書いているんです。
部下を管理する立場の人であれば、「現在進行形の案件に加えて、新たなブロジェクトを引き受ける余力はあるか」「こいつに任せるが、もし予定通りに進行しなかったらどうするか」ってことを考えながら仕事を受けたり、割り振ったりすると思うんですね。
会社でいえば、部下の「原発くん」が突然のバイク事故で大怪我をして、長期欠勤が決定した。そうなると、力持ちの「火力くん」とお天気屋さんの「水力ちゃん」、パートの「揚水おばちゃん」で力を合わせなきゃならないわけです。
火力くんと水力ちゃん、揚水おばちゃんが最高のパフォーマンスを発揮し続けてくれれば、原発くんの不在を埋められるかもしれない。でも、それは「出来るかもしれない」という可能性の話なのであって、「必ず出来る」ではないんです。「出来ないかもしれない」という可能性はそれなりに高い。
お父さんがアラブ系の火力君は、お家騒動があると仕事してる場合じゃなくなってしまう。実家の隣がイラクだったり、ご近所にリビアがあったりする火力君は、毎日のニュースに気が気じゃない。しかも、普段でさえ一生懸命仕事したら、「息が炭酸ガス臭い」ってみんなに嫌われちゃう。京都議定書を手に持ったみんなに囲まれて「罰金だ!罰金だ!」って。
お天気屋で雨女の水力ちゃんは、日照りが続くとまったくやる気がしなくなってしまう。
揚水おばちゃんは、ちょっと働くとすぐ息切れして動けなくなってしまうので、数時間働いたら次の日まで休まなきゃならないし、おうちで休んでいる間に火力くんが余分に働いて、翌日の仕事の段取りをしておいてあげなきゃならない。
新入社員を採用したくても、期待の太陽くんと風力ちゃんはまだ中学生。
なので、今いる「ひと癖も二癖もある」部下3人だけで、いつまでも「仕事の3割をこなしていた働き者の原発くんの分を含めた4人分の仕事がスムーズに回せる」と簡単に判断するのは、上司としていかがなものかと。
その辺を冷静に考えた結果として、経団連は節電目標25%を維持しようとしています。目測の誤りが文字通りメンバーの死活問題に直結する経団連が、過去の政府通達を鵜呑みにして25%に固執しているわけではないと見るべきでしょう。血のにじむ努力で世界トップレベルの省エネ技術を維持している日本の工場が、さらに25%の節電目標を設定するなら、経団連は血が滲むどころか血を流す覚悟を決めているように見えます。それほどまでに経済界は、大停電はもとより計画停電による被害が甚大だと計算し、恐れているのがよくわかります。
原発の話に戻りますが、こういう揚水発電を含めた電力計画をする時に、考え得る最高のパフォーマンスを足し算していくだけではダメで、それぞれの発電方法が最高のパフォーマンスを出した場合と、それぞれの発電方法が最悪のパフォーマンスしか出せなかった場合を想定し、最高のシナリオと最悪のシナリオを両方提示しなければ片手落ち以下です。
問題を考えるにあたり、ネットニュースや雑誌記事は主張の根拠が曖昧なものが多いので、注意しなければなりません。ほんとに玉石混淆なんです。今回の記事の場合、既に店頭にない週刊ポストの過去記事はもう確認しようがない。主張の根拠に直接あたれないという時点で、もう既にこのネットニュース記事は信頼性が極めて低いと自分は判定します。「そういう声もある」という受け止め方に留めるわけですね。医学を含めた科学論文では、ある文献を根拠の軸に引用しながら、その元文献が消失しているなんて状況は許されないしあり得ませんから。また、「まず主張ありき」で書かれたものであることは間違いないでしょう。もちろん、主張は「原発施策を糾弾する」ことです。
まず、ポストセブン記事の主張の大前提から。
「すべての火力復旧・増設が上手く行き」
「渇水などが起こらず」
「予想外のトラブルが起こらなければ」
「東電は」
原発なくても大丈夫、という理屈です。どれかひとつ欠けてもダメです。「予想外のトラブルが起こらない」なんてのは甘い幻想に過ぎないことは、大地震と津波による原発事故でこれ以上ない証明が為されたはずですよね。もし東電が出来ても、原発依存度48%の関電はどうでしょう?また、上に書いた3社員の話は、「大地震+津波+原発事故」よりは明らかに起こる可能性の高い話です。「アラブのお家騒動」「渇水」なんて全然珍しくなくて、その気になれば極めて簡単にいくらでも実例を思い出せるはず。でも、なぜかみんな「思い出したくない」んです。そこが、原発問題の議論をややこしくしていると思います。
揚水発電の大きな利点は、「瞬発力」です。揚水発電を含めた水力発電の大きなメリットは、「水門を開けば直ちに発電量を上げられる」ことなんです。この辺のレスポンスは、原子力は論外として、火力よりも優れています。需要のベースを原発などの調整不能だけれども安定した発電で下支えし、大きな変動は調整能力の高い火力で負担する。火力の追従能力を上回る需要が発生すれば、揚水発電でその場を凌いでいる間に火力の出力を上げてゆくというのが、それぞれの発電方式の個性を生かす本来の使い方です。揚水発電は火力発電がブルペンで肩を作るまでのワンポイントリリーフと考えるべきで、先発ローテーションを回せるほどの力はないと見るべきです。原発を廃止するなら火力発電だけでピークを支えられなければ充分な備えとは言えませんし、もちろんその火力発電だってメンテナンスやトラブルでの休止分を計算に入れておかなければなりません。「全火力がフルに動けば大丈夫」ってレバタラ話はダメです。死なない人間がいないのと同じで、トラブルのない機械やシステムは、この世界のどこにもありませんから。
ポストセブンの記者が、上記の内容を考えないで記事を書いているのか、それとも分かっていてあえて書いているのか?どちらの場合であっても、感心したものではないように思いますね。ここのような素人のブログ記事とは違って、雑誌記事や出版社を看板にしたネット記事には世論を誘導する力がありますので、その力の自覚がない、あるいはその力を知りながら公正さに欠ける記事をあえて書くような記者は、情報を扱うプロフェッショナルとして「嫌い」です。
「真っ赤なウソ」で騙されているよと教えてくれる人って、信用したくなるでしょ?でも、ちょっと待ってください。「騙されているよ」という言葉でいったん信用を勝ち得たら、その相手に別の騙しを吹き込むのは極めて簡単なんです。「ホントは安いんです、お値段のほとんどはお店の手数料。皆さん騙されてるんですよ」とかいって怪しい商品を売りつけるインチキ詐欺師、いっぱいいますでしょ?みんなわかっているはずなのに、そういう商法に騙される人が後を絶たない。もちろん、全員を騙せるわけもないけれど、いつの時代でもそれなりの比率で騙される人は必ず存在するので、詐欺や霊感商法が根絶しないんです。
なので、「騙されてますよ」と言いながらすり寄って来る人ほど要注意です。綿密な取材のもとに、ホントに力のある文章を書ける人は、「真っ赤なウソ」なんて言葉を使わなくても記事の内容だけで読者をその自覚に導けるものです。
インテリジェンスの世界では、「秘密情報の98%は、公式発表をもとに組み立てられる」と言うそうです。情報の専門家がそのように言うならば、我々も98%は無理でも、頑張れば7割くらいの真実に近づくことは出来るでしょう。ニュース記事単独では難しいのですが、例えば今回のポストセブンの記事と、経団連の「節電目標25%堅持」の記事を見比べると、シンクタンクそのものであり、その影響下の企業やその従業員の生活を責任を持って守る立場にある経団連が、ポストセブンとは真逆の方向に動いているのが分かりますから、ポストセブンの記事の方が怪しいと判定出来ます。ポストセブン記者の論理展開に引きずり込まれちゃった人も多いと思うのですが、自分が書いた小説「王王七号シリーズ」にも似て、「いかにももっともらしく書いてあるけど全然根拠が示されていない」部分が目立つ...というかほとんどです。このポストセブン記事では、「理想的に状況が運んだ場合はこうなる」という数字しか示されていません。
こういう記事に使われるのが分かり切っているからこそ、資料には「厳秘」と記されていたわけですが、それを安易に外部に漏らしてしまった人間がいることは、国家の危機管理上、重大な問題だと思いますね。問題の資料が配布されたのは意思決定機関中枢部のごくごく限られた人間のはずですから、海上保安庁職員なら誰でも容易にアクセス出来た尖閣諸島のビデオが流出した事件以上に大きな問題だと思います。各電力会社のサイトや、wikipediaなどの情報から、それぞれの発電所の発電能力を足し算して行く手間さえかければ、この夏の電力需給見積もりにおける供給量が少なめに計算されていることは誰にでもわかることなので、厳秘資料のリークという手段に訴えなくても正々堂々論戦を張れるはずなのです。なのに、それをしないで業務上の機密保持義務を破り、合議での決定事項をひっくり返して自分の意志を通そうとした人物の責任は重いと言わざるを得ません。流出した情報自体はまったく大したことはないのですが、流出したことが問題なのです。
この話はいわゆる「汚染状況の隠蔽」と同列に論じるべきではありませんから、違いによく注意してください。一般市民にとって、放射能汚染状況は政府発表を信じるしかありませんから、隠されると手も足も出ない。一方、今夏の電力供給見積もりが期待出来る最大値より小さいことは、既に広報された各種資料から知ることが出来るわけです。なので、揚水発電が隠されていたことを問題視してもしょうがなくて、「隠蔽工作に見える資料を持ち出して使おうとした奴がいる」ことに注意しなければならないと思います。
あと、ポストセブン記事の真偽はともかく、「経団連が25%削減目標を維持するのは、原発関連企業や癒着政治家を抱えているからだ」と糾弾したくなる人もいるでしょう。けれども、産業界には原発関連でない企業の方が圧倒的に多いわけですし、だいたい25%節減が達成出来ちゃったら「原発なんか要らない」って声を実績で後押ししてしまうわけですから、その批判は当たらないということも自明です。そもそも、25%の省エネなんて「無茶ブリ」もいいところで、何の意味も根拠もなく瀕死の企業を倒産に追い込んだり、工場の海外移転で国内産業の空洞化を促進したりするような目標を産業界のリーダーが立てるはずがない、と考えるのが自然です。もっとも、もし経団連が「原発企業とも政治家とも関連ない売国奴の集まり」だったとしたら、25%削減目標維持には別の意味を帯びて来ることになりますが、さすがにそれはないでしょう。というか、そうだと思いたい。
ってことで、回答になりましたでしょうか?あんまりセブンポスト記事をやっつけちゃうとHOLYさんに申し訳ないんですが、「どう思う?」と聞かれたら正直に思うべき所を言わせてもらってもいいかなと思い。まあ、文字通り太っ腹なHOLYさんだから、きっとわかってくれるはず!
「HOLYさんに返信(2)。」へのHOLYさんのコメントに対する返信です。
まずはHOLYさんのコメントからご紹介。
たびたび記事にしていただき恐縮です!
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「もうそのセオリーでは立ち行かない」
そう判断する根拠が何か、ですね。
自分は、今回の福島の事故は確率論的に「いつか起こり得ることが今起こった」、すなわちその辺りの認識がHOLYさんとは異なります
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すみません、ここでの「立ち行かない」は、まさに感情論的な部分での継続困難な局面に入ったと思います、という意味です。
理系の人だと、トラブルフリーなシステムはあり得ない、というのは一般的な認識ではないかと思いますが、そうでなければ、「こういう風に十分対策しているので、絶対に絶対に絶対に、安全なんです!!」と権威的に言われれば、そうかな、つって、推進/反対が入り乱れてたのが、これまでだと思うんですよ。
ところが、起こらないと言われたことが起こった今、これからは、安全で安定した供給方法の原発ベースのベストミックス、という方法論自体が説得力を失ったわけで、増々、あちこちの住民感情的に、これまでの「ベストミックスコンセプト」が大幅に見直しを迫られるだろう、ということが言いたかったことなんです。
>「起こるべくして起こった事故」だと思っていますので、
この点は、おれも全く同じで、「やはりとうとう来たか」というのが、最初の溶融可能性の報道から水蒸気爆発まで感じていたことで、爆発をリアルタイムに見た時は、後で格納容器が無事だと知るまで、せめて九州まで避難したいけど、色々投げ出せないしどうしよう、と、かなり絶望的な気分で過ごしていました。
>原発の急停止や化石燃料置換で社会がどうなるかをよく考えてから「それでも止めろ」と言って欲しい訳なんです。
で、あれば、逆に、代替案が出るまでは原発併用が現実的、というのも思考停止で先送りな気がします。
そもそも、何もなしに「今すぐ止めろ」とか言いたいのではなく、「止められるようにするには、どうすべきか」について考えるのが最優先でしょう、と言いたいだけなんです。
なので、
>「知りたくないの」は、この問題に関してはちょっと許されないと思いますね。
が、何を指してるのか、ちょっとわからないんですが、とにかく、根本で意見が一致してるのに、ここまで会話が議論ぽく続くのにビックリです(爆)