投入2シーズン目にして、やっと'14DUKE-Rで'09Dukeのタイムを超えられたので(トミン27秒5→27秒1)、遅蒔きながらインプレッションを書いてみようと思います。
2010年5月に2009年式690Dukeを購入(以下654Dukeと略)、以降2014年3月までサーキットでの主力機として活躍してもらいました。筑波TT TN-1参戦当初はモトクロッサーベースのモタード車両に対して充分に戦闘力的なアドバンテージがあったのですが、車名の通りに654ccから690ccに排気量アップしたDUKE-Rが大挙してエントリーしてくるようになると、1周のラップタイムでは遜色なくともバトルになると弱いことから、思い切って2014年5月に2014年式690DUKE-Rに乗り換えました(以下、新690R)。
なにしろ同じメーカー、同じ名前のバイクです。「そんなに乗り味が変わるわけないから、排気量アップの恩恵だけ受けられるだろう…」という皮算用でしたが、それが思いっきり外れてしまい、乗り換えで大幅にタイムを落とすことになります。筑波1分6秒4が旧型でのベストですが、乗り換え直後には9秒台と、アンビリーバブルに遅くなってしまいました。
原因は簡単。「名前は同じでも完全に別物のバイクになっていたから」です。エンジン、フレーム、サスペンションの全てが違う(メーカー広報によると90%以上のパーツが新設計)。Dukeという車名を引き継ぎながらも、2011年から2012年のフルモデルチェンジで設計思想がガラリと変わったんですね。当然、性能を引き出す為の乗り方も違います。
さて、個人的なDuke史を簡単に書いておくと
654Duke→654Duke改(ハイカム仕様)→新690R→新690R(ハイカム仕様)
ということになります。このバイク、ハイカムを入れるかどうかでバイクを乗り換えたに等しいくらいの変化があります。パワーが出るかどうかだけの話ではなくて、トルクカーブやバックトルクの強さが激変するために、コースでのライン取りを含めて走らせ方がガラリと変わって来るからです。
新旧の違いを大雑把に表現すると、「リヤステアで乗るのが654Duke」「フロントとリヤの両方を使って走るのが新690R」ということになると思います。これからDukeに乗り換えようとお考えの方もあるかと思いますが、旧車やネイキッドバイク、オフロード車に乗り慣れている人は654Dukeが、最近のSSをちゃんと乗りこなしている人は新690Rの方が相性が良いと思います。「乗り慣れている」と「乗りこなしている」では、技術的な要求水準が違うことに注意が必要で、これについては後述します。ただ単に「今までSSに乗って来た」だけでは、新690Rの性能を引き出すことは出来ないでしょう。
新旧Dukeのどちらが速いか?に関しては、究極のところでは「乗り手次第」になるでしょう。現時点で筑波TTでのDuke最速はmi007氏の 2008年式654Dukeです。排気量が小さいというハンデを跳ね返して3秒台をマーク、2015年の今もなおDuke最速の座を維持しています。ただしタイムを出す為の綿密なセットアップや、それを乗りこなす技術があっての話なのであって、誰でもが654Dukeで彼のスピードに迫れるわけではないと思います。
レース向けのモディファイ前提で考えると、歴代690Dukeのうちマシンのポテンシャルに関して最強だと思われるのは2011年式Duke-Rで、これに関しては筆者とmi007氏で一致していました。ただし、このところ2013年式以降の新690Rのセットアップも進んできており、新型のほうが速いかもと思えるようになってきています。なお、690LC4の筑波TN-1レコードは690SMC-Rが保持していますが、これはバイクのチューニング、ライダーのレベルとも別格なんで、SMC-RとDUKE-Rのどちらが良い素材か?という問いには回答が出せません。
さて、新旧Dukeの乗り味をもう少し詳しく記述してゆきます。
654Dukeですが、このバイク、極論すれば「速く走らせる為に、何の技術も要らない」のです。ごく普通に直線の終わりでブレーキングして、ブレーキを緩めながらバイクが自然に倒れ込むに任せれば、倒れた分だけ自然に曲がってくれます。バイクが大柄でややアンダーステアなセッティングになっているので、思い切って大きなボディアクションをしても大丈夫(といっても雑な操作はダメです)。全身を使って積極的にバイクを動かす楽しさがあります。とにかく、基本通りに「余計なことをしない、バイクの走りたいように走らせる」に徹すれば、自分レベルの技術でも筑波6秒4が出せました。
面白いのは、結構良いタイムは出せるけれども、前後サスペンションとも限界は高くないことです。タイムを詰めてゆくと、フロントもリヤも思いのほかアッサリと滑り始めます。ただし、この滑り方が絶妙で、コントロールの幅が非常に広いんですね。滑り出してから転倒するまでのエッジの幅が非常に広いので、滅多なことでは転倒しにくいバイクに仕上がっています。なので、「滑っても構わないや」って気楽な気分で攻めて行けるのです。
これはライディングテクニックを修得する上では非常に有利で、2010年に書いた654インプレッションで言及している「速いスライドと横流れだけのダメスライドが判別しやすい」「転倒につながる挙動からのリカバリーの練習がしやすい」ということになります。限界は高くないけれど、「それ以上やると転ぶよ」と注意信号を発してくれるバイクなのです。これを裏返して考えると、ちょっと手厳しいのですが「654Dukeでしょっちゅう転ぶようだと、何かが間違っている」ということになります。654に乗ってコケる人は、コケなくなるまで練習してから他のバイクに乗り換えるのが良いと思います。
何もしなくても勝手に速く走ってくれる654Dukeですが、残念ながらいくら頑張ってフロントに荷重したところでフロントタイヤは大した仕事はしてくれません。チャタリングが出るばかりで何も良いことはないので、徹底的にリヤステアで旋回させてゆくことになりますね。
余談ですが、654Dukeで走りこんでいると、まったくオフ未体験なのにイキナリYZ250のような凶暴マシンに乗せられても割と普通に走らせることが出来ました。これは「タイヤは滑って当たり前」「滑りやすいんだからリヤステアが吉」という654Dukeの乗り方が、そのまんまオフロード走行にもハマってくれたんだと思います。いつもの654Dukeを走らせる感覚で、アクセルを開けるだけで普通のジャンプなら飛べましたし(ウォッシュボードとかまったく無理ですがw)。なんてことがあるので、オフロード経験をお持ちの方は654Dukeにはすぐ適応出来るんじゃないかと。旧車やネイキッドに慣れている人も、フロント旋回力をアテにしないでリヤで曲がる習慣がついていると思いますので、654Dukeには馴染みやすいと思います。
その654Dukeを基準にして比較するという切り口で、新690Rを語ることにします。まず箇条書きにしてみましょう。
・フロントからの旋回力が強い。ただし、ブレーキを握っている時だけ。
・リヤステアの強さは654ほどではない。
・バックトルクが強い。
・プラス40ccのバワーは体感出来る。
・前後サスペンションの性能が向上しており、トラクション性能が高い。
新型690Rのサスペンション性能の向上は明らかで、654と同じようなタイムで走る限り滅多なことではグリップを失うことはないし、リヤのホイールスピンもまず起きない。リヤタイヤの寿命は654Dukeに比べて著しく伸びました。
こんな新型690Rで654Dukeと同じ走らせ方をするとどうなるか?というと、
「エンブレの弱いハイカム仕様654Dukeと同じ地点でブレーキングして旋回に入ると、強烈なバックトルクでアッと言う間に失速してしまう。クリップの遥か手前で失速するので、速度が足りなくてバイクを倒し込むことも出来なくなるし、まったく荷重をかけられない前後タイヤはまるでグリップしないので、速度が足りないまま『なし崩し』的にインベタ強制。タイヤがコロコロ転がるだけでグリップしておらずコーナリング速度は完全に死んでいて、しかもコーナー出口まで向きが変わらないので、バイクが起きているのに加速で稼ぐことも出来やしない」
というどうしようもないドツボ状態に陥ります。じゃあ、どう走れば良いかといえば
・強烈なバックトルクで速度を失わないように、コーナーの奥の奥まで出来るだけアクセル全開で突っ込む
・高い速度でコーナーに飛び込んだら、ブレーキを強力に使ってフロントからグリグリ曲げながらクリップにアプローチ
・所詮70馬力しかないので向き換え地点では速度を落とし過ぎると立ち上がらない。スピードを保ったままコンパクトに「ギュッ」と向きを換える(リッターバイクのように「止めて曲げる」はダメ)。
・向き換え完了と同時に全開で脱出。
という乗り方をしなければならないとすぐ分かる。ただね、分かったところで実行するのは大変なわけですよ。654Dukeのように「素直にスィーッと走らせて、立ち上がりだけしっかり開けられるラインに乗せてやれば6秒台」のような「ライダーに優しいバイク」じゃないってこと。「コーナリングに入ったらスロットルを閉じたまま速度を維持して旋回、出口を待つ」なんてノンビリした走り方はさせてもらえません。
なもんで、新690Rを乗りこなすために必須なのは「進入でブレーキを握り込みながら強力に向きを換える」技術ってことになるわけです。これが出来なければ奥までアクセル開けて突っ込めないので。その感覚を掴みかけるのに2シーズンもかかっちゃった、ってことですな。
「ブレーキを握り込みながら進入」ってテクニックは、大排気量SSを乗りこなす為には必須だと思います。これが出来なくてもSSだろうがDukeだろうがソコソコのタイムは出せると思いますが、トミンで言えば26秒台をコンスタントにマークするにはこの技術をしっかりマスターしている必要があると思います。で、逆に「握りながら進入」がDUKE-Rでマスター出来たら、たぶんSSのタイムも良くなると思うんですが、RSV4をブッ壊して以来SSを持ってないので、残念ながら検証出来ません(苦笑)。
「新690Rは、SSを乗りこなしている人の方が適応しやすい」というのは上記のような事情で、新690Rは積極的にフロントタイヤを使って曲げてゆく技術があるかどうかが試されるバイクだと思います。SSから乗り換えると、セパハンからアップハンに適応するのに少々時間が必要だと思いますが、バイクを走らせる技術自体は似ていると思いますので、旧車・オフ車乗りがフロント旋回に適応するよりも楽なんじゃないかな、と考えたのでした。
さて、ここで個人的なDuke史を再度書かせていただくのですが、
654Duke→654Duke改(ハイカム仕様)→新690R→新690R(ハイカム仕様)
の流れは、結果的には「センスのない人間がライディングテクニックを向上させるためには非常に効率が良い」と思いました。654Dukeでコケないライディング(リカバリー技術)とリヤタイヤの使い方を覚え、「654Duke改(ハイカム仕様)→新690R」の乗り換えでブレーキを使ったフロントからの旋回を練習出来たんですね。この練習が上手くいったのは、あまりにも新690Rのバックトルクが強いので「今までのラインなら、ほとんどブレーキを使わなくても曲がれちゃう」って場面が出て来るからです。
これは自分の場合は筑波ダンロップコーナー入り口でした。654Dukeでは「1ヘアを立ち上がってダンロップ手前の直線でブレーキングし、リリースしながら右にバンクさせてゆく」という流れだったところ、「1ヘアを立ち上がって全開のまま右に切り返し、右にバンクしてからブレーキをかけ始める」って操作に徐々に切り替えて行ったんですね。バックトルクが強いのでフロントブレーキを強くかける必要がありませんから、様子を見ながら怖々と少しずつブレーキ入力を強めて行くというトライが出来た結果、「意外とイケるじゃん?」になったのでした。
なので、新旧DUKEのどっちがおススメ?と訊ねられたら、「理想的には654経由で新690R」と言いたいのだけれど、そんなことを実行する人はまずいないんじゃないかと思います。上記のインプレはサーキットに限った話ですし、お店で買ったまんまの「ツルシ」の状態なら、おそらく新型690Rのほうが戦闘力が上だと思います。
ただまあ、654はタマ数は少ないけれど50万円台で買えてしまうので、中古車でもまだまだそれなりの値段がする新690Rを買う前に「ビッグシングルってどう?」と体験するのは良いのかな、と思います。とはいえ、この状況は2016年にショートストロークの新型690DUKE-Rが出て来たら2013-2015年式DUKE-Rの中古車相場も下がるでしょうから、多少変わって来るかもしれません。
サーキット中心での印象を書いてきましたが、街乗りにはどちらがいい?と訊かれたら、これは迷わずに新690Rです。車体ジオメトリーが街乗り向きで、交差点を曲がるだけでも楽しい感じですね。
そうそう。峠道でも街乗り同様、新690Rのほうがいいと思います。2500回転も回っていれば十分なトルクを発生しているので、狭い峠道も軽々と登ってくれるため、非常に楽しく走れます。サーキットだと困る強めのバックトルクも、小さく回り込んだブラインドコーナーに入っていくには丁度良いので、気分よく走れますね。新690Rで伊豆スカイライン周辺のつづら折れのワインディングを走らせてみたところ、こんなに楽しく走れるバイクはちょっとないな、と思いました。