予告してありましたIMP採点の試合とマッチポイントの場合との戦法の違いを、
"Bridge Scoring, Strategy, and Tactics” by Pete Matthews, revised November, 2009から抜粋してご紹介します。
或る程度は誰でも知って居ることだし、昔からいろいろな人が言ったり書いたりして来たテーマですが、MITのブリッジクラブ(学生だけでなく教員やOBがむしろ主体らしい。)の代表的リーダーであるPete Mathews博士が2年足らず前に改訂したばかりのこの(恐らく新人のための)解説は、最も知的で現代性が高いという位置づけが出来るでしょう。
なおMITではブリッジの本やレクチャーノート(講義録)も多数出版されて居ます。残念ながら日本の大学とはレベルが違うような。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
IMPの場合、スラムとか大きなペナルティの手一つだけで、試合の最終結果が決まり得る。
これに対して、
マッチポイントは頻度のゲームである。悪いスコアが有ってもその1ボードだけの問題に過ぎず、他の23ボードが同等に大切なのだ。(訳注 つまりどの手も平等に24分の1の価値が有る。或いはそれだけの重要性しか無い。)
IMPの主戦略は、コントラクトを作ることと、敵のコントラクトを落とすことだ。オーバートリックはコントラクトが出来ることに及ぶ価値は無く、しばしば取るに足らないちっぽけなものでしかない。
マッチポイントの主戦略は、10点でもよいから、出来るだけ多くの敵より高い点をとること。
通常のコントラクトでは、取るべきトリック数を最適にする必要が有る…
1トリック余分に取れる可能性が50%を超えて居るなら、コントラクトが落ちる危険を冒してでも、それを狙え。
IMPでは、
2台や3台でOC(オーバーコール)することは、とりわけバルの場合慎重にせよ。大惨事を避けるため。
マッチポイントでは、
浮き浮きしたビッドをすることを、特にノンバルのときは、これがその日の日訓だと心得よ。主目的は弱い尖った手でビッドに参加し、敵のビッドを引っ掻きまわして、脱出すること。
IMPでは、
パートスコアにダブルを掛ける(ゲームになる場合)のは2ダウン以上する見込みが有るときだけにせよ。計算違いで1ダウンしかしなければ失望する程度で済むが、
…作らせでもしたら1試合全部を失うことにもなるのだ。
マッチポイントでは、
バルのパートスコアにダブルを掛ける(ゲームになるが)ことは極く普通である。なぜならバルの1ダウンの200点は、どのパートスコア(訳注 最高で140点)にも勝つのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(抜粋ここまで)
この先にも数項目ありますが、一般的で重要なほうから書いて有ると思います。
感想. 或る程度は分かっていたにしても、こうやって整理されたものを読むと、全くの初心者を別にすれば、全然違うゲームだったということですね。
"Bridge Scoring, Strategy, and Tactics” by Pete Matthews, revised November, 2009から抜粋してご紹介します。
或る程度は誰でも知って居ることだし、昔からいろいろな人が言ったり書いたりして来たテーマですが、MITのブリッジクラブ(学生だけでなく教員やOBがむしろ主体らしい。)の代表的リーダーであるPete Mathews博士が2年足らず前に改訂したばかりのこの(恐らく新人のための)解説は、最も知的で現代性が高いという位置づけが出来るでしょう。
なおMITではブリッジの本やレクチャーノート(講義録)も多数出版されて居ます。残念ながら日本の大学とはレベルが違うような。
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IMPの場合、スラムとか大きなペナルティの手一つだけで、試合の最終結果が決まり得る。
これに対して、
マッチポイントは頻度のゲームである。悪いスコアが有ってもその1ボードだけの問題に過ぎず、他の23ボードが同等に大切なのだ。(訳注 つまりどの手も平等に24分の1の価値が有る。或いはそれだけの重要性しか無い。)
IMPの主戦略は、コントラクトを作ることと、敵のコントラクトを落とすことだ。オーバートリックはコントラクトが出来ることに及ぶ価値は無く、しばしば取るに足らないちっぽけなものでしかない。
マッチポイントの主戦略は、10点でもよいから、出来るだけ多くの敵より高い点をとること。
通常のコントラクトでは、取るべきトリック数を最適にする必要が有る…
1トリック余分に取れる可能性が50%を超えて居るなら、コントラクトが落ちる危険を冒してでも、それを狙え。
IMPでは、
2台や3台でOC(オーバーコール)することは、とりわけバルの場合慎重にせよ。大惨事を避けるため。
マッチポイントでは、
浮き浮きしたビッドをすることを、特にノンバルのときは、これがその日の日訓だと心得よ。主目的は弱い尖った手でビッドに参加し、敵のビッドを引っ掻きまわして、脱出すること。
IMPでは、
パートスコアにダブルを掛ける(ゲームになる場合)のは2ダウン以上する見込みが有るときだけにせよ。計算違いで1ダウンしかしなければ失望する程度で済むが、
…作らせでもしたら1試合全部を失うことにもなるのだ。
マッチポイントでは、
バルのパートスコアにダブルを掛ける(ゲームになるが)ことは極く普通である。なぜならバルの1ダウンの200点は、どのパートスコア(訳注 最高で140点)にも勝つのだから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(抜粋ここまで)
この先にも数項目ありますが、一般的で重要なほうから書いて有ると思います。
感想. 或る程度は分かっていたにしても、こうやって整理されたものを読むと、全くの初心者を別にすれば、全然違うゲームだったということですね。
マッチポイントでは、
浮き浮きしたビッドをすること、
には反対です。MPではビッドは控え前に、です。
原文では、
frisky 1.活発な、(犬などが)良くじゃれる。
2.タイトルみよ。
で、「浮き浮きした」と訳して見た次第。
語釈2があるから京都弁の「嬉しそう」を思いました。愚妻は「はしゃいでいる」と表現しました。
原文の趣旨では、「じゃれつく」感じが一番合ってるような気もします。
>1トリック余分に取れる可能性が50%を超えて居るなら、コントラクトが落ちる危険を冒してでも、それを狙え。
In normal contracts, you need to optimize the number of tricks you take, possibly risking the contract when the odds favor gaining a trick.
の事を指しているのなら、多分英語の問題というよりは読み手の理解力の問題なんでしょうね……。
こういう根本的な誤解、誤訳を平気でやって、「最も現代性が高い」「レベルが違う」とか賞賛してみたり、間接的に何かしら他の物を批判してみたりしてもあまり説得力が無いでしょうね……。
私は英語の専門家でも何でもないので、ただ単にブリッジというゲームの意味において、の話です。
「the odds favor gaining a trick」
というのは、単に”アップトリックを取る事がオッズに合っている場合は~”という事で、ここでのオッズに合うというのは必ずしも50%ではないという事を理解した上で、あえて「50%の事が多いからそう書いた」のか分からなかったもので。
MPでは(別にIMPでも一緒ですが、MPだと顕著という意味)他テーブルのコントラクト(とプレイ)によってオッズも変化するというのを考慮した上で書いてるのか気になったというだけで、特に大した話ではありません。
というか、原文の方にサクリファイスやスラムの話で、相場を読む例が書かれてあると思いますが、それと同じ状況は別にプレイ中にも生まれますね、という話です。この記事中に相場の話が殆ど書かれてなかったので余計に気になったので。
例えば、自分は今2Sをプレイしているとします。しかし、理由は何でもいいのですが、例えば普通の人間がビッドしないような4-3フィットの2Sをやってるとして、どうも他テーブルは1NTジャストメイクが相場なのではないか、とハンドから判断出来れば、2Sはジャストメイクで十分トップスコアになります。90に対して110取ってればいいので、それを140にしても何も改善しないので。(正確には、110を140にすれば2S2メイクのペア数の半分のMPをゲインします。110を-50や-100にすれば、2S2メイクのペア半分に加えて、1NTジャストメイク等の100~0の全ペア数と同じMPを失います。これらが1:1でないなら50%でないということですね)
精密なシステムを上手く運用して(例えばビッグクラブの1Cから始まったとか)フィールド的に誰も置いてないであろうスラムをビッドして、12トリック見えたなら13個目を無理に狙う必要はないですよね。
逆に、普通にやってれば皆4M4メイクはしてそうなコントラクトで3NTにたどり着いてしまった…となると、50%どころでなく死ぬ気で4メイク以上を狙う必要がある状況もあるわけです。もし他テーブルが全て4M4メイクなら、ほぼ0%に近くても4メイクを狙うのが”オッズに合う”ということですね。
コントラクトが他テーブルと同じでも、プレイの展開でオッズが変わる可能性はあります。何らかの理由で”得をした”(または損をした)場合ですね。OLはHもSもいずれもあり得る…という時に、打ち抜かれないスートを打たれて頭から9個ある3NTなら取ったほうがいいかもしれません。敵が振り込んだりミスしてすでに1個増えているならもう増やす必要がないかもしれません。
「このフィネスが効いているのなら+650に出来るが、競り合って来た敵側のコントラクトは大量に落ちて+800に出来るはずだから、効いてもその時点で多くのペアに負けている」とかいう情報がプレイ中に得られるかもしれません(実際そのようなプレイを解説していたプレイヤーも見たことはあります)
そのような相場を読んで、適切な数のトリックを取ることを、optimizeと言っているのだと私は解釈したということです。
それは全くありません。MPの戦法については、私は全く白紙の立場から、そろそろ或る程度は学ぶ必要があると思い始めた段階なので、読者諸賢の御教示を率直に歓迎しています。
貴方様のような知性と、恐らく数理的な教養もお持ちらしいプレイヤーが、マッチポイントの際にどれだけ深く考えて居られるか、一端を知ることが出来たことを、嬉しく思います。
ここでの"optimize"(最適化)が何であるかは、原著者に訊かねば分からないし、原著者も都合のよい抽象的な言葉を使って、簡単に纏めたのでしょうから、例えば新人向きには、(MITといえども)、静的な確率評価(推定)でシンプルに扱えば、私が書いたようにも割り切れるかもしれないし、一方で、貴方様のような一定レベル以上のプレイヤーの議論としては、動的な確率評価(場とプレイの展開に応じて確率分布の推定値が変わる)に基づく議論あるいは理論でなければ、読むに堪えないということになりそうなことは、良く理解できます。
ついでですが、私は簡単のためにこのブログでは「確率」という言葉を使って居ますが、ブリッジの合理的なプレイは「確率」では説明がつかず、遺憾ながら「ファジー値」の方が、まだマシだということは、一言お断りしておきます。※
なお近日中に別項で取り上げるつもりですが、マシューズ博士の論文(?)の中に、「マッチポイントに於けるサクリファイスは〝パーレイ〟である。」と書いて有りますね。これについても、当該トピック掲載後、御高見を頂ければと思います。
※ 折原良平博士の筑波大修士論文。指導はオペレーションズ・リサーチや統計学も守備範囲にしていた辻尚史現千葉大教授(マイクロブリッジ製作者として著名な内田氏の、東工大時代のコンピュータとブリッジ両面に亘る指導者)と私。