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12/25(日)読響みなとみらい名曲「第九」/キレ味抜群のリズム感で生命観に満ちた快演

2011年12月26日 02時11分14秒 | クラシックコンサート
読売日本交響楽団/第52回 みなとみらいホリデー名曲シリーズ「第九」

2011年12月25日(日)14:00~ 横浜みなてみらいホール S席 1階 C2列 14番 4,100円(会員割引)
指 揮: 下野竜也
ソプラノ: 木下美穂子
メゾ・ソプラノ: 林 美智子
テノール: 高橋 淳
バリトン: 与那城 敬
合 唱: 新国立劇場合唱団
合唱指揮: 三澤洋史
管弦楽: 読売日本交響楽団
【曲目】
ヤン・ヴァン・デル・ロースト:「カンタベリー・コラール」
ベートーヴェン: 交響曲 第9番 ニ短調 作品125「合唱付き」

 今冬2回目の「第九」は読売日本交響楽団のみなとみらいホリデー名曲シリーズで聴くことにした。読響が他のオーケストラとは違って、年末恒例の第九演奏会を定期演奏会シリーズのプログラムに組み込んでしまっているところだ。読響の12月の定期シリーズでは、サントリーホールの「定期演奏会」を除く「サントリーホール名曲」「オペラシティ名曲」「オペラシティ・マチネー」「みなとみらいホリデー名曲」の4つの定期シリーズ「第九演奏会」となる。第九の特別演奏会は通常の定期公演よりも価格設定が高いから、定期会員だと会員価格で第九を聴けるので、かなりお得感がある。読響では、定期以外でも第九特別演奏会をサントリーホールと東京オペラシティコンサートホールで開催するので、12月に6回のコンサートが開催されることになっている。
 今年の指揮者は読響「正指揮者」の下野竜也さん。4名のソリストは、昨年と全く同じで、木下実穂子さん(ソプラノ)、林 美智子さん(メゾ・ソプラノ)、高橋 淳さん(テノール)、与那城 敬(バリトン)さんという、二期会の強力メンバー。合唱も昨年と同じ、三澤洋史さん率いる新国立劇場合唱団。昨年は指揮者のヒュー・ウルフさんの音楽作りが今ひとつ好みに合わず、かなり不完全燃焼だったので、今年の下野さんに期待していた次第である。

 第九の演奏に先立って、プログラムには載せられていなかったが、ヤン・ヴァン・デル・ロースト作曲の「カンタベリー・コラール」が演奏された。これは東日本大震災の被災者の方々へのメッセージをこめてのもの。コラールの名があるが弦楽5部による合奏曲で、心が洗われるような美しい旋律とハーモニーの曲だった。

 合唱団とオーケストラの管楽器・打楽器のメンバーが入場、チューニングが終わると、珍しく曲の始めから4名のソリストも登壇した。
 オーケストラの配置はいつもと違い、第1ヴァイオリンの対向にチェロがいるその後方にコントラバス。。つまり弦5部は指揮者を取り巻いて高い方から低い方へと淳に並ぶ。当然第4楽章の「歓喜の主題」の提示部分を意識したものだろう。ティンパニと大太鼓らの打楽器は左の奥。合唱団は4声を分けていたようで、半分から左側が女声、右側が男声だった。ソリストの4名はオーケストラの後ろ、合唱団の前だった。昨年同様に指揮者の左右で歌ってくれるものと期待していたので、ちょっと残念。

 第1楽章。下野さんの指揮は速めのテンポで、リズムを正確に、しかもダイナミックに刻んで行く。馬力のある読響サウンドとの相性もピッタリ(正指揮者だから当たり前だ)で、推進力の溢れる躍動的な演奏だ。印象としては、哲学的な苦悩を描くには、音楽がプラス指向で前向きすぎるような気もしたが(意外にも暗さが感じられない)、これは悪い意味ではない。若々しい、行動力があるが故の苦悩や迷いのようにも聞こえ、日本の伝統的な重厚かつ謹厳な第1楽章に対して、新しいイメージが湧き上がってきた。なかなか素敵な演奏である。

 第2楽章のスケルツォも、速めのテンポで、とくにリズム感が鋭い。下野さんの指揮を見れば一目瞭然で、オーケストラに解釈を正確に伝えようという強い意志が感じられる指揮棒の振り方である。その駆け抜けるようなリズムの刻み方に対して、正確なアンサンブルでピタリと付いていく読響もお見事。

 第3楽章の緩徐楽章もどちらかといえば速めのテンポだ。天国的な調べも快調なペースで流れていく。弦のアンサンブルが美しく、木管の柔らかな空気感も素敵だ。

 第4楽章は、冒頭のPrestoから怒濤の押し出し。読響のパワー溢れる管楽器群がリズム感良く展開し、低弦のレチタティーヴォも厚みと力強さがある。第1~第3楽章が再現された後、歓喜の主題が始まるわけだが、チェロとコントラバスではじまり、2回目はヴィオラ、3回目はヴァイオリンへと、低い方から高い方に音域が上がっていくのに、今日のオーケストラの配置だと、右から左へ主旋律が移動していき、ステレオ効果が生まれる。
 バリトンの与那城さんが「O Freunde, nicht diese Töne!」を歌い始める。オペラで鍛えた声量は抜群。バリトンなのに突き抜けるような声質は、昨年聴いた時よりも硬質な印象だった。
 テノールの高橋さんは、やや軽めながら張りのある声がよく通り、やはりオペラの主役級の実力を発揮していた。昨年よりも歌いやすそうな感じで、素晴らしい歌唱だった。
 メゾ・ソプラノの林さんも、第一級の実力派だけに、独特の暖かみのあるメゾの声がよく通っていた。
 ソプラノの木下さんは、残念なことにただ一人、私の席の位置からは奏者の影になってまったく姿が見えず、従って一人だけ声が曇って聞こえたため、林さんの声と混ざって聞こえるような印象だった。
 総じて4名のソリストは、昨年と同様に、かなりハイ・レベルな独唱を聴かせていたといえる。さすがに日本でトップ・クラスのオペラ歌手というべきで、大会場で、オーケストラをバックにしてもまったく負けない、強さとコツのようにものを持っている。メンバーが変わらないというのも安定感を生み出しているに違いない。ちなみに、この4名のソリストは、来年の読響の第九にもすでに名を連ねている。
 一方、肝心の合唱だが、日本で唯一の常設プロ合唱団といわれる新国立劇場合唱団が、安定した実力を発揮していた。逆にとくに際立った印象が感じられなかったのが不思議といえば不思議だ。オーケストラのキレ味が鋭すぎたために、相対的に合唱の立ち上がりが鋭さを欠くように聞こえてしまったのかもしれない。

 今日の読響の第九は、読響の特徴が遺憾なく発揮されていたといっていいだろう。瞬発力と爆発力のある読響だが、今日はアンサンブルも精緻であったし、リズム感も抜群、金管楽器の乱れも今日はなかった。とにかく緊張感の高さが最後まで持続して、素晴らしい演奏を聴かせてくれた。もちろんそれを引き出しているのは下野さんのタクトだ。全楽章を通じて速めのテンポ設定で、聴く者をグングン引っ張って行く。推進力に満ちていて、音楽の流れが一貫している。全体の構造感もしっかりしていたとは思うが、強く感じたのは瞬間瞬間の瑞々しさだろうか。ダレた箇所がまったくなく、生命力に溢れた、素直に感動できる「第九」であった。昨年と違って、古戸指揮大いに満足できる「第九」であった。

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