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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/23(金)東京・春・音楽祭/辻彩奈ヴァイオリン・リサイタル/丁寧かつ大胆/力感溢れる表現で常に前向きな発揮度

2018年03月23日 23時30分00秒 | クラシックコンサート
3/23(金)東京・春・音楽祭/辻彩奈ヴァイオリン・リサイタル/丁寧かつ大胆/力感溢れる表現で常に前向きな発揮度

東京・春・音楽祭 〜東京のオペラの森2018〜
ミュージアム・コンサート
辻 彩奈 ヴァイオリン・リサイタル

2018年3月23日(金)19:00〜 国立科学博物館・日本館講堂 自由席 1列 中央やや左寄り 3,600円
ヴァイオリン:辻 彩奈
ピアノ:大須賀恵里
【曲目】
グノー:アヴェ・マリア
J.S.バッハ/ウィルヘルミ編:G線上のアリア
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第5番 ヘ長調 作品24「春」
パガニーニ:24の奇想曲 作品1 より
      第21番 イ長調
      第24番 イ短調
エルンスト:シューベルト 『魔王』 の主題による大奇想曲 作品26
クライスラー:愛の悲しみ
       愛の喜び
       美しきロスマリン
       中国の太鼓
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
《アンコール》
 ファリャ:スペイン舞曲
 パラディス:シチリアーノ(Sicilienne)

 東京では毎年、3月から4月にかけて「東京・春・音楽祭 〜東京のオペラの森2018〜」が開催される。大小様々なコンサートが上野地区で開かれ、大きいものは東京文化会館・大ホールで行われるオペラ公演(ただしコンサート形式)から、小さいものは上野公園内に点在する博物館・美術館などで開催されるミュージアム・コンサートなどまである。本日の公演は、国立科学博物館の中にある日本館講堂で開催される、辻 彩奈さんのヴァイオリン・リサイタルだ。
 辻さんとは、およそ1ヶ月前の2018年2月28日に東京芸術劇場で開催された「都民芸術フェスティバル/オーケストラ・シリーズNo.49/新日本フィルハーモニー交響楽団」でシベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏した際に顔見知りとなった。だから特別にというわけではないが、いつものように早めに会場入りして並び、ヴァイオリン・リサイタルを聴くには最良のポジションである(と確信している)最前列のセンターよりやや左寄りの席を確保した。ヴァイオリニストが正面に、ピアニストは鍵盤が見える位置になる。ピアノはもう少し右寄りの方が正面になるため本来の音が聞こえるが、ヴァイオリンとの音量バランスを考えると、やはりセンターよりも左寄りがベストだと思う。

 さて、辻さんはただ今売り出し中の若手バリバリのヴァイオリニスト。2013年の「第82回 日本音楽コンクール・ヴァイオリン部門」で第2位を受賞した際(当時高校1年生)の本選会でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴いたことがあるのと、先日のシベリウスを聴いたほか、室内楽のメンバーに加わっているのを聴いたことがあるくらいで、考えてみるとリサイタルは今回初めてであった。
 上記の曲目を見れば分かるように、今回はヴァイオリンの名曲を集めている。前半はベートーヴェンの「スプリング・ソナタ」をメインに、後半は超絶技巧ものを交えて小品の名曲をズラリと並べた。デビューして間もないニューフェースのプログラムとしては、王道を行くもので、誰でも知っている名曲で技巧面と表現力を伝えることができることになるだろう。2016年には「モントリオール国際音楽コンクール」に優勝するまでに成長した実力のほどは? 興味津々である。ピアノはベテランの大須賀恵里さん。


 グノーの「アヴェ・マリア」はピアノの分散和音に乗せて、辻さんは比較的強い押し出しで大らかに歌わせて行く。バッハの「G線上のアリア」は淡々と刻むピアノに対比させ、ヴァイオリンが抑制的な中にも情感豊かな語り口であった。

 続くベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ 第5番「春」は、本日のリサイタルの中では唯一のソナタ。構成力が見られるのはこの曲だけだ。第1楽章はやや遅めのテンポ感だろうか。辻さんのヴァイオリンはかなりしっかりとしたタッチを持っていて、音の立ち上がりが明瞭で、音にも力感がある。解釈も明瞭で、造型がハッキリしている。ひとつひとつの音がハッキリとしたカタチを持っていて、力強いという印象の演奏である。「春」という標題にとらわれることなく、純音楽的にベートーヴェンに向き合っている感じだ。
 第2楽章の緩徐楽章でも、誰もがこの曲に感じる標題性にとらわれることなく、純粋にスコアが読み出した音楽を創り出しているという印象だ。ひとつひとつの音がくっきり明瞭なこともそうした印象を創り出しているようだ。
 第3楽章のスケルツォは、鋭く弾みキレ味もある。
 第4楽章のロンドは、ピアノが提示する主題を受けて、ヴァイオリンが力強く繰り返していく。経過的なパッセージにも力感がいっぱいで、全体的にも力強く、エネルギッシュだ。ダイナミックレンジも広く、音量もたっぷり出ている。ただしテンポはあまり速くなく、演奏自体は非常に丁寧。そのためか、演奏者の意志がリアルなカタチとなっているように感じられた。緩衝
ロマンティシズムにとらわれず、ベートーヴェンの強い人格の部分を描き出している、そんな雰囲気の演奏であった。
 もしかすると響きの薄いホールで、目の前で聴いていることが影響しているのかもしれない。後方の席ではまた印象が異なるのかもしれなかった。

 後半は、まずパガニーニの「24の奇想曲 作品1 」より「第21番 イ長調」。重音奏法の朗々とした主題の歌わせ方が力感と抒情性を織り交ぜて素晴らしい。速いパッセージの流れるようなスピード感も、エネルギッシュでパワフルだ。続く「第24番 イ短調」のいわゆる「ラ・カンパネラ」は、無伴奏・超絶技巧の代名詞のような曲だ。辻さんのヴァイオリンは、圧倒的に豊かな音量と、発揮度の強さが特徴的だ。技巧的には安定していて淀みなく、むしろその技巧の上に乗せた表現部分の押し出しの強さが持ち味というか、個性だといえる。悪魔的な奏者であったパガニーニ自身も、このような強烈な押し出しの演奏をしたに違いない。

 続いて、エルンストの「シューベルト 『魔王』 の主題による大奇想曲」。エルンストはパガニーニ以上ともいえる超絶技巧の持ち主であったろうことは、残された曲からも推測できる。よくもまあこんな曲を作ったものだと呆れるばかり。しかし最近の若手のヴァイオリニストはこの手の曲に果敢にチャレンジして、またそれをモノにしてしまうから驚きだ。


 ここからは再び大須賀さんのピアノ伴奏が加わり、グッと雰囲気を変えてクライスラーの名曲集となる。クライスラーといえば、小粋で洒脱なウィンナ・ワルツが持ち味だと思うが、辻さんのアプローチはちょっと雰囲気が違っていた。「愛の悲しみ」は感情を前面に押し出し、とくに中間部で訴えかける熱い思いが印象に残る。
 「愛の喜び」は、元気いっぱいで若いエネルギーが満ち溢れている。はち切れんばかりの躍動感は、聴く者をグイグイと引っ張って行くようであった。
 愛の三部作の最後「美しきロスマリン」は、一番感情を抑えている曲だが、辻さんのヴァイオリンはここでも前向きで感情を表に出してくる。音が明瞭な点もそうした印象の元になっているようだ。
 「中国の太鼓」は一転してクライスラーもまた超絶技巧の持ち主だったことを偲ばせる。辻さんのヴァイオリンはどんなに速いパッセージであってもひとつひとつの音がクッキリ明瞭なカタチをもっているから、あまりスピード感を感じさせないが、テンポは速く、彼女もまた超絶技巧の持ち主だということなのだろう。

 プログラムの最後は、サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」。「序奏」はそれまでの曲に比べると陰影の深い演奏に感じたが、「ロンド・カプリチオーソ」に入ると、強い個性が前面に出てくる。鋭いボウイングが生まれる立ち上がりのハッキリした音と、広いダイナミックレンジ、メリハリの効いた表現などが、力強い音楽を創り出している。超絶技巧もそれ自体を押し出しの強い表現に変えてしまう。この押しの強さは相当なモノで、これだけ訴えるチカラが強ければ、聴く者の心にも届くモノが多いはず。

 アンコールは2曲。まずはファリャの「スペイン舞曲」。こちらはスペイン風の「熱い」情感がエネルギッシュに押し寄せてくる。
 最後はパラディスの「シチリアーノ」。今日のリサイタルの中で最も落ち着いた、内面を見つめるような情感を歌い上げる演奏だったかもしれない。

 それにしても、アンコールを含めて今日の選曲は古今東西のバラエティに富んでいる。それだけ、特定の分野に偏らず、幅広いレパートリーに取り組んでいるということなのだろう。
 いずれにしても、辻さんの演奏は発揮度が強い。最近の日本人の若手ヴァイオリニストの中では珍しいタイプかもしれない。作曲家が言いたかったことを演奏家が音に変えて代弁する。その際には一切のためらいはなく、あくまでダイレクトでストレートだ。これは辻さんの若さに起因するのではなく、あくまで個性なのだと思う。国際的なレベルでの評価を得るためには、このような個性を発揮することも重要な要素だ。少なくともソリストとして活動していくためには欠くべからざることだろう。

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【お勧めCDのご紹介】
 辻 彩奈さんがソリストを務めているちょっと珍しいヴァイオリン協奏曲のCDをご紹介します。NAXOSから出ている「シャルル=オーギュスト・ド・ベリオ ヴァイオリン協奏曲集」です。共演は、ミヒャエル・ハラース指揮/チェコ室内管弦楽団パルドビツェ。ベリオ(1802〜1870)はベルギーのヴァイオリニスト・作曲家で、フランス・ベルギー楽派の創始者に位置付けられます。収録されているのは、ヴァイオリン協奏曲の「第4番 ニ短調 作品46」「第6番 イ長調 作品70」「第7番 ト長調 作品76」「エール・ヴァリエ 第4番 作品5『モンタニャール』」「バレエの情景 作品」。いずれも独奏ヴァイオリンとオーケストラのための作品で、パガニーニのヴァイオリン協奏曲にちょっと似ているような感じのロマン派の美しい楽曲です。辻さんのヴァイオリンが明るく伸びやかに歌っています。

シャルル・オーギュスト・ド・ベリオ:ヴァイオリン協奏曲集
NAXOS
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