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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/18(水)N響Bプロ定期/中野翔太のグリーグP協奏曲とアシュケナージのエルガー交響曲第1番

2014年06月20日 00時11分55秒 | クラシックコンサート
NHK交響楽団 第1786回定期公演 Bプログラム《1日目》

2014年6月18日(水)19:00~ サントリーホール S席 1階 1列 22番 6,934円(定期会員券)
指 揮: ウラディーミル・アシュケナージ
ピアノ: 中野翔太*
管弦楽: NHK交響楽団
【曲目】
シベリウス: 組曲「恋人」作品15
      1.恋人 2.恋人のそぞろ歩き 3.別れ
グリーグ: ピアノ協奏曲 イ短調 作品16*
エルガー: 交響曲 第1番 変イ長調 作品55

 もともとまったく予定してはいなかったNHK交響楽団の定期公演Bプログラムを聴くことになった。直前に知人からチケットが余っていると声をかけられたのだが、N響のBプロ(サントリーホール)で1階1列の中央、指揮者の真後ろの席で聴ける機会は滅多にないので、付き合うことにしたのである。プログラムを見たら中野翔太さんがグリーグのピアノ協奏曲を弾くというので、それを目当てに聴きに行くことにしたという側面もあった。実は、中野さんは昔から知ってはいるが、演奏を聴いたことが一度もなかったからである。
 ご承知のように、N響のBプロ定期は水・木の2日公演であり、水曜日の公演はテレビの収録とFMのナマ中継が入る。そこでFMの放送を録音しておき、後で聴き比べをしてみようと考えた。放送用の録音はマルチ・チャンネルでピックアップされるが、天井からブラ下がっているメインのステレオ・マイクは、ちょうど1列目座席の真上にあるのだ。サントリーホールの豊かな音響空間に浮かんでいるそのマイクは、ステージ上のすべての楽器とほぼ等距離にある。つまり聴く場所としては最高のポジションなのである。全国に放送されているのは、そこで得られる音源に多チャンネルでピックアップした音をミキシングしたもの。それに対して会場で聴く私たちは、固定された定点で聴くことになるので、だからこそ席選びが重要になってくるのだ・・・・・。

 とまあ、あまり音響のことばかり言っていても仕方がないので、やはり演奏会のことに話を戻そう。
 まず1曲目は、シベリウスの組曲「恋人」。弦楽合奏版だがティンパニとトライアングルが加えられている。もともとは合唱曲として作曲されたもので、シベリウス自身の手によりたびたび編曲されているようだ。第1曲の「恋人」は静かで優しげな美しい弦楽合奏で始まる。N響の演奏はさすがに上手く、緊張感を感じさせない柔らかさで、淡々とした調子で語りかけるようであった。第2曲の「恋人たちのそぞろ歩き」は、ヴィオラやチェロ、コントラバスのピツィカートが軽快にリズム感を出している。第3曲の「別れ」はコンサートマスターの堀正文さんのソロをたっぷりと聴かせてくれた。甘い音色が情感をそそる。感傷的な旋律に対して、N響の演奏は力みがなく自然なアンサンブルを聴かせていた。アシュケナージさんの指揮ぶりはいつものように固くぎごちない動きを見せているが、演奏の方はレガートが極めて美しく、絹のような滑らかさだった。
 聴いている席の位置が指揮者の真後ろなので、第1ヴァイオリンとヴィオラのステレオ効果は抜群で、こうも見事なアンサンブルだと、各声部の組み立てが手に取るように分かる。ちなみに今日は、ヴィオラの首席はゲストのウィルフリート・シュトレーレさん(元ベルリン・フィル)である。一方、FM放送の録音を聴くと、こちらはCDを聴いているようなバランスの良さ。チェロやコントラバスまでがクッキリと聞こえていた。

 2曲目はグリーグのピアノ協奏曲。さすがにピアノの真下で聴いていると、ピアノの音が大きすぎて、いささか耳を覆いたくなる気分になることもある。もちろん演奏がどんなに素晴らしくてもそれは無関係で、強音は他の音をすべてかき消してしまうほどの音圧が押し寄せてくる。一方、弱音部はピアノの1音1音の繊細なニュアンスが手に取るように分かるので、そういう魅力もあることは確かだ。あとは好みの問題だろう。また、目の前の大部分をピアノが占めているため、オーケストラの他のパート、とくに中央ラインにいる木管楽器の音がかなり邪魔されてしまって聞こえにくいことも事実だ。
 第1楽章は、中野さんのピアノが瑞々しく、素晴らしい持ち味を発揮していた。小柄な身体から繰り出す重低音はそれほど強烈なものではないが、むしろ打鍵の鋭さにより、演奏がキリリと締め上げられている印象である。弱音部においても、協奏曲ということもあって比較的大きく音を出していたようだ。速いパッセージの部分などでは、弾き急ぎをする箇所が数カ所感じられたのがちょっと惜しいところだ。一方、アシュケナージさんの指揮するN響の演奏は、全体に角がなくまったりとしていて、いささかダルく感じられた。中野さんのピアノとの対比という点ではメリハリが効いて良さも現れてくるが、北欧のキーンと張り詰めた空気感のようなものはあまり感じ取れなかった。
 第2楽章はとても繊細で美しい緩徐楽章だが、オーケストラ側が抑揚が少ない一本調子な感じで、ピアノも今ひとつリズムに乗り切れていない様子であった。
 第3楽章はピアノとオーケストラの掛け合いがスリリングに展開する。肝心なのはリズム感というところだ。アシュケナージ節は、どうも私にはリズム感のキレが悪いように感じられるのは昔から。今日もその感じは否めなかった。中野さんのピアノとのリズム感が、ときどき微妙なズレを生じているような気がしてならないのである。
 そして、ここではさすがに席位置の不利な点が強く出てしまった。ピアノがガンガン弾かれているとオーケストラの音がほとんど聞こえなくなってしまう。音は空気の振動する波であり、距離の二乗に反比例して減衰する・・・・(?)。早い話がピアノが近すぎるのである。録音の方を聴いてみると、この問題はまったく見事に解消されている。ピアノの音量は適切で、木管群も極めてクリアーに聞こえる。中野さんのピアノも繊細にして可憐。北欧系の澄んだ音色のイメージが見事に演奏されている。しかし、逆に私が目の前で感じた彼の叩き付けるようなパワフルな要素はまったく感じられなくなっている。これでは評価もまったく異なるものになってしまいそうだ。聴く位置による感じ方の違いは、かなり微妙でシビアな問題として捉える必要がある。

 後半は、エルガーの交響曲第1番。。1908年、英国のマンチェスターで初演されている。当時まだ、本格的な交響曲作品を持たない英国では、エルガーの交響曲への期待が高く、実際に初演以来大成功を収め、1年以内に世界各地で82回も演奏されたという。現在でも演奏される機会は少なくはないが、かといって特に傑作・名曲という認識には至っていないようである(少なくとも日本では)。
 第1楽章は、序奏にいきなり現れる「高貴で簡潔なモットー」と呼ばれる動機が、全4楽章の支配的な動機になっていて、いわゆる循環主題のような形式となり、全曲に統一的なイメージを与えている。序奏に続くソナタ形式の主部はニ短調が主となるやや暗い色調に変わる。
 今日の演奏は、弦楽の透明感のあるアンサンブルをベースにした落ち着きのあるものであった。木管群がとくに美しい音色を聴かせていたのが印象に残る。冒頭に例の「モットー」が内声部のヴィオラによっと非常に美しく演奏され始めたとき、なるほどゲスト首席のシュトレーレさんを呼んだ理由がこの辺にあったのかと納得した。ソナタ形式の主部に入ると私の席位置だと弦楽が左右に分離してしまい、不協和に聞こえるような気がして、やや混沌としたイメージの演奏だと感じていた。これは、録音で確認したら、もちろん美しいハーモニーになっていたので、あくまで聴く位置の問題であろう。
 第2楽章はスケルツォ楽章に相当し、焦燥感に満ちた荒々しい楽想のスケルツォ主題とトリオ部分の清冽な主題の対比が面白い。演奏の方は第1楽章と同じような印象で、全合奏になる激しい楽想の部分は、どうもまとまりがなく各パートがバラバラになって混沌としたイメージに陥ってしまう。何となくスッキリしないのである。他のオーケストラでも同じような席でいつも聴いているのに、こういう印象を得たことはない。抜群のアンサンブル能力を持つN響なのに、ちょっと不思議な感じがする。同時に、アシュケナージさんの指揮も、正攻法過ぎてメリハリが足らないような気もするのだ。
 第2楽章がスローダウンしてそのまま続けて演奏される第3楽章は緩徐楽章。美しく抒情的な主題が長く続く前半と「モットー」に基づく後半の二部形式。モットーが徐々に盛り上がりを見せ、感情が高ぶるような変化を見せ、劇的な印象を創り出す。ある意味、聴かせどころだろう。こういう部分でのN響の演奏は本当に美しく、その澄みきった音色の弦と木管は見事である。それぞれのフレーズに与えられている細やかなニュアンスの表現の素晴らしい。
 第4楽章は、序奏では「モットー」が現れるが、ソナタ形式の主部に入ると目まぐるしいというか、せわしないというか、そういった感じのする主題が複雑に入り乱れての展開となる。まあこれは、曲がそのような曲想なので致し方ないのだが、今日感じていた混沌として感じがまたまた現れて来て、聴いている方としてはモヤモヤしてしまう。その中で「モットー」が現れると霧が晴れたような、目の前が大きく開かれたような爽快な気分になるのだ。一旦また混沌とした状態に戻って、コーダに入ってから6/4拍子で壮大に「モットー」が現れるフィナーレは感動的。最後の爆発的な全合奏の音圧はけっこうスゴイものがあったが、それでもクールにアンサンブルをまとめている当たりはさすがにN響である。バランス良く録られている録音を聴くと、ある意味では優等生的なN響の音楽が聞こえてくるのだが、やはり多少はバランスが悪かろうが、手の届くような距離感の目の前で演奏しているN響の迫力にはかなわない。録音ではナマナマしいライブ感がまったく伝わって来ないのである。もちろん再生するオーディオ機器の性能にもよるのだろうが・・・・。

 さて今日の演奏を振り返ってみると、桂冠指揮者のアシュケナージさんとN響の演奏の特徴を探っている自分に気がつく。私はN響はたまにしか聴かないのだが、それでもN響の演奏技術が日本でもトップ(のひとつ)であることは理解している。奏者個々の技量も、アンサンブル能力も最高水準で間違いない。そして、アシュケナージさんの指揮は、非常にスタンダードで手堅くまとめる。その代わりにこの人でなければ聴けないという「個性」があまり感じられないのだ。良くも悪くも優等生的な両者の組み合わせは・・・・・。たまには火の出るようなスリリングな音楽を聴かせていただきたいものだ。

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【お勧めCDのご紹介】
 N響ではありませんが、アシュケナージさんが音楽監督を務めるシドニー交響楽団と録音したエルガーの交響曲第1番のSACDです。アシュケナージさんは旧ソ連から亡命した後、英国に活動の拠点を置いていたので、ロシアものに次いでエルガーを得意としているのですね。聴き応えのある1枚だと思います。

エルガー:交響曲第1番
アシュケナージ(ウラディーミル),エルガー,シドニー交響楽団
エクストン


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