Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/12(水)NHK音楽祭2011/ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団+河村尚子で「皇帝」と「英雄」を再び

2011年10月15日 23時45分47秒 | クラシックコンサート
NHK音楽祭2011「華麗なるピアニストたちの競演」第3夜
ベルリン放送交響楽団

2011年10月12日(水)19:00~ NHKホール S席 1階 C1列 16番 9,000円
指 揮: マレフ・ヤノフスキ
ピアノ: 河村尚子*
管弦楽: ベルリン放送交響楽団
【曲目】
ウェーバー: 歌劇「魔弾の射手」作品77 序曲
ベートーヴェン: ビアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」*
《アンコール》
 シューマン/リスト編:「君に捧ぐ(献呈)」*
ベートーヴェン: 交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
《アンコール》
 ベートーヴェン: 交響曲 第8番 ヘ長調 作品93より第2楽章
 シューベルト: 劇音楽「ロザムンデ」から間奏曲

 一昨日に引き続いて、ベルリン放送交響楽団のコンサート。今日は「NHK音楽祭2011」の主催公演第3夜に当たり、会場はNHKホール、NHK-FMの生中継放送とBSプレミアムのテレビ収録が入っている。一昨日の横浜みなとみらいホールでのコンサートとは1曲目の序曲が異なるだけのプログラム。会場が違うとはいえ、1列目のほぼ同じ位置の席で聴いたのに、印象はかなり異なるものになった。
 同じ演奏者で同じ曲目を日をおかずに続けて聴いたので、まず会場の違いによる響き方の相違に気がつく。3500人収容できるNHKホールはとにかく広い。ステージも広いし、客席の幅が広く天井も高い。空間が大きく拡がっていて音響もデッドなホールのため、音が拡散してしまう印象であった。従って、音量も一昨日ほど音圧を感じるほどでもなかった。もちろんそのことがマイナス要因になっているわけではない。
 同時に、1列目のセンターという位置は、ピアノの音に関しては横浜みなとみらいホールと変わらず、妙に響かない金属音になってしまい、あまり歓迎できるものではなかった。5列目くらいになれば、座席の位置が高くなりピアノの高さになるので、全く違う音になるに違いない(事実、NHK-FMの生中継放送の録音を聴いてみたら、予想通りに全く濁りのない、いつもの河村尚子さんのピアノの音だった)。今回は2回続けて、明らかに席位置での失敗である。ちなみにNHK音楽祭の時の席種は、1階センターブロック1~7列がS席、8~15列がSS席であった。

 さて1曲目は、ウェーバーの歌劇「魔弾の射手」序曲。聴く機会があるような、ないような、微妙な感じではあるが、ドイツ・ロマン主義音楽の初期の名曲である(1921年、ベルリンにて初演)。ドイツの森に響き渡る狩人の角笛…。何といってもホルンの音色が素晴らしかった。上手下手の問題ではなく、色艶というか、空気感というか、情景が目に浮かぶような雰囲気があった。これはどんなに上手くても日本やアメリカあたりののオーケストラでは出せない伝統、あるいは味わいのようなものである。その後に次々と現れるロマン的な旋律は、まさにお国ものの演奏であり、身体に染み込んだ音楽が自然に噴出してくるような、素晴らしいものであった。マレク・ヤノフスキさんの躍動的で推進力に溢れ、メリハリが効いた音楽作りは、やはりオペラの豊富な経験がもたらしたもののようだ。ゾクゾクするような緊張感と、ワクワクするような期待感を煽る、職人芸的な巧さであった。

 2曲目の「皇帝」は、基本的には一昨日と同じ演奏ではあったが、会場が広くなった分だけ、音そのものの凝縮度が低くなったようにも感じた。そのせいか、演奏自体はむしろ一層の緊密度が高く、エネルギッシュだったかもしれない。ツアー中で同じ曲を繰り返して各地で演奏しているにもかかわらず、今日のゲネプロでもヤノフスキさんはかなり細かな点までチェックして修正に及んでいたという。そんな彼の演奏へのこだわりが、広い会場に移ったことによって、音楽家魂に火を付けたのかも。後半の「英雄」はさらに迫力に満ちていたように思う。
 ピアノの河村さんの方は、ほぼ同じ調子で、流れるような自然な演奏。1回弾く毎に、音楽が血となり肉となっていくのだろう。演奏中の表情を見ていると、ごく自然体で、心に湧き上がってくる楽想を鍵盤に乗せていくといった雰囲気がよく伝わってくる。また時折見せる、鍵盤を見据えるキッとした視線の強さに、彼女の音楽に対する情熱が見て取れる。それでも紡ぎ出されるピアノは、流麗にして闊達、力みのないしなやかなフレージングが美しい。
 第2楽章の抒情的な主題に対して、ヤノフスキさんも河村さんもやや速めのインテンポ。スーっと淀みなく流れいてく音楽の中で、ピアノの主題がしっかりと歌っている。奏者の(ある意味で勝手な)思い入れを排しても、スコアに忠実な演奏を極めていけば、これたけの美しい抒情性が描き出されてくる。これはベートーヴェンの抒情性なのか、河村さんの抒情性なのか…。
 3楽章になると、少々疲れたのか、第1楽章と比べると、音がバラつく部分があるように感じた。もちろんほんのわずかな程度だが、短いフレーズの中で音の粒が不揃いになるような箇所がいくつかあったように思う。第3楽章の中盤以降は持ち直して、華麗に締めくくった。
 河村さんのアンコールは、シューマン作曲/リスト編曲の「君に捧ぐ」。いわゆる「献呈」であった。今年がリスト・イヤーということで、リサイタルでも何度も演奏されたのを聴いた。ここでも意外なくらいにインテンポ、作曲家たちの芸術に、妙な思い入れは入れないぞ、という信念が感じられた。今年の4月、震災の直後に聴いた時はもっと悲しみに満ちた演奏だったが、今では本来の河村さんの音楽が戻ってきているように思う。



 後半の「英雄」も二度目になると細部まで見えてくる。怒濤のごとき推進力、変ホ長調の明るい色彩で、豪快に突き進んで行く。その中に垣間見える哀愁を帯びたオーボエやクラリネットが美しい対比を生み出している。
 第2楽章の葬送行進曲も速めのテンポでグイグイと押して行く。普通よりは速いのだと思うが、第1楽章との対比で、緩徐楽章らしい落ち着きが感じられるから不思議だ。
 第3楽章のスケルツォの弾けるリズム感もドラマティックなら、第4楽章の変奏曲も多彩な表現力に満ちていて、フィナーレは迫力満点の爆発力を見せた。
 全体の演奏については一昨日と同じなのだろうが、今日の方がより緊密度が高くなっていたようにも思える。会場が広い分だけ、パワーもすこし増していたかもしれない。いずれにしても、素晴らしい「英雄」であった。オーケストラの配置は第1ヴァイオリンの対向にチェロを持ってくるという20世紀的なものであったが、演奏の方は一見してオーソドツクスなスタイルを守り保守的な感じがしなくもなかったのだが、二度聴いてみると、これは考え抜かれた現代の演奏なのだということが解ってきた。特に、全体に速めのテンポの中に堅牢な構造性を描き出し、虚飾を排して楽曲の本質に迫ろうとする試みは、72歳のヤノフスキさんが過去の蓄積で音楽を作っているのではなく、昨日よりも今日、今日よりも明日に、新たな可能性を追求しているものであろう。豊富な経験に基づくベテランの味わいを凌駕する、瑞々しい「英雄」だったといえる。ヤノフスキさんにBravo!!



 今日はNHK音楽祭だから、というわけでもないだろうが、アンコール2曲の大サービス。ベートーヴェンの交響曲第8番の第2楽章は、一昨日と同じだったが、もう1曲はシューベルトの劇音楽「ロザムンデ」から間奏曲だった。「英雄」や「皇帝」よりは20年以上後になるがベートーヴェンが第九交響曲を完成するより前の作品(1823年)であり、続けて聴くと、ロマン派がこうして生まれてきたのかと実感できる。ヤノフスキさんの演奏も「英雄」のような硬質さがなく、歌曲のような柔らかくて優しい演奏だった。

 なお、今日のコンサートの模様は、10月29日(土)、午後11時30分~翌午前3時30分に、NHK BSプレミアム『プレミアムシアター』で放送されることになっている。映像化されるとかなり客観的に見る(聴く)ことができ、ライブの雰囲気とはまた違った印象になるかもれないが、放送が楽しみである。

人気ブログランキングへ ← 読み終わりましたら,クリックお願いします。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 10/10(月・祝)ベルリン放送交... | トップ | 10/13(木)都民劇場/エディタ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事