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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/7(火)ロシア・ナショナル管/牛田智大のチャイコフスキーP協奏曲とプレトニョフ節炸裂のラフマニノフ

2015年07月07日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
ロシア・ナショナル管弦楽団 2015年 日本公演

2015年7月7日(火)19:00~ 文京シビックホール S席 1階 1列 23番 14,000円(会員割引)
指 揮: ミハイル・プレトニョフ
ピアノ: 牛田智大*
管弦楽: ロシア・ナショナル管弦楽団
【曲目】
グリンカ: 歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲
チャイコフスキー: ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 作品23*
《アンコール》
 チャイコフスキー:「6つの小品」作品19より「ノクターン」*
ラフマニノフ:交響曲 第2番 ホ短調 作品27
《アンコール》
 ハチャトゥリアン: 「仮面舞踏会」より「ワルツ」

 10日前の6月27日、「調布音楽祭」の特別公演に続いて、ロシア・ナショナル交響楽団の来日公演を聴く。今回はツアーのメイン・プログラムで、芸術監督のミハイル・プレトニョフさんは指揮に徹する。ピアノの牛田智大くんをゲストに招いてのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番と、ラフマニノフの交響曲第2番である。今回のツアーは、調布音楽祭から始まり合わせて8回のコンサートのうち、今日を含めて岩国、高松、上田、そして名古屋の5回が同じプログラムになっている。東京での公演は今日だけなので当初から聴く予定でいた。発売日に確保したチケットは、いつものように最前列のセンターだが、今日は牛田くんの協奏曲が目当てではなく、プレトニョフさんの指揮とロシア・ナショナル管の音を間近で感じ取りたかったからである。もっとも先日の調布で体験済みなので、今日の楽しみは何と言ってもラフマニノフの交響曲第2番ということになる。
 オーケストラの配置は、第1ヴァイオリンの対向に第2ヴァイオリンを置くというもので、第1の後方にチェロ、その奥にコントラバスを置き、第2の後方がヴィオラとなる。薄くなった上手側(右側)奥にティンパニがいる。

 1曲目はウォーミングアップには最適の『ルスランとリュドミラ』序曲。登場したプレトニョフさんは、どこか機嫌良さそうな、にこやかな表情だ。そして、この曲に対して敢えてかなり早めのテンポで軽快に引っ張っていく。得意の気ままなテンポの揺らしもほとんどなく、快速のテンポでオーケストラの実力を見せつけるようだ。弦楽の高速パッセージも高い緊張感でアンサンブルを合わせ、ティンパニを有効に使って、ダイナミックレンジを広く取り、メリハリの効いた、素晴らしい演奏だ。会場からは早くもBravo!が飛んだ。

 続いてチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲 第1番」。牛田くんはずいぶん大きくなり、プレトニョフさんとそれほど身長は変わらないくらいになったが、現在まだ15歳である。昨年の「せんくら2014」で少しだけ聴いたことがあるが、本格的な演奏を聴くのは初めてである。今回はロシア・ナショナル管のツアー・ソリストに大抜擢となったわけだが、いかにもプレトニョフさん好みのタイプ(?)のピアニストということらしく、特訓を受けたらしい。
 さすがのプレトニョフさんも、牛田くんが弾くピアノにKAWAIを押しつけることはなく、ホールのスタインウェイが使用されていた。先日の調布でプレトニョフさん自身が弾いたモーツァルトと曲が違うとはいえ、今日の牛田くんのチャイコフスキーとはあまりにも音質が違いすぎて、何というかあっけにとられる思いだった。聴いている位置は最前列のセンター、ピアノの真正面なので、先日と大して違わないのである。音量を出すための強めの打鍵による演奏をされると、最前列ではちとキツイ。ピアノの底から出てくる機械的な金属音が強く、弦と響板によるピアノらしい音は、上の方に飛んで行ってしまうのである。演奏云々ではなくて、音が聴くに堪えないレベルになってしまっていた。こればかりは最前列の席を選んでいるコチラが悪いので、文句を言っても仕方がないのだが・・・・。とはいうものの、先日のプレトニョフさんはKAWAIを使って柔らかく繊細な音を出していたのだから・・・・やはり世界の巨匠は格が違うということだろう。また会場の響き方にも問題があるのかもしれない。ホールの中央で聴いていた人によれば、ピアノの音が軽く薄く聞こえていたという。さてさて・・・??
 さて音がそんな状態だったので、演奏についてもあまり多くを語らないことにしよう。こちらはやや遅めのインテンポで、牛田くんが十分に実力を発揮できるように丁寧にサポートしているようであった。牛田くんのピアノはロシア系の師匠に付いて研鑽中ということもあるし、プレトニョフさんの特訓の成果もあるようで、曖昧さのないしっかりとした造形を持っている。堅牢で力強く豪快なイメージだ。ひつひとつの音符をしっかりと捉えて弾いているという印象もある。あまりメリハリはなく、一本調子のようにも聞こえるが・・・・。
 一方、オーケストラの方は協奏曲の常で、全体に抑え気味。少なくとも先ほどの序曲よりも抑えている。ただしこれもあくまで最前列のピアノの真下で聴いていての話である。ピアノが邪魔でオーケストラの音を遮ってしまうからだ。面白かったのは、演奏が見事なくらいにインテンポで揺らぎがない。何だか教科書的な演奏になっていて、とてもプレトニョフさんが指揮しているとは思えなかった。逆に彼がピアノを弾いていたら、気ままにテンポが踊り、自由度の高い独特のヒラメキに満ちた演奏をするに違いないのに・・・・。それでも曲が終わると、プレトニョフさんは牛田くんを絶賛していた・・・・。

 牛田くんのソロ・アンコールはチャイコフスキーの「6つの小品」より「ノクターン」作品19-4。コチラの方が大きな音量を出さず、瑞々しいロマンティシズムに彩られた素敵な演奏であった。

 後半はいよいよラフマニノフの「交響曲第2番」。大好きな曲のひとつである。これまで何度も聴いている名曲で、とくにロシアの指揮者やオーケストラで聴くと納得させられることが多い。アレクサンドル・ラザレフさんが指揮した日本フィルの演奏が個人的には最も気に入っているが、他にもユーリ・テミルカーノフさんの指揮したサンクトペテルブルク・フィルも泣かせる味わいがあった。さて今日は・・・・。
 第1楽章。序奏がメランコリックに始まり徐々に盛り上がっていく。初めからドラマティックに、もの言いたげな演奏だ。ソナタ形式の主部に入ると、第1主題から旋律を強い抑揚を付けて歌わせていく。はやくもプレトニョフ節炸裂といった感じ。第2主題を導くフレーズが突然(といえるほど)にテンポがグッと落とされ、第2主題は思い入れたっぷり、こんなに美しい音楽を皆なぜこうやって美しh\く演奏しないんだ、といわんばかりのねっとりと濃厚なロマンティシズムで描いている。展開部ではダイナミックに主題を展開させ、メリハリの効いた分厚くゴージャスなサウンドを轟かせた。他の人がやらない音楽を目指すというだけあって、非常にクセは強いが、これが彼一流の芸術表現なのである。
 第2楽章はスケルツォ。A-B-A-C-A-B-A-コーダの複合三部形式。スケルツォ主題の提示(A)は、現代のオーケストラらしく、クリアなサウンドで、軽快で機能的な感じさえする。それが中間部の抒情的な旋律(B)が出てくると、やはり急にテンポを落として、ねっとり濃厚に歌わせる。ヴァイオリンを中心とした弦楽の澄んだアンサンブルがとても美しい。次の中間部(C)を経てスケルツォ主題が戻り、再び現れるBの部分でのあからさまなねっとりとした表現は、ちょっとくどいと思われるかもしれない。それくらい濃厚なロマンティシズムを全面に、てらいもなく押し出している。
 そして極めつけの第3楽章。ここまで来れば、だいたい想像ができる。おなり遅めのテンポ設定で、あの感傷的で切なげな美しい主題を歌わせる。クラリネットがそよぐ風のように漂い、弦楽の透き通った厚みのあるアンサンブルが涙を誘うほどに美しい。ゆったりしたテンポでも冗長に成らないのは、実に細やかに、フレーズごとにニュアンスを変えて丁寧に歌わせているからだ。そして徐々に感情が高ぶっていき、クライマックスを迎えるときのロマンティックな高揚感・・・・。プレトニョフさんは不思議な人だ。強烈な「オレ様」ぶりや伝わって来る問題のある言動などから想像もできないような音楽を生み出してくる。そのガラス細工のような繊細な情感に満ちたこの楽章を聴いていると、この人の人格は、限りなく繊細で鋭敏な精神の天才芸術家のものであるのと思えるのだが・・・・。
 第4楽章はソナタ形式のフィナーレ楽章。第1主題の提示部分は躍動的で推進力があり、高揚感に満ちている。そして、憧れをいっぱい乗せた第2主題は気持ちを盛り立てるように、煽るように旋律を歌わせる。展開部を経て第1主題が形を変えて登場する辺りは、躍動感とエネルギーに満ちていて、やや疲れ気味になったオーケストラを叱咤激励するように、プレトニョフさんの指揮する動きにもチカラが入っているのがわかる。クライマックスを迎え盛り上がった後に続く第2主題の再現は、グッとテンポを落としてここからが一番大事なところだぞ、といわんばかりの本気が伝わってくる。そして勢いを増したオーケストラはそのままコーダになだれ込み、壮麗なフィナーレを迎えた。曲が終わった瞬間に会場のあちこちからBravo!!の声が飛び交った。とにかく、間違いなく素晴らしい演奏だと思う。これまで何度も聴いたラフマニノフの交響曲第2番の中でも、1、2を争う名演だったと思う。ただしくどいようだが、かなりクセのある演奏には違いないので、人によっては好みの分かれるところであろう。

 アンコールは前回の調布と同じで、ハチャトゥリアンの「仮面舞踏会」より「ワルツ」。今日の方がすこぶるご機嫌のようで、ノリノリの様子であった。

 今日のロシア・ナショナル管のコンサートは、後半のラフマニノフに尽きると思う。プレトニョフさんという一風変わった天才音楽家の持つ、奥深い音楽性に触れた思いがする。彼はラフマニノフを敬愛して止まないそうだが、その気持ちが伝わって来る演奏であった。いろいろと問題のある人ではあるが、今日のような演奏を聴かせてくれる限り、この人の音楽を信じることができる。私もプレトニョフさんにBravo!!を送りたい。

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【お勧めCDのご紹介】
 もちろん、ミハイル・プレトニョフ指揮、ロシア・ナショナル管弦楽団によるラフマニノフの交響曲第2番のCDです。紹介する盤は今回の来日に合わせて(?)2015年7月8日発売の廉価版です。原盤は1994年のリリースでドイツ・グラモフォンからのデビュー盤として発売されたものでした。新品の入手ば現在は難しそうですが、後にラフマニノフの交響曲全集にも収録されています。
ラフマニノフ:交響曲第2番,幻想曲「岩」
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