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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2007年~2008年「ばら戦争」の思い出(第4回)

2010年01月03日 23時33分58秒 | 連載/2007-2008 ばら戦争の思い出
 連載「ばら戦争」の思い出の第4回。今回は神奈川県民ホール・びわ湖ホール共同制作の公演を取り上げる。

【神奈川県民ホール・びわ湖ホール共同制作 ベルリン・コミッシェ・オーパー・プロダクション「ばらの騎士」】





公演日:2008年3月22日・23日
会 場:神奈川県民ホール
指 揮:沼尻竜典
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団
合 唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル 二期会合唱団 赤い靴ジュニアコーラス
演 出:アンドレアス・ホモキ
出 演:元帥夫人:   佐々木典子/岡坊久美子
    オクタヴィアン:林 美智子/加納悦子
    ゾフィー:   澤畑恵美/幸田浩子
    オックス男爵: 後藤泰弘/マルクス・ホロップ
    ファーニナル: 加賀清孝/小川裕二
    ヴァルツァッキ:高橋 淳/西垣俊朗
    アンニーナ:  与田朝子/西川裕子
    マリアンネ:  渡辺美佐子/田中三佐代
    警部:     黒木 純/片桐直樹
    テノール歌手: 上原正敏/松本薫平
    公証人:    志村文彦/松森 治
    料理屋の主人: 大野光彦/大槻孝志
    (以上、ダブルキャスト)

 本公演はびわ湖ホールと神奈川県民ホールの共同制作による企画で、ベルリン・コミッシェ・オーパーによるプロダクションを移植したもので、びわ湖ホールと神奈川県民ホールで2回ずつ計4回の公演があった。指揮はびわ湖ホール芸術監督の沼尻竜典さんで、神奈川での公演では神奈川フィルが演奏した。歌手陣は主に東京二期会のメンバーである。私が観たのは3月22日の公演で、上記ダブルキャストの左側の日である。

 指揮者の沼尻さんは、今や日本のオペラ界には欠かせない人だ。リヒャルト・シュトラウスも得意としているので、今日本で「ばらの騎士」を上演するとしたらこの人が一番だろう。実は当日の席が、チケット上は1階の6列目になっていたが5列目まではオーケストラ・ピットになっていたため、実際は1列目、しかも中央、つまり指揮者の真後という最高の席だった。この場所でオペラを観ると、歌手たちが皆、自分の方を見て歌っているように見えるので、なんだかとてもエラくなったような気がして楽しいのである。そうして、沼尻さんのタクトが目の前でひらめき、美しい音楽が奏でられるのだ。
 音楽作りは非常に緻密でシュトラウスの艶やかな音楽を十分に歌わせていたように思う。神奈川フィルも十分に実力を発揮していた。目の前で聴いていたせいもあろうか、弦楽器と管楽器のバランスも良くまとまり、とくに管楽器の音色が豊かな色彩があり美しく響いていた。シュトラウスに必要なのは何よりも色彩感だと思う(フランス的なカラフルさという意味ではなく、楽器本来の音色が豊かに響き、それらが解け合って生まれるドイツ的な流麗さという意味です)。

 本プロダクションでは、まず目を引いてしまうのがアンドレアス・ホモキさんの演出である。白を基調とした四角い空間が今回の「ばらの騎士」の舞台。壁には扉があるだけ。開場時から幕が上がっていて、白い空間だけが空しく口を開いている。始まる前から独特の世界観。何が始まろうとしているのか、思わず意識が引き込まれていく。
 物語は、扉から出入りする人物たちによって進められていく。元帥夫人は佐々木典子さん、オクタヴィアンは林美智子さん、ゾフィーは澤畑恵美さん、という布陣は日本人キャストだけで「ばらの騎士」を上演するとすれば、おそらくベストメンバーに違いない。佐々木さんの堂々として落ち着いた力強いソプラノ、林さんのいかにもメゾという声質を生かしたズボン役のうまさ、澤畑さんのコロラトゥーラの高音の技巧など、演技から歌唱まで、申し分ない出来だったといえる。東京二期会の面目躍如といったところか。オペラがいかに国際化しているとはいえ、指揮者、オーケストラ、合唱団、歌手陣のすべてが日本人で、ドイツ語で上演されていて観客であるわれわれは字幕を読みながらオペラを観ているという、ある種の違和感を別とすれば、本公演は世界の歌劇場の中でもかなり上位のレベルの公演を行っていたと思う。少なくともヨーロッパの地方都市の歌劇場などよりは、ずっと水準は上である。
 おなじみの「ばらの騎士」のドラマが展開していく。極端に抽象化された白い空間の中で、登場人物の衣装はやはの白を基調とした18世紀的なデザイン。人物像は原作通りに描くことで3人の感情の変化と葛藤を表現しつつも、物語の舞台は現代的な演劇空間に置くことで、このオペラの上演が最先端の舞台芸術であると主張しているのだろう。最後には、舞台となっている白く四角い空間そのものが左右に傾き、元帥夫人が身を引き、若い二人が結ばれるエンディングが、決してハッピーエンドではなく、その後の将来に不安に印象を残すことになり、幕を閉じる。
 終わってみれば、随分と演出に引っ張られた公演であった感が強く残るが、冷静に思い出してみれば、オーケストラと歌手たちが、技術的にも表現的にも高いレベルの演奏をしていたからこそ、ちょっと風変わりな舞台をすんなりと受け入れることができたのだと思う。「ばら戦争の思い出」としてこのレビューを書いているのだが、本公演の満足度は、チューリヒやドレスデンに匹敵するものだ。新国立よりは、制作者たちの熱意が感じられ、全体がしっかりと構成されバランスの良い、素晴らしい公演だったと思う。

 神奈川県民ホールとびわ湖ホール共同制作のオペラ公演は、意欲的な取り組みを積極的に行い、非常に高い水準のオペラをわれわれに提供してくれる。残念なのは、会場の神奈川県民ホールが大きいことだ。2500人ほどのホールだが、階段状の多目的ホールなので、オペラ上演に適しているとは言いがたい。幸いにも1列目で観たので私は十分に堪能できたが、後ろの方の席の人にはちょっと辛かったのではないだろうか。

【2008年3月22日(土)14:00~ A席 1階 6列 30番 12,000円】

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