Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/18(金)Orchestra AfiA/バエーヴァのオーラ輝くバーバーのVn協奏曲と村中大祐の瑞々しい「グレート」

2016年02月18日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
村中大祐指揮 Orchestra AfiA「自然と音楽」演奏会シリーズVol.9
“Frühlingstraum”「想春歌」


2016年2月18日(金)19:00~ 紀尾井ホール A席 1階 1列 10番 7,000円
指 揮:村中大祐
ヴァイオリン:アレーナ・バエーヴァ
管弦楽:Orchestra AfiA(オーケストラ・アフィア)
コンサートマスター:依田真宣(東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター)
【曲目】
メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」作品26(ロンドン版第1稿)
バーバー:ヴァイオリン協奏曲 作品14
シューベルト:交響曲 第9番 ハ長調 D.944「グレート」
《アンコール》
 グリーグ:弦楽合奏曲集『2つの悲しき旋律』より「過ぎにし春」

 昨年2015年12月に初めて聴いた「Orchestra AfiA」を大変気に入ってしまい、当プログでも【お勧めコンサート】として紹介してきたのが本日の「自然と音楽」演奏会シリーズの第9回である。
 Orchestra AfiAについて改めて紹介させていただくと、この団体は、指揮者の村中大祐さんがご自身の音楽を表現するために2013年に設立したオーケストラである。母体となったのは2006年から活動していた「横浜オペラ未来プロジェクト」の横浜OMPオーケストラで、世界に通用するオペラを上演することを目指したもの。その後再編成され、アフィア“AfiA”(Accademia filarmonica international Association)所属のオーケストラとして2013年に再始動した。以来、「自然と音楽」をテーマにしたコンサートを年3回のペースで開催している。室内オーケストラの規模で編成され、メンバーは、ソリストやフリーの演奏家とN響や東京フィルなどのプロ・オーケストラのトップ奏者などで構成されている。従ってこのオーケストラ、残念なことに知名度は今ひとつだが、かなり上手いのである。

 今回のテーマは「“Frühlingstraum”『想春歌』」。寒さの底を過ぎ、春の息吹を感じ始めるこの時期に相応しい。Orchstra AfiAは若いメンバーも多く、そのフレッシュな音質は春の歌そのもののような気がする。そして今回、ゲスト・ソリストとして呼ばれたのがカザフスタン出身でロシア育ちの若手の成長株ヴァイオリニスト、アレーナ・バエーヴァさん。1985年生まれの30歳。2007年の第3回仙台国際音楽コンクールの優勝者でもあり、ヨーロッパでは着実にキャリアを伸ばしている方である。

 さて1曲目は、メンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」序曲。本日演奏されるのは「ロンドン版第1稿」、すなわちロンドンで初演されたときの版である。その後何度か改訂されていて、通常演奏されるのは改訂版である。波間に浮かぶ小舟から見たゴツゴツした岩に囲われた「フィンガルの洞窟」の情景が目に浮かぶような標題的な曲想ではあるが、形式的にはソナタ形式を踏襲しており、純粋な管弦楽曲、ないしはコンサート序曲としての完成度が高い。
 演奏はややゆったりとしたテンポで、波間に漂うような第1主題が提示されるが、引き締まったアンサンブルと意外なくらいにダイナミックレンジが大きく、リズム感の良いティンパニが加わるとかなりメメリハリが効いてくる。いきなりドラマティックな幕開けだ。抒情的な第2主題ではチェロが大らかに歌い、ヴァイオリンに引き継がれると澄んだ音色のアンサンブルが清冽なイメージを描き出す。一旦大きく盛り上がって展開部へ。金管も木管質感の高い音色で、テンポが遅めであっても引き締まった演奏だ。徐々に緊張感が高まっていき、劇的なクライマックスを過ぎると再現部へ。標題的な見方をすれば、洞窟の近くで大きな波に揺られて緊張が走ったという感じだ。村中さんの描き方は、純音楽的な構築力はもちろんのこと、オーケストラをダイナミックにドライブする。その中で、例えば第2主題は歌謡的と見ることもできるような旋律に息遣いが感じられたりもする。オペラの経験も十分な村中さんらしく、聴く側の期待感を高めてくる「序曲」であった。


 2曲目はバーバーのヴァイオリン協奏曲。1939年の作で、コルンゴルトなどと並んで20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲である。第1楽章と第2楽章が極めて抒情的・感傷的な美しい旋律に彩られている点はロマン派後期の作風が濃厚に感じられるが、第3楽章は一変して無機質ともいえる無窮動的な音楽になり、現代音楽との橋渡し的な位置付けも感じられる。その意外な展開がとても面白い曲なのである。
 第1楽章。いきなりソロ・ヴァイオリンとオーケストラによって第1主題が提示される。ハッとするくらいに美しい旋律。バエーヴァさんのヴァイオリンは濃厚な音色を持ち、自由度高く歌う。実に濃厚なロマンティシズム表現である。そのバックにOrchestra AfiAの澄みきった弦楽アンサンブルがあり、抑制の効いたホルンなどが控えていて、鮮やかな対比を創り出している。クラリネットに現れる第2主題はちょっととぼけた感じ。この曲は、いわゆる協奏風ソナタ形式ではなく、交響曲のような普通のソナタ形式で、ソロ・ヴァイオリンとオーケストラは常に対話し、有機的な絡み合っていく。もちろんソロ・ヴァイオリンに重要な役をふんだんに充てているが、両者が離れないのである。とくに展開部が徐々に盛り上がっていき、全合奏のクライマックスに達したところからそのまま再現部になだれ込んでいく辺りは、予定調和的な美しさである。村中さんはオーケストラをフルに鳴らしてクライマックスを構築し、キレ味の鋭いダイナミックスを創り出す。そしてその中からすーっとバエーヴァさんのヴァイオリンが浮かび上がって来るのである。何て美しい曲。何て美しい演奏なのだろう。
 第2楽章は緩徐楽章。一変してオーケストラの弦楽の静かな和声に乗せて、オーボエが息の長い主題を情感たっぷりに歌う。まさに歌う。弦楽に引き継がれ、クラリネットやフルート、さらにはホルンまでが歌う。満を持して登場するソロ・ヴァイオリンは濃厚にして劇的。低音部をグンと鳴らし、中音域をぶ厚く歌わせ、高音部を繊細にすすり泣かせる。再現部でソロ・ヴァイオリンが主題を力感を込めて弾く辺りは、その濃厚なロマンティシズムと、切なげな感傷が入り乱れて、聴く者の心にズンと入り込んでくる。こういう時のバーエヴァさんのヴァイオリンはまさらオーラを放っているような、静かなエネルギーと存在感がある。
 第3楽章は無窮動敵な曲想で、ソロ・ヴァイオリンはノン・ストップで駆け巡る。調性もほとんど感じられない、無機質で超絶技巧的な音の羅列に終始し、オーケストラも不協和音を撒き散らすが、リズムは強烈で疾走感と推進力に満ちている。オーケストラの反応が鋭いので、ソロ・ヴァイオリンとの協奏による疾走感が素晴らしい。村中さんのオーケストラ・ドライブも実に活き活きとしていて、突っ走り続けて派手に曲が終わる。Bravo!!な演奏だ。
 わずか3分半ほどのこの楽章は、取って付けたような感じで、前の2つのロマンティックな楽章との共通点はまったくない。ひたすら無機質で能動的なだけで、前のふたつの楽章の、絵に描いたようなロマンティシズムをあっさりと否定してしまうのである。ところがこの楽章の創り出す鮮やかなコントラストが、この曲に20世紀の曲としての生命力を与えているような気がするのである。本日の演奏は、この曲の魅力を余すところなく表現していたのではないだろうか。バエーヴァさんの濃厚な表現力と過激な技巧、村中さんとOrchestra AfiAの引き締まったダイナミクスと瞬発力のある演奏は、実に活き活きとした生命力に満ちていた。いずれにしても、美しい曲であり、面白い曲でもあるので、もっと演奏機会が合っても良いと思う。

 後半は、シューベルトの交響曲「グレート」。実は私はこの曲が大の苦手なのである。その理由は、一言で言ってしまえば「長いから」。そもそもが1時間を超えるような交響曲は、ベートーヴェンの「第九」以外は苦手なので、マーラーやブルックナーも基本的には苦手である。嫌いなのではなくて、苦手なのだ。要するに、1つの音楽を1つの曲にまとめて何かを表現するのに、1時間以上もかけなければならないのは、才能がないからではないか?? などと不遜なことを言ったら、まっとうな音楽ファンに袋叩きにあいそうだが、聴く側の論理として、あくまで個人的にだが、集中力が続くのが40~50分くらいだと思うので、それくらいの長さに曲を納めているベートーヴェン、シューマン、メンデルスゾーン、ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ブラームス、シベリウス、等々が聴きやすいというのも事実だ。
 シューベルトの交響曲「グレート」D.944は、1時間弱の曲だが、全体に同じような音型の繰り返しが多く、何度聴いても冗長に感じてしまう。「第九」のようなスケールの大きな構造的なものを持っていれば良いのだが、4つの楽章がメリハリがなくダラダラと長い。どうも昔からそんなイメージしかなく、主題が歌謡的で美しいのはシューベルトらしくてとても良い曲だとは思うのだが、苦手であることに変わりはなかった。有名な交響曲「未完成」D.759も、第2楽章までで30分近くあるので、もし「完成」していたら「グレート」と同じような長さになっていたはず。そうしたら今ほど人気のある曲になっていたかどうか、疑問に思うのだ。
 さて、そんなことを前提に、久し振りに「グレート」を聴く。第1楽章、ホルンがのどかなに序奏を始め、弦楽と木管でほのぼのとした音楽が続き、オーケストラ全体に波及していく。比較的ゆったりとしたテンポを採用しているが、村中さんの歌うようなリズム感が良く、管楽器の質感も高いので、なかなか良い感じだ。ソナタ形式の主部(Allegro ma non troppo)に入ると、目が覚めるような瑞々しい音楽へと変わり、緊張感の高いアンサンブルがとても緻密で、リズムを刻む際も、旋律を歌わせる際も、メリハリが効いている。・・・・これは中々に素晴らしい演奏で、退屈するどころか、ほとばしる生命力に目が覚めるような興奮を覚えた。小編成のオーケストラのメリットを最大限に発揮して、立ち上がりの鋭いアンサンブルと、広いダイナミックレンジ、各パートのクオリティの高い音色がうまく機能としてる。最前列のコンサートマスターの正面という席の位置関係のせいもあるが、依田真宣さんの繊細にして力強いヴァイオリンの音が明瞭に耳に届き、第1ヴァイオリンのアンサンブルを牽引していくのがよく分かった。
 第2楽章は緩徐楽章。リズミカルな第1主題が、ややもするとしつこく繰り返されるイメージを創り出してしまうところだが、ここはオーケストラを軽快にドライブさせる村中さんの解釈と手腕により、くどくならない。pとfの対比を鮮やかに描き出しているところも、とてもフレッシュな印象を創り出している。第2主題は美しく優雅に、そして伸びやかに歌う。フルートやオーボエの明るい音色が爽やかな春の風のように感じられた。
 第3楽章はスケルツォ。とはいっても諧謔的でも攻撃的でもなく、やはりシューベルトらしい優しさに溢れている。主題のリズムを刻む弦楽のアンサンブルは鋭く緻密だが、そこに乗る木管の柔らかさが人肌の温かみを感じさせる。この楽章は何だか喜びが溢れているような印象で、日頃のストレスを忘れさせてくれるような、前向きな姿勢が感じられる演奏であった。
 第4楽章はフィナーレ。第1主題の弾むような躍動感はフレッシュそのもので、繰り返される付点のリズムが、いつもならしつこく感じられるのに、今日は何て活き活きと感じられるのだろう。「グレート」は純音楽だが、この曲想はまさに今日のテーマである「想春歌」のイメージ。楽章全体を貫くこの躍動するリズム感で、つまりは演奏がとても瑞々しいからそう思えるのだろうが、屈託がなく、ハ長調という輝かしい調性ということもあって、明瞭闊達に描かれて行く。コーダに至るまで、ワクワクするような、青春の息吹を感じさせてくれる、素晴らしい演奏であった。
 これまでの「グレート」は冗長で鈍重なイメージしか持っていなかったが、今日の演奏を聴いて目が覚めたような新鮮さを感じた。考えてみれば、「グレート」はシューベルトが28-9歳くらいの時の作品。作曲の活動も活発で意欲的な作品がたくさん生まれている時期の作品なのである。従って、若々しさに溢れていて当然といえば当然だ。
 ところが今まで聴いてきた演奏は、どれも重々しく壮大なイメージで描かれていたような気がする。実際には2管編成と弦楽5部とティンパニという古典的な編成なのだが、弦楽の人数を増やすとどうしても大袈裟な演奏になってしまうのではなかろうか。今日のOrchestra AfiAのような室内オーケストラの規模であれば、弦と管のバランスも変わってくるし、踊るように弾み、歌うような軽快な演奏にも適していることになる。村中さんが「想春歌」というテーマでこの曲を選んだ理由が、聴いてみてやっと分かった。私にとっても「グレート」の再発見。最近、シューベルトの良さがだんだん分かって来たような気がする。村中さんとOrchestra AfiAにBravo!!を送ろう。

 アンコールはグリーグの弦楽合奏曲「過ぎにし春」。これは「過去の(去年の)春」という意味ではなく、死に臨んでの「最後の春」という意味の標題であり、楽曲も深い哀しみを秘めた限りなく美しい旋律の曲である。依田さんを中心にした弦楽のアンサンブルは、人数は少なくても、厚く透明な音色で、魂の慟哭を美しく歌わせていた。

 終演後はロビーにて出演者と歓談のひととき。村中さんにもご挨拶して今日の感想を伝え、またバエーヴァさんには持って行ったポートレートにサインをいただき(ちょっと見にくいが“With best wishes!”というメッセージ付き)、記念写真(私服)も撮らせていただいた。すぐ近くで観ると殊の外美しく・・・・。



 村中大祐さんの指揮いるOrchestra AfiA。今回で聴くのは2度目だが、完全にファンになってしまった。オーケストラの印象としてはちょっと変わったところがある。それはこのオーケストラが明るく、瑞々しい演奏を聴かせてくれるところだ。音楽が好きで好きでたまらないという人たちが集まって来て、村中さんを中心にそれぞれの意志で音楽を創っていく。義務感や競争によるものではなく、自然に生み出されてくる「前向きな姿勢」が感じられるのである。だから技術論的なことではなく心情的な理由で、とても素敵なオーケストラに思えるのである。アマチュアの精神とプロの技術を持ったオーケストラ・・・・だからとても面白い。
 次回の公演は、2016年5月21日(金)、19:00開演。紀尾井ホール。曲目は、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」と第5番「宗教改革」、そしてシューマンのピアノ協奏曲。ソリストはグローリア・カンパナーさん。指揮はもちろん村中大祐さん。コンサートマスターは渡辺美穂さんである。ますます楽しみになってきた。私はといえば同じ席を確保済み。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

【お勧めCDのご紹介】
 本日のゲスト・ソリスト、アレーナ・バエーヴァさんのCDです。彼女は何枚かのCDをリリースしていますが、現在日本で手に入れやすいのはここで紹介する2枚です。1枚目はポーランドからの輸入盤で、「シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 & 第2番」(2008年)。もう1枚は「第3回仙台国際音楽コンクール」(2007年)でバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番とチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲がライブで収録されています。そこでのアーティスト名はアリョーナ・バーエワ(Alena Baeva)となっていますので、検索する歳はご注意を。

Violin Concertos Nos. 1 & 2
Dux Recording
Dux Recording


第3回仙台国際音楽コンクール 優勝者CD ヴァイオリン部門第1位 アリョーナ・バーエワ
バーエワ(アリョーナ),バルトーク,チャイコフスキー,山下一史,ヴェロ(パスカル),仙台フィルハーモニー管弦楽団
フォンテック

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2/16(火)B→C尾池亜美Vnリサ... | トップ | 2/20(土)東京文化・小ホール/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事