Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/30(金)清水和音5日間連続コンサート/第3日/川久保賜紀を迎えR.シュトラウスのVnソナタが秀逸

2011年10月01日 11時50分02秒 | クラシックコンサート
デビュー30周年記念 清水和音5日間連続コンサート 第3日

2011年9月30日(金)19:00~ ヤマハホール 指定席 1階 C列 12番 5,500円
ピアノ: 清水和音
ヴァイオリン: 川久保賜紀(ゲスト)*
【曲目】
モーツァルト: ヴァイオリン・ソナタ 第28番 ホ短調 K.304*
R.シュトラウス: ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18*
ショパン: ポロネーズ 第7番 変イ長調 作品61「幻想ポロネーズ」
ショパン: バラード 第4番 ヘ短調 作品52
ショパン: 2つのノクターン 作品55
ショパン: スケルツォ 第4番 ホ長調 作品54
《アンコール》
ショパン: スケルツォ 第2番 変ロ短調 作品31

 デビュー30周年を迎えた清水和音さんとヤマハとのコラボレーションによる企画もの、5日連続コンサートの第3日である。第1日はジャズ・ピアニストの小曽根真さんが、第3日はヴァイオリンの川久保賜紀さんが、第5日はソプラノの森麻季さんがゲストに招かれ、第2日と第4日はリサイタルという構成になっている。ヤマハとのコラボレーションということなので、会場は333席のヤマハホール、ピアノはもちろんヤマハのコンサート・グランドの最高峰、CFXを使用する。プログラムの構成も幅広い領域に渡っており、モーツァルト、ガーシュウィン、スクリャービン、ムソルグスキー、リヒャルト・シュトラウス、ショパン、ベートーヴェン、リストなどである。それらの内、第3日の今日は、前半が川久保さんをゲストにヴァイオリン・ソナタを2曲、後半が「清水和音 厳選!『ショパン名曲集』」となっている。
 私の場合は、清水さんには大変申し訳ないのだが、いつものように川久保賜紀さんのヴァイオリンがお目当て。とくに今日は一番好きなリヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタが演奏されるということになれば、何を差し置いても聴きに行かなければ!! ということだったのだが…。

 1曲目、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第28番は、珍しい短調のソナタで2つの楽章からなる。第1楽章はソナタ形式、第2楽章はメヌエットという、かなり変則的な構成で、15分くらいの曲だ。川久保さんのヴァイオリンは相変わらず流麗そのもので、流れるようなレガートがとてもエレガントである。時折見せる鋭い立ち上がりの音が、曲の中で明瞭なアクセントを作り、緊張感を高める働きをしていた。第2楽章も短調であり、メヌエットといっても舞踏的な優雅さはなく、純音楽的な表現、器楽的な演奏の中に、川久保さんらしいレガートの美しさが見られ、彩りを添えていた。

 2曲目が本日一番のお目当て、リヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタだ。今年は随分多くのヴァイオリニストでこの曲を聴いた。松山冴花さん、佐藤俊介さん久保田巧さん青木尚佳さんパク・ヘユンさんなどである。仕上げが川久保さんということになる。ところが川久保さんの演奏は、いままでとはかなり違った解釈を持ってきた。またまた新しい発見である。もともと、シュトラウスのヴァイオリン・ソナタは若い時の作品であり、若い演奏家が瑞々しい演奏を聴かせてくれる時が一番作品も輝くと思っていた。川久保さんは、作曲した当時のシュトラウスよりも年齢が少し上になるし、大人の女性としてのアプローチだったと思う。
 第1楽章は、冒頭から力みのないサラリとした演奏で、ピアノと共に比較的小さな音から始まり、徐々にクレシェンドしていくようなイメージ。第2主題辺りからレガートが美しく旋律のフレーズを歌わせるようになる。再現部でも第1主題はさりげなく、第2主題をたっぷり歌わせるといった構成にしていた。このような演奏は初めて聴いたので、一瞬ドキッとしたが、第1楽章を終わりまで聴けば、なるほど、とういうことか、と納得できた。張り切りすぎないところ、思い入れを強くしすぎないところが、大人の味わいというものだ。
 第2楽章はとにかく美しい旋律の続く曲想なので、極端な弱音にも繊細に神経を行き届かせることのできる川久保さんならではの表現だ。「歌う」という表現をよく使ってしまうのだが、管楽器の「歌わせ方」が声楽の歌唱に似ているのに対して、弦楽器は人の呼吸とはやや違った器楽的な「歌わせ方」ができる。川久保さんの「歌わせ方」は楽譜の中からフレーズを読み取り、ひとつひとつの音符に微妙なニュアンスの違いを与え、フレーズがひとつの塊として浮き出させるだけでなく、曲の流れを分断させない連続性が見事。低音から高音域まで、優しくエレガントな音色に包まれつつ、音楽という波間に揺られているような、心の安らぐ楽章だった。
 第3楽章はピアノとヴァイオリンが複雑に絡み合い、キラキラと輝きだした。清水さんのピアノも玉を転がるようなキレイさで、ヴァイオリンと対等に対話していく。ピアノもかなり難易度が高いし、ヴァイオリンも易しくはない。ふたりとも超絶技巧の持ち主なのに、そのことを感じさせないところが良い。とくに川久保さんは、難しいパッセージも微笑みをまじえながら力まずにサラリと弾く。しかしその音楽は演奏家の意志を正確に表現していて、極めて緻密な構成力があるのに、その音色はあくまでエレガントである。
 この曲から漲るようなパッションを取り除き、青年シュトラウスの中の大人の部分を、楽譜の内側から導き出すような演奏だったと思う。やはり、川久保さんのヴァイオリンは素敵。間違いなく、Brava!!であった。

 後半は清水さんが厳選したショパンの5曲(+アンコール1曲)。またまた清水さんには申し訳ないが、個々の曲の演奏に付いては割愛させていただき、全体の感想に留めたい。
 清水さんはその風貌からみてもガンガン弾くタイプに見えてしまうのだが、実際には繊細で柔らかいタッチの持ち主だ。基本的に打鍵が柔らかいといった印象で、くっきりクリヤーな音色ではなく、ややまったりとしている。1音1音を明瞭に出していくというよりは、流れと構成で曲を描いてくタイプのように思えるのだ。しかし当然男性的な力強さももっており、ここぞという時の体重の乗った音(失礼)のパワーは十分以上である。そこで描かれていたショパンの世界は、あまり深い情感を感じるといったタイプのものではなく、むしろ純音楽として器楽的な表現力を追求したもの、のように思えた。過度な思い入れや独善的な解釈に陥るのではなく、正攻法な取り組み方であったと思う。

 最後に使用楽器について。ヤマハの最高峰のコンサート・グランド、CFXは素晴らしいピアノだと思うが、やはりクラシック音楽ファンの間ではいつも聴き慣れているスタインウェイとの違いが(良い悪いという意味ではなく)気になってしまう。もちろん、ヤマハホールでのCFXであるからには、最高のの条件で聴いたという前提で…。もっとも聴いていた位置がピアノの真正面で、ちょっと近すぎたのかもしれない。全体にややこもりがちで、各キーの音の分離が明瞭ではないように感じられた。逆に言えば角まない音で楽器全体が鳴っているというイメージだ。低音域で独立した和音(わおん)を弾いたときなどの柔らかく深みのある響きはなかなか素敵である。逆に高音域は少々キラメキ感が足らないような印象もあった。全体的に硬質な音になりすぎずに柔らかく響き、落ち着きがあって癒される感じもする。清水さんの演奏ということもあったのだろう。またの機会に別の人(若手のイキの良い人)の演奏で聴いたみたいと思った。

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2 コメント

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お疲れさまでした (こみ)
2011-10-01 16:55:29
レポートありがとうございます。ところでCDサイン会はありましたか?
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演奏だけ (ぶらあぼ)
2011-10-01 18:37:50
こみ様
いつもありがとうございます。
そういえばサイン会はなかったですね。清水さんが行わなければ、ゲストの川久保さんも、ないですよね。
返信する

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