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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/26(土)女神との出逢い/南紫音ヴァイオリン・リサイタル/豊かさと緊張感が調和する完成度の高いドイツ系プログラム

2017年08月26日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
土曜ソワレシリーズ/女神との出逢い
南 紫音 ヴァイオリン・リサイタル


2017年8月26日(土)17:00〜 フィリアホール S席 1階 1列 9番 4,000円(シリーズセット券)
ヴァイオリン:南 紫音
ピアノ:田村 響
【曲目】
シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ短調 作品105
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調 作品100
モーツァルト:ロンド ハ長調 K.373
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第7番 ハ短調 作品30-2
《アンコール》
 クライスラー:美しきロスマリン
 メンデルスゾーン:春の歌

 横浜市青葉区にあるフィリアホールの主催による「土曜ソワレシリーズ/女神との出逢い」シリーズ。今回は久し振りに、南 紫音さんのヴァイオリン・リサイタルだ。彼女が前回このシリーズに登場したのはもう6年も前の2011年8月のことで、その時はイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲(作品27)を演奏した。NHK-BSの「クラシック倶楽部」での放送もあったので、ご覧になった方も多かろうと思う。
 今回はオール独墺系のプログラムで、本格的かつ重厚なものとなった。紫音さんは現在はドイツのハノーファーに在住で研鑽と演奏活動を行っている。ドイツ音楽の演奏に関しては、かなりの経験を積んできているのである。見た目の印象は天才美少女かお姫様キャラといった感じだが、気が付けばもう今年28歳になる(失礼)。若手を通り越して、そろそろ中堅という領域に入ってくる年代になっているのだ。
 2005年のロン=ティボー国際音楽コンクール(ヴァイオリン部門)で第2位に入賞した時はまだ高校生で、その後華々しくCDデビュー、内外の演奏活動のオファーが絶えない人気ぶり。2015年のハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールでも2位に入賞してコンクールはもう卒業とのことだが、すでに日本でも人気・実力ともにトップクラスのヴァイオリニストであることは間違いなく、今回のリサイタルを聴いた人は誰しも、そのことを実感したに違いない。私は10年以上にわたって、紫音さんの演奏を聴いてきた。東京近郊での演奏会は、リサイタルだけでなく室内楽やオーケストラに客演しての協奏曲も、優先的にほとんどすべて聴いていると思う。その間の成長ぶりも著しく、感慨深く今日の演奏を聴かせていただいた。
 共演するピアニストは田村 響さん。彼は2007年のロン=ティボー国際音楽コンクール(ピアノ部門)で優勝したのが20歳の時。紫音さんより少し年上になるが、同世代の音楽として、中堅のプロとして活躍している。今日はどちらかといえば控え目に徹し、紫音さんのヴァイオリンを盛り立てていたようだ。


 演奏は素晴らしかった。ドイツ音楽のシッカリとした造形とやや渋めの音色、それでいてとても雄弁で表情が豊かである。技巧的にはほぼ完璧、むしろその卓越した技巧が豊かな表現力の基礎となっているように感じられる。この年代のヴァイオリニストの中では他の追随を許さないトップ・クラスの存在だと思う。

 1曲目はシューマンの「ヴァイオリン・ソナタ 第1番」。第1楽章のうねるような、のたうつようで濃厚なロマンティシズムが、ネットリと歌われていく。秘めたる情念がふつふつと煮えたぎり、心の中に葛藤が渦巻いているような狂おしさが描き出されていた。第2楽章は可憐な間奏曲風だが、憧れをいっぱい乗せて愛らしく歌う。第3楽章はまたほの暗い情念の世界に戻り、悩ましい思いが溢れ出るように炸裂する。紫音さんのヴァイオリンは、見た目の雰囲気とはやや違っていて、意外に(?)激しく情念を燃やすタイプである。ただ、押し出しが強いだけではなく、繊細な表現や技巧的な鮮やかさなど、実に多彩な表現力を持っていて、しかもそれがみっちりと密度が高い感じで、質感は一級品なのである。

 2曲目はブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ長調」。ブラームス53歳頃の作で、脂の乗りきった円熟の味わいと若い感性とが程良くブレンドされた傑作である。第1楽章は、時には翳りを見せつつも幸福感をも伴うロマンティシズムが、紫音さんの濃厚な音色で描かれて行く。田村さんのピアノも抑制的ではありながら、背景でキラキラと煌めくようなロマン的な表現がとても美しい。沈みがちな第1主題と抒情的な第2主題が、音色も鮮やかに対比的な描かれている。第2楽章は主部が緩徐楽章に、中間部がスケルツォに相当する複合的な楽章。緩徐部分では紫音さんのヴァイオリンがしっとりとした佇まいで、優しく歌う。第3楽章はロンド。悩ましげな主題がロンド主題が繰り返されるたびに、ブラームスの内面の葛藤が溢れそうになっては引っ込んでしまうことの繰り返し。なかなか解決に向かわない音楽が豊かな情念の表現で繰り返されるが、最後はすーっと雲間から空が開けて優しい日差しが差し込んで来るような、温かみのある結末が優しく美しい音色で描かれていた。

 プログラムの後半は、モーツァルトの「ロンド ハ長調 K.373」。愛らしい曲想の古典的なロンドである。モーツァルトになると、また紫音さんの音色がガラリと変わる。古典派の宮廷音楽に相応しい、尖ったところのない、典雅な音。まさに純音楽といった、純粋に美しい演奏なのである。

 最後はベートーヴェンの「ヴァイオリン・ソナタ 第7番」。ベートーヴェンの10曲のヴァイオリン・ソナタの中では、おそらく「クロイツェル・ソナタ」に次いで、抜き身のような鋭さを持っている曲だ。ハ短調という調性もしかり、一遍の隙もない緊密な構成もしかりである。こういう曲は下手に手を出すと火傷をするようなベートーヴェンの熱い魂が曲に宿っていると思う。その点では、紫音さんのヴァイオリンも負けてはいない。こういう曲の時は、かなりの鋭さを見せ、聴く者の心に斬り込んで来る。
 第1楽章はやや速めのテンポで緊張感を高く保ちながら、キリッと立ち上がるアクセントをまじえ、メリハリを十分に効かせている。何よりも楽曲の本質に迫ろうとする意気込みが感じられ、またそれを確実に実行している。とにかく緊張感と高い質感が豊かな音楽性に支えられている。
 一転して第2楽章は遅めのテンポを採り、田村さんのピアノがしっとりと主題を弾くと、紫音さんのヴァイオリンがそれを繰り返す。古典的に造形ではあっても、ロマン派を想起させる甘美な情感。淡々としているようで、細やかな表情でひとつひとつの音符に気持ちが込められている。
 第3楽章ははスケルツオ。諧謔で軽快な中にも時折思わぬ鋭さが顔を覗かせ、ハッとさせられる。まったくベートーヴェンは油断することができない音楽なのである。
 第4楽章は遅めで荘厳な序奏から始まる。テンポが上がって主部に入るとヴァイオリンにもピアノにも力感がぐんぐん漲ってきて、強弱のメリハリも一段と高まっていく。ヴァイオリンとピアノが強い調子で争うような対話を紡いでいくあたりの緊張感は圧巻で、紫音さんも素敵だが、田村さんもここぞとばかり強めに押し出して来て、なかなか良い味を出してくる。さらに一段とテンポが早くなるコーダに入ると、エネルギーが急に膨張して、一気に駆け抜けていく。Bravo!! まったく素晴らしい演奏だ。

 アンコールは2曲。まずはクライスラーの「美しきロスマリン」。ヴァイオリンの音色が急に春めいて明るく変わり、パラ色のワルツがクルクルと回りながらホールを抜けていく。
 最後はメンデルスゾーンの「春の歌」。重厚なベートーヴェンが厳しい冬のイメージだったのだろうか、アンコール2曲はすっかり春模様。ほのぼのとした気分でコンサートが締めくくられた。

 終演後は恒例のサイン会。紫音さんのCDはすべて発売当初に購入してすでにサインもいただいているので、いつも申し訳なの思ってはいるが、せっかくなので・・・・。昨年2016年12月、紀尾井ホールでのリサイタルの時に撮影させていただいた写真をプレゼントし、それにサインをいただいた。また田村さんにはプログラムにサインをいただいた。そして最後は撮影会。何と言っても絵になる紫音さんである。



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