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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/3(土)CHANEL Pygmalion Days/長尾春花/丁寧な造形のソロと緻密なアンサンブルの「浄められた夜」

2013年08月06日 01時59分05秒 | クラシックコンサート
CHANEL Pygmalion Days Classical Concerts 2013/長尾春花

2013年8月3日(土)17:00~ CHANEL NEXUS HALL 自由席 4列目中央右寄り(ご招待)
ヴァイオリン: 長尾春花
ヴァイオリン: 山田麻実*
ヴィオラ: 樹神有紀(こだまゆき)*
ヴィオラ: 平高朝輝子*
チェロ: 山本直輝*
チェロ: 伊東 裕*
【曲目】
J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005
シェーンベルク: 浄められた夜 作品4(弦楽六重奏版)*
《アンコール》
 ブラームス: 弦楽六重奏曲 第1番 より 第3楽章

 今日の「CHANEL Pygmalion Days」は嬉しい2本立て。マチネーの部は瀧村依里さん、そしてソワレの部は先週と2週連続で長尾春花さんである。このお二人は同じような経歴の持ち主で、東京藝術大学付属音楽高校から藝大へ進学、ともに首席で卒業して大学院へ。その間に二人とも日本音楽コンクールで第1位を獲得している。春花さんの方が少し後輩にあたる。また、瀧村さんと共演されたピアノの入江一雄さん、そしてソワレの後半に登場する弦楽アンサンブルのメンバーは、皆さん藝大の卒業生か在学生。今日のCHANELは藝大の同窓会のようであった。

 春花さんの「CHANEL Pygmalion Days」シリーズは今回で5回目になり、バッハの無伴奏曲をソナタとパルティータを第1番から順に交互に採り上げ、ソナタの第3番まで来た。大きな山場となった前回のパルティータ第2番からわずか1週間。コンディションを整えるにも、気の休まる間もなかったと思う。プロの演奏家になれば、過酷な条件下での演奏もしていかなければならない状況もあるだろうし、またそういう環境の中でも個性を発揮して自己主張をしていかなければ一流にはなれない。大変な世界だなァと思う一方で、これほど充実した青春時代を送ることができる才能がうらやましい。

 前半のソロは、J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番」。いささか曲が地味(?)である。今日の春花さんの演奏の印象は、全体的に堅調で、ひとつひとつの音を丁寧に積み重ね、しっかりとした造形を描き出していた。パルティータ第2番と比べると伸びやかさや自由度は少なめだったかもしれないが、だから良くないという意味ではなく、コチラの方が演奏回数が少ないからなのではなかろうか、といった印象である。
 第1楽章のAdagioは、しっとりとした味わいの中にも2つの声部をバランス良く重ね、構造的な美しさをうまく表現していた。音色にも艶があって良いのだが、もう少しホールが響けば・・・という感じ。
 第2楽章のFugueは、より複雑な構造をリズム感を崩すことなく、主旋律をある程度大きめに歌わせていく。このフーガは長く、様々に変化する曲想に対して応対して繰り返す構造が延々と続く。春花さんの演奏は最後まで緊張感を保ち続け、新鮮な音色を提供してくるので、聴く者を飽きさせない。・・・しかし、難しい曲だ。
 第3楽章のLargoは、協奏曲のときのアンコールなどでしばしば演奏される人気の曲だ。春花さんの演奏は精緻で美しい音色、曲全体の流れに合わせてか、極端に抒情的になることなく、純音楽的なしっかりとした演奏であった。アンコールで弾くなどは、もっともっとねっとりとロマンティックに演奏する方が受けるかもしれない。
 第4楽章のAllegro assaiは、目まぐるしく展開する早いパッセージとその中に含まれる異なる声部の描き方が難しく、波のうねりのような大きな旋律が曲の奥行きを深くしている。これも難しそう。一旦始まったら切れ目も休む間もほとんどなく、これもかなり難しそうな楽章である。演奏する春花さんも集中して緊張感が高く、聴いている私たちも全身が強ばってくる。弾き終わった後のホッとした表情がすべてを物語っていたようだ。もちろん、とても素晴らしい演奏だったと思う。

 後半は、今回は弦楽六重奏。弦楽のアンサンブルにもこだわりの選曲で、このシリーズでは、第1回が二重奏、第2回が三重奏という具合に一人ずつ増えてきて、第5回の今日は六重奏というわけだ。編成はヴァイオリンとヴィオラとチェロが二人ずつの六重奏である。
 そして選ばれたのが弦楽六重奏曲「浄められた夜」。シェーンベルクの初期の傑作である。単一楽章だが、30分に及ぶ大曲でもある。室内楽にはあまり多くない標題音楽であり、しかも描かれている内容が、生々しい。演奏の前に、6名で一節ずつ、ストーリーを語ってくれた。
 冬の夜の月の下に森の中を歩く二人の男女。男は女を愛しているが、女は別の男の子を身ごもっていてそれを告白する。女は悔恨し、男は動揺する。心理的な葛藤。そして男は女(とその子)を受け入れ、めでたく結ばれる・・・。ハッピーエンドには違いないが、100%喜べるお話しでもないし、そこに至るプロセスがドロドロとした男女のリアルな心理描写で生々しいのである。
 演奏の方は、真面目な藝大風というか、純音楽的に聴くならば、平均的に優れた技量の6名の演奏家による素晴らしいアンサンブルであった。時には抒情的な美しい旋律と和声で聴かせ、時には緊張感が高く、葛藤を現す激情的なパッセージが激しい合奏を聴かせる。とくに春花さんの弾く第1ヴァイオリンは、悩める女性を切なく描いていく・・・。まあ、実際には緻密なアンサンブルで美しい楽曲をうまくまとめたという感じで、演奏自体は見事なものであった。さすがに藝大の精鋭が揃っての演奏だけのことはあって、実力あるなァという印象である。
 一方で、この生々しく色っぽい内容の標題音楽という点に関しては、いささか美しすぎるというか、あっさりしているというか・・・。濃厚なエロスの世界を描くためには、もう少し年輪を重ねる必要があるかもしれない、といってしまったら若手の演奏家たちには酷かもしれないが、まあ、実際の所、こればかりは仕方ないと思う。今できる演奏としては、これ以上は望むべくもないと思えるので・・・。

 アンコールは、ブラームスの「弦楽六重奏曲 第1番」より第3楽章。こちらの方は、若さが溢れて、快活で輝くような華やかな演奏であった。


左から、伊東 裕さん(Vc)、山田麻実さん(Vn)、長尾春花さん、樹神有紀さん(Va)、平高朝輝子さん(Va)、山本直輝さん(Vc)。

 終演後は、またまた最後まで残って春花さんをはじめとして出演者の皆さんと歓談&写真撮影など、楽しい一時を過ごす。春花さんのシリーズ第6回は、だいぶ間を空けて11月になってしまう。そちらの方は行けそうもないので残念だが、その前に10月19日(土)に、音楽ネットワーク「えん」の主催によるサロン・コンサートでリサイタルが予定されているので、こちらは行く予定ですでに申し込んである。ずっと、ソロと弦楽アンサンブルだったので、ピアノ伴奏による楽曲も楽しみである。


 ところで、春花さんの連続「雨おんな」記録はやっと途切れたようで、今日はそれほど暑くもなく、過ごしやすい夜となった。帰りの電車の窓から、今日は中止にならなかった江戸川の花火が夏の夜空を派手に焦がしているのが見えた。ご本人も先週の隅田川花火大会が中止になるくらいの「雨おんな」ぶりを気にしていたようで、これでやっと一安心、ですね。

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