
東京フィルハーモニー交響楽団/第833回サントリー定期シリーズ
2013年6月7日(金)19:00~ サントリーホール A席 1階 12列 2番 3,780円(会員割引)
指 揮: 大植英次
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
R.シュトラウス:「ばらの騎士」組曲
チャイコフスキー: 交響曲第5番 ホ短調 作品64
東京フィルハーモニー交響楽団の定期シリーズがどういうスケジュールの関係なのか2週連続で組まれていた。定期会員になっている東京オペラシティシリーズの公演は昨日あったのだが、こちらは当方のスケジュールの都合がつかず、聴き逃すのももったいないので翌日のサントリー定期を聴くことにした。そういう事情なので、席位置はいつもと違って12列まで下がって、しかも壁際、ちょうど2階のLCブロックのせり出した前方席の真下辺りになる(座席表で見るのとは位置関係が違う)。音響的に難があるかなとも思ったが、それほど気にならなかった。それよりも演奏そのものが強烈すぎて…。
今月の東京フィルの「東京オペラシティ定期シリーズ」と「サントリー定期シリーズ」は同プログラムである。指揮者の大植英次さんは、今年2013年2月の東京二期会のオペラ公演『こうもり』を指揮したのを聴いた(オーケストラは東京都交響楽団)。元気いっぱいで、明るく楽しく、素晴らしい演奏を聴かせてくれたので、今回の東京フィル登場を楽しみにしていたのである。そして…!!

前半はリヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」組曲。3管編成の大オーケストラが織りなす濃密で絢爛豪華なオペラ絵巻というべき曲だ。日本で最もオペラ演奏に豊かな経験を持つ東京フィルなら、考えうるに日本では最高レベルの演奏が期待できるというもの。この曲は、シンフォニックな演奏ではなく、ねっとり濃厚で、歌うような、踊るような、オペラっぽい雰囲気が大事なのである。
そして大植さんの指揮は、この前の『こうもり』を聴いて予期していた通りの、ねっとりと濃厚な音楽作りで、かなり良い味を出していた。冒頭はホルンを猛々しく吠えさせ、返すヴァイオリンを甘美に泣かせる。オペラ本編では前奏曲に当たる部分は色気たっぷりの濃密な演奏で、東京フィルの濃厚な音色が素敵だ。続く第2幕冒頭の絢爛豪華な音楽はオーケストラを派手に鳴らしていき、「銀のばら」の献呈シーン以降はオクタヴィアンとゾフィーの対話が美しい木管の音色で表情豊かに描かれていく。そしてオックス男爵のワルツは、グッとテンポを落とし、甘美な旋律を徐々にテンポを上げながら回転するよう歌わせて行く。オックス男爵の妄想がエスカレートしていくような艶めかしさがある。第3幕の三重唱の場面では歌唱こそないものの色彩感の強い木管が、ねっとりと歌うように演奏された。転調を繰り返して昂ぶっていき、ティンパニの連打でクライマックス。何度聴いても素敵な音楽である。恋人たちの二重唱の場面に続いて、オックス男爵の退場シーンの派手なワルツ、そしてフィナーレへと突き進む。
大植さんの音楽作りは、オペラ本編を彷彿とさせるもので、濃厚で色っぽい。そしてエンターテイメント性に溢れている。それを表現する東京フィルの音色はまさにピッタリで、25分に満たない圧縮された音楽で、3時間半の『ばらの騎士』を堪能したような気分にさせてくれた。繰り返すようだが、大植さんの音楽は「濃い」。
後半はチャイコフスキーの交響曲第5番。「ばらの騎士」組曲がオペラ的な演奏で良かったので、交響曲ではシンフォニックな演奏を聴かせてくれるに違いない…と、想像していたら、これがまた(!!)な演奏で、二度ビックリ。つまりは、この曲もオペラ的(?)な演奏というべきか、濃厚にしてドラマティック、刹那的に旋律を大胆に歌わせたり、大音量で無理矢理(?)盛り上げようとしたり、いやはや、ものすごいアクロバティックな演奏を展開したのである。フレーズを遅いテンポで始め、流れの中でテンポと緊張感をグイグイと高めていく手法は、オペラ的。そして極端にテンポを揺らすのはシンフォニックとは言い難い。
はっきり言ってしまえば、「超」が付くくらい個性的な演奏であり、お堅い評論家の先生や音楽ファンの方たちから見れば顰蹙(ひんしゅく)ものかもしれない。しかしここには、音楽を徹底的に楽しむという気概が感じられ、とても素晴らしい演奏だと思った。私のような素人には大ウケである。何しろ今日のコンサートのチラシのキャッチ・コピーは「奇才・大植英次の挑戦」なのだから。
もうひとつ素晴らしかった点がある。それは東京フィルの演奏能力の高さである。あれだけ「超」個性的な指揮者の求めに対して、的確に応える演奏技術はたいしたものだ。極端に揺れるテンポや、広いダイナミックレンジ、クライマックスの全合奏では大音響を轟かす。それらに対して非常にしなやかな演奏で、指揮者の個性(ワガママ)に付いていくばかりか、木管も金管も一人一人が濃厚で質感の高い音色を次々と繰り出してくる。弦楽も、透明なアンサンブルは言うに及ばず、強奏時にも音質を落とさずに厚みのある音をガンガン出してくる。実際に聴いていて、上手いなァと思った。オペラやバレエからシンフォニー・コンサートまで幅広い分野で豊富な実績を持つ東京フィルならではの柔軟性は、日本で随一のものだろう。
もう一言付け加えておこう。第2楽章のホルンのソロは、首席の高橋臣宜さんが艶やかな音色で抜群のうまみを発揮していた。彼のホルンはいつ聴いても素敵だ。
というわけで、演奏が終われば拍手大喝采。今日の会場の聴衆は、大植マジックにうまく乗せられたような…。
今日の定期シリーズはとても面白いコンサートだった。一緒に聴いていた友人たちも、大喜びしたり、首をかしげたり、賛否両論である。さすが大植さん、「奇才」だけあって、物議を醸してくれる。しかしこういうコンサートでは皆、帰り道に楽しそうに演奏の賛否を語り合っている。作曲家がいて、演奏家がいて、聴く人がいて、語る人がいる。音楽に関わる人たちにとって、音楽を身近に感じる素敵な瞬間である。
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2013年6月7日(金)19:00~ サントリーホール A席 1階 12列 2番 3,780円(会員割引)
指 揮: 大植英次
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
R.シュトラウス:「ばらの騎士」組曲
チャイコフスキー: 交響曲第5番 ホ短調 作品64
東京フィルハーモニー交響楽団の定期シリーズがどういうスケジュールの関係なのか2週連続で組まれていた。定期会員になっている東京オペラシティシリーズの公演は昨日あったのだが、こちらは当方のスケジュールの都合がつかず、聴き逃すのももったいないので翌日のサントリー定期を聴くことにした。そういう事情なので、席位置はいつもと違って12列まで下がって、しかも壁際、ちょうど2階のLCブロックのせり出した前方席の真下辺りになる(座席表で見るのとは位置関係が違う)。音響的に難があるかなとも思ったが、それほど気にならなかった。それよりも演奏そのものが強烈すぎて…。
今月の東京フィルの「東京オペラシティ定期シリーズ」と「サントリー定期シリーズ」は同プログラムである。指揮者の大植英次さんは、今年2013年2月の東京二期会のオペラ公演『こうもり』を指揮したのを聴いた(オーケストラは東京都交響楽団)。元気いっぱいで、明るく楽しく、素晴らしい演奏を聴かせてくれたので、今回の東京フィル登場を楽しみにしていたのである。そして…!!

前半はリヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」組曲。3管編成の大オーケストラが織りなす濃密で絢爛豪華なオペラ絵巻というべき曲だ。日本で最もオペラ演奏に豊かな経験を持つ東京フィルなら、考えうるに日本では最高レベルの演奏が期待できるというもの。この曲は、シンフォニックな演奏ではなく、ねっとり濃厚で、歌うような、踊るような、オペラっぽい雰囲気が大事なのである。
そして大植さんの指揮は、この前の『こうもり』を聴いて予期していた通りの、ねっとりと濃厚な音楽作りで、かなり良い味を出していた。冒頭はホルンを猛々しく吠えさせ、返すヴァイオリンを甘美に泣かせる。オペラ本編では前奏曲に当たる部分は色気たっぷりの濃密な演奏で、東京フィルの濃厚な音色が素敵だ。続く第2幕冒頭の絢爛豪華な音楽はオーケストラを派手に鳴らしていき、「銀のばら」の献呈シーン以降はオクタヴィアンとゾフィーの対話が美しい木管の音色で表情豊かに描かれていく。そしてオックス男爵のワルツは、グッとテンポを落とし、甘美な旋律を徐々にテンポを上げながら回転するよう歌わせて行く。オックス男爵の妄想がエスカレートしていくような艶めかしさがある。第3幕の三重唱の場面では歌唱こそないものの色彩感の強い木管が、ねっとりと歌うように演奏された。転調を繰り返して昂ぶっていき、ティンパニの連打でクライマックス。何度聴いても素敵な音楽である。恋人たちの二重唱の場面に続いて、オックス男爵の退場シーンの派手なワルツ、そしてフィナーレへと突き進む。
大植さんの音楽作りは、オペラ本編を彷彿とさせるもので、濃厚で色っぽい。そしてエンターテイメント性に溢れている。それを表現する東京フィルの音色はまさにピッタリで、25分に満たない圧縮された音楽で、3時間半の『ばらの騎士』を堪能したような気分にさせてくれた。繰り返すようだが、大植さんの音楽は「濃い」。
後半はチャイコフスキーの交響曲第5番。「ばらの騎士」組曲がオペラ的な演奏で良かったので、交響曲ではシンフォニックな演奏を聴かせてくれるに違いない…と、想像していたら、これがまた(!!)な演奏で、二度ビックリ。つまりは、この曲もオペラ的(?)な演奏というべきか、濃厚にしてドラマティック、刹那的に旋律を大胆に歌わせたり、大音量で無理矢理(?)盛り上げようとしたり、いやはや、ものすごいアクロバティックな演奏を展開したのである。フレーズを遅いテンポで始め、流れの中でテンポと緊張感をグイグイと高めていく手法は、オペラ的。そして極端にテンポを揺らすのはシンフォニックとは言い難い。
はっきり言ってしまえば、「超」が付くくらい個性的な演奏であり、お堅い評論家の先生や音楽ファンの方たちから見れば顰蹙(ひんしゅく)ものかもしれない。しかしここには、音楽を徹底的に楽しむという気概が感じられ、とても素晴らしい演奏だと思った。私のような素人には大ウケである。何しろ今日のコンサートのチラシのキャッチ・コピーは「奇才・大植英次の挑戦」なのだから。
もうひとつ素晴らしかった点がある。それは東京フィルの演奏能力の高さである。あれだけ「超」個性的な指揮者の求めに対して、的確に応える演奏技術はたいしたものだ。極端に揺れるテンポや、広いダイナミックレンジ、クライマックスの全合奏では大音響を轟かす。それらに対して非常にしなやかな演奏で、指揮者の個性(ワガママ)に付いていくばかりか、木管も金管も一人一人が濃厚で質感の高い音色を次々と繰り出してくる。弦楽も、透明なアンサンブルは言うに及ばず、強奏時にも音質を落とさずに厚みのある音をガンガン出してくる。実際に聴いていて、上手いなァと思った。オペラやバレエからシンフォニー・コンサートまで幅広い分野で豊富な実績を持つ東京フィルならではの柔軟性は、日本で随一のものだろう。
もう一言付け加えておこう。第2楽章のホルンのソロは、首席の高橋臣宜さんが艶やかな音色で抜群のうまみを発揮していた。彼のホルンはいつ聴いても素敵だ。
というわけで、演奏が終われば拍手大喝采。今日の会場の聴衆は、大植マジックにうまく乗せられたような…。
今日の定期シリーズはとても面白いコンサートだった。一緒に聴いていた友人たちも、大喜びしたり、首をかしげたり、賛否両論である。さすが大植さん、「奇才」だけあって、物議を醸してくれる。しかしこういうコンサートでは皆、帰り道に楽しそうに演奏の賛否を語り合っている。作曲家がいて、演奏家がいて、聴く人がいて、語る人がいる。音楽に関わる人たちにとって、音楽を身近に感じる素敵な瞬間である。

ただ漠然と聴いているだけの私たちとは違って、音楽に対する熱い思いがヒシヒシと伝わってくるコメントでした。
この後は、9月28日の文京シビックホール・響きの森シリーズでまた東京フィルとの共演がありますね。
ワーグナー: 「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
ラフマニノフ: ピアノ協奏曲第2番(中村紘子さん)
ストラヴィンスキー: 春の祭典
今度は前から3列目の席で、たっぷりと大植ワールドに浸らせていただきたいと思います。
ぶらあぼー大植ワールドがワーグナー,ラフマニノフ,そしてストラヴィンスキーを呼び戻し,彼らの音にたっぷりと一緒に浸らせていただきたいと思います.
如何でしょうか
素適なコメントをありがとうございます。
ぜひご一緒させてください。
その日が今から楽しみです!!
楽屋へお邪魔しちゃおうかな…
ぜひ楽屋へ起こし下さい.