神尾真由子＆ミロスラフ･クルティシェフ デュオ･リサイタル
2016年10月25日（火）19:00〜 サントリーホール･大ホール S席 1階 3列 19番 8,000円
ヴァイオリン：神尾真由子
ピアノ：ミロスラフ･クルティシェフ
【曲目】
ブラームス：ヴァイオリン･ソナタ 第1番 ト長調 作品78「雨の歌」
ブラームス：ヴァイオリン･ソナタ 第2番 イ長調 作品100
ブラームス：ヴァイオリン･ソナタ 第3番 ニ短調 作品108
《アンコール》
ブラームス：F.A.E.ソナタより「スケルツォ」
バッジーニ：妖精の踊り 作品25
グルック/クライスラー編：メロディー
神尾真由子さんとミロスラフ･クルティシェフさんのご夫妻によるデュオ･リサイタルを聴く。今回の来日(?)ツアーでは、10/20福岡、10/22長野、10/23東京･立川、10/25東京（サントリーホール/本日）、10/26宮崎、10/28埼玉･草加、10/29神奈川･横須賀、10/30埼玉･所沢、11/1福井、11/2京都、11/3兵庫と、11公演を精力的にこなす。プログラムは各会場によって異なっているが、メインとなっている曲目はブラームスのヴァイオリン･ソナタ3曲とベートーヴェンのソナタ第1番で、あとは色々な小品を用意してプログラムを組んでいるいるようだ。本日、東京･サントリーホールでの公演は、上記の通り、ブラームスのソナタ全曲演奏というプログラムである。
神尾さんも長らく聴き続けているヴァイオリニストの一人だが、この10年の間に演奏のスタイルに変遷があったと思う。2007年のチャイコフスキー国際コンクールに優勝する前後まではアグレッシブで押し出しの強い演奏だった。その後は極めて美しい音色と集中の高い演奏に変わっていき、技巧、音色、表現力のいずれをとっても完璧を目指すような、クオリティの極めて高い演奏をするようになった。2013年の結婚あたりから「完璧」が崩れ始め、2015年の出産後はちょっとしたスランプというか、練習不足のような不調な演奏が続いていた。最近になってかなり復活してきた感じではあるが、かつてのような圧倒的な存在感を見せるには至っていないと思う。
今日の演奏を概観すると、神尾さんの演奏は全体に穏やかでまろやかな雰囲気を纏っている。かつての攻撃性はまったく消え失せ、優しく慈愛に満ちた音楽になっているような気がする。曲がブラームスだからそう感じるのではなくて、神尾さんの内面から滲み出てくる音楽性、あるいは求めている音楽像が変わってきたのかもしれない。音色は美しくしなやかな輝きを持っているが、かつての「完璧さ」から見ると8〜9割の仕上がり。技巧的にも、かつてのような研ぎ澄まされたような「完璧さ」とは違って、音程にもちょっと甘いところがあったりして、どうなのかなと思う。代わりに、音楽全体が柔らかく、温かく、人間味が増した感じもする。かつてはストイックな緊張感が高くて、人を寄せ付けないような壁があるように感じたものだが、今日の演奏は優しくて心が和むようなところがあり受け入れやすい。つまり、スランプ前の頃は感動を一方通行で押しつけるようなところがあって、それはそれで強いオーラを感じさせるものだったのだが、今日の演奏は聴き手に対して共感を呼ぶような感じがしたのである。このような路線変更は、神尾さんにとっても新境地の開拓につながっていくのではなてだろうか。今後、彼女がどのような方向に進んでいくのか、見守って行きたい。ただ、私が求めたいのは、やはり「完璧な」神尾さんの演奏技術であり、その上での路線変更であるのなら大賛成なのだが、演奏自体のクオリティが、かつてを知っているだけに、8〜9割の仕上がりにしか聞こえないのである。
一方、クルティシェフさんのピアノも常に優しく、抑制的な中にも幅広く豊かな表現力を持っていて、神尾さんを見事にサポートしていた。ヴァイオリンとピアノがガチンコでぶつかるような精神の交わりはなく、まさに夫婦デュオによる共同作業といった雰囲気であって、その意味でも聴き手の共感を呼ぶ温かい雰囲気が音楽に満ちている。今日は3列目のセンターで聴いたのだが、ヴァイオリンとピアノのバランスなどは見事に収まっていて、クルティシェフさん上手いなあと思う一方で、完全に尻に敷かれているのでは?? などと想像してしまう演奏････うらやましく素敵なカップルである。
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ヴァイオリン：神尾真由子
ピアノ：ミロスラフ･クルティシェフ
【曲目】
ブラームス：ヴァイオリン･ソナタ 第1番 ト長調 作品78「雨の歌」
ブラームス：ヴァイオリン･ソナタ 第2番 イ長調 作品100
ブラームス：ヴァイオリン･ソナタ 第3番 ニ短調 作品108
《アンコール》
ブラームス：F.A.E.ソナタより「スケルツォ」
バッジーニ：妖精の踊り 作品25
グルック/クライスラー編：メロディー
神尾真由子さんとミロスラフ･クルティシェフさんのご夫妻によるデュオ･リサイタルを聴く。今回の来日(?)ツアーでは、10/20福岡、10/22長野、10/23東京･立川、10/25東京（サントリーホール/本日）、10/26宮崎、10/28埼玉･草加、10/29神奈川･横須賀、10/30埼玉･所沢、11/1福井、11/2京都、11/3兵庫と、11公演を精力的にこなす。プログラムは各会場によって異なっているが、メインとなっている曲目はブラームスのヴァイオリン･ソナタ3曲とベートーヴェンのソナタ第1番で、あとは色々な小品を用意してプログラムを組んでいるいるようだ。本日、東京･サントリーホールでの公演は、上記の通り、ブラームスのソナタ全曲演奏というプログラムである。
神尾さんも長らく聴き続けているヴァイオリニストの一人だが、この10年の間に演奏のスタイルに変遷があったと思う。2007年のチャイコフスキー国際コンクールに優勝する前後まではアグレッシブで押し出しの強い演奏だった。その後は極めて美しい音色と集中の高い演奏に変わっていき、技巧、音色、表現力のいずれをとっても完璧を目指すような、クオリティの極めて高い演奏をするようになった。2013年の結婚あたりから「完璧」が崩れ始め、2015年の出産後はちょっとしたスランプというか、練習不足のような不調な演奏が続いていた。最近になってかなり復活してきた感じではあるが、かつてのような圧倒的な存在感を見せるには至っていないと思う。
今日の演奏を概観すると、神尾さんの演奏は全体に穏やかでまろやかな雰囲気を纏っている。かつての攻撃性はまったく消え失せ、優しく慈愛に満ちた音楽になっているような気がする。曲がブラームスだからそう感じるのではなくて、神尾さんの内面から滲み出てくる音楽性、あるいは求めている音楽像が変わってきたのかもしれない。音色は美しくしなやかな輝きを持っているが、かつての「完璧さ」から見ると8〜9割の仕上がり。技巧的にも、かつてのような研ぎ澄まされたような「完璧さ」とは違って、音程にもちょっと甘いところがあったりして、どうなのかなと思う。代わりに、音楽全体が柔らかく、温かく、人間味が増した感じもする。かつてはストイックな緊張感が高くて、人を寄せ付けないような壁があるように感じたものだが、今日の演奏は優しくて心が和むようなところがあり受け入れやすい。つまり、スランプ前の頃は感動を一方通行で押しつけるようなところがあって、それはそれで強いオーラを感じさせるものだったのだが、今日の演奏は聴き手に対して共感を呼ぶような感じがしたのである。このような路線変更は、神尾さんにとっても新境地の開拓につながっていくのではなてだろうか。今後、彼女がどのような方向に進んでいくのか、見守って行きたい。ただ、私が求めたいのは、やはり「完璧な」神尾さんの演奏技術であり、その上での路線変更であるのなら大賛成なのだが、演奏自体のクオリティが、かつてを知っているだけに、8〜9割の仕上がりにしか聞こえないのである。
一方、クルティシェフさんのピアノも常に優しく、抑制的な中にも幅広く豊かな表現力を持っていて、神尾さんを見事にサポートしていた。ヴァイオリンとピアノがガチンコでぶつかるような精神の交わりはなく、まさに夫婦デュオによる共同作業といった雰囲気であって、その意味でも聴き手の共感を呼ぶ温かい雰囲気が音楽に満ちている。今日は3列目のセンターで聴いたのだが、ヴァイオリンとピアノのバランスなどは見事に収まっていて、クルティシェフさん上手いなあと思う一方で、完全に尻に敷かれているのでは?? などと想像してしまう演奏････うらやましく素敵なカップルである。
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