Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/29(木)モナ=飛鳥・オット/川口リリアでピアノ・リサイタル/自由度が高く溌剌としていて、奔放さが何よりの魅力

2017年06月29日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
モナ=飛鳥・オット ピアノ・リサイタル
Mona Asuka Ott Piano Recital


2017年6月29日(木)19:00〜 川口リリア・音楽ホール 指定席 L列 14番 3,000円
ピアノ:モナ=飛鳥・オット
【曲目】
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27-2「月光」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13「悲愴」
シューベルト:さすらい人幻想曲 ハ長調 D.760
リスト:メフィスト・ワルツ 第1番 S.514
《アンコール》
  リスト:『ヴェネツィアとナポリ』より「カンツォーネ」

 来日中のモナ=飛鳥・オットさんのピアノ・リサイタルを聴く。6月の前半は、初来日のブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団の日本ツアーに同行して、ベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」とラヴェルの「ピアノ協奏曲 ト長調」を演奏して全国を回った。私は6月11日に東京芸術劇場で「皇帝」を聴いた。その後は各地でリサイタルを行っていたようだが、東京での公演がなかったため、あまり情報が入って来なかった。近隣では唯一、埼玉県の川口リリアホールでリサイタルが予定されていたのだが、東京駅から電車でわずか30分の距離でしかかないのにも関わらず、川口となると完全に地方公演(自治体主催の文化事業の一環)になってしまい、告知も地元中心、チケット販売もホールのチケットセンターで、ということになる。気が付いた時にはすでに発売後かなり時間が経っていて、しかもWEBで申し込むと席が選べず、電話で申し込んで前方の端の方の席を取ったつもりでお金を振り込んだら、何の手違いか送られて来たチケットはWEBで流したはずのL列のセンター席だった。何となくやる気の感じられないお役所仕事に文句を言うきにもなれず、3,000円だからまァいいか、と諦めることにした。そんな顛末なので、私としてはごくごく珍しいL列(12列目)でピアノ・リサイタルを聴くことになったのである。
 川口リリアの音楽ホールは600席の中規模ホールだがステージ後方にはパイプオルガンを備えている本格的な音楽専用ホール。24席×25列の長方形だが、階段状になっているため、どの席からもステージが良く見え、残響音も長い(私には音がやや濁って聞こえるが)。私の座ったL列のセンターは、もっとも良い方の席なのかもしれないが、いつも前方の方で聴いている者にとっては、あまりにも聞こえて来る音の質が違うので、戸惑いを隠せなかった。ピアノのナマの音ではなく、ホール空間を通して聴いているという感じで、ピアノの音とホールの響きが完全に混ざっている。従って、タッチの差による音色の変化や細やかなニュアンスなど聴き取れるわけもない。案の定、フライング拍手をする人や演奏中にゴホゴホ大きな咳をする人などは、半分から後ろにいることがよく分かった。要するに音楽を聴きに行ったのに、音楽が聞こえていない可能性があるということだ。

 1曲目はベートーヴェンの「月光」ソナタ。第1楽章は淡々と分散和音を刻んでいた。第2楽章のスケルツォはかなり速めのテンポで、軽快でメリハリがある。第3楽章は、自由奔放さが出ていて、音楽自体が活き活きとしている。いわゆるノリが良い感じで、推進力があるし、ダイナミックレンジも広く、雄壮なイメージだ。モナさんの演奏は、この自由奔放なイメージが魅力だと思う。

 2曲目は同じくベートーヴェンの「悲愴」ソナタ。第1楽章は、Graveの序奏部分はじっくりと構えて荘厳なイメージ。ソナタ形式の主部に入るとかなり速めのテンポで快調にスイスイ飛ばしていく感じになる。提示部の繰り返しはなく、すぐに展開部へ、そして再現部へとあっという間に進んでいく。先日の協奏曲「皇帝」の時に比べると、自由奔放さはあるが、速めのテンポであることを除けばはるかに造形がシッカリしている。第2楽章の有名なAdagio cantabileもやや速めのテンポで、若く瑞々しさを感じさせる。旋律はよく歌っているし、中々素敵な演奏だ。第3楽章は、またまたかなり速いテンポ。今まで聴いた中でも最も高速の方に入ると思う。しかし技巧的には的確で、彼女なりの解釈によるものなのだろう。個人的にはこの速さはさすがにちょっと・・・・、という感じだが、こうしたあまり常識にとらわれない奔放さが、やはり彼女の魅力なのだろう。聴き終わると、妙に爽快感が残った。

 プログラムの後半は、まずシューベルトの「さすらい人幻想曲」から。第1楽章、冒頭からインパクトを強く叩き出し、やはりテンポは速めで、ダイナミックレンジも広い。ベートーヴェンよりもさらに自由度が増してロマン派っぽさが濃厚に現れている。第2楽章は変奏曲形式の緩徐楽章。息の長い主題の歌わせ方はシューベルトらしくて素敵だ。第3楽章はスケルツォに相当するが、力感に溢れ、ダイナミックだ。第4楽章は共通する主題が大きなフーガを構成していく。モナさんの演奏は、ここでも自由奔放さが感じられ、ヒラメキいっぱいの音楽のように聞こえる。しかし実際には即興的なわけではなく、計算された「奔放さ」なのだと思う。

 最後はリストの「メフィスト・ワルツ 第1番」。交響詩的なピアノ曲だが、ここへ来てモナさんの奔放さが爆発する。ppからffまでのダイナミックレンジが更に一層広がり、強奏の鋭く力強いタッチから緩徐部分ではロマンティックに旋律を歌わせる。単似る強弱だけではなく、テンポの変化も表現の幅も、より自由度が増して広がりを見せる。超絶的な技巧もサラリとこなしているし、なかなかレベルの高い演奏だと思う。

 アンコールは、先日のブリュッセル・フィルの時と同じで、リストの『ヴェネツィアとナポリ』より「カンツォーネ」。CDにも収録されている。ダイナミックで表現の幅が広い演奏だ。

 モナさんの演奏は、とにかく他の人と同じようには弾かない! という意志が感じられる。そういう意味ではモナさんはけっこう大物かもしれない。姉のアリス=紗良・オットさんの演奏はスケール感が大らかだが、妹のモナさんはちょっと我が儘できかん気が強い、といった印象。妹キャラがよく現れている。モナさんも近い将来、大スターに変貌する素質は十分に備えていると見た。現在のところは、オーケストラとの共演による協奏曲よりも、リサイタルの方が個性を大いに発揮できているように思う。また次回、来日する機会があって、東京でリサイタルが開かれるようなら、優先的に聴いに行く価値があると思った。

← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

【お勧めCDのご紹介】 
モナ=飛鳥・オットさんの新譜です。シューベルトの「4つの幻想曲」やリストの「巡礼の年 第2年」への追加「ヴェネツィアとナポリ」S162のほか、シューベルト作曲・リスト編曲の小品が4曲収録されています。ドイツのOEHMS CLASSICSから。
Schubert,Franz/Liszt,Franz - Mona Asuka: Schubert/Liszt (1 CD)
Schubert,Franz/Liszt,Franz
Schubert,Franz/Liszt,Franz



★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの人気ページをご紹介します。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓







コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 6/25(日)幸田浩子+村治佳織/... | トップ | 7/1(土)読響/土曜マチネー/首... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事