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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/8(木)東京藝大修士リサイタル/長尾春花/バルトークの無伴奏の難曲にチャレンジ

2012年11月09日 01時27分44秒 | クラシックコンサート
東京藝術大学大学院音楽研究科/修士リサイタル/長尾春花

2012年11月8日(木)18:30~ 東京藝術大学・上野キャンパス 音楽学部第1ホール 自由席(2列3番)無料
ヴァイオリン:長尾春花
【曲目】
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調「バラード」
バルトーク: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ト短調

 友人のKさんに誘われて、東京藝術大学の修士リサイタルで長尾春花さんを聴くことになった。
 その昔、遥か昔に、東京藝大に進学したいと考えた時期があった。といっても、それはお向かいの美術学部のこと。結局、藝大進学は諦めて一般の大学に進んだのだが、現在も商業アートの世界で食べていけているので、必ずしも藝大に行く必要はなかったようだ(強がり?)。○十年の時を経て、東京藝大に足を運ぶことになったが、実は生まれて初めてのことである。この時期、18時は真っ暗だから、上野の公演の中をうろうろと迷いつつ、やっと辿り着いて正門の守衛さんに第1ホールの場所を尋ねると、うさんくさそうな目で見られながらも丁寧に教えていただいた。ホールといっても校舎の中だから、初めての人には分かりづらいこと夥しい。まあ、無料の演奏会を聴かせていただくのだから、文句を言う筋合いではないのだが…。

 長尾春花さんは、2008年のロン=ティボー国際音楽コンクールに入賞した頃から注目してきた人。翌年に開催された記念ガラ・コンサートでドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を聴いたのが最初であった。その後はなかなか聴くチャンスに恵まれず、昨年2011年11月に「ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉」の定期演奏会で、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を、例によって最前列で聴いた。その時の演奏は上品な中にも芯の強さがあって、かなり好印象であった。その次は、今年の「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2012」の2日目、メイン会場の東京国際フォーラムではなく、付近の丸ビルで開催されていた無料コンサートに出演されていたので、急遽駆け付けて聴かせていただいた。さすがに最前列とはいかず、人垣の後ろから立ち見であった。この時はPAを使っていたので、論評しにくいものがあった。
 実はこの3回しか聴いたことはないのだが、ブログを読ませていただいてたこともあって(最近はTwetterに変わった)、妙に親近感があった。そのような訳なので、Kさんにお誘いをいただいた時に、。今回はスケジュールも空いていたので、即座に聴きに行くことを決めたのである。勝手に親しみを込めて春花さんと呼ぼう。

 さて、春花さんの修士リサイタル。会場の第1ホールに集まった聴衆は60名くらい。お師匠さんの青木高志さん(東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスター)もご臨席であった。曲目は、無伴奏のソナタを2曲。けっこう難解なプログラムだ。
 イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番「バラード」は、イザイの作品27の6曲のソナタのうち、単一楽章の短いものなので、演奏される機会も多い。
 冒頭の短音から重音へ不協和に深みを増していくあたりは、繊細に音を積み重ねていくイメージだ。音量もそれほど大きくは取らずに、技巧的なパッセージをしっかりと造形していき、中盤で主題が浮かび上がってきた。個人的には、もっと主題を自由に押し出す方が好きだが、春花さんの場合は、全体の構造をしっかりと構築していくタイプであろうか。音色も豊かな色彩感があるし、技巧的にも素晴らしい。フレーズのつなぎ部分の間合いの取り方なども、正面から楽曲に向かい合う正統派のイメージであった。一般手派に無伴奏の曲にはいえることだと思うが、この曲もリズムの取り方が難しそう。全体の構造の中に曲の流れをスムーズかつダイナミックに落とし込んでいくのが難しそうな曲だ。

 2曲目はバルトークの無伴奏ソナタ。この曲については、どうもつかみどころがなく、これまであまり聴いてこなかったので、今日の春花さんの演奏については、どうこう言える立場ではない。早い話が曲をよく知らないので、分からない部分も多かったから、気がついた印象を書くに留めたい。
 第1楽章は「シャコンヌのテンポで」。10分くらいの長い楽章である。聴いていると、シャコンヌらしくも聞こえてくるが、調性が不明瞭で、リズムも劇的に変化するから、曲の骨格を理解するのが、2、3度聴いたくらいでは難しそうだ。楽譜を読み込んでいかないとならないのだろう。私たち素人にはちょっと難解である。春花さんの演奏は、印象としては、楽曲の全体像を捉えてはいるものの、多彩・多様なパッセージの表現はもっと大胆にしても良いような気がした。
 第2楽章は「フーガ」。…言われてみればフーガかも…。全体的な攻撃的なパッセージが次々と現れるといった印象の曲で、随所に登場するピチカートがアクセントを作っている。
 第3楽章は「メロディア」。緩徐楽章である。主題が不明瞭で、つかみどころがない感じがする。春花さんの演奏は、弱音から中音の音色が美しく、フラジオレットや弱音器を付けた時との対比が、極端すぎずに上品な感じがして素敵だ。
 第4楽章は、「プレスト」とだけある。ロンド形式らしい。ロンド主題らしき部分は無窮動的な高速パッセージがうねりのようの押し寄せてくる。一転して中間部の強烈な楽想は、攻撃的。終盤は両者が混ざり合うように複雑だ。春花さんの演奏は、目まぐるしく入り組んだ構造を解くほぐすように、丁寧に描かれていたので、聴いていて分かりやすく、もちろん多彩な表現力も見事なものだった。素人には難解に聞こえるこの曲を、飽きさせることなく最後まで緊張感を高く保って演奏されたのは素晴らしいと思う。ただ、このような曲では、静と動、明と暗、強と弱などの対比を、さらには沈静と躍動、平安と葛藤といったような心理的な対比も、もっと明瞭に打ち出しても良かったかもしれない。…などと、勝手な印象を持ったのだが…。

 終演後は、Kさんに紹介していただき、春花さんと少しお話しすることができた。とてもしっかりしたお嬢さんといった好印象。「演奏会があれば必ず聴きたい演奏家リスト」に、元から入っている人だけに、今後の活動に注目して、追いかけていきたいと思う。今日は無伴奏の2曲で、やや難解であったために、こちらとしても分からない部分が多かった。以前に聴いたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の時の鮮やかな演奏を思い出せば、春花さんの実力はかなり上の方だということは分かっているつもり。やはり一人の音楽家を知るためには、何度も何度も聴かなければならない。またまた追いかける演奏家が増えてしまった。

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