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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/8(金)フィルハーモニア管/極めて上質なサロネン+アンスネスのベートーヴェンP協4番とマーラー「巨人」

2013年02月11日 02時06分19秒 | クラシックコンサート
フィルハーモニア管弦楽団/2013年 日本公演
Philharmonia Orchestra Japan Tour 2013


2013年2月8日(金)19:00~ サントリーホール・大ホール B席 2階 LA2列 19番 13,000円(会員割引)
指揮: エサ=ペッカ・サロネン
ピアノ: レイフ・オヴェ・アンスネス*
管弦楽: フィルハーモニア管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン: 劇付随音楽「シュテファン王」序曲 作品117
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58*
《アンコール》
 ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第22番 ヘ長調 作品54より第2楽章*
マーラー: 交響曲 第1番 ニ長調「巨人」
《アンコール》
 シベリウス: 悲しきワルツ

 英国の名門オーケストラ、フィルハーモニア管弦楽団の2013年の日本公演ツアーは、2月2日の岩国(山口県)に始まり、西宮、札幌、名古屋、横浜、そして東京で3回、6都市で合わせて8回のコンサートが開催される。指揮はもちろん首席指揮者のエサ=ペッカ・サロネンさん。同行するソリストは、ピアノのレイフ・オヴェ・アンスネスさんとヴァイオリンの諏訪内晶子さんで、アンスネスさんはベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番を、諏訪内さんはシベリウスのヴァイオリン協奏曲とサロネンさん作曲のヴァイオリン協奏曲で共演する。オーケストラ曲のプログラムとしては、ベートーヴェンの交響曲第7番と劇付随音楽「シュテファン王」序曲、マーラーの交響曲第1番「巨人」、ルトスワフスキの交響曲第4番、シベリウスの交響詩「ポホヨラの娘」、そしてストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」が用意され、各会場でのコンサートはこれらの曲の組み合わせを変えてプログラムされている。フィンランド出身のサロネンさんとノルウェー出身のアンスネスさんという組み合わせにしては、北欧ものを多く採り上げることもなく、むしろインターナショナルな性格の強いフィルハーモニア管に合ったプログラム構成だといえそうだ。
 もうひとつの話題は、横浜でのコンサートが、諏訪内さんが芸術監督となって始まった「国際音楽祭NIPPON」に、サロネンさんとフィルハーモニア管、そしてアンスネスさんもメイン・ゲストとして参加することだ。こちらの方は、明日2月9日に聴くことになっているので詳細はそちらで。

 1曲目はベートーヴェンの「シュテファン王」序曲。意外と珍しい曲なので、演奏会で、しかも一流のオーケストラで聴く機会は滅多になさそうな曲だ。第1主題も明るく軽快だし、第2主題も爽やか、全体に祝祭的な雰囲気に包まれている素敵な曲である。オーケストラの弦楽野配置は、第1ヴァイオリンの対向にチェロがいるカタチ。指揮者を半円形に取り巻いて、右回りにだんだん音が低くなる配置である。サロネンさんの指揮はキレ味がハッキリしている部分としなやかな柔軟性のある演奏が美しく対比されていて、なかなか良い感じだ。オーケストラもクセのない音色で、かなり上手いという印象だ。

 2曲目はベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。第4番、というところがなかなか渋い。ステージの最前にピアノを出してくると、弦楽がピアノを取り巻くように再配置された。最近では、ピアノ協奏曲のあるプログラムだとオーケストラ全体がステージ奥にセットバックしていることが多い。ピアノを出しやすくするためだ。ところが今日は、ピアニストの真後ろにコンサートマスターがいるように、ピアノをオーケストラに抱き込むカタチに配置された。それだけ緊密な演奏空間が作られているようで、好感が持てる。
 演奏が始まれば、そこは美しい純音楽の世界だ。アンスネスさんのピアノは透明感のある澄んだ音色で、重音や和音がことのほか美しく響く。派手さや煌びやかさ、ヴィルトゥオーソ的な押し出しの強さなど感じさせないが、ノーブルで気品があり、とても爽やかな印象である。北欧的な澄んだ音色だと解釈してしまうのは先入観だけではないような気がする。
 またオーケストラの方も音が良い。サロネンさんが振っているからなのかどうかは分からないが、もともと英国のオーケストラは無色透明の国際派で、ドイツやフランスのオーケストラのようにお国柄っぽい色彩感はない。だから今日のベートーヴェンも、ドイツ風の渋めの演奏とも違うし、かといって北欧風なわけでもない。純粋に楽器の音を研ぎ澄ませていき、器楽の集合体であるオーケストラの音の質を高くしていく、そんなイメージの音色であった。
 というわけで、今日のピアノ協奏曲第4番は、とても透き通った音色のピアノとオーケストラによる「純音楽」であり、ドイツの伝統色的なベートーヴェンとはイメージがちょっと違っていたかもしれない。しかしながら、これほど美しいベートーヴェンも珍しいのではないだろうか。
 アンスネスさんのアンコールは、ベートーヴェンのビアノ・ソナタ第22番から第2楽章。また変わった曲を選んだものだ。アンスネスさんの音楽は、楽曲を冷静に分析して、過度に感情的に陥ることを意図的に避けているような印象だ。非常に理知的で冷静な演奏である。この人の評価が非常に高いのがよく分かる演奏だ。

 後半はマーラーの「巨人」。まず全体の印象から言うと、非常に洗練された演奏のように感じた。4管編成に16型の弦楽5部、ステージいっぱいに展開したオーケストラから繰り出されるサウンドは、思っていたほどの大音量ではない。今日の席は2回のLA2列なので、オーケストラを下手側真横から、すぐ目の前で見る位置である。各楽器の音はホールの残響音抜きで直接聞こえるので、この音量は、極めて抑制的であることが分かる。読響辺りの方が音は余程大きい。ところが弱音をかなり緻密にコントロールして演奏されているため、ダイナミックレンジは広い印象を受ける。この辺にサロネンさんの緻密な音楽作りが生きているようだ。
 さらに、各パートの演奏技術が極めて高い。とくに8名並んだホルンの首席は若い女性であったが、難しい弱音を安定した艶のある音色で、さらりと吹いている。トランペットもトロンボーンも抑制的で、極めてバランスの良い音量でアンサンブルを創っている。オーボエも、クラリネットも、ファゴットも、それぞれの音色が本当に研ぎ澄まされている印象で、「何々のような音色」という比喩的表現がしにくいくらい、楽器そのものの音を美しく聴かせていた。フルートだけがちょっと突出してしまう箇所があったが、これは聴いている位置のせいもありそうだ。サロネンさんは各パートを強奏させずに本来の音色を出させ、その上で緻密なバランスを創り出していた。LAブロックで聴いていると、どうしても弦よりも管が強く聞こえるようになってしまうものだが、今日のフィルハーモニア管に限っては、弦と管のバランスも見事。これも全体を抑制的に演奏させ、音量を抑え気味にしている効果なのだろう。見事なオーケストラ・ドライブである。
 第1楽章は、幻想的な弦の出だしの弱音から緊張感が高い。バンダのトランペットも適度な音量で聞こえてきたし、ホルンのソロも上手い、主題提示部になると弦楽のアンサンブルが素晴らしい。全合奏に盛り上がっていっても、抑え気味なのは前述の通りである。
 第2楽章のスケルツォも冒頭のコントラバスが以外にも柔らかいアンサンブルを聴かせる。見るとフレンチ・ボウの奏者が多い。またサロネンさんのテンポの取り方は、リズム感良くやや早めというところだが、中間部やフレーズの切れ目などでテンポの落とし方が非常にしなやかな印象だ。
 第3楽章の有名なコントラバスのソロもどちらかといえばチェロのような音色で柔らかくまろやかだった。
 シンバル1発で始まる第4楽章も、それほど強烈なイメージではなかった。むしろ第2主題の抒情的な旋律を透明感のあるヴァイオリンが切なく聴かせたのが印象に残る。もちろんさすがにフィナーレでは最強奏を聴かせてくれた。立ち上がった8名のホルンのベルがこちら側を向いていたが、それでもバランスはしっかりと保たれていた。見事という他はない。ちなみにカーテンコールでサロネンさんが最初に立たせたのはホルンの首席の女性であった。この人、本当に上手い。

 アンコールは、お馴染みの「悲しきワルツ」。てもサロネンさんだとお国訛りが出て良い。ワルツのテンポが回るようなリズムで、かなり自由度の高い振れ幅の大きな演奏だったが、オーケストラ側もさすがに慣れているのだろう。ここは厚みのある弦楽をたっぷりと聴かせてくれた。

 今日のフィルハーモニア管のコンサートは、本当に上質の演奏だったといえる。地味目なベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番と派手なマーラーの「巨人」というカップリングで、どうなることやらと思っていたが、終わってみれば見事な統一感。演奏自体が抑制的であるにもかかわらず、極めて高品質で純度が高い。派手なウケを狙ったような所は微塵もなく、あくまで楽曲に真摯に向かった結果、このような演奏になったのだと思う。素敵なコンサートであった。

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