
東京フィルハーモニー交響楽団/第66回東京オペラシティ定期シリーズ
2012年1月12日(木)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 4列 14番 3,780円(会員割引)
指 揮: 外山雄三
ヴァイオリン: 松山冴花*
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
外山雄三: ヴァイオリン協奏曲 第2番 作品60*(東京フィル初演作品)
マーラー: 交響曲第5番 嬰ハ短調
東京フィルハーモニー交響楽団の第66回東京オペラシティ定期シリーズ。実はこの日、会員向けの公開リハーサルがあったので、無料だからということも手伝って、初めて参加してみた。午後3時受け付け、3時30分からのスタートということだったので、3時に会場入り。定員200名とのことだったが、参加者数は60~70名ほどだった。まあ、平日の午後なのでこんなものだろう。参加者に割り振られたのは1階の13列以降の席(中央通路より後方部分)。運良く13列14番という、SS席ともいえる最高のポジションで聴かせていただくことになった。
要するに公演日の開演前のゲネプロである。明日1月13日のサントリーホール定期でも演奏されるマーラーの交響曲第5番から、リハーサルが始まった。始めに指揮の外山雄三さんが各パートに細かな指示をしていく。これまで何度かリハーサルをしているはずだから、総仕上げとなる細かな指示のようだ。その後は、第1楽章から演奏が始まり、途中で止めたのはわずか数回だけ。ほぼ全楽章通しで演奏された。その間約90分。前の席には誰もいないから、いつものオペラシティよりはよく響いていた。ステージいっぱいに展開した100名近いオーケストラから繰り出される音楽は、豊かな音量と濃厚な音色で、後期ロマン派の爛熟した音の響宴といった趣きだった。マーラーの演奏が終わると休憩となり、その後はヴァイオリン協奏曲のリハーサルになるようだったが、私たちはここでおしまい。協奏曲のゲネプロも興味深かったので残念ではあった。あとは本番を楽しみにしよう。
ということで、いったん会場から外に出て時間をつぶし、午後6時30分に、今度はチケットを持って会場入り。今度は人がいっぱいで、ほぼ満席に近いようだった。
さて、1年前に年間会員になった時から楽しみにしていた今日のコンサート。松山冴花さんが弾く、外山雄三作曲の「ヴァイオリン協奏曲第2番」である。初演が1966年12月、東京文化会館、独奏ヴァイオリンは海野義雄さん、指揮はもちろん外山雄三さんご自身で、管弦楽ももちろん東京フィルである。45年の間に何回くらい演奏されたのか知るよしもないが、東京フィル創立100周年にふさわしい曲の復活演奏であり、逆に今が旬の松山さんがソリストを務めるというのが嬉しい。この曲は、もちろん聴いたことがなく、音源を探したが見つからなかった。どんな曲なのだろうか…ワクワクしてしまう。
プログラムには演奏時間が約18分とある。意外に短い。オーケストラは協奏曲らしくコンパクトな編成だった。2管編成+弦楽5部、打楽器に加えて、ハープが入っているのはヴァイオリン協奏曲としては珍しいところだ。3つの楽章からなるが、第1楽章が急、第2楽章がスケルツォで、第3楽章が穏徐楽章+急のコーダというような構成になっている。調性の表記がないところをみると、無調あるいは12音技法なのか、カテゴリーとしては現代音楽ということになるのだろうが、とても聴きやすい、ロマン的な情緒も感じられる素敵な曲だった。曲のベースには日本旋法的な音型を持ち、「とうりゃんせ」風のモチーフがちりばめられていた。不協和な中に現れるモチーフがほどよくブレンドされているため、「聴きやすい曲」に感じられるのだろう。

一方、独奏ヴァイオリンの松山さんは、現代物であっても、やっぱり豊潤で大らかな演奏だ。比較的はっきりした主題であっても、あるいは経過部分であっても、よく鳴る楽器と、よく歌う演奏に終始し、明朗闊達でスケールが大きい。音の色彩が濃く、ひとつひとつの音が厚い(深い)。やはり松山さんの演奏は素晴らしく、どんな曲を弾いても「松山節」が曲を引き立てていることは間違いない。第3楽章だったか、独奏ヴァイオリンのピチカートとハープがユニゾンで演奏したところなどは、新鮮な響きに驚かされた。協奏曲にハープを加えた訳が理解できた。
第3楽章がおもしろい。穏徐楽章で穏やかな曲想が続き、いったん途絶えると、あたかも第4楽章に突入していくかのごとき急展開し、一気呵成にフィナーレへとなだれ込む。驚きのコーダで聴衆をビックリさせるところなどは、作曲者の外山さんにしてみれば、してやったりとほくそ笑むところではないだろうか。
初めて聴く協奏曲だから、曲全体を聴くべきか、ソリストの演奏に集中すべきか、聴いている間によく分からなくなってしまった。それでも終わってみればなかなか良い曲、素敵な曲だったと思う。独奏ヴァイオリンには超絶技巧が求められるというほどでもなく(あるいは松山さんだからかなりの難曲でもアッサリ弾きこなしていたのかも?)、独奏ヴァイオリンとオーケストラが有機的に絡み合うといったタイプの現代的な曲あった。ステージには録音マイクがセットされていたから、後日NHK-FMあたりで放送されれば良いのだが…と期待してしまう。あるいはCD化してもらえないだろうか。もっと演奏機会があっても良い曲だ。
後半はマーラーの交響曲第5番。ほんの2時間前に、全曲を聴いたばかり。1日にこの曲をナマで2回聴くといえ機会は、そう滅多にあるものではない。そういう意味では、非常に貴重な体験だった。しかもそれが、とびきり素晴らしい演奏だったから、なおさらである。
東京フィルの東京オペラシティ定期シリーズは、1階席の1~2列目を取り払ってステージを拡張している。そのステージいっぱいに展開した100名近くのオーケストラは圧巻。2回目となる本番は4列センターの席(実際は2列目、コンサートマスターの正面辺り)なので、目の前で轟音を浴びることになる。リハーサルを聴いた13列センターだと、オーケストラの各パートの音が程良くミックスされてまとまって飛んで来るし、余計な雑音は届かない。しかし2列目だと、指揮者がスコアをめくる音や、ヴァイオリン奏者が切れた弓の毛を千切るプチッという音まで聞こえるのだ。もちろん楽器の音は残響音を含まないナマの音がダイレクトに響いてくる(だからほんのわずかなミスも聞こえてしまったりする)。しかも、第1ヴァイオリンは左から、第2ヴァイオリンは前方左側から、チェロは前方右から、ヴィオラは右側の真横から、ホルンは左斜め奥から、トランペットは右奥から、といったふうに、指揮者を中心に扇形に並ぶ各パートの音に方角が加わってくるのである。ステレオというよりはサラウンドのような立体的な音響が体験できる。マーラーのような音の響宴といえるようなオーケストラの音楽を聴くと、複雑な和声の組み立てが分離良くリアルに伝わってくるし、全合奏の際の大音量は風圧さえ感じる程で、こちらの身体を直接振動・共鳴させてくれるようなイメージである。今日、あえてこのようなことをくどくどと述べているのかというと、東京フィルの演奏がとくに素晴らしく、各パートが平均的にかなり上手く、良い音色を聴かせていて、とくに強く感じたからだ。というのも、他のオーケストラ、読売日本交響楽団や新日本フィルハーモニー交響楽団も定期会員になっていて、いつもほぼ同じような前方の席で聴いているにもかかわらず、今日の印象はとくに強かったのである。
トランペットの音は晴れやかで輝かしく、ホルンは野太い音から繊細なppまで艶やかで潤いのある音色。トロンボーンは力強く押し出してくる。またクラリネットはねっとりと優雅だったし、オーボエは艶めかしくコールアングレはそよ風のように歌う。ピッコロは小鳥のさえずりだ。ティンパニや大太鼓は足下から地響きをとなって伝わってくる。弦楽5部は、繊細で透明感のあるアンサンブルを聴かせるかと思えば、全合奏のffでは分厚い音量で大河の激流ような激しさまで弾き分けている。ピーンと張りつめたヴァイオリン、暖かみのあるヴィオラ、幽玄なチェロとコントラバスなど、豊かな色彩感に満ちていた。
いつものように第1楽章から順番に見ていくのを敢えて止めたのは、全体の演奏の素晴らしさがもっとも強い印象になったからだ。最近は一番お気に入りの東京フィルだが、今日の演奏を聴けば誰もが納得できたのではないだろうか。これだけ素晴らしい演奏を、会員になればお手頃価格(失礼)で聴くことができるのであれば、海外の有名オーケストラの来日公演に大枚をはたいて行くのに何となく違和感を感じてしまう…。

外山雄三さんの指揮についても触れておこう。全体にやや遅めのテンポをとり、安定感のある滔々たる流れを構築していた。非常に丁寧な音楽作りで堅牢な構造性を描き出すと同時に、抜群のバランス感覚でオーケストラのハーモニーを見事にコントロールしていた。そしてダイナミックでもあった。東京フィルの濃厚な音色をうまく引き出して、色彩感豊かなマーラーを描き出していた。外山さんの指揮もBravo!!である。
オペラにシンフォニーに、多面性を持つ日本随一のオーケストラ、東京フィルハーモニー交響楽団に、今後も注目していきたいと思う。
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2012年1月12日(木)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール A席 1階 4列 14番 3,780円(会員割引)
指 揮: 外山雄三
ヴァイオリン: 松山冴花*
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
外山雄三: ヴァイオリン協奏曲 第2番 作品60*(東京フィル初演作品)
マーラー: 交響曲第5番 嬰ハ短調
東京フィルハーモニー交響楽団の第66回東京オペラシティ定期シリーズ。実はこの日、会員向けの公開リハーサルがあったので、無料だからということも手伝って、初めて参加してみた。午後3時受け付け、3時30分からのスタートということだったので、3時に会場入り。定員200名とのことだったが、参加者数は60~70名ほどだった。まあ、平日の午後なのでこんなものだろう。参加者に割り振られたのは1階の13列以降の席(中央通路より後方部分)。運良く13列14番という、SS席ともいえる最高のポジションで聴かせていただくことになった。
要するに公演日の開演前のゲネプロである。明日1月13日のサントリーホール定期でも演奏されるマーラーの交響曲第5番から、リハーサルが始まった。始めに指揮の外山雄三さんが各パートに細かな指示をしていく。これまで何度かリハーサルをしているはずだから、総仕上げとなる細かな指示のようだ。その後は、第1楽章から演奏が始まり、途中で止めたのはわずか数回だけ。ほぼ全楽章通しで演奏された。その間約90分。前の席には誰もいないから、いつものオペラシティよりはよく響いていた。ステージいっぱいに展開した100名近いオーケストラから繰り出される音楽は、豊かな音量と濃厚な音色で、後期ロマン派の爛熟した音の響宴といった趣きだった。マーラーの演奏が終わると休憩となり、その後はヴァイオリン協奏曲のリハーサルになるようだったが、私たちはここでおしまい。協奏曲のゲネプロも興味深かったので残念ではあった。あとは本番を楽しみにしよう。
ということで、いったん会場から外に出て時間をつぶし、午後6時30分に、今度はチケットを持って会場入り。今度は人がいっぱいで、ほぼ満席に近いようだった。
さて、1年前に年間会員になった時から楽しみにしていた今日のコンサート。松山冴花さんが弾く、外山雄三作曲の「ヴァイオリン協奏曲第2番」である。初演が1966年12月、東京文化会館、独奏ヴァイオリンは海野義雄さん、指揮はもちろん外山雄三さんご自身で、管弦楽ももちろん東京フィルである。45年の間に何回くらい演奏されたのか知るよしもないが、東京フィル創立100周年にふさわしい曲の復活演奏であり、逆に今が旬の松山さんがソリストを務めるというのが嬉しい。この曲は、もちろん聴いたことがなく、音源を探したが見つからなかった。どんな曲なのだろうか…ワクワクしてしまう。
プログラムには演奏時間が約18分とある。意外に短い。オーケストラは協奏曲らしくコンパクトな編成だった。2管編成+弦楽5部、打楽器に加えて、ハープが入っているのはヴァイオリン協奏曲としては珍しいところだ。3つの楽章からなるが、第1楽章が急、第2楽章がスケルツォで、第3楽章が穏徐楽章+急のコーダというような構成になっている。調性の表記がないところをみると、無調あるいは12音技法なのか、カテゴリーとしては現代音楽ということになるのだろうが、とても聴きやすい、ロマン的な情緒も感じられる素敵な曲だった。曲のベースには日本旋法的な音型を持ち、「とうりゃんせ」風のモチーフがちりばめられていた。不協和な中に現れるモチーフがほどよくブレンドされているため、「聴きやすい曲」に感じられるのだろう。

一方、独奏ヴァイオリンの松山さんは、現代物であっても、やっぱり豊潤で大らかな演奏だ。比較的はっきりした主題であっても、あるいは経過部分であっても、よく鳴る楽器と、よく歌う演奏に終始し、明朗闊達でスケールが大きい。音の色彩が濃く、ひとつひとつの音が厚い(深い)。やはり松山さんの演奏は素晴らしく、どんな曲を弾いても「松山節」が曲を引き立てていることは間違いない。第3楽章だったか、独奏ヴァイオリンのピチカートとハープがユニゾンで演奏したところなどは、新鮮な響きに驚かされた。協奏曲にハープを加えた訳が理解できた。
第3楽章がおもしろい。穏徐楽章で穏やかな曲想が続き、いったん途絶えると、あたかも第4楽章に突入していくかのごとき急展開し、一気呵成にフィナーレへとなだれ込む。驚きのコーダで聴衆をビックリさせるところなどは、作曲者の外山さんにしてみれば、してやったりとほくそ笑むところではないだろうか。
初めて聴く協奏曲だから、曲全体を聴くべきか、ソリストの演奏に集中すべきか、聴いている間によく分からなくなってしまった。それでも終わってみればなかなか良い曲、素敵な曲だったと思う。独奏ヴァイオリンには超絶技巧が求められるというほどでもなく(あるいは松山さんだからかなりの難曲でもアッサリ弾きこなしていたのかも?)、独奏ヴァイオリンとオーケストラが有機的に絡み合うといったタイプの現代的な曲あった。ステージには録音マイクがセットされていたから、後日NHK-FMあたりで放送されれば良いのだが…と期待してしまう。あるいはCD化してもらえないだろうか。もっと演奏機会があっても良い曲だ。
後半はマーラーの交響曲第5番。ほんの2時間前に、全曲を聴いたばかり。1日にこの曲をナマで2回聴くといえ機会は、そう滅多にあるものではない。そういう意味では、非常に貴重な体験だった。しかもそれが、とびきり素晴らしい演奏だったから、なおさらである。
東京フィルの東京オペラシティ定期シリーズは、1階席の1~2列目を取り払ってステージを拡張している。そのステージいっぱいに展開した100名近くのオーケストラは圧巻。2回目となる本番は4列センターの席(実際は2列目、コンサートマスターの正面辺り)なので、目の前で轟音を浴びることになる。リハーサルを聴いた13列センターだと、オーケストラの各パートの音が程良くミックスされてまとまって飛んで来るし、余計な雑音は届かない。しかし2列目だと、指揮者がスコアをめくる音や、ヴァイオリン奏者が切れた弓の毛を千切るプチッという音まで聞こえるのだ。もちろん楽器の音は残響音を含まないナマの音がダイレクトに響いてくる(だからほんのわずかなミスも聞こえてしまったりする)。しかも、第1ヴァイオリンは左から、第2ヴァイオリンは前方左側から、チェロは前方右から、ヴィオラは右側の真横から、ホルンは左斜め奥から、トランペットは右奥から、といったふうに、指揮者を中心に扇形に並ぶ各パートの音に方角が加わってくるのである。ステレオというよりはサラウンドのような立体的な音響が体験できる。マーラーのような音の響宴といえるようなオーケストラの音楽を聴くと、複雑な和声の組み立てが分離良くリアルに伝わってくるし、全合奏の際の大音量は風圧さえ感じる程で、こちらの身体を直接振動・共鳴させてくれるようなイメージである。今日、あえてこのようなことをくどくどと述べているのかというと、東京フィルの演奏がとくに素晴らしく、各パートが平均的にかなり上手く、良い音色を聴かせていて、とくに強く感じたからだ。というのも、他のオーケストラ、読売日本交響楽団や新日本フィルハーモニー交響楽団も定期会員になっていて、いつもほぼ同じような前方の席で聴いているにもかかわらず、今日の印象はとくに強かったのである。
トランペットの音は晴れやかで輝かしく、ホルンは野太い音から繊細なppまで艶やかで潤いのある音色。トロンボーンは力強く押し出してくる。またクラリネットはねっとりと優雅だったし、オーボエは艶めかしくコールアングレはそよ風のように歌う。ピッコロは小鳥のさえずりだ。ティンパニや大太鼓は足下から地響きをとなって伝わってくる。弦楽5部は、繊細で透明感のあるアンサンブルを聴かせるかと思えば、全合奏のffでは分厚い音量で大河の激流ような激しさまで弾き分けている。ピーンと張りつめたヴァイオリン、暖かみのあるヴィオラ、幽玄なチェロとコントラバスなど、豊かな色彩感に満ちていた。
いつものように第1楽章から順番に見ていくのを敢えて止めたのは、全体の演奏の素晴らしさがもっとも強い印象になったからだ。最近は一番お気に入りの東京フィルだが、今日の演奏を聴けば誰もが納得できたのではないだろうか。これだけ素晴らしい演奏を、会員になればお手頃価格(失礼)で聴くことができるのであれば、海外の有名オーケストラの来日公演に大枚をはたいて行くのに何となく違和感を感じてしまう…。

外山雄三さんの指揮についても触れておこう。全体にやや遅めのテンポをとり、安定感のある滔々たる流れを構築していた。非常に丁寧な音楽作りで堅牢な構造性を描き出すと同時に、抜群のバランス感覚でオーケストラのハーモニーを見事にコントロールしていた。そしてダイナミックでもあった。東京フィルの濃厚な音色をうまく引き出して、色彩感豊かなマーラーを描き出していた。外山さんの指揮もBravo!!である。
オペラにシンフォニーに、多面性を持つ日本随一のオーケストラ、東京フィルハーモニー交響楽団に、今後も注目していきたいと思う。
