Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/17(土)小林正枝ヴァイオリン/サロンコンサートで聴く上品なシューベルト&ヴィエニアフスキ

2012年11月19日 00時00分38秒 | クラシックコンサート
小林正枝 ヴァイオリン・サロン・コンサート

2012年11月17日(土)18:00~ シーボニア メンズクラブ ラウンジ 自由席 最前列右端 5,000円
ヴァイオリン: 小林正枝
ピアノ: 海野春絵
【曲目】
シューベルト: アヴェ・マリア
シューベルト: ヴァイオリン・ソナタ ト短調 D408
ユン・イサン(尹伊桑): 大王のテーマ
クライスラー: ウィーン奇想曲
ラフマニノフ: 2つのサロン風小品 作品6
  1.ロマンス 2.ハンガリー舞曲
ヴィエニアフスキ: 創作主題による変奏曲 作品15
《アンコール》
 映画『昼下がりの情事』より「魅惑のワルツ」

 またまた友人のKさんに誘われて、小林正枝さんのヴァイオリンを聴きに行く。ディナービュッフェ付きのサロン・コンサートという形式であったことも興味を惹いた。会場は、東京都中央区内幸町、日比谷公園に面した官庁街にある会員制レストラン「シーボニア メンズクラブ Seabonia Men's Club」。こういう機会でもないと入れそうもない空間である。
 店内の中央ラウンジに客席を設けてのサロン・コンサートとの形式で、休憩時のドリンク・サービスや終演後のディナー・ビュッフェは、ラウンジの他、他の客室・客席スペースが使用され、なかなかリッチな気分に浸ることができた。仮設のステージ空間には木調仕上げのグランド・ピアノがあった。後で尋ねたところによると、40年くらい前のヤマハのセミ・コンサートで、鍵盤は象牙だという。

 今回、Kさんに紹介されるまで、小林正枝さんというヴァイオリニストは知らなかった。活動の拠点がヨーロッパにあるためか、日本での知名度はそれほど高くないようである。簡単に経歴を紹介しておこう。
 小林さんは、東京生まれで、2006年に桐朋学園大学を卒業後、2009年にベルリン芸術大学ディプロム課程を最優秀の成績で卒業、現在は同大学演奏家課程に在学中。2003年、ロベルト・カネッティ国際ヴァイオリン・コンクール(ポルトガル)にて現代作品最優秀演奏賞受賞。2005年、ミケランジェロ・アバド国際ヴァイオリン・コンクール(イタリア)第2位(1位なし)。2010年、ロドルフォ・リピツァー賞国際ヴァイオリン・コンクール(イタリア)4位。併せてモーツァルト賞、ソナタ賞、現代作品賞受賞。ドイツを中心にヨーロッパ各地及び日本で、リサイタル、室内楽、オーケストラとの共演など、演奏活動を行っている。…という感じである。演奏家といての活動をしながら、研鑽中でもある。

 さて、1曲目はシューベルトの「アヴェ・マリア」。ご挨拶がわりといったところか。小林さんのヴァイオリンは、どちらかといえば、なだらかで起伏が少ないタイプで、暖かみのある中低音が豊かに響く。逆に高音部がやや尖った音色に聞こえたが、これは会場の音響も影響しているような気がした。すくなくとも「アヴェ・マリア」については平板な演奏を目指していたようで、とても優しい演奏である。

 2曲目は同じシューベルトの「ヴァイオリン・ソナタ ト短調 D408」。演奏前の小林さんご自身によるトークで解説されていたように、シューベルティアーデ向けのサロン用ソナタであり、かしこまった演奏会よりは、むしろ今日のようなサロン・コンサートで演奏されてこそ真価を発揮する作品かもしれない。第1楽章はソナタ形式の古典的な様式に乗って、瑞々しくも美しい旋律に彩られている。小林さんのヴァイオリンは、第1主題を抑えめに、第2主題から展開部にかけてを優しげな音色で優雅に演奏していた。第2楽章の緩徐楽章も、基本的に優しい音色は、サロン風で心地よい。第3楽章のメヌエットは、踊るようにというよりは、器楽的な優雅さというべきか。中間部も抒情的でロマンティックである。第4楽章になると快活さを増し、ダイナミックレンジも拡がってきた。小林さんの演奏は、サロン音楽であることを意識してか、全体的なまろやかな音色となだらかな抑揚で、若き日のシューベルトらしく、繊細で優しさに溢れ、聴くものに語りかけてくるような印象であった。

 3曲目は趣を変えて現代曲。韓国出身のユン・イサン(1917~1995)の作品で「大王のテーマ」。韓国で大王なんていう言葉が出てくると韓流ドラマの時代劇みたいだが、まったく関係がなく、こちらの大王はプロイセン国王のフリードリヒ2世(1712~1786)のことを指す。フリードリヒ2世がJ.S.バッハに主題を与えて即興演奏をさせた(=「音楽の捧げ物」)という古事(?)にのっとり、ユン・イサンが同じ主題(テーマ)を用いて独奏ヴァイオリンによる変奏曲に仕上げた作品である。だから主題の提示はバロック調に始まるのだが、変奏が繰り返されるに従って、200年以上の時を超えて、現代音楽へと進化していく。小林さんの演奏は、徐々に楽想が変化していくのがスムーズで、現代作品においてもけれん味のない技巧と表現力を見せた。

 前半の最後はクライスラーの「ウィーン奇想曲」。優雅で華麗なウィーンの風。超絶技巧的な部分もちょっとは聴かせておいた方がよい。小林さんの演奏は、とても丁寧に、正確に弾いているといった印象であった。中間部にさりげなく出てくる技巧的な部分も、サラリとこなしていた。個人的には、もっとウィーン訛りを感じさせるような崩した演奏が好きだが、それはあくまで好みの問題だから…。

 休憩15分には、別室にてドリンク・サービスがあった。…サロン・コンサートはなかなか粋な世界である。

 後半は、まずラフマニノフの「2つのサロン風小品 作品6」。第1曲は「ロマンス」。ラフマニノフらしい流れるようなピアノ伴奏に乗って、息の長いロマンティックな旋律が美しい。ひとつずつの音が長い旋律が続くので、細やかなニュアンスで表情を豊かにしないと、1本調子になってしまいがち。その点、小林さんのヴァイオリンは大いに歌っていた。
 第2曲は「ハンガリー舞曲」。こちらは逆にリズム感とキレ味が必要な主部と中間部の緩徐部分の対比が難しそうな曲である。小林さんは、速いパッセージも軽快なリズム感で弾いていた。
 この2曲を聴いて感じたのだが、小林さんの演奏は技巧的には正確で、音色も艶やかで美しく、全体がキチンとまとまっている。それ自体は素晴らしいと思う。一方で、このような楽曲に対しては、もう少し遊び心があっても良いのではないかとも感じた。

 プログラムの最後は、ヴィエニアフスキの「創作主題による変奏曲」。「ヴァイオリンのショパン」とも呼ばれるポーランド出身のヴィエニアフスキ(1835~1880)は、ヴァイオリンの名手で、ヴァイオリン用の曲を多く残している。特に有名なこの曲は、ヴァイオリンが好きな人なら誰でも知っている名曲だ。自由闊達さとゆたかな抒情性、それを超絶技巧が彩る。
 小林さんの演奏は、技巧的な安定度は抜群で、重音の連続による流れるような旋律美、中低音部の抑え気味の美しく豊かな音色、高音部のコケティッシュな音色なども素敵だ。左手のピチカートなども微妙なニュアンスがある。個々の変奏における 表情付けの多様さもなかなかのもので、今日、演奏された曲の中では、やはりこの曲が一番の発揮度であった。

 アンコールは、映画『昼下がりの情事』より「魅惑のワルツ」。いささか異質なアンコールが出てきたが、これは聴きに来てくれた客層に合わせたサービス(?)であろうか。

 全曲を聴き終えての小林さんの印象は、正確で、真面目で、上品。ドイツで研鑽中ということもあってか、派手さはないが堅実な印象である。といってもリサイタルを1回聴いただけでは全体像を把握することはできないから、これから機会があるたびに聴いていこうと思う。私の個人的な好みの部分でいえば、楽曲の持つ音楽の枠組みからはみ出すくらいの大胆さがほしいところ。1歩踏み出すだけで世界が大きく拡がるような気がする。今回はシューベルトのソナタとヴィエニアフスキが中心といったプログラムであったが、フランクやR.シュトラウスのソナタなども聴いてみたいし、もちろんベートーヴェンも。また、協奏曲の時にはどのように変わるかも興味深いところだ。

 さて、終演後にはディナーだ。ビュッフェ形式で美味しい料理を楽しんでいる間、小林さんはご挨拶にそれぞれの客席を回っていた。お話しをしてみても、真面目で上品な印象はそのまま。演奏通りのお人柄である。いつものパターンで、記念写真を撮らせていただいた。

 また帰りがけに偶然、本日のピアニスト海野春絵さんとご一緒できたので、少しお話しすることができ、こちらも記念撮影。海野さんによると、ピアノの調律が今ひとつ、というところがあって、気を使ったという。さほど広くもなく、天井も低いラウンジの空間で、セミ・コンサートというサイズのピアノは十分すぎるキャパシティだが、40年前のピアノの音質はまろやかで、海野さんの抑え気味に徹した演奏で、ヴァイオリンとのバランスも見事にコントロールされていた。
 そういう意味では、今日のお二人の演奏は、いかにもサロン音楽というものであって、たとえ同じ曲を演奏しているといっても、日頃聴いているコンサートホールでのリサイタルとは少々カテゴリーの違う音楽なのかもしれない。いずれにしても、今日は会員制レストランでのサロン・コンサートという、滅多にできない素晴らしい体験をさせていただいた。素敵な音楽と美味しい料理に囲まれた土曜日の夕べ。なんと贅沢な一時だろう…。

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