徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Long Day Long Night 24

2016年09月05日 22時27分40秒 | Nosferatu Blood
     *    折から吹き抜けていった潮の匂いのする風が髪を揺らし、頬を優しく撫でてゆく。頭上の小さな屋根が日差しを遮って、まだ緩む気配の無い暑さを多少は和らげている。そんな昼下がり―― 「アルカード……笑いすぎです」  簀子状の細い板を座面と背もたれにした、道路の中央分離柵に背中合わせにしつらえられたベンチのひとつに腰かけて、フィオレンティーナは隣に腰を下ろしたアルカードにそう声をかけた―― . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 23

2016年08月29日 11時27分19秒 | Nosferatu Blood
「ハルキさんって?」 フィオレンティーナの質問に、アルカードよりも先にマリツィカが返事をする。彼女は雛子からお盆を受け取って長卓の上に置いてから、 「わたしの夫よ――そこの冬夜さんの弟」 そう返事をして、彼女は硝子のボトルからコップにお茶を注ぎ始めた――コップは冷凍庫に放り込んであったのか、みんな湿気が結露して白濁している。雛子はフィオレンティーナの質問に答えようとしたのか一度口を開きかけたが、マ . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 22

2016年08月29日 11時25分59秒 | Nosferatu Blood
「久しぶりだね、カチュア」 「はい」 あどけない笑みを浮かべて、少女がそう返事をする。微笑してうなずき返してから、アルカードは後部座席の手前に座った金髪の男――つまるところ、自分と同じ容姿を持つ男に視線を向けた。 「よう」 にこやかな笑顔を浮かべて、ドッペルゲンガーが適当に片手を挙げる。 「おまえ……否、言うまい。まあいい――例の政治家はきっちり殺ったか」 「感覚を共有してるんだから、おまえもそれ . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 21

2016年08月29日 11時25分51秒 | Nosferatu Blood
     *   「――おはよう」 病院の食堂で古谷静が声をかけてきたのは、午前八時半のことだった。  食堂の窓に面した席に着いて、手をつけられないまますっかり冷めた食事を前にぼうっとしていたマリツィカがぼんやりと眺めていたテレビから視線をはずしてそちらを見遣ると、静はちょうど朝食のトレーを手にマリツィカの隣の席に腰を下ろしたところだった。 「おはよ」 そう返事をすると、静はマリツィカの前に置かれ . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 20

2016年06月26日 23時59分47秒 | Nosferatu Blood
「うん」 「うんー」 子供たちが口々に首肯するのを確認して、男がちょっと笑う――彼は十郎のほうに視線を向けると、 「呼んだ?」 「ああ、蘭ちゃんたちが来たからな――ヒナさんは?」 「ヒナ? アルカードさんが犬を連れてきて、あっちの庭でサヤとコトと三人で犬に夢中になってるよ」 十郎の質問にそう答え、トウヤと呼ばれた男が十郎の隣に腰を下ろす。十郎は隣に座った男をぞんざいに親指で示し、 「うちの息子の冬 . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 19

2016年06月26日 23時58分05秒 | Nosferatu Blood
     *    マリツィカが目を醒ましたのは、翌日五時半のことだった。家が燃え落ちて焼け出され、極限まで疲弊していても、それでも普段の習慣通りに目を醒ます。皮肉なものだ。  そんなことを胸中でつぶやきながらまだ糊が効いて固いシーツを払いのけて上体を起こし、マリツィカは周囲を見回した。  入院病棟の四人用の大部屋、殺風景な病室の部屋に入ってすぐのベッドのひとつ。照明は落とされカーテンは閉じられて . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 18

2016年06月17日 00時03分06秒 | Nosferatu Blood
     *   「着いたよ」 ギッという作動音とともに駐車ブレーキのレバーを引いて、アルカードが肩越しにそう声をかけてくる――はーい、と返事をして子供たちふたりがそれまでじゃれあっていた犬三匹を床の上に降ろし、スライドドアの内ノブに手を伸ばした。  ドアの重量があるからだろう、座ったままの体勢からではうまく開けられなかったらしいスライドドアを、手を伸ばして子供たちの代わりに開けてやる――ドアの隙 . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 17

2016年05月09日 00時03分25秒 | Nosferatu Blood
 アルカードの姿をはっきり識別すると、マリツィカは顔をくしゃくしゃにしてベッドの脇に立ったアルカードにしがみついた。 「マリツィカ、どうした――なにがあった、父親になにかあったのか」 「アルカードが出かけてる間に先生が来て、お父さんが、もう意識が戻らないかもしれないって――頭を鈍器で殴られて、脳に損傷が出てるから、意識が戻ってももう元には戻らないかもしれないって」 「後遺症が?」 腕の中でアルカー . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 16

2016年05月09日 00時02分48秒 | Nosferatu Blood
 とりあえず旅行鞄を鋼管の下に置いて、フィオレンティーナは残る四人に続いて客室に足を踏み入れた。彼女と入れ替わりに、なにか用事が出来たのかパオラが和室から出ていく。  床は先日の神城邸や鳥勢で見かけた草のマット――畳と同じもので、フィオレンティーナの目分量が正しければ一枚一枚のサイズが若干大きい様に見えた。  壁際にテレビと冷蔵庫、貴重品を保管しておくためのものか金庫も置いてある。窓際は板間になっ . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 15

2016年05月09日 00時02分14秒 | Nosferatu Blood
    *    港から出て信号が数えるほどしか無い島の外周道路を車で走ること三十分、コミューターは無事に宿泊施設に到着した。  リョカンと呼ばれているらしいその施設は都会にある様な地上何十階もある様な大規模なホテルではなく地上四階建てで、全室が海側に集中している――オーシャンビューとかいうらしいが。  四階のランプが点燈すると同時にチーンというベル音とともに扉が左右に開き、フィオレンティーナはパ . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 14

2016年04月05日 23時48分15秒 | Nosferatu Blood
     *    地上十階建ての赤煉瓦の外装のマンションの屋上に降り立って、彼は背後を振り返った。チヨダ区フジミのクダン議員宿舎から、そう離れてはいない――主である吸血鬼アルカードの代理でここまで来たわけだが、さて、どうしたものか。  せっかく久しぶりに本体から『分体』したわけだから、どこかそこらへんで適当に遊び歩いていきたい気もするが―― 「――まあ、仕方が無いか」  声に出してそうつぶやいて . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 13

2016年04月05日 23時46分38秒 | Nosferatu Blood
     *    駐車場まで戻ってきたところで、足を止める――先を歩いていたテンプラが、何事かとこちらを振り返った。手にした綱《リード》を軽く引くと、ウドンとテンプラが足元に寄ってきて――ちょうどそのタイミングで駐車場から出てきた真っ赤なダイハツ・コペンが、彼らが戻ってきた道を走り去っていった。  青い空、白い雲、曲がりくねった海岸線の道路に真っ赤なオープンカー。いいセンスだ――惜しむらくはビー . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 12

2016年03月06日 12時33分18秒 | Nosferatu Blood
     *    駐車場前の道路を歩道に沿って百メートルほど進んだところで足を止め、テンプラが振り返る――テンプラはくるんと巻いた真っ白な尻尾を振りながら、こちらを見上げてキャンと鳴き声をあげた。ウドンとソバはガードレールの外側に転がった拳大の石ころに興味を惹かれているのか、しきりに匂いを嗅いでいる。  その様子から視線をはずして海のほうに視線を転じると、ガードレールの向こう側に広がる水平線上を . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 11

2016年03月03日 00時21分46秒 | Nosferatu Blood
     *    ポンというチャイムの音とともにエレベーターの扉が開き、駐車車輌の大部分が無くなった駐車場の光景が視界に入ってくる。  大部分の車がすでに下船したために、ところどころで天井を支持する支柱以外には視線を遮るものはほとんど無い――先程は車の間を縫っていかなければならなかったレンタカーのコミューターも、今は直接その姿を確認出来る。  アルカードはエレベーターを降りると、閑散とした駐車場 . . . 本文を読む
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Long Day Long Night 10

2016年03月03日 00時21分06秒 | Nosferatu Blood
     *   「御乗船の皆様、このたびは本船をご利用いただきありがとうございます。本船は間も無く目的地に到着いたします――」 天井のスピーカーから船内アナウンスが流れ出し、アルカードはUFOキャッチャーを操作する手を止めた。 「着いたみたいだね」 「そうだね」 凛の言葉に返事をして、とりあえず操作を再開する――第一ボタンを押している最中だったので、第二ボタンの操作がまだ残っている。凛の希望のぬ . . . 本文を読む
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