徒然なるままに修羅の旅路

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悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

Long Day Long Night 20

2016年06月26日 23時59分47秒 | Nosferatu Blood
「うん」
「うんー」 子供たちが口々に首肯するのを確認して、男がちょっと笑う――彼は十郎のほうに視線を向けると、
「呼んだ?」
「ああ、蘭ちゃんたちが来たからな――ヒナさんは?」
「ヒナ? アルカードさんが犬を連れてきて、あっちの庭でサヤとコトと三人で犬に夢中になってるよ」 十郎の質問にそう答え、トウヤと呼ばれた男が十郎の隣に腰を下ろす。十郎は隣に座った男をぞんざいに親指で示し、
「うちの息子の冬夜だよ――あと何年かで、うちの豆腐屋の十七代目になる予定だ。向こうにこいつの奥さんと娘がいるんだが――アルカードさんが犬を連れてきたって?」
「ああ」
「……そっちに夢中らしい」 話を振られた息子の首肯に適当に肩をすくめ、十郎はそう続けた。
「おらも見たいねえ――前庭にいるのかい」 老女――ツネの質問に、
「ああ」 冬夜がそう返事をすると、ツネはいそいそと席を立ち、足取りも軽く部屋を出ていった。
 それを見送って――特に話の内容が思いつかなかったので、フィオレンティーナは陽輔に視線を向けた。
「お兄さんたちは一緒じゃないんですか」
「亮輔兄貴は子供が赤ん坊だから、今回は見送り。孝輔兄貴も義姉さんが妊娠中だから、飛行機とか船とかで長時間孤立するのが怖いから見送った。ほかに君たちが会ったことの無い女兄弟がふたりいるんだけど、今海外にいるんだよね。だから今回は俺と、旅行がてらの香澄と、それに――」 陽輔はそこで適当に子供たちのほうに視線を投げ、
「――蘭ちゃんと凛ちゃんのふたりだけ。あとは――」 陽輔が続けようとして肩越しに背後を振り返ったとき、
「――あ、蘭ちゃんも凛ちゃんも久しぶりー、元気してた?」 開け放された襖とは別の襖を開けて、金髪の若い女性が顔を出す。ゆるやかに編んだ大きな三つ編みを肩から垂らして、赤いTシャツの上からサイズの大きなパーカーを羽織っている。細身ながらもグラマーな体つきをした、デルチャにパーツのよく似た綺麗な女性だ。
「マリツィカおばちゃん!」 歓声をあげる蘭と凛のそばに近寄ってくると、マリツィカおばちゃんと呼ばれた女性は手を伸ばしてふたりの子供たちの首を軽く小脇にかかえ込み、
「お・ね・え・ちゃ・んでしょ、お・ね・え・ちゃ・ん――誰がおばちゃんですって?」
「ごめんなさーい、おばちゃーん」 挨拶代わりの会話なのかけらけらと笑いながら、蘭と凛がそんな声をあげる。
「よう久しぶり、マリツィカおばちゃん」 いつの間に背後に近づいていたのか、マリツィカの頭にポンと手を置いて、意地悪く笑いながらアルカードが声をかける。
 むっとした表情で振り返るマリツィカに、
「元気そうでなによりだねえおばちゃん、おまえもまだ三十にはなってないとはいえ、自分で若いアピールする様な歳でもないんだからおばちゃん、そんな二十近く離れてる姪っ子にお姉ちゃん呼びを強制させる様なのは、俺は正直言って痛々しいと思うんだよねおばちゃん」
 ものすごく楽しそうに――とフィオレンティーナは思った――そんな言葉を口にするアルカードに、マリツィカがふくれっ面で彼の手を振りほどく。
「なによ、わたしがおばちゃんならキミなんかミイラでしょミイラ!」
「残念だな、俺は水気たっぷりだよふぅーはははははは」 乾燥もしてないし石鹸化もしてないぞ――変な笑い方をしながら、アルカードがマリツィカの繰り出したパンチをひょいひょい躱す。
「ていうか、おまえ妊娠してるんだからそんな暴れるなよ」 パンチ、というか適当に振り回しているだけの彼女の右手首を発止と掴み止めて、アルカードが真顔に戻ってそんな言葉を口にする。
「誰のせいで暴れてるのよ」 そんな文句を口にするマリツィカに、アルカードは掴み止めていた手を離した。
「まあとりあえず俺のせいじゃないな」
「百パーセント、キミひとりのせいだよ」 唇を尖らせるマリツィカに、アルカードが適当に肩をすくめる。
「アルカード、わたしたちにもその人を紹介してくれませんか」 自分たちに対するのとは明らかに違う、長年のつきあいで気心が知れた者同士のふざけあいの空気に、リディアがおずおずと声をかける。
「ん、ああ、そうだな」 アルカードはかたわらのマリツィカを視線で示し、
「マリツィカおばちゃんだ――親しみをこめておばちゃんと呼ぶ様に。まあ何度か話はしてるからわかってると思うが、デルチャの妹で蘭ちゃんと凛ちゃんの叔母ちゃんだ」 目を吊り上げてアルカードを睨んでいるマリツィカの視線などどこ吹く風といった様子で、彼はそんな紹介の言葉を口にした。
「こっちの三人はヴァチカンの聖堂騎士だ――そっちのショートカットの子がフィオレンティーナ、真ん中の子がリディア、奥の子がリディアの姉さんのパオラだ」
「おじいちゃんのお店で働いてくれてるの」 満面の笑顔で蘭がそう付け加えると、マリツィカはそちらに視線を向けてから再びこちらに視線を戻してちょっと微笑した。
「そう――わたしはマリツィカ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「で、お……マリよ――おまえの旦那はどこか出かけてるのか?」 一瞬おばちゃんと言いかけてから、アルカードがあらためて名前を言い直す。マリというのが彼がマリツィカを呼ぶときの愛称らしい。
「庭に三匹柴犬がいて雛子さんと小夜ちゃんと小都ちゃんと一緒にそっちに夢中になってる。会ってないの?」 どうやらアルカードの犬たちにかまっているらしい。
「ああ、まだ会ってないな――ていうかマリ、それ俺の犬だ」 アルカードはそう返事をしてから、あらためて十郎と冬夜に視線を向けて一礼した。
「さて、ご挨拶が遅れましたな――ご無沙汰しております、十郎さん、冬夜君も」
「ああ、久しぶりだね」 アルカードの遅ればせながらの挨拶に、十郎が片手を挙げる。
「ところでアルカード、うちの父さんと母さんは?」 マリツィカの質問に、吸血鬼がそちらに視線を向けた。
「おまえの親父はな、ビールをしこたま飲んでべろべろに酔ったまま船の中でその場でぐるぐる回転して船酔いをこじらせて、まだ回復してなくて旅館で寝てる」
「……どういうこと?」
「すまん、聞いたままだ」 今ひとつピンとこないらしいマリツィカに適当に肩をすくめてから、アルカードは少女たちのほうに視線を向けた。
「こいつがバツイチだってことは話したろ」
「ええ。たしか、忠信さんの親戚の方と再婚したってお話でしたっけ」 リディアがそう返事をすると、アルカードは十郎の隣に腰を下ろした冬夜を視線で示し、
「その再婚相手が、ここにいる冬夜君の弟でな――国連職員をやってるって話を、前にしなかったか。今はニューヨークにある本部で仕事をしてる。帰省はしてるそうだから、じきに会えるだろう」 そう続けてから、アルカードはそれまで蘭と凛と話をしていた陽輔に視線を向けた。
「ところで、孝輔君と亮輔君は?」 あとその妻子は?というアルカードの質問に、陽輔が先ほどと同じ答えを繰り返す。恭介と忠信のことは話題に上っておらず、誰も彼らが帰省してくるとは考えていないらしい。
「そうだな――島に着いてからならともかく、飛行機や船の中でなにかあったら怖いものな」
「そういうこと」
「香澄ちゃんは?」
「一緒に連れてきたよ」 旅行も兼ねてね、陽輔がそう付け加える。
「ペットはどうした?」 連れてきたのか?という質問には、
「かかりつけの動物病院で預かってもらったよ――まあ、数日程度ならほっといても大丈夫だろうけど」
 厭なことを思い出して顔を顰めたとき、ツネが姿を消した襖の向こうからふたりの女の子が顔を出した。赤と黄色の色違いのおそろいのワンピースを着た、凛よりももう少し幼い女の子だ。双子なのか、ほぼ同じ顔立ちをしている。
「アルカードちゃん、わんわんが――あ、蘭ちゃんと凛ちゃんだ」
 蘭と凛が、自分たちに気づいた子供たちに手を振る――アルカードがそちらに振り返って、
「わんわんがどうかした?」
「わんわんのお名前教えて」
「はいはい」 そう返事をして、アルカードが立ち上がる。
「小都、小夜、ふたりともその前にお客さんにご挨拶しなさい」 冬夜が父親らしい口調で、子供たちに声をかける。ふたりの子供たちはそれであらためてこちらに視線を向けると、満面の笑みで挨拶をしてきた。
「こんにちはー」
「はい、こんにちは」 にっこり笑ってリディアとパオラがそう返事を返す。
「こんにちは」 そう返事をして手を振ってやると、
「赤い服のほうが小夜、黄色い服のほうが小都だ」 十郎がそう紹介してくる。紹介されたふたりはというと、アルカードの袖を引っ張って部屋から連れ出そうとしていた。
「ほら、アルカードちゃん、行こう行こう」
「はいはい」 引っ張られるままに立ち上がって、アルカードが部屋から出ていく。蘭と凛もそれに続いて部屋から出ていった。
「……アルカードちゃん」 子供たちの使った吸血鬼の呼び名を繰り返して、パオラとリディアがくすくす笑う。
「孫たちは、あれをやめる様子が無くてね」 苦笑いを浮かべて廊下のほうを見遣りつつ、十郎がそう返事を返した。
「まあ、本人が気を悪くしてないからいいんじゃない?」 陽輔がそう答えて、柱にもたれかかる様にして座り直す。
「前に凛ちゃんから忠信さんは警察の偉い人だって聞いたから、皆さん東京の人だと思ってました」 フィオレンティーナの言葉に、卓に肘をかけて頬杖を突いていた冬夜がこちらに視線を向ける。
「叔父ふたりは大学に行くのに都会へ出たからね――誤解があるみたいだけど、一応ここも東京都だよ」
「あ、ごめんなさい。別に馬鹿にしたりするつもりは――」
「いいんだ、わかってる――こっちこそきつい言い方になってなければいいんだけど」
 フィオレンティーナの謝罪の言葉に適当に手を振って、冬夜は立ち上がった。彼はすでに少女たちが乾したコップに視線を向けて、
「さて、麦茶だけってのもあれだし、ちょっとお菓子出してくるから待ってて――というか、店から入ってすぐのところで話するのもなんだし、部屋を変えない?」
 そう行って、冬夜が襖越しにアルカードが出ていった廊下を指し示す。同室している者たちはみな普通の人間だから聞こえないだろうが、フィオレンティーナの吸血鬼化に伴って鋭敏化した聴覚は四人の子供たちとアルカード、ツネと紹介された老女の声とは別に、まだ知らない女性の声をはっきりと捉えていた。
「あ、はい」 返事をして、フィオレンティーナはその場で立ち上がった。
「このコップは――」
「いいよ、置いといて。あとでこっちで片づけるから」 冬夜の返事にうなずいて、パオラとリディアもフィオレンティーナに習う。一番最後に立ち上がった十郎がフィオレンティーナたちが入ってきた店舗と座敷を仕切る障子を開けて、
「瀬川さん、ちょっとこっちを頼む」 はい、という返事を残して十郎が再び障子を閉める。彼は一番最後に出るつもりなのか少女たちを手で促して、三人が冬夜について廊下に出るのを待って部屋から出た。

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