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ぼくにはゆるされないことだった
かりそめの愛でしばしの時をみたすことは
それは椅子を少しそのひとに近づけるだけでいいのに
ほんとうにそんな他愛もないことなのに
二人が越えてきたところにゆるやかな残雪の峰々があった
そこから山かげのしずかな水車小屋の横へ下りてきた
小屋よりも大きな水車が山桜の枝をはじきはじき
時のなかにひそかに何か充実させていた
ぼくたちは大きく廻る水車をいつまでもあきずに見あげた
いわば一つの不安が整然とめぐり実るのを
落ちこんだ自らのなかからまた頂きにのぼりつめるのを
あのひとは爽やかな重さで腰かけている
ぼくは聞くともなく遠い雲雀のさえずりに耳をかたむけている
いつのまにか旅の終りはまた新しい旅の始めだと考えはじめている