吟遊詩人の唄

嵯峨信之を中心に好きな詩を気ままに綴ります。

僕はまるでちがって/黒田三郎

2008-11-25 15:42:03 | 黒田三郎


僕はまるでちがってしまったのだ
なるほど僕は昨日と同じネクタイをして
昨日と同じように貧乏で
昨日と同じように何にも取柄がない
それでも僕はまるでちがってしまったのだ
なるほど僕は昨日と同じ服を着て
昨日と同じように飲んだくれで
昨日と同じように不器用にこの世に生きている
それでも僕はまるでちがってしまったのだ
ああ
薄笑いやニヤニヤ笑い
口を歪めた笑いや馬鹿笑いのなかで
僕はじっと眼をつぶる
すると
僕のなかを明日の方へとぶ
白い美しい蝶がいるのだ

出発/黒田三郎

2008-11-21 13:59:35 | 黒田三郎


 どこか遠くの方から見ていたい
 感動している自分を
 感動して我を忘れてとんでゆく自分を
 どこか遠くの方から見ていたい

 息を切らしてしまってはいけない
 よそ見してはいけない
 心ひそかにそう念じながら
 どこか遠くの方からみていたい

 あおいじつにあおい
 その遠くの空の彼方へ
 今はそれだけが私の仕事だ
 荒々しく私は私を投げつける
 紋白蝶のようにかるがるといってしまうようにと
 眼をとじながら私は私を投げつける
 足元に落ちて高雅な陶器のように砕けないようにと

GAZA