吟遊詩人の唄

嵯峨信之を中心に好きな詩を気ままに綴ります。

旅情/嵯峨信之

2008-11-25 09:53:34 | 嵯峨信之


ぼくにはゆるされないことだった
かりそめの愛でしばしの時をみたすことは
それは椅子を少しそのひとに近づけるだけでいいのに
ほんとうにそんな他愛もないことなのに
二人が越えてきたところにゆるやかな残雪の峰々があった
そこから山かげのしずかな水車小屋の横へ下りてきた
小屋よりも大きな水車が山桜の枝をはじきはじき
時のなかにひそかに何か充実させていた

ぼくたちは大きく廻る水車をいつまでもあきずに見あげた
いわば一つの不安が整然とめぐり実るのを
落ちこんだ自らのなかからまた頂きにのぼりつめるのを

あのひとは爽やかな重さで腰かけている
ぼくは聞くともなく遠い雲雀のさえずりに耳をかたむけている
いつのまにか旅の終りはまた新しい旅の始めだと考えはじめている


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1 Comments

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ひらがな (がく)
2019-06-19 12:54:14
私自身は、漢字を多用しますが貴方の詩で、かなもいいと思いました。ひらがなは、優しい感触がします。
漢字を優しく使うのは難しいことですね。もっと修行したいと思います。優しい感触のする漢字の詩を書きたいです。

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