雪の日に/吉野弘 2008-11-24 10:12:19 | 吉野弘 ━━誠実でありたい。 そんなねがいを どこから手にいれた。 それは すでに 欺くことでしかないのに。 それが突然わかってしまった雪の かなしみの上に 新しい雪が ひたひたと かさなっている。 雪は 一度 世界を包んでしまうと そのあと 限りなく降りつづけねばならない。 純白をあとからあとからかさねてゆかないと 雪のよごれをかくすことが出来ないのだ。 誠実が 誠実を どうしたら欺かないでいることが出来るか それが もはや 誠実の手には負えなくなってしまったかの ように 雪は今日も降っている。 雪の上に雪が その上から雪が たとえようのない重さで ひたひたと かさねられてゆく。 かさなってゆく。
ある日ある時/黒田三郎 2008-11-24 09:57:03 | 黒田三郎 秋の空が青く美しいという ただそれだけで 何かしらいいことがありそうな気のする そんなときはないか 空高く噴き上げては むなしく地に落ちる噴水の水も わびしく梢(こずえ)をはなれる一枚の落葉さえ 何かしら喜びに踊っているように見える そんなときが