吟遊詩人の唄

嵯峨信之を中心に好きな詩を気ままに綴ります。

出発/黒田三郎

2008-11-21 13:59:35 | 黒田三郎


 どこか遠くの方から見ていたい
 感動している自分を
 感動して我を忘れてとんでゆく自分を
 どこか遠くの方から見ていたい

 息を切らしてしまってはいけない
 よそ見してはいけない
 心ひそかにそう念じながら
 どこか遠くの方からみていたい

 あおいじつにあおい
 その遠くの空の彼方へ
 今はそれだけが私の仕事だ
 荒々しく私は私を投げつける
 紋白蝶のようにかるがるといってしまうようにと
 眼をとじながら私は私を投げつける
 足元に落ちて高雅な陶器のように砕けないようにと

短夜/嵯峨信之

2008-11-21 13:13:47 | 嵯峨信之
 動物のように恥じることなく死にたい
 という言葉が
 ぼくを捉えて放さない

 大きな石に抱かれているその言葉は
 いつまでも孵化しない

 その言葉を鏡面にふかく刻みつけて
 ぼくは夏の短夜をひとりはなれて眠る
      *
 永遠はなにも言わない
 ただ時の鐘をつるしているだけだ 

GAZA