吟遊詩人の唄

嵯峨信之を中心に好きな詩を気ままに綴ります。

野火/嵯峨信之

2008-11-25 16:02:27 | 嵯峨信之




孤独
それはたしかにみごとな吊橋だ
あらゆるひとの心のなかにむなしくかかっていて
死と生との遠い国境へみちびいてゆく
そしてこの橋を渡って行ったものがふたたび帰ってくる日はない
それは新しい時空の世界へたち去るのだろう

一本の蝋燭がふるえながら燭台のうえで消える
もし孤独のうえでとぼしい光を放って死ぬのが人間のさだめなら
その光はだれを照らしているのだろう
あの遠い野火のように
ひとしれぬ野のはてで燃え
そしていつとなく消えてしまう火
時はどこにもそれを記していない
時もまた一つの大きな孤独だ
たれに記されることもなく燃えさかり
そして消えてしまうものは尊い


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