吟遊詩人の唄

嵯峨信之を中心に好きな詩を気ままに綴ります。

光がギリギリ届く場所 /浜田裕介

2018-10-02 14:55:49 | 浜田裕介
 光がぎりぎり届く場所

窓辺に届いた三日月が切裂いて見せた
きみの強がりは僕が思うよりずっと青かった
夜空の遠い、小さな星より、
弱い鼓動だけど、決して停まることは無い
そこは光がぎりぎり届く場所
君は鉢植えにそれでも水をやる
もしもこの歌が、そこまで届くなら、
君に伝えたい、僕はずっと君を見てる

日々の意味なんて考えず生きて来たけれど
普通に笑えることとか、悲しみさえもが今は愛おしい
その花は今も、何処かで咲き続けてる、
淡い色だけど、決して枯れることは無い
そこは光がぎりぎり届く場所
君は真夜中に闇を見続けてる
きっとこの歌は、そこまで届くだろ?
君に伝えたい、僕はずっと君の味方

誰より孤独な、最低な夜さえ
耳を澄ましてごらん、ほら聴こえるだろう?
そこは光がぎりぎり届く場所
君は鉢植えにそれでも水をやる
きっとこの歌は、そこまで届くだろ?
君に伝えたい、僕はずっと君の味方
君に伝えたい、僕はずっと君の味方





広大な国-その他- から

2016-10-05 11:49:39 | 嵯峨信之
生まれることも
死ぬことも
人間への何かの遠い復讐かもしれない
この問いは世々うけつがれて
かつて一度も答えられたことがない
ざわめく血の森のなかへ姿を消したものは
はてしない迷路をいつまでも彷徨う
そのとき死を願え
そして言え
行きつくところなくして
大いなる土地ついに見当たらずと

六月/茨木のり子

2015-06-02 18:04:38 | 茨木のり子
どこかに美しい村はないか
一日の仕事の終わりには一杯の黒ビール
鍬を立てかけ 籠をおき
男も女も大きなジョッキをかたむける


どこかに美しい街はないか
食べられる実をつけた街路樹が
どこまでも続き すみれいろした夕暮れは
若者のやさしいさざめきで満ち満ちる


どこかに美しい人と人の力はないか
同じ時代をともに生きる
したしさとおかしさとそうして怒りが
鋭い力となって たちあらわれる

長い手紙/浜田裕介

2014-04-22 20:03:00 | 浜田裕介





フルボリュームで喚く街宣車が 日曜の朝を引き裂く
テレビではにやけたニュースキャスターが悲惨な事件を伝えてる
僕は無意識に口ずさんでる 憂鬱なあの歌を
自由という名の甘い蜜に僕らは引き寄せられ
後戻りできない長い道を 知らぬ間に歩かされてる
誰かが定義した愛や正義を無条件に受け入れて
今も長い長いこの手紙を 僕はずっと書き続けてる
いつか僕の小さな戯言が 誰かの胸に届くように

子どもらは家族の中でさえも ノルマと罰を背負わされてる
奪うこと競うこと争うこと 勝利者だけが 許される
それでも僕は信じ続ける 逃げることの 尊さを
悲しみに満たされたその瞳に君は何を写すんだろう
デジタルな夢にうなされ続けて 僕らは何を探そう
何度も裏切った希望ってやつが悪夢にすり替わっても
今も長い長い手紙を僕はずっと書き続けてる
いつか僕の小さな戯言が 誰かの胸に届くように

シナリオの果てに悲しみがあると本当は誰も気づいてる
それでも欲望が僕らを支配する 転がり続ける 愛から遠く離れて

飢えていくその国を救うのに 見返りなんかいらないだろう
彼らが銃口を向けてるなら 無防備に手を広げればいい
優しさだけでもう十分何たでよ 強さなんて邪魔なんだよ

今も長い長いこの手紙を 僕はずっと書き続けてる
いつか僕の小さな戯言が 誰かの胸に届くように 誰かの胸に響くように

夜と霧の中で/PANTA

2014-02-22 16:46:39 | PANTA
せめぎ合いを横目で みていたキミは
記憶をなくした母の 涙に手を握りながら
無言の問いかけに 答えるすべもなく
あの時 キミは夜と霧の中にいた

しりたがりやの少女は 屋根裏部屋で
退屈の次に嫌いな 鏡に舌出していた
母の記憶を 覗いちゃ駄目だよ
あの時 彼女は夜と霧の中にいた

すべては夢の中で 焼き直されて
遠ざかる月日に 美しく燃えつづけ
祈りのようにあてもなく漂い続ける
あの時 オレは夜と霧の中にいた

 もしも帰れる舟に乗れたなら
 思い出して欲しい
 あの夜の出会い 霧の別離
 思い出して欲しい

売国奴になれなんて 云われてみても
返事をするには 少し遅すぎたようだ
臆病な夜明けに 呼鈴は危険だよ
あの時 キミは夜と霧の中にいた
 
 もしも帰れる舟に乗れたなら
 思い出して欲しい
 あの夜の出会い 霧の別離
 思い出して欲しい

おそるおそる窓を覗く 少女の顔は
たとえレンブラントさえ 描けやしないだろう
失くした日記 焼かれた辞書
あの時少女は夜と霧の中にいた

キプロスの海よりも キミは奇跡さ
透き通ッたものなんて 信じられやしないだろう
秘密の願いは話しちゃ駄目だよ
あの時 キミは夜と霧の中にいた
あの時 キミは夜と霧の中にいた



夕焼け/吉野弘

2014-01-20 13:00:32 | 吉野弘
いつものことだが

電車は満員だった。

そして

いつものことだが

若者と娘が腰をおろし

としよりが立っていた。

うつむいていた娘が立って

としよりに席をゆずった。

そそくさととしよりが坐った。

礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。

娘は坐った。

別のとしよりが娘の前に

横あいから押されてきた。

娘はうつむいた。

しかし

又立って

席を

そのとしよりにゆずった。

としよりは次の駅で礼を言って降りた。

娘は坐った。

二度あることは と言う通り

別のとしよりが娘の前に

押し出された。

可哀想に。

娘はうつむいて

そして今度は席を立たなかった。

次の駅も

次の駅も

下唇をギュッと噛んで

身体をこわばらせて---。

僕は電車を降りた。

固くなってうつむいて

娘はどこまで行ったろう。

やさしい心の持主は

いつでもどこでも

われにもあらず受難者となる。

何故って

やさしい心の持主は

他人のつらさを自分のつらさのように

感じるから。

やさしい心に責められながら

娘はどこまでゆけるだろう。

下唇を噛んで

つらい気持ちで

美しい夕焼けも見ないで。

小さな灯/嵯峨信之

2013-10-24 22:55:02 | 嵯峨信之
人間というものは
なにか過ぎさつていくものではないか
対いあつていても
刻々に離れていることが感じられる
眼をつむると
遠い星のひかりのようになつかしい
その言葉も その微笑も
なぜかはるかな彼方からくる
二人は肩をならべて歩いている
だが明日はもうどちらかがこの世にいない
だれもかれも孤独のなかから出てきて
ひと知れず孤独のなかへ帰ってゆく
また一つ小さな灯が消えた
それをいま誰も知らない

無題/嵯峨 信之

2013-10-10 17:19:05 | 嵯峨信之
永遠は何も言わない

ただ時の鐘をつるしているだけだ

小さな岸/嵯峨 信之

2012-09-14 18:04:15 | 嵯峨信之
愛するとは
遠いどこかで言葉がめざめることではないか
物の形にその名がやさしく帰ってくることではないか

魂しいが小さな岸に上陸する
ぼくも旅に出よう
もし無限の忘却ということが何処かにあれば

呼吸-Breath-/浜田裕介

2012-09-12 15:33:22 | 浜田裕介



空に訊きたい 
人はこの旅の果てに 憎しみを越えられますか?
鍵はまだ開いてますか?

雲に訊きたい
渡り鳥の羽ばたきや イルカたちの鳴き声は
僕らを責めてませんか?

いつかは誰もが閉じるその本の
最初の行に書かれてたのは「祝福」なのでしょうか?

灯る度に吹き消される か弱き命の震える音
今膝の上 無防備に眠る こねこのあくびさえも
守れなくて 繋げなくて 途方に暮れる夜の岸辺で
ただ祈る 祈りにさえならぬ声で 声にさえならぬ呼吸で


月に訊きたい
いつか僕が傷つけた あの人はこの空の下
大切にされてますか?

星に訊きたい
僕はこの頭の中 何人も殺しました
それはやはり罪ですか?

歪んだ光が映す自画像は
無色なままで 無力なままで あまりに真実で

届く度に遠のいてく 現在ここにいることのその意味
受け入れることは諦めなのか?それとも勇気なのか?
生まれたこと 死に往くこと そこにはきっと意味なんてない
でも歌う 歌にさえならぬ声で 声にさえならぬ呼吸で


風に訊きたい 
戦場を吹き抜ける時 無限の闇の向こうに
夜明けは息吹いてますか?

雨に訊きたい
全てを失くした人の 肩をそっと濡らす時
彼は赦されてますか?

GAZA