大西順子『バロック』
By The Blueswalk
1年ぶりの新作は、『バロック』と題され前作と一転して、3ホーンをフロントにした攻撃的な作品である。女性のピアノがリーダーの3ホーン編成は聞いたことがない。ニコラス・ペイトンのTP、ジェームス・カーターのSAX、ワイクリフ・ゴードンのTBに対し、レジナルド・ヴィールとロドニー・ウィッティカーの2ベースのリズム陣で対抗する。もともと大西のピアノは男性的で激しいタッチが特徴であるが、なかなか聴き応えのある作品に仕上がったと思う。最初の3曲は大西のオリジナルで大作ぞろいだ。
1曲目“トゥッティ”。多彩なリズムの上を3つのホーンがピアノと一体となって激しく躍動する。前作が久しぶりの作品ということでやや押さえ気味であったのが、一気に弾けた感じだ。この曲は3ホーン陣の名刺代わりの自己紹介的で3人3様の味が出ており、実に楽しい。ピアノを中心にしたリズム陣もこれに負けていない。
2曲目の“ザ・マザーズ”。ホーン・セクションのアンサンブルはかなり緻密にアレンジされているようだ。単なるアドリブ・プレイに頼らない、作品性を感じる。大西の作曲家としての実力が発揮されている作品だ。イメージ的にはチャールス・ミンガスの楽曲を今風にアレンジした感じ。だから、ミンガス好きにはたまらないが、ミンガス嫌いには少し辛いかもしれない。
3曲目の“ザ・スルペニ・オペラ”。ピアニストのジャッキ・バイアードのピアノ・スコアを大西がアレンジし大作オペラ?に作り変えたとされている。3分にわたる無伴奏の2ベース・ソロで始まるが、枯れたピアノの音が割り込んできて、一転してフリー・フォームの3ホーンとの絡みで多彩かつ長大な音絵巻が展開されていく。約20分の長尺な作品であるが、ニューオリンズあり、アート・テイタム風あり、ミンガス風ありの色々なスタイルの楽曲をちりばめて飽きさせない構成ではある。途中から本当にミンガスの作品を聞いているかのような錯覚に陥ってしまうだろう。それでも、ジェームス・カーターのBCLとピアノの丁々発止なやり取りなど全く見事だ。この1曲で十分に元を取った感じである。
4曲目“スターダスト”。メイン・ディッシュのあとのデザートとしてのピアノ・ソロ、これがまたさり気ないが実に味のある演奏となった。アート・テイタムもしくはテディ・ウイルソンが珠を転がすようなタッチの雰囲気が伝わってくる。
さて、ここまで聴いてきたが、あと4曲も残っている。もう、僕はステーキのフル・コースを鱈腹食って満足しているのに、さらにスキヤキを食べろというのか。しかも、前半4曲と同じような後半4曲の構成である。昔のLPだったら4曲で終わって良かったのになぁ。CD時代の弊害で74分フルに収めないとリスナーが怖いという脅迫観念がありはしないか?
勿論、この面子での演奏だから悪いはずはないのだが、“過ぎたるは及ばざるが如し”。腹八分目で抑えてもいいんじゃないかなと思った次第である。