バスシェルターの明かりの下で

夢を忘れたちっぽけなバス会社のちっぽけな元バス運転士の最初で最後のチャレンジ・・。

運賃収受

2006年11月14日 | 運転士な日常


少し前の話、先輩運転士、クロさんが定員制のK線に乗務したときの出来事。

ある女性のお客様の運賃収受(お客様が運賃箱に入れる)の際、1000円札が一枚足りないことに気が付いたらしいねん。
こういう場合、うん?って思っても即座に反応するのはかなり難しい。
この時も、声かけのタイミングを逸して、結局、バスを降りられたあとにお声をかけることになったらしい…。

お客様とのやりとりは詳しく聞いてへんねんけど、結果として、不足分と思われる1000円をそのお客様から受け取って発車してんて。

その後・・・そのお客様の御主人からクレームの電話が来たらしいのですぅ。(結構、よくあるパターン)
「どういうことや!ウチのはちゃんと払ろたてゆーてるでぇ!あぁ!!」みたいな・・。

こないなったら、後は、「払った、足りひんかった!」「入れた、入ってへんかった!」の水掛け論になってまいます。
そこは経験豊富なコムさんです。適切な対処をして事態を一旦終息させます。

その後、終業点呼時にクロさんに注意を促したらしいねん。(管理職としてこれは当然)
「相手は払ったと言い張っているよぉ。クロ君、キミを信じてないわけじゃない。でも、勘違いもあるかもしれないし、もし運賃箱にその1000円札が入っていたら、完全にキミの負けになるよ。そうなったらいけないから、私は言っているんだよ。」と。

その際、クロさんは涙を流したと・・
口惜しくて涙を流したと・・

翌日、クロさんに会って、何が口惜しいかったのかを尋ねると、
「確かにあと1000円、足りひんかったんや。それを信じてもらえへんかったのが口惜しかったんや」と・・・

「そうかぁ、昨夜の会話は、そこまでその点にのみ終始してたんかぁ」そう感じた。

運賃に関してその車輌の責任者である運転士が疑問を持ったのであれば、その旨、お客様にお伝えすることは業務遂行上、当たり前の行動だ。
せやし、クロさんのとった行動は何ら問題はないとボクは思うし、実際、不正乗車は絶対に許せへん行為や!!

ただ、ボクらの仕事はキセルを見破ることではないし、「運賃不足の真偽」など点呼場で議論しても何の解決にもならない。


あの夜、あの場で論ずべきは、「お客様を信じることの大切さ」だとボクは思う。


「お客様、失礼ですが、今、おいくらお入れになりましたか?」
「ちゃんと、○○○○円入れましたよ。」
「そうですか。失礼致しました。私の確認が不十分でした。申し訳ありません、ありがとうございました。」

これで、この件に関しては終わるのではないか?

お入れになった金額が正規金額に間違いなかったとすれば、ボクら運転士の勘違いであるし、それに関してはしっかりお詫びをし、気分を害されないように配慮すると同時に、業務上に必要なことであるとお客様にも理解して頂かなくてはならない。

もし、故意に運賃をごまかしていたとすれば、こういう声かけを行うことで、「運転士はしっかりみているな」というある種の抑止力が働くことにもなり、次の不正乗車を防ぐことにもつながる。これは当社にとってもメリットだろう。たとえ、その金額を回収できなかったとしても・・・。


確かに、先輩運転士の中には、「あたらず触らずで適当にやっといたらええねん。」っちゅう方もいらっしゃいます。クロさんはこんな考え方をする人じゃないことも十分わかっているつもりです。

「1000円足りなかった」と確信していても、「払った」とおっしゃるならお客様を信じようじゃありませんか!
これは、決してクロさんが思うような“御都合主義の怠慢”ではありませんよ。

バスという移動空間は多くの方々が利用される空間です。
その空間の雰囲気はその日の運転士で左右される部分もかなりあります。
しかし、最終的にはご利用になられているお客様ひとりひとりにも「いいお客様」であって頂く必要があるのです。

そのためにボクら運転士はどうするべきか?
そこらへんをもう少し考えてみませんか?



・・・・ボクはそう思います。