マヌケ便り

テレビ番組リサーチ会社の代表をしています。

通夜

2006-06-29 00:12:22 | Weblog
 本当に不謹慎な話で申し訳ないのだが、サンコンさんが日本に来日した当初に、通夜に列席した時の話しは何度訊いても笑ってしまう。このサンコンさんの日本で初めての通夜の話はご存知の方もいると思うのだが、改めて紹介させて頂くことにする。

 ある方のお葬式の通夜にギニア共和国を代表して、大使館員であるサンコンさんが列席することになったのである。受付を済ませ式場の中へ入ると、早速案内人がいて「こちらへどうぞ」と列席者の中へとサンコンさんを導いたのだ。

 さて並んだはいいが、ここからの勝手がまるでわからない。後ろの方から前の人の仕草を見て参考にしようとするのだが、その様子がなかなかうかがい知れないのである。何やら前においてある物の中から、手で何かを取り出し、それを口元へ3度運びそれで最後に手を合わせその場を離れ、その後で受け付けで頂いた紙切れを渡すと、代わりに別の物を渡され、その時に「ご馳走様でした」と言ってお辞儀をすればいいのだ、という段取りまでは何となくわかったのである。

 もちろん、ご馳走様ではなくご愁傷様が正しいのだが、日本に来て間もないサンコンさんには、ご愁傷様と言う言葉は馴染みのないものである。ご馳走様と聞こえても無理はない。しかも何やら物まで食べなくてはならないのである。

 さて、いよいよサンコンさんの番がやって来た。目の前には自分が想像した以上の物(香)が椀の中に盛られて置いてある。果たして全部食べきれるだろうか、と思いつつも挑んだのである。椀の中からそれ(香)を手でえぐり取る様にして3回で口の中へと運んだのだ。既に口の中はパンパンになっている。もちろん食べきれないからだ。最後に言わなくてはならない「ご馳走様(ご愁傷様)でした」の時には、さすがにその香を口の中から吹き出してしまったというのだ。

 私は通夜に列席する度に、この話しを思い出してしまう。その通夜が昨晩あったのだ。私の知人のご母堂が亡くなられたのである。88歳の大往生だ。私自信、そのご母堂にはお会いした事はない。だからと言うのも変な話だが、こういう悲しみようのない通夜が自分的はやばいのである。

 私の列の前の人は初老の男性だ。失礼な話だが、私の目線の先にちょうど頭の天辺があるくらいの小柄な方で、しかも頭は耳と耳を結ぶ後ろのところ以外はきれいに禿げている。その人の番が来た。ところが、いきなりである。「アチッ」と発する言葉と同時に手が高々と上がったのだ。

 どうやら、香を焚く方の椀から間違って火のついた香を掴んでしまったらしい。その上げてしまった手だが、普通の条件反射ならその指先は耳たぶにいくものなのだが、その人の指は頭の天辺にいったのである。そこには長さ5センチほどの墨の後が付いてしまったのだ。

 私は思わず目を瞑って下を向き、吹き出してしまうのを必至になって堪えていたのだが、それでは自分の番がわからない。直ぐさま目を開け前方を伺った。その初老の男性は首をひねりながら焼香の仕直しをしている。

 その先の親族者席では、やはり私と同様に下を向き、肩を震わせながら笑いを堪えている人達の姿があった。限界だった。私は堪えきれなくなってついに吹き出してしまったのである。それが切掛けになり、通夜の席は笑いの渦に包み込まれたのだ。

 故人もみんなに笑って送られて幸せだろう。…と言う話しではもちろんない。とにかく、ご冥福をお祈りするばかりなのである。

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