顔に○

　昨夜…と言っても、数時間前の事だが、制作会社の社長から電話が入った。「飲みに来ないか？」と言うのである。お店を訊いたら、弊社の直ぐ近くだ。早速、顔を出すことにした。

　最近、飲む機会が非常に多い。こういう場合、本当に飲む方々は『肝臓も疲れ気味だ』と言うことになるのだろうが、私の場合はほとんど酒が飲めない。だが、飲めなくても疲れるのは同じだ。…と言ってしまうと、昨夜せっかく誘って頂いた制作会社の社長に申し訳ないのだが、逆に飲めないから疲れるのかも知れない。

　店に着くと、制作会社の社長と、そのお供のプロデューサーが、既にご機嫌だ。私もその雰囲気にのまれ、座った瞬間から上機嫌だ。口調も滑らかだ。いつの間にか席は盛り上がっている。

　ところが、私達よりも豪快に盛り上がっている席がある。六本木は六本木ヒルズもあるせいかＩＴ族も多い。だがそんな感じでもない。どちらかと言うと強面さん系だ。私に付いた女性に、「あの一角で飲んでいる方々は何系？」と訊いてみた。

　すると、私に付いた女性は、「ああ、あの人達ね？」と言って顔に指で○を書いている。意味がわからない。私は「クイズ？」と訊くとコクッと頷いている。「顔にアルファベットのＯで、花王の方々？」女性は顔を横に振っている。しばし考えてみたのだが、後はサッパリ思いつかない。「わかんない。教えて」と言うと、その女性がそっと耳打ちしてくれた。「あの人達ね、ヤッチャンなの。顔にキズの意味で、指でチョンとやろうとしたら…目が合ってしまって、指が顔を勝手に一周してしまったの」

　それを訊いて私は大爆笑である。すると例の一角が急に静まりかえり、こちらを見ているではないか。私の笑いは、おもいっきり引きつってしまった。何か、命をかけて笑っている感じがする。
　
　それにしても、私に付いた女性だが、顔に○とは見事なマヌケっぷりだ。