いまさら韓ドラ!

韓国ドラマの感想をネタバレしながら書いています。旧作メイン

【無韓系】ドラマ「ハンニバル」と小説「レッド・ドラゴン」

2015年09月02日 | 無韓系日記
※本文では、小説「レッド・ドラゴン」およびドラマ「ハンニバル」Season1の7までの
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

しつこく「ハンニバル」関連の記事をUpしていますが、
全然反省せずにもう少し続けますよ!
もしかしたら、面白がってくれる人もいるかもしれないからね!

えっと、今わたしは米ドラマ「ハンニバル」をhuluで観ているのですが、
視聴していく中で、過去の作品を振り返る作業をしたいなぁと思い立ちまして、
原作や映画を手に取っているのです。

「羊たちの沈黙」「ハンニバル」は、過去に観た・読んだ記憶もあり、
いろいろ思い起こしながらの振り返りになりました。
でもこの「レッド・ドラゴン」は初読じゃないかなぁ。
シリーズ第1作だというのに、漏れてたんですね。

ドラマ「ハンニバル」は、そもそもこの「レッド・ドラゴン」以前の物語。
レクター博士がまだ誰にも気づかれず、殺人を犯し、人を喰い、
精神科医として仕事をしていた頃のおはなしです。

ただ本書には、ドラマ「ハンニバル」に埋め込まれている設定や描写が
多数描かれていますので、その点について感想を書いてみたいと思います。
まぁ第1作目ですから、その後の物語の根幹となる設定がたくさんあって当然なんですが。
ドラマ「ハンニバル」を観る前に読んでいたら、
ドラマを観てもっとニヤニヤできたのかもなー。

わたしが読んだのは、早川書房のハヤカワ文庫NV「レッド・ドラゴン 決定版」小倉多加志 訳です。
本書はドラマ「ハンニバル」の原作であると厳密には言えませんが、
本稿においては便宜上「原作」と表記させていただきますので、ご了承ください。


ドラマで印象的なのは、ウィル・グレアムの思考が映像化されるシーンですよね。
べっこう色の光が、振り子のように画面をぬぐってゆき、
そのたびに犯行現場の状況が塗り替えられていく。
どんどん最初の状況、つまり犯行が行なわれた時間に戻っていくんですね。
ウィルは、犯人の思考に共振して、そのシーンを見る。
どころか、実際に自分が体験したかのように感じる。

これは原作ではわりと控えめに書かれていて、
「胸の中がドキドキして、まるで銀の振り子が暗闇の中で左右に揺れているようだった。」※1
ということでした。銀なんだな、原作では。
そして振り子が止まると、心が平静になる、ということらしい。
ドラマ版はこうした内面をもっと劇的なものに演出している感じです。
派手だもんなぁ、あっちの方が。

原作の方が、ウィル・グレアムは筋の通った捜査をやっております。
ドラマは冷静に見るといんちき霊媒師みたいになってましてどうかと思いますが、
観ている最中はそんなことを感じさせないほどの説得力があって、面白い。

ドラマの発端となる「ミネソタのモズ」事件についても、
原作の中で言及されています。※2
ホッブスを射殺したときの様子が詳しく描かれていて、
ドラマはこの描写を丁寧に再現していたんだなぁ。

小説の中で、ウィルはこの事件のあと極度の鬱状態に陥って入院しております。
生き残った娘さんとの交流を通して復活したそうで、
ドラマの方でも、アビゲイルを保護してそこに許しを求めたいウィルの心情があらわされています。
ただ、アビゲイルは一筋縄ではいかない娘さんのようで……。
ドラマのこの先の展開に超期待ですな。

そもそも、ドラマ版では、ジェンダーチェンジがあって、
ウィルの信頼する精神科医ブルーム博士が、男性から女性に変えられています。
原作の中で、博士はウィルとけっして二人きりにならない理由をこう言っています。
「わたしは彼に対して何かしら職業的な興味を持ってるし、彼はそれをすばやく感じるからさ。
彼は頭の回転が早いからな」※3

博士はウィルと友人でいたいと思っているし、現に友人関係を維持しています。
その信頼関係を壊したくない。
でもふたりっきりになったら、自分の興味を隠したり、
彼から興味をそらすことは難しい。
だからふたりっきりにならないように気を配っているんですね。

ドラマ版でも、最初にブルーム博士はジャックに同じことを言っています。
もちろん、彼に関する研究をしてほしいと言われても断っています。
原作通りなのですが、博士が女性であることで、
エピソードにちょっと艶が出ていますよね。

ドラマは、レクター博士とウィル・グリアムの恋愛関係にも似た、
感情の探り合いや深い交歓が魅力になっていますが、
ま、女性のニュアンスも少し入れておこうということなのかもしれません。

同じジェンダーチェンジ組では、新聞記者のフレディ・ラウンズがいます。
性別はかえられたものの、そのウザすぎる存在感は原作と同じです。
もう少し無能だったら、こんなに嫌われずにすんだ、と原作でも言及されている人物。
壮絶な最期を遂げますが、この人もドラマの方ではどうなっちゃうんでしょうか?
ある意味ものすごい記者魂を持った人と言えるのですが、
全然好きになれないので、同じようになっちゃえ、と意地悪く思ってます。
でもそうなったらそうなったで、ウィルくん落ち込むんだろうな~。

本書では、レクター博士はすでにウィルくんによって捕らえられ、
ボルティモア犯罪者精神病院に収監されています。
病気を装って看護師を襲い、襲った最中も脈拍は正常値だった怪物っぷりも
しっかり書かれています。
チルトン博士が得意げに話すのでイヤな気分になりますが。

じゃ、いったいどういう経緯で捕まえたのかというと……。
このへんのエピソードは、ドラマ版ではFBI訓練生ミリアムの体験として
使われてしまっているんですね~。
切り裂き魔の被害者の医療記録を調べる過程でレクター博士に出会い、
矢傷を追った若者を救急外来で診た記憶はあるかと質問し、
そのオフィスで「負傷者」の図解を目にしてハッと気づき、
最後は靴を脱いだ博士が背後から……。

この肝心要が全部ミリアムに使われちゃっている。
もちろん、ドラマ制作陣は、ウィルがどうやってレクター博士を捕まえるのか?を
オリジナルで描こうってんですよ。
だから既存読者が知っている、レクター確保のシナリオはあえて捨てる。
もし、本書を読んだあとドラマを観ていたら、
「ああっ?いいの?ミリアムで使っていいの?
じゃあウィルはどうやって犯人を捕まえるの?」ってワクワクドキドキ期待が高まっただろうな。

このあたりが、過去の作品を好きだった人に向けてのサービスというか、
いたずらっぽくて楽しいですね~。

ドラマのレクター博士も原作の博士も同じですが、
けっこう香りにうるさい。
料理好きなんだから当然かな?
ウィルのアフターシェイブローションが安っぽい香りだといってイヤな顔をします。
原作では、パートナーの連れ子が毎年クリスマスにくれるプレゼントという設定。
ドラマでは誰からもらうのかまでは言及されていませんでした。
誰からもらうんだろ?

ウィルくんの私生活は、捨て犬を拾っては一緒に暮らしている、という仙人のようなものですが、
これは「レッド・ドラゴン 決定版」にある、トマス・ハリスの序文からとられています。
彼は小説家らしく、自分がどのようにしてレクター博士と出会ったのか、という内容で
序文を寄せていますが、その中で、ウィルのように野犬を拾って飼っていると述べています。
こういう含みからも設定を作っているんですねー、ドラマ班。

たかがスリラー小説といわれようが、原作や過去の作品をリスペクトして
ドラマを作っているんだなーと感じられて、嬉しかったです。
(とくだん、過去のハンニバルシリーズを好きなわけではないのですが、
作り手の姿勢が素晴らしいと感じた次第)

さて小説「レッド・ドラゴン」は、後半部分は連続殺人犯の様子が詳しく描かれていて
面白いのですが、レクター博士の存在感がほぼ消えてます。
捜査官VS犯人の構図の裏に、そこはかとなくレクター博士がいる、というのが
基本的な小説構造なのでしょう。
博士の存在感をより強く打ち出したのが次作「羊たちの沈黙」であり、
そのバランスが読者に好まれ、あれだけのヒットになったのかな、と。

次の「ハンニバル」は、タイトル通り博士が大活躍するんですが、
囚われの身だけどすごい影響力があって不気味で、っていうのがよかったのであって、
「自由なレクター大活躍」はそんなに面白くなかった。
それより、博士を執拗に追うかつての被害者とその妹と元レクター博士の介護人の
あれこれのほうが面白かったです。
映画は、そうした部分を薄めて、クラリスとの対決を全面に打ち出していました。
小説はノワール小説みたいになってて、それもよかったかな。

で、トマス・ハリスは「ハンニバル・ライジング」という
レクター博士の若い頃のお話まで書いて、それも映画化されちゃうんですが……。(未見)

なぜ、ウィル・グレアムとレクター博士の直接対決を書いていないんでしょーね?
1本の作品として書いてくれたっていいのに。

クラリスに惚れちゃったから、グレアムのことはどうでもいいんだろうなー。
過去までさかのぼって書きたい気持ちにはならないんでしょう。
タネあかしはしちゃってるし。

そんなスキマを埋めるべく、制作されたドラマシリーズはほんとに面白くて、
妖しい美しさに満ちていて、Season3までだというのがたいへんもったいない。
huluさんで責任を持って最後まで放送権を得ていただくことを祈るのみです。


さて、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
ドラマ「ハンニバル」楽しみにしましょうね。



引用 出典 早川書房 ハヤカワ文庫NV「レッド・ドラゴン 決定版」上・下巻 トマス・ハリス 著 小倉多加志 訳

※1 上巻 P35 引用 
※2 上巻 P266~274 ウィルが一緒に住んでいるモリーの連れ子ウィリーに、事件のことを語っている。
※3 上巻 P308


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2 コメント

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決定版… (山師)
2015-12-05 18:09:09
初めまして、ヤマシと申します。
決定版は読んでいませんが、原作は全部読みました。

最近、ハンニバルのDVDボックスを買ったので(1・2)
ぼちぼち検索して、いろんな方の見解を読んで
世界観を楽しんでます。

このドラマシリーズ、なかなか含みがあって面白いです~~。
でわ、また。。。

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はじめまして! (ビスコ)
2015-12-06 08:42:26
こんにちは、山師さんはじめまして。

「決定版」とあるのは文庫版の表紙に入っていた表記ですが、なんでしょうね、2002年発行です。
ハードカバーから文庫に下ろすときに訂正した部分があったのかな?
今は2015年発行の「新訳版」が同文庫から出ていますね。

DVDボックスお買いになったんですね。
装丁も美しそう。

ハンニバルについて書かれた感想記事で、私が好きなのは、
こちらのブロガーさんのものです。
もしよかったらご覧になってみてください。

http://nothing-hurt.com/

わたしのはミーハー記事ですけど、こんな風に観られたら書けたらいいな、と思います。

Season3が最後なのは残念ですが、楽しみです。
では、また~。
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