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どんぽのばぶさん61~

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カイロ団長・考 その3 殿様蛙の営業活動

2017-06-02 06:40:37 | ばぶさんな童話

めでたく30匹の雨蛙を自分の『家来』にすることができ、カイロ団を結成しカイロ団長になれたものの、彼には経営センスがなかったですね。
『カイロ団』って平たく言えば何屋さんだったのでしょうか?
ゼネコン?   便利屋?   それとも…造園業?
看板くらいは作ったでしょうが、カイロ団という存在を世の中に宣伝しませんから社会的認知もされていません。知名度の「ち」さえありません。
当然どこからも仕事の依頼が来ません。
カイロ団の営業品目っていったい何だったのでしょうか?彼は利益を上げてお金儲けがしたかったのでしょうか?恐らく殿様蛙自身にも明確なものがなかったから宣伝活動の発想さえなかったのです。
彼にあったものは、『カイロ団という組織の長として家来に対し専制君主としてふるまう事への執着』です。これが満たされればそれでよかったのでしょう。

(前略)「さっぱり誰も仕事を頼みに来んな。どうもこう仕事がなくちゃ、お前たちを養っておいても仕方ない。俺もとうとう飛んだことになったよ。それにつけても仕事のない時に、忙しい時の支度をしておくことが、最も必要だ。つまりその仕事の材料を、こんな時に集めて置かないといかんな。(後略)・・・」
と、この発想と展開まではなかなか良かったのですが、その後が全くもっていただけません。
仕事が来ないからといって雨蛙たちに無茶苦茶な命令を言いつけます。
・立派な木を1000本集めてこい…
・花畑へ出ていって花の種を拾ってくるんだ。一人が万粒ずつ拾って来い…
・今日は石を一人につき900貫ずつ運んで来い…
「命令」の様式美のみにとらわれた実にハチャメチャな命令の数々。

「立派な木を1000本」と言いつけられて雨蛙たちは 
(前略)一生懸命いい木を探しましたが、大体もう前々から探す位捜してしまっていたのですからいくらそこらをみんながひょいひょい駆け回っても、夕方までにたった9本しか見つかりませんでした。(後略)
ヘトヘトになり消沈している雨蛙たちのところにアリンコが通りかかり煙のようなカビの木を持っていったらと提案してくれます。
命令を下した殿様蛙は『1000本』という数に執着するばかりで『煙のようなカビの木』であろうがどんな木であろうが1000本集められてくると
(前略)すると団長は大機嫌です。「ふんふん。よし、よし。さあ、みんな舶来ウイスキーをいっぱいずつ飲んで休むんだよ。」(後略)

いかに自分の営業ビジョンが欠落していたかがわかります。

カイロ団長・考 その1 殿様蛙の仕立屋業

2017-05-31 07:31:03 | ばぶさんな童話
今回から宮沢賢治・作「カイロ団長」についてあれこれと綴ってみたいと思います。

カイロ団長・考 その1 殿様蛙の仕立屋業

「長」にあこがれつつ一旦は成れたのですが本質的なところで「長」になれなかった男蛙のはなしです。
このお話しは30匹の雨蛙Vs一匹の殿様蛙が主な登場人物(生き物)です。
それに加えてアリンコと、殿様蛙の友達の殿様蛙と、「王様」の伝令役のカタツムリが登場します。

例によってばぶ風の身勝手な解釈をふんだんに混ぜ込みながらお話を紹介していきます。
30匹の雨蛙たちはオリジナリティーをふんだんに発揮した造園業チームを営んでいました。
◆「 朝は、黄金色のお日様の光が、トウモロコシの影法師を二千六百寸も遠くへ投げ出す頃からさっぱりした空気をすぱすぱ吸って働き出し、夕方は、お日様の光が木や草の緑を飴色にうきうきさせるまで歌ったり笑ったり叫んだりして仕事をしました。 」
なんてったって気のいい雨蛙たちです。
実に陽気に朗らかに楽しく仕事を楽しんでいるのです。
賢治さんが理想とする「労働」の原型ですね。

殿様蛙はその様子を見て知っていました。
殿様蛙はそれまで仕立屋業を営んでいたようです。
ある日仕立屋さんのところに鎖帷子(くさりかたびら)の注文が来ます。
くさりかたびら製作の注文は彼にとって今回が初めての仕事だったのでしょう。
製作は困難を極めましたが、彼は実にみごとにくさりかたびらを作り上げます。
その仕上がりぶりに我ながらほれぼれするほどです。達成感と充足感の美酒に酔いしれながらうっとりと自分の仕上げた仕事を眺めます。その瞳の輝きは澄んでとても静かです。
そして仕立屋としての自分の力量に改めて驚き、自信を深め、大きな満足を覚えます。 
その注文品の納品をめでたく済ますと、今度は自分自身の体形にぴったりのくさりかたびらをどうしても作ってみたくなりました。 
前回の苦労と苦心の経験智が加わってさらに製作の過程でさらなる工夫と発案がまるで降臨してきたかの如く次々沸き起こり手順は順調で決して手戻りすることなく見事に結実します。非の打ちどころのないほどに仕上がったくさりかたびらです。
さっそく着込んで姿見を覗き込みます。
正面から横から、さらには身体を曲げたり伸ばしたりひねったりしてありとあらゆる角度からの着心地を確かめ深い満足を得ました。
こんなに素敵なくさりかたびらです。
このくさりかたびらの威力を存分に発揮した自分になりたい…そう思いつつふと書棚に目をやると彼の愛読書の背表紙に目が留まりました。
「専制君主入門」そして彼の脳裏に明確な映像がスパークし、これまでいちども思いつかなかった一つのキーワードが湧いて出ました。「カイロ団とカイロ団長」
カイロ団長になりたいと彼は強く念じ、そしてその為の計画と準備に取り掛かりました。
まずカイロ団にふさわしい団員を確保することだ。誰か適当な連中はいないか?
いるいる、あいつらだ。30匹の雨蛙。