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■お前の季節(シーズン)

まあ言いたいこともいろいろあるんだろうけど、
お前もなんだかんだいって、
今年の夏はだいぶ活躍したんじゃないか。
東京じゃエアコン並みの成績を期待されることになっちゃって、
いや私はあくまでも扇風だけなんで、って言いたかったと思うけど、
でもその重圧の中で頑張ったと思うよ。
何も言わないでひたすら黙って羽根を回してなあ。
耳を澄ますとウィーンって小さく言ってたよな。
聴いたよ。音。聴いてないフリしてたけど聴いてた。
こっそりキッチンからお前の背中を眺めたこともあった。
そんな時は思ったよ。
お、回ってるな、って。

なあ、知ってる思うけど、明日でもう10月なんだよ。
なんだかんだ言ってもだんだん秋めいて来たよな。
残暑が厳しければ厳しいほど、お前と居れた。
最近はずっと思ってた。
あと一日、あと一日、暑くなりますようにって。
でもオレ決めたよ。
明日、お前をしまう。

もちろんちゃんと磨くよ。
隅まで全部キレイにしてあげるから、
そしたら最後に思い切り回していいよ。羽根。
ボタンを強にしたら、しばらく隣の部屋に行ってるから、
恥ずかしがらないで最後に思い切り回せよ、羽根。
音だって思い切り出していいさ。ブオーンって。
どちらかというと不器用なタイプだけど、
そのひたむきさが好きだよ。
いつだったか、お前のスイッチを切り忘れて外出してしまって、
夜に部屋に戻ったら、暗い部屋で黙って首を振りながら、
ひたすら羽根を回していたお前を見て少し泣いたよ。
あれから、いったい何時間ひとりで頑張ってたんだって。
なんて不器用な奴なんだ、って。

淋しくなるよ。
ついにしまわれちゃうとはなあ。
まあとにかく、また来年の夏だ。
そんなに首を振ってイヤイヤするなよ。
背中のボタン押すから、落ち着いてこっちを向けよ。
それにしても、このボタン、変だよなあ。
達郎の「さよなら夏の日」あと一回だけ聴こうな。
いいなあ。泣けるなあ。
じゃあまた来年。





コメント ( 102 )
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