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■復刻シリーズその1~「こちら側のどこからでも開けられますシステム」の足踏みを憂います。

私が約10年前、まだBLOGなどなかった時代に、
ホームページで綴っておりました日記からコラム的な内容のものを、
徐々にこちらに移動して行きます。10年、あっと言う前ですね。


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多くの人は、インスタント・ラーメンなどのスープの素の小袋を一度ならず開けたことがあるだろう。


その昔は、小袋の片側に小さな切れ込みがひとつあり、皆それを手がかりにして、小袋を開いていた。中には切れ込みに頼らずにいきなりハサミなどを持ち出して切り開いていた、という人もいるだろうが、ここではそういう人は置いて行く。何故なら、そういう人は切れ込みに対してあまりにも不誠実だからだ!


話しを戻すと、その昔、人は皆、たった一つの小さな切れ込みを手がかりにしてスープの小袋を開いた。言ってみれば、その切り込みこそが、ラーメン製作という大きな山を登りゆく道程に置いて与えられた、最大の難関にして最後の試練と言える「小袋開封」という作業を前にした我々の頭上に光る希望の星であり、道しるべであった。簡単に言うと、小袋は開けにくかった。なので、切り込みの存在は大きく、皆、切り込みを心底頼りにしていた。だから皆から、「切り込み様」と呼ばれていた(ウソ)。


だがそんな頼りになる友人「切り込み」の力を借りながらも、時々、我々はミスを犯した。開封の失敗だ。切り込みから進めた裂け目は無残にもナナメに伸び、そのまま本体に達することなく、むしろそれを避けるように上方へと抜けていった、という現象が多々起きた。そんな時、我々は動揺した。慌てて奥歯なんかで開けようと試みるものの、水で濡れた手は滑るし、鍋ではどんどん麺が茹でられて行くしで、事態は緊迫した。台所という名の戦場でラーメン作りというチョモランマを目指し、力及ばず、夢破れ、たくさんのミセスが星になった


だが、時代は進み、台所にもやがて春が来た。「こちら側のどこからでも開けられますシステム」の登場だ。なんと、新しく採用された素材では、小袋の方側のどこからでも開けると言う。考え方としては片側全てが切り込み状態になっている、と受けとめて良い。一度失敗しても二度、三度とチャンスがある。それまでの先人達の苦労を一気に吹き飛ばす画期的な発明だった。


あの難関だったラーメンの小袋開け。小さな切り込みを頼りに慎重に慎重にと開けて行った小袋。それが、こちら側の、どこからでも、開けられる、という。大きなニュースは台所を駆け巡った。もはや小袋開けなど赤子の手をひねるが同然、いや、赤子までもが赤子の手をひねりかねない状況になった。台所のチョモランマは砂場のお山と化した。皆が存分にインスタントラーメン作りを楽しんだ。笑顔がそこにあった。


その後、薬の袋や、入浴剤、調味料、など、様々な小袋に「こちら側のどこからでも開けられますシステム」が採用された。がしかし、納豆界ではどうか。悲しいかな、納豆界にはまだチョモランマが存在していた。カラシの小袋だ。基本的にカラシの小袋は小さい。まさに「小袋」だ。ラーメンのスープが小袋なら、納豆のカラシは「極小袋」だ。当然開けにくい。しかも素材がビニールである。しかも、平行四辺形みたいのもある。なんだあれ。気に入らない。しかし、カラシの無い納豆など納豆で無い。何故、ここに、「こちら側のどこからでも開けられますシステム」を導入しないのか!ドンドン(机を叩く音)。


「こちら側のどこからでも開けられますシステム」業界の担当者に僕は言いたい、足踏みしている場合か、と。大至急、企画書を作成して、役員会を召集するよう、現代風俗研究派シンガーソングライターとして進言しておきたい。納豆界は依然として冬のままだ。こうしている間にも、カラシの小袋開封に失敗した大学生がアパートのコタツで星になっている。急いで欲しい。


最後に、「こちら側のどこからでも開けられますシステム」を凌ぐシステム、「どちら側のどこからでも開けられますシステム」を提案して終わりたい。


■2002.12 執筆


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このシリーズ、つづく。

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