特発性側弯症により脊柱固定手術をした場合、手術時の年齢がまだ非常に若いため
に、脊柱固定が完了した後で、背中にはいっているインプラント(インスツルメン
テーション)を抜いたほうがいいのか、どうか、ということがしばしば患者さんの中
で質問となるようです。欧米では基本的に手術後にインプラントを抜去すること
はしない。というのが主流です。これは医学的な意味合いというよりも、保険に
起因した金銭的な意味合いが強いようです。日本ではインプラント抜去手術も保険
でカバーされますので、会社員であれば3割負担ですみますが、欧米では全額患者
負担となります。おそらく100万円単位の費用負担が発生するでしょう。
しかし、どうしても抜かざるえなくなる場合があります。
初回手術をしてから、何年かして手術した部位が「感染症」に侵されることがあり
えます。感染は「菌」によるものですから、原因は様々なこと、例えば、外部から
菌が侵入したとか、歯の治療により菌が侵入したとか、体内で眠っていた菌が目覚めたとか、
....いわば原因不明に近いものですが、発症することがあります。
あるいは、手術した部位に痛みが継続してとても耐えられない、という場合もあり
えます。このような手術後の合併症のためにどうしてもインプラントを抜去せざる
えなかった例が、下記に引用した調査では6.6%あります。ここに引用しなかった他
の海外文献では再手術率が5%~8%という研究がありました。病院によってこの率は
変化するでしょうが、仮に多めに考えて10%とすれば、100人中の10人が手術後、
何年かして前記のような合併症によりインプラント抜去手術を行う可能性がある
ことになります。.....日本では海外に比較して合併症等による再手術率はさらに
低いと予想されます。合併症自体は、インプラントを抜去することで治療できます
ので心配はいりません。
これまでは、側弯によるカーブは脊柱固定術により矯正されており、また手術から
平均2年以上をへていますから、すでに骨固定は完了していますので、インプラント
を抜いてもカーブが進行することはないと考えられてきました。
しかし、下記に引用した調査にもありますように、インプラント抜去後のカーブの
再進行がありえることが判明してきていることがこれら文献には記載されています。
すべての症例でカーブが再進行するわけではないので、あまり神経質になることは
ないと思われますが、日本は、欧米とは異なり、インプラントを抜去することが
必須となる合併症が発生していなくてもインプラントを抜去することを求める患者
さんのほうが多い傾向にあるようです。
国内でのまとまった症例の文献がないために、下記のような事例の国内状況が不明
なのですが、手術後にインプラントを抜去するかどうかを考える場合には、
ぜひとも下記のような事例があることをふまえて、抜去することによるメリットと
デメリットを検討することが必要だと思います。
下記の文献によりますと、合併症により抜去せざるえなかった場合も、再度インプ
ラントを使用して固定することでカーブ進行を抑えることができた、と述べられて
いますので、そのことも覚えておられるとよいと思います。
すでにインプラントを抜去した患者さんは、何年かに一度は定期的に専門医に
診てもらわれることをお勧めいたします。
...................................................................
タイトル Clinical and radiographic rsults after implant removal in
Idiopathic Scoliosis」米国ダラス
特発性側弯症におけるインプラント抜去後の臨床及びレントゲン観察の
結果
専門誌 Spine 2007年 Sep
医師 Rathjen K, Wood M, McClung A, Vest Z.
Texas Scottish Rite Hospital for Children, 米国
目的 特発性側弯症にて脊柱固定手術をおこなった後に、インプラントを抜去
した患者の臨床およびレントゲンによる調査を行う
背景 脊柱固定手術後に、まれにではあるが感染や痛み等によりインプラント
を抜去することがある。これまでは脊柱固定が完成していることでイン
プラントを抜去しても、問題はないと思われてきた。しかし、最近の
研究では、抜去により冠状面での矯正損失がありえることが判明して
きた。
方法 脊柱固定術後にインプラントを抜去した56人のうち調査に同意を得た
43人を調査した。対象患者は、1985年~2001年までに若年性及び思春期
特発性側弯症により脊柱固定術をおこなった854人である。
....16年間、年間平均53人....このうち6.6% (56人)がインプラント
抜去を必要とした。....年間平均 0.4%...
初回手術時の平均年齢は14.6歳(11.9~20.1歳)
結果 初回手術から抜去までは平均2.9年 (7ヶ月~7年2ヶ月)。抜去の理由は
22例が感染、21例が痛みであった。インプラント抜去から本調査のため
のレントゲン撮影までの期間は平均9.5年(3.2~17.9年)。
43人中の4.6% (2人) が胸椎カーブで11度~20度の進行が見られた。
腰椎カーブでの10度以上の進行例はゼロであった。19人で胸椎後彎が11
度~20度の進行が見られた。43人中の12%(5人)で20度以上の後湾
(kyphosis)が見られた。
20度以上の後湾があった患者は術前の後弯も重度の患者であった。
変形の進行と抜去後の期間とには相関関係はみられなかった。
結論 インプラント抜去により変形の進行もありえる。万一、抜去するような
ことがあった場合は、十分な説明と手術後の経過観察が重要である。
.................................................................
タイトル Loss of coronal correction following instrumentation removal in
adolescent idiopathic scoliosis.
思春期特発性側弯症におけるインプラント抜去後の冠状面での矯正損失
専門誌 Spine 2006 Jan
医師 Potter BK, Kirk KL, Shah SA, Kuklo TR.
国 米国 ワシントン州 Walter Reed Army Medical Center
結果 21患者 手術時年齢 平均14.8歳(9歳~19歳)
主たる変形 胸椎カーブ 平均63.3度(42度~112度)
手術からインプラント抜去に至る期間 平均2.4年経過観察(8ヶ月~4.2年)
抜去後の平均経過観察期間 5.2年(2年~11年)
抜去の理由 15例 術後の痛みの再発のため 6例 感染
抜去後の平均コブ角の増加 6度(1度~15度)
...................................................................
タイトル Implant removal for late-developing infection after instrumented
posterior spinal fusion for scoliosis: reinstrumentation reduces loss of
correction. A retrospective analysis of 45 cases.
脊柱固定術後に感染によりインプラントを抜去 : 再度インプラントにて固定する
ことで矯正損失を少なくする : 45症例の分析
専門誌 Eur Spine 2004, Nov
医師 Muschik M, Lück W, Schlenzka D.
病院 Seehospital Sahlenburg Orthopaedic Hospital and Center ドイツ
インプラントを用いて後方脊柱固定術を行った患者で、術後感染によりインプラン
トを抜いた症例や抜いてさらにインプラント固定を行った患者の経過観察。
我々は、抜いた直後にただちにインプラント固定をもう一度行うことにより、矯正
損失を避けることができるかどうかを検証するためにこの研究を行った。
術後の感染によりインプラントを抜いた、という報告は幾つかある。あるいは、
インプラントの大きさが体格に比して大きすぎたとか、金属アレルギーが発症した
、ひどい痛みが消えない、腫れる、というような症状によりインプラントを抜去
することもある。我々は術後平均3年後に感染によりインプラントを抜去した45症例
を調査した。インプラント抜去のみのグループ35例、抜去しさらにインプラント固
定したグループ10例。10例のうち3例は抜去後1.5年してからのインプラント固定で
あり、7例は抜去と同時にインプラント固定した。初回手術において金属アレルギー
を発症したり、手術後に長期にわたり発熱があったり、偽関節になったような症例
に遅発性感染が起こりやすかった。
再手術により両グループとも問題なく感染は治癒した。再手術後のアウトカムは
抜去しさらにインプラント固定したグループのほうが良好であった。またカーブの
矯正損失も再インプラント固定グループのほうが良好であった。
胸椎コブ角 再インプラントグループ 28プラスマイナス16度 (0~55度)
抜去のみのグループ 42プラスマイナス15度 (21~80度)
腰椎コブ角 再インプラントグループ 22プラスマイナス11度 (10~36度)
抜去のみのグループ 29プラスマイナス12度 (13~54度)
我々の結果からは、感染はインプラントを抜去することで問題なく鎮静すること
と、そのときに同時に再インプラント固定しても問題はなかった。
またカーブの矯正については、再インプラントすることで矯正を維持することが
できた。
//////////////////////////////////////////////////////////////////
ブログ内の関連記事
「術後何年かでインスツルメンテーションは抜去する? 」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/c1162070b73e81eaf112ebddec2807d6
に、脊柱固定が完了した後で、背中にはいっているインプラント(インスツルメン
テーション)を抜いたほうがいいのか、どうか、ということがしばしば患者さんの中
で質問となるようです。欧米では基本的に手術後にインプラントを抜去すること
はしない。というのが主流です。これは医学的な意味合いというよりも、保険に
起因した金銭的な意味合いが強いようです。日本ではインプラント抜去手術も保険
でカバーされますので、会社員であれば3割負担ですみますが、欧米では全額患者
負担となります。おそらく100万円単位の費用負担が発生するでしょう。
しかし、どうしても抜かざるえなくなる場合があります。
初回手術をしてから、何年かして手術した部位が「感染症」に侵されることがあり
えます。感染は「菌」によるものですから、原因は様々なこと、例えば、外部から
菌が侵入したとか、歯の治療により菌が侵入したとか、体内で眠っていた菌が目覚めたとか、
....いわば原因不明に近いものですが、発症することがあります。
あるいは、手術した部位に痛みが継続してとても耐えられない、という場合もあり
えます。このような手術後の合併症のためにどうしてもインプラントを抜去せざる
えなかった例が、下記に引用した調査では6.6%あります。ここに引用しなかった他
の海外文献では再手術率が5%~8%という研究がありました。病院によってこの率は
変化するでしょうが、仮に多めに考えて10%とすれば、100人中の10人が手術後、
何年かして前記のような合併症によりインプラント抜去手術を行う可能性がある
ことになります。.....日本では海外に比較して合併症等による再手術率はさらに
低いと予想されます。合併症自体は、インプラントを抜去することで治療できます
ので心配はいりません。
これまでは、側弯によるカーブは脊柱固定術により矯正されており、また手術から
平均2年以上をへていますから、すでに骨固定は完了していますので、インプラント
を抜いてもカーブが進行することはないと考えられてきました。
しかし、下記に引用した調査にもありますように、インプラント抜去後のカーブの
再進行がありえることが判明してきていることがこれら文献には記載されています。
すべての症例でカーブが再進行するわけではないので、あまり神経質になることは
ないと思われますが、日本は、欧米とは異なり、インプラントを抜去することが
必須となる合併症が発生していなくてもインプラントを抜去することを求める患者
さんのほうが多い傾向にあるようです。
国内でのまとまった症例の文献がないために、下記のような事例の国内状況が不明
なのですが、手術後にインプラントを抜去するかどうかを考える場合には、
ぜひとも下記のような事例があることをふまえて、抜去することによるメリットと
デメリットを検討することが必要だと思います。
下記の文献によりますと、合併症により抜去せざるえなかった場合も、再度インプ
ラントを使用して固定することでカーブ進行を抑えることができた、と述べられて
いますので、そのことも覚えておられるとよいと思います。
すでにインプラントを抜去した患者さんは、何年かに一度は定期的に専門医に
診てもらわれることをお勧めいたします。
...................................................................
タイトル Clinical and radiographic rsults after implant removal in
Idiopathic Scoliosis」米国ダラス
特発性側弯症におけるインプラント抜去後の臨床及びレントゲン観察の
結果
専門誌 Spine 2007年 Sep
医師 Rathjen K, Wood M, McClung A, Vest Z.
Texas Scottish Rite Hospital for Children, 米国
目的 特発性側弯症にて脊柱固定手術をおこなった後に、インプラントを抜去
した患者の臨床およびレントゲンによる調査を行う
背景 脊柱固定手術後に、まれにではあるが感染や痛み等によりインプラント
を抜去することがある。これまでは脊柱固定が完成していることでイン
プラントを抜去しても、問題はないと思われてきた。しかし、最近の
研究では、抜去により冠状面での矯正損失がありえることが判明して
きた。
方法 脊柱固定術後にインプラントを抜去した56人のうち調査に同意を得た
43人を調査した。対象患者は、1985年~2001年までに若年性及び思春期
特発性側弯症により脊柱固定術をおこなった854人である。
....16年間、年間平均53人....このうち6.6% (56人)がインプラント
抜去を必要とした。....年間平均 0.4%...
初回手術時の平均年齢は14.6歳(11.9~20.1歳)
結果 初回手術から抜去までは平均2.9年 (7ヶ月~7年2ヶ月)。抜去の理由は
22例が感染、21例が痛みであった。インプラント抜去から本調査のため
のレントゲン撮影までの期間は平均9.5年(3.2~17.9年)。
43人中の4.6% (2人) が胸椎カーブで11度~20度の進行が見られた。
腰椎カーブでの10度以上の進行例はゼロであった。19人で胸椎後彎が11
度~20度の進行が見られた。43人中の12%(5人)で20度以上の後湾
(kyphosis)が見られた。
20度以上の後湾があった患者は術前の後弯も重度の患者であった。
変形の進行と抜去後の期間とには相関関係はみられなかった。
結論 インプラント抜去により変形の進行もありえる。万一、抜去するような
ことがあった場合は、十分な説明と手術後の経過観察が重要である。
.................................................................
タイトル Loss of coronal correction following instrumentation removal in
adolescent idiopathic scoliosis.
思春期特発性側弯症におけるインプラント抜去後の冠状面での矯正損失
専門誌 Spine 2006 Jan
医師 Potter BK, Kirk KL, Shah SA, Kuklo TR.
国 米国 ワシントン州 Walter Reed Army Medical Center
結果 21患者 手術時年齢 平均14.8歳(9歳~19歳)
主たる変形 胸椎カーブ 平均63.3度(42度~112度)
手術からインプラント抜去に至る期間 平均2.4年経過観察(8ヶ月~4.2年)
抜去後の平均経過観察期間 5.2年(2年~11年)
抜去の理由 15例 術後の痛みの再発のため 6例 感染
抜去後の平均コブ角の増加 6度(1度~15度)
...................................................................
タイトル Implant removal for late-developing infection after instrumented
posterior spinal fusion for scoliosis: reinstrumentation reduces loss of
correction. A retrospective analysis of 45 cases.
脊柱固定術後に感染によりインプラントを抜去 : 再度インプラントにて固定する
ことで矯正損失を少なくする : 45症例の分析
専門誌 Eur Spine 2004, Nov
医師 Muschik M, Lück W, Schlenzka D.
病院 Seehospital Sahlenburg Orthopaedic Hospital and Center ドイツ
インプラントを用いて後方脊柱固定術を行った患者で、術後感染によりインプラン
トを抜いた症例や抜いてさらにインプラント固定を行った患者の経過観察。
我々は、抜いた直後にただちにインプラント固定をもう一度行うことにより、矯正
損失を避けることができるかどうかを検証するためにこの研究を行った。
術後の感染によりインプラントを抜いた、という報告は幾つかある。あるいは、
インプラントの大きさが体格に比して大きすぎたとか、金属アレルギーが発症した
、ひどい痛みが消えない、腫れる、というような症状によりインプラントを抜去
することもある。我々は術後平均3年後に感染によりインプラントを抜去した45症例
を調査した。インプラント抜去のみのグループ35例、抜去しさらにインプラント固
定したグループ10例。10例のうち3例は抜去後1.5年してからのインプラント固定で
あり、7例は抜去と同時にインプラント固定した。初回手術において金属アレルギー
を発症したり、手術後に長期にわたり発熱があったり、偽関節になったような症例
に遅発性感染が起こりやすかった。
再手術により両グループとも問題なく感染は治癒した。再手術後のアウトカムは
抜去しさらにインプラント固定したグループのほうが良好であった。またカーブの
矯正損失も再インプラント固定グループのほうが良好であった。
胸椎コブ角 再インプラントグループ 28プラスマイナス16度 (0~55度)
抜去のみのグループ 42プラスマイナス15度 (21~80度)
腰椎コブ角 再インプラントグループ 22プラスマイナス11度 (10~36度)
抜去のみのグループ 29プラスマイナス12度 (13~54度)
我々の結果からは、感染はインプラントを抜去することで問題なく鎮静すること
と、そのときに同時に再インプラント固定しても問題はなかった。
またカーブの矯正については、再インプラントすることで矯正を維持することが
できた。
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ブログ内の関連記事
「術後何年かでインスツルメンテーションは抜去する? 」
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/c1162070b73e81eaf112ebddec2807d6
どなたかインプラント由来の金属アレルギーの経験がおありの方がいらしたら、どんなことでも結構ですので、何か教えていただけないでしょうか。
私は10代のときに手術を受け、皆さんと同様、精神的につらい日々を過ごしたため、再度、あの手術を受け、インプラントを除去しなければならなくなるのかと思うと、不安でいっぱいです。また進行するかどうかわかりませんが、再度固定が必要な場合、近年は例えばセラミックでコーティングされた金属など、アトピーの素因を防ぐことも可能なのでしょうか。
何とぞ情報ご提供のほど、よろしくお願いいたします。